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サンサーラ ~輪廻の記憶~ ex『あの頃の欠片』

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サンサーラ ~輪廻の記憶~ ex『あの頃の欠片』
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▽ ▽


 能力を知られ、逃亡している最中だった。
 人目を避ける為に入った森の中で、翠珠とワンヌーンは、出会い頭に激突した。
「ああ、ごめん。大丈夫?」
 転倒した翠珠は、平気です、と立ち上がろうとして座り込む。捻挫をしたらしい。
「大丈夫です……すぐ治ります」
「僕の家、近くなんだ。
 何だか疲れているみたいだし、少し休んで行きなよ」
 そしてそのまま、翠珠はワンヌーンの下に居ついた。

 ワンヌーンは、翠珠を知るにつれ、彼女が研究していた根源宝石の保持者ではないかと勘違いした。
 彼女が秘密を持っていることに、親近感を抱いたせいかもしれない。
 そして、ワンヌーンが自らの秘密を語った後――翠珠は、ワンヌーンの宝石を持って逃げたのだった。

「ごめんなさい……」
 密かに謝りながら、翠珠はワンヌーンの下を去る。
「でも、私が隠さないと……他のことをおろそかにして、身体を壊すところだったんですよ。
 ……それに、この宝石からは負の感情を感じるのです……」


 ワンヌーンは、それでも、宝石に関する研究をやめなかった。
 ヤマプリーだけでは限界があると思い、やがて種族を隠してスワルガに渡る。
 しかし何をしくじったのか、あっさりバレて捕まった。

「根源宝石? それは何だ。戦況をひっくり返すような代物か?」
 尋問にあたったのは、シャウプトだった。
 いっそ潜入した理由を正直に言えば、呆れられる。
「この宝石の力は、ヤマプリーだけのものではないと思うから。
 ヤマプリーに勝利をもたらす為に使うものじゃないし、スワルガとの調和を成す為のものでもない。
 それは人が行うことであって、神秘の力に頼るものでもないからね。
 根源宝石は、世界自体を守る為にこそある。そうじゃない?」
 シャウプトは、額を押さえて深々とため息を吐いた。
 そして、ワンヌーンは何故か、釈放されたのだった。


△ △


 雪がちらついている。
 バイトを終えて店を出たシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)は、待っている神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)を見て驚いた。
「お疲れ様でした」
 丁度良く、買ってきたばかりの温かい缶紅茶を渡す。
「珍しいこともあると思ったら、雪か? いつから待っていたんだ。すっかり冷えて」
 抱き寄せながら言い、言って抱きしめる。
「秘密です……寒いのには慣れていますし。どうぞ」
 紫翠はマフラーをシェイドの首に巻いた。
「サンキュ。全く、風邪を引かないうちにさっさと帰るぞ」
 肩を抱き、二人はくっつくようにして、帰途についた。


◇ ◇ ◇


 ヨルディア大丈夫かな……。
 前世の姿に戻るとか言ってたが、妄想と現実がごっちゃになるのはさすがに危ないよ。

 最後まで、パートナーの妄言を信じることのなかった十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)ではあったが、いつものぺたん娘姿で落ち込んで戻ってきたヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)を、何とか励まそうと思った。
「最後に、アマデウスが昔を思い出すのを思い出したのですわ……」
「思い出すのを思い出す? 何だそりゃ」

 死ぬ間際、正気に戻ったアマデウスは、走馬灯のように、何気ない日常の日々を思い出した。
 そういえば、時折肩が凝って大変でした。これも胸が大きいせいかしら。
 自分に幸せな来世があるのなら、胸がもう少し小さくてもいいかな…………などと考えてしまったせいなのかどうか、来世のヨルディアは大変なことになってしまった。

「まあまあ、元気出せ、ヨルディア。そんな時には山羊のミルクだ」
 渡されたそれを見て、ヨルディアは首を傾げる。
「何故、山羊のミルクですの?」
「そりゃ、バスト大きくするには乳製品が定番……え、何でそんな怒るんだよ!」
 ぐいっと無言でミルクを一気飲みしたヨルディアの迫力に、宵一は一歩引く。
 ああもう、こうなったら宵一に甘えることにしよう。物理で。とヨルディアは決めた。
「こらヨルディア落ち着け! ちょ、やめ、うぼぁ――!」
 シャイニングウィザードを喰らって撃沈した宵一をどっかと踏んで、ヨルディアは天に誓った。
 絶対ナイスバディーになってやる!



▽ ▽


「本当にありがとうございました」
 深々と頭を下げた少女に、瑞鶴はヒラヒラと手を振った。
「いいって。俺魔法苦手だから、携帯食やるくらいしかできなかったし」
「ふふっ、返ってよかったです」
「ん?
 まあ、あんたみたいなのが一人でフラフラしてたら危ないぜ。襲ってくれって言ってるようなもんだ。
 見たところ武装もしてないみたいだし、目的地まで送ってやろうか」
「わぁい! 助かります♪」
 その満面の笑顔に、瑞鶴は吹き出す。
「そう簡単に初対面の奴を信用すんなよ。襲われるかもしれねえぞ」
 だが少女は、ふふっと微笑んで首を横に振った。
「何となくわかります。
 ……私はローエングリン。祭器ですから」

 冒険の日々は、光のように輝く。

「瑞鶴くん、なるべく大きいやつでお願いします!」
「おう、まあ任せとけ……っと」
 ローエングリン情報による、絶品の川魚を求めて、瑞鶴は即席釣り糸を渓流の中に放つ。
「きのこと一緒に蒸し焼きかな、シンプルな塩焼きもいいですよね〜」
 皮算用に余念のないローエングリンは、ブーツを脱いで素足になると、袋を持ってスタンバイ。
「釣れたらすかさずこの袋でキャッチです」
「そんな格好してると風邪引くぞ」
「苺を食らわば皿まで、ですよー」
「何だそれ」
 苦笑した瑞鶴の手に、くん、と手応えがあった。

 その日はとある街の宿に泊まることになり、ローエングリンを宿に残して瑞鶴は消耗品の補充に向かった。
 思えば、一人にしたのが間違いだったのだ。
 戻ってみれば、食堂がやたらと騒がしい。
 気になって覗いてみれば、そこにはいつも通りお上品に、そして美味しそうに食事をするローエングリンの姿が。
 そしてその周囲には、堆く積まれた食器の山が。
「もうやめろ! 宿の食料はゼロだ万年腹ペコ娘!」

 そして財布の中も空となったのだった。
 仕方なく、止むを得ず、二人は見世物で金を稼ぐことに。
 ローエングリンの歌で、瑞鶴が剣舞を行う。
 受けは大変よく、二人の周囲からは人だかりがいつまでも引かなかった。
「私達、大道芸人でもやっていけますね」
「いやいや……」




◇ ◇ ◇




「――いよいよか……」

 世界の、中心。世界樹の深部。
 イデアは、外の気配を感じ取って目を伏せた。
「無念だが……いずれ、必ず取り戻す」
 傍に立つディヴァーナを見やる。
「君は切り札だ。イスラフィール」
 彼は答えなかった。何の感情も映さない表情で、ただ傍らに佇む。
 ふ、とイデアは笑った。
「取り戻す……必ず」


△ △