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サンサーラ ~輪廻の記憶~ ex『あの頃の欠片』

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サンサーラ ~輪廻の記憶~ ex『あの頃の欠片』
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▽ ▽


「……くそ、しくじった……」
 大怪我を負って、何とかここまで逃れて来たが、力尽きた。
 倒れているレンを見つけたのが、ヴィシニアだった。
 世話を焼く彼女を、レンは最初は、鬱陶しいと思っていた。
 その後、世界が終わる時まで、長い付き合いの始まりだった。


△ △


 ルーナサズは、龍鉱石を産出する街で、基本的にその加工は行っていない。
 だが鍛冶屋が無いというわけでもなくて、白砂 司(しらすな・つかさ)は、腕がいいと紹介された鍛冶屋に、街で見つけて購入した一本の聖槍を持ち込んだ。
 より使い易くカスタマイズして貰おうと思ったのだ。
 彼は槍の使い手だが、斧使いだったヴィシニアの意思を汲み、本格的に斧槍使いに転向することにしたのだった。
 鍛冶師は司の意向を聞き、司専用の斧槍に鍛え直す。
「さあ、これでこの槍はお前さんだけのものだ。銘は何とするね?」
 渡された斧槍を握りしめ、その馴染み具合に満足する。
「名前か。そうだな……」
 ずっと、ずっと昔、遠い大陸から時間も空間も隔ててやってきた業……時の忘れ子。
「タイムラプス」という名はどうだろうか。


 鍛冶屋を出た司は、そこでばったりと桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)と出会った。
 前世が前世だったので、二人の間に、一瞬微妙な気まずい空気が流れる。
 そして二人は同時に苦笑した。
「……まずは、改めて挨拶からかな」
 何だかそれも今更気恥ずかしいような気もしたが、煉はそう言って、司に右手を差し出す。
「桐ヶ谷煉だ。これからも宜しくな」
「白砂司だ」
 握手に応じて、改めて司もそう、名乗った。


◇ ◇ ◇


 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)の覚醒によって、現世に現れた孤狐丸は、モクシャにて死ぬ間際のことを思い出す。
 自分は、かつて王に仕えていた頃、王と交わした約束に従って、平和を乱す者と戦うことを決意したことを思い出していた。
 初めて見るこの世界で、種族に関係なく、世界を護る為に人々が動いていることに、少し羨ましく思う。
 思いながら、静かに消えて行った。

 その道の途中で、孤狐丸と霜月は、一瞬の邂逅を果たす。
 その刹那、二人は剣を交えた。
 孤狐丸の剣筋から、霜月は彼の孤独と決意を読み取る。
 そのまま、二人は一言もなく互いに自分の咆哮へと歩き出した。

 事件後、霜月は孤狐丸と入れ替わった場所に花を供える。
 手向ける言葉はない。ただ、彼のことを忘れなかった。


◇ ◇ ◇


 鬼院 尋人(きいん・ひろと)は、すっかりトゥレンに懐いていた。
 復興の手伝いがあればと思って来た尋人だが、トゥレンとも話がしたかった。
 その本人は、復興の手伝いなど全くしないでだらだらしている。
「黒崎も伝えたいことがあるみたいだったけど、また今度って言ってた」
 ふぅん、とトゥレンは気のない返事をする。
「そういえば、黒崎が、トゥレンさんて兄弟がいるかって」
「何で?」
 トゥレンはぽかんと訊ねた。
 イルダーナに対する様子が、兄弟がいる末っ子のような感じだと思ったのだ。
 尋人にも男兄弟がいる。あまり懐けるような兄達ではなかったが。
「末っ子? 何言ってんの、俺は20人兄弟の長男よ」
「20人兄弟? エリュシオンて大家族が多かったりするの?」
 驚きつつも、やっぱり神って子供沢山作るものなんだなあなどと納得しかける尋人に、トゥレンはくつくつと笑う。
「……え、もしかして嘘だったり?」
「少年は本当に素直だなあ」
 笑いながらトゥレンは、通りがかるイルダーナの弟、イルヴリーヒを見つけて手を振る。
「なあなあ、俺選帝神様の弟みたいって言われちゃった」
 イルヴリーヒは、ちらりと尋人を見て微笑んだ。
「それは随分善意の解釈ですね」
「どういう意味よ」


◇ ◇ ◇


『遠い異郷に謎の巨大卵を見た!〜龍王の伝説とは! その謎に迫る〜』

「ここはタイトル画面に効果音が入りますので」
 某探検隊リスペクトの『プロジェクトN』番組ディレクター、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が、内容の説明をして撮影許可を求めると、しばし呆れた顔をした後で、イルダーナは
「嘘をつかなけりゃ、あとは好きにしろ」
と言った。
「よろしければ、出演なさいませんか?」
 ついでに出演許可も求めてみたが、それは断られる。
 だが、トゥレンの方はノリノリでガイド役を引き受けた。


「にゃ、にゃんということだ!
 この巨大な卵岩がまさしく龍王が眠る卵だと、現地の方の証言が得られました!」
 撮影機材を持って駆けつけた、探検隊長である長靴を履いた巨猫、バスティアン・ブランシュ(ばすてぃあん・ぶらんしゅ)が、エメの持つカメラに向かって叫んだ。
 余談だが、余計なことは言わないようにと猿轡をかまされながら、南臣光一郎が近くでレフ板を持たされている。
 いつレフ板を投げ捨てて撮影に割り込んで来るか解らないので、パートナーのオットー・ハーマンが、腰に縄を括り付けて背後から見張っていた。

「ここです! ここを見てください!」
 一般現地住人を装った案内役のトゥレンが、バスティアンを呼んだ。
「ここは、五年前まで龍鉱石の採掘場だったんです。
 しかし、現在全く採掘の跡がないのです!」
 傷ひとつない卵岩の表面がクローズアップされる。バスティアンは叫んだ。
「にゃ、にゃんと! 卵岩は再生するのか!!?」

「……それは、別にルーナサズでは常識だが」
 外周で撮影の様子を眺めているイルヴリーヒが、苦笑して呟いている。
「そうなの?」
 卵岩や白鯨を題材に歌を作れないかと観光中に、エメ達の番組撮影に遭遇したクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、それを耳にして訊ねた。
「卵岩は、一年程で削り取った部分が再生します。
 なので、何箇所かをローテーションで採掘しているのです」
「中」まで到達してはいけないのは、絶対の掟だ。
 卵岩は、掘り進めると、やがて頑丈で掘削できない「膜」と呼ばれる層に到達し、そこから先には進んではいけないことになっているし進めない。
 膜に到達するより前に、別のポイントに移るのが慣例である。
 勿論、トゥレンもそれを知っている。
「再生して間もない部分と、何十年も置いた部分では、精度も違います。
 初めて削り出す部分になると、全く違いますね。削り出すのが困難なくらいですし、取引価格も非常に高価になります。
 今迄は断崖に埋まっていましたから、採掘できる場所も限られていましたが、むき出しになりましたから、採掘場所も増えて行くでしょう。
 無闇な採掘は避けるよう管理して行かなくてはなりませんが」
「まるで本当に生きているみたいだ……」
「ええ。龍王は卵の中で眠りながら、世界の全てを見つめていると言われています」
 クリスティーの言葉に、イルヴリーヒは頷いた。


▽ ▽


 アザレアは、シュクラと出会った時、その宿命を感じ取った。
 宝石の力を抱いて解放する、未来の姿を視て、神殿に連れ帰って育てることにする。
「その時が訪れるまでに、私のできる限りのことをこの子に教えなければ……」

「アザレア様!」
 花冠を手に、シュクラが走ってくる。
 今日はアザレアとのピクニック、シュクラは真っ白な花冠を作って、花畑に座ってシュクラのクッキーを食べているアザレアの頭に乗せた。
「お似合いです」
「ありがとう」
 花冠は二つ作った。
「もうひとつは?」
「これは、お母様へのお土産です」
 シュクラははにかんで笑った。


△ △