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サンサーラ ~輪廻の記憶~ ex『あの頃の欠片』

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サンサーラ ~輪廻の記憶~ ex『あの頃の欠片』
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 今年もよろしく。来年も再来年もずっとずっとよろしく。



「明けましておめでと!」
「今年もよろしくお願いします」
 今年の年明けは、パートナーと水入らずで、のんびりほっこり、賑やかに楽しく、の筈だった。

「日本酒、初めてですけど、美味しいですね」
 ルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)は、パートナーのメルティナ・バーンブレス(めるてぃな・ばーんぶれす)と共に御節料理を作り、二人で除夜の鐘を聴き、あれこれ会話を楽しみながら、新年を祝った。
「素敵な着物、用意してくださってありがとう。ルゥさんもよく似合ってます」
「そう? ありがと」
 未成年のルゥは、お屠蘇はお祝いの一杯だけだったのだが、余ったら勿体無い、とメルティナは飲み続けている。
 何だか、段々頭がぼうっとしてきた。

「メルティナ、大丈夫? 気持ち悪そう、ちょっと帯緩めたら?」
「……えぇ?」
 トロンとした目をメルティナは向けた。
 そんな、脱げだなんてルゥさん、……やっと私の気持ちに応えてくれる気になったのですね? 嬉しい……
「え? ちょっとメルティナ」
 着物を緩めながら抱きつき、ルゥの胸に顔を埋めて泣いていたかと思うと、突然頬にキスして来たメルティナに、ルゥは戸惑う。
「ちちちょっとどこ触って、脱ぐのは私じゃなくてっ。
 駄目だってば私達女の子同士なんだしーっ」
 しかし親友を無下に突き飛ばしたりもできない。
「ちょっと、おお、落ち着いて、メルティナっ」
 メルティナはにこりと笑った。
「ルゥさん、私も初めてなのでよくわからないですけど……いただいちゃいますね♪」


 翌朝、メルティナは何も憶えていなかった。
 答えが怖くて、訊くのも怖い。
 その後数日、メルティナは視線を合わせることも出来ずにルゥから逃げるように過ごし、ただ率先して家事をこなすのだった。


◇ ◇ ◇


 夜勤明けで帰宅したレオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)は、パートナーの城 紅月(じょう・こうげつ)がソファで転寝をしているのを見つけた。
 自分を待っている内に、居眠りをしてしまったのだろう。
「こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ」
 起こすと、目覚めた紅月の目から涙が零れて驚いた。
「どうしたんです?」
 紅月は黙って首を横に振り、レオンに抱きつく。
「……ねえ、クリスマスは忙しくて、レオンの誕生日やってなかったよね。やろうよ」
「そうですね。二人だけでパーティをしましょうか」
 甘える紅月に、レオンも同意して抱きしめた。

 夢を見た。前世の夢だった。
 自分は誰かの小姓で、身分違いの報われない想いを抱いていて、ただ主がサロンで転寝をしているのを見かけてそっと、想いを込めた子守唄を歌うくらいしかできなかった。

 目が覚めて、切ない思いだけが残っていて、けれど、今の自分の側には、レオンがいる。
 二人でパーティーの準備をしながら、紅月が歌う歌に、レオンは首を傾げた。
「初めて聴く歌ですね」
 紅月は小さく笑う。
 先刻見た夢で、ユエヨウが歌っていた子守唄だ。
 そんな紅月の表情を見て、レオンはにこりと笑ってみせる。
「紅月の歌が好きですよ。きっと、ずっと、変わらないでしょうね」
「嬉しいよ」
 微笑む紅月の肩を抱き寄せてキスしようとすると、今は駄目、と軽く叩かれ、がっかりするレオンの顔を見て、紅月はまた笑った。

 前世で、ユエヨウは想いを伝えることはできなかった。
 けれど自分は、伝えることができる。
 自分の剣となってくれたレオンに永遠を誓い、命も歌も愛も涙も、全て何度でも伝えよう。
 何度でも呼ぼう。彼の名前を。
 ユエヨウの分まで。


◇ ◇ ◇


 お正月なら、やはり和の雰囲気で。
 テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)とパートナーのグラナダ・デル・コンキスタ(ぐらなだ・でるこんきすた)は、葦原のお気に入りの和食店で、お気に入りメニューの制覇中。
「がるるぅ、がるるぅ、がるるぅ!」
 テラーはとにかく沢山食べる。
「はぁ、相変わらず、大食いだねえ、あんたは」
 それを見ているグラナダは、若干胃もたれ気味で控えめだ。
「ぐるるぉりぅげれぉぅ!」
「ワリ、何言ってんのかわかんないわ」
 解らないわけでもないのだが、グラナダは、何かを訴えているテラーの言葉を適当に聞き流す。

 親友と共に、狩りに出かけた時のことを、テラーは語ろうとしたのだった。
 何処かの荒野で、野生の獣を狩って、男の料理とばかりに、塩を振っただけの丸焼きを、大胆に食べた。
 そんな平和な日常を送っていた頃が、ガエル達にもあった。

「がぇるごぅぅぅげぁう!」
「はいはい、あたいの分も食べる?」
 もうご馳走さん、と、グラナダは、ガエルの分まで食べる! と言うテラーに自分のデザートを渡した。


◇ ◇ ◇


「静かだねえ、でもこういう初詣もいいね」
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、今回の件では、色々と心配させてしまったパートナーのアルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)を誘って、初詣シーズンの終わった神社を訪れた。
 誘われたアルミナは喜んで、着物を着て出かけた。


▽ ▽


「うん、似合うね」
 メデューが、何故彼女の命をとらなかったのか、自分にもよく解らなかった。
 ヴィシニアは、ボロボロのフードを深く被ったメデューを引っ張り込んで、自分の子供の頃の服を着せ、こっちの方が可愛いよ、と笑った。
 メデューは礼も言わなかったが、ヴィシニアは気にしなかった。

 そしてヴィシニアと別れ、そのすぐ後に、メデューはミフォリーザの復讐を受けたのだった。


△ △


「何を願ったのじゃ?」
 お参りを済ませて、刹那に訊ねられたアルミナは、
「せっちゃんとずっと一緒にいられますように、って!」
と答えた。
「せっちゃんは?」
「秘密じゃ」
「えー、ずるい」
「願ったことは口にしたら叶わないと言うからの」
「えーっ、そうなのっ? せっちゃん、ひどいー」
 ボク、しゃべっちゃったよー、と嘆くアルミナに、刹那は意地悪く笑う。
 内緒だけれど。
 刹那が願ったのは、アルミナの幸せ。