校長室
季節外れの学校見学
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【蒼空学園・1】 薔薇の学舎のあるタシガン空峡に面した都市、ツァンダ――。 貿易都市として有名なこの地では、パラミタの中でも早くから地球の技術や文化が積極的に吸収されていった地でもある。 シャンバラに空京が建設され地球人の入植が増え始めた当初、契約者の多くが未成年であった事も有り、シャンバラの開拓に必要とされたのは彼等の教育であった。 そんな中、このツァンダに御神楽環菜が資材を投じて創設したのが蒼空学園だ。 エリート校としても名高いこの学園だが、校長の一存で試験を免除されるケースもある為、所属する生徒は個性も豊かで様々だ。 「――この学校も寮に入る生徒が多いの?」 此処迄沢山の学校を周り、段々と知識が増え理解が深まってきたシェリーが一応蒼空学園に所属するアレクを見上げると、アレクは彼の知る学園生の姿を頭に思い出して口を開いた。 「下宿が多いな。――自宅通学が難しい学生が人の家とか店とかの一部を間借りして住む事だシェリー。 ジゼルもそうだった。彼女はこの辺の定食屋の二階に下宿して、一人で生活してたな」 儚げな印象を受ける程線の細いジゼルがそんな逞しい生活を送っていたとは思わず、意外な過去にシェリーやナオらは驚いているようだ。 「現地人との交流って意味で学園自体も推奨してるんじゃなかったか? 俺は元々選択肢として考えて無かったからその辺詳しくない。下宿についてならあいつの方が細かく教えてくれると思う」 アレクが示す先――学園の正門の前へ顔を向けると、そこでジゼルと一緒に待っていた人物は一行を手を振って出迎える。 「俺の――」 「ミロシェヴィッチ家次男修行中、瀬島 壮太(せじま・そうた)よ」 兄の紹介を食って乗っかるミリツァに、アレクが無表情を僅かに歪めるので、壮太とジゼルは早々に笑い出してしまった。 「皆お疲れ様。九校も回って疲れたでしょ。あと死体遺棄」 一体何時の間に連絡を取っていたのか、パートナーづての情報でジゼルがそう労うのに、壮太がミリツァを見た。 「九校って……」 「始めに葦原明倫館に行って、シャンバラ教導団、天御柱学院、空京大学。ちょっと休憩してヴァイシャリーまで登って百合園女学院、イルミンスール魔法学校、波羅蜜多実業高等学校、此処に来る前は薔薇の学舎へ行ったわ」 「パラ実に空大まで? すげーな」 てっきり入学前提の教育期間だけを見学していたと思っていた壮太が驚くのに、シェリーはこれまで『先輩達』から貰った様々なアドヴァイスや彼等の学生生活を思い出している。 日々の学生生活を楽しみ、充実させている彼等の表の部分も裏の部分も隠さずに、彼等は三人に見せてくれた。 「将来の事を視野に入れる事。拘りを見つけ、突き詰めて行く事。 最終的には本人の意志とやる気次第で、道は開けると言う事。大体そんな事を言われたのだわ」 ぽつりぽつりと言うミリツァに頷いて、壮太は「成る程な」と口にする。 「そういう意味で蒼空学園は、学校の規模もでかいし大学部もいろんな学部まであるから、将来的にやりたいことが見つかっても専門分野に進みやすくていいと思う」 腕を組み顎を指先で支える壮太の姿は、年上の彼を『弟』と公言するミリツァから初めて年上のお兄さんに見えて、感心してしまった。が、壮太は「ってのは建前で」と冗談めかす。 「蒼学は共学だし、規模がでかいぶんいろんなやつがいる。つまり色んな友達ができやすいってことだよ。 それって家や施設ん中だけじゃ得られないもんだろ」 「私の目的は殆どそっちだったわね。 友達と生活したいなって。それからもっと沢山の友達と会いたいなって思ったの。あ、目的は達成されてるけど、地球まで進出したジゼルさんの野望はまだまだ大きいわよ〜。ふふっ」 友達100人出来るかなを地で行くらしいジゼルが、自分の入学の目的を語った。彼女のように、入学当初に進路まで考えずとも上手くやっている者も少なからず居るのだろう。 「あと蒼学にきたらオレ達の後輩になるから、色々教えられるしそれも単純に嬉しい」 「それ! ね! ミリツァ蒼学にきたら私達の後輩だよ〜。ね、壮太、アレク!」 アレクが頷くと、ジゼルと壮太は揃って勿体ぶった息を吐き出した。 「そっか。これがかんがいぶかいって奴だな?」 「本当よね、かんがいぶかい〜」 「……あなた達。 いいこと? まだこの学校に入学するとは決めていないし、入学して後輩という立場になったとしてもミリツァがあなた達の姉である事に変わりないのだから、そこを忘れない様になさい!」 ミリツァがツンとして言い聞かせるのに、壮太とジゼルは互いを見ながらにひっと笑い合う。彼らにとって家族のミリツァが入学するとあれば、格別な思いが有るのだろう。 「まあ最後のは完全な私情だから置いといて」 「そうね、そうなったらいいなってだけ。 ミリツァも、ナオもシェリーも蒼空学園に入ってくれたら嬉しいなって思うけど、決めるのは三人だわ。どの学校に入るかよりもまず、学校に入るべきかってところからかもしれないけど」 ジゼルは言いながら一瞬視線を上げる。此方を見てきた海より青い瞳に、破名は視線を反らす事が出来なかった。彼女はパートナーに聞いた情報よりも深く、きっと破名の心も分かっているのだろう。 間もなく目的地という折だ。壮太が最後に彼等に贈ったのはこの言葉だった。 「学校で学ぶってのもそれなりにメリットあるから、真剣に考えて見たらどうだ?」 * 「改めて紹介します、蒼空学園生徒会副会長小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)さん。 そして生徒会長の東條 カガチ(とうじょう・かがち)さんです」 咳払いのあと畏まってしたジゼルの紹介に、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がくすりと笑う。 一行は壮太の案内で、蒼空学園の人気スポットであるカフェテラスへきていた。 今日一日で信じられない程あちこち回ったのはジゼルから聞いていたから、休憩ついでにここで説明を聞いて欲しいというカガチの粋な計らいだ。 テーブルの上には皆でセレクトしたらしい飲み物や菓子が既に準備されている。 「カガチがココいるの珍しいよね」 「そうだねぇ。カフェテラスってツラじゃねえし」 「えーカガチかっこいいのに! あ、ごめん。今日は真面目さんだよね」 「真面目ってツラでもねぇけどな」 働く生徒会長にジゼルが小声で言うと、カガチは彼女にだけ何時もの砕けた表情でそう答える。 「さてと、そんだけ回ればもう大体分かってるだろ」 と、前置きして、カガチはこの件に当たって事前に準備していた簡単な資料を、破名とかつみの前に広げた。 「俺は? 俺はカガチ?」 「お前は要らんでしょ」 茶化そうとするアレクを弾いて、カガチは説明を始める。 学校の沿革や校風、学年の制度、各学部については勿論の事、部活なども交えた丁寧な説明に、最後は質疑応答の時間まで設けていた。 「――知ってる事は答えられる範囲で教えるよ。流石に馬場校長のスリーサイズとかは無理だけど」 「正子さんの? バストサイズだけなら俺知ってるよ」 「マジで!? なんで!!」 というアレクとのやり取りで一端話が横道に逸れ、ストップしてしまったが――。