First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last
リアクション
●アニメイト秋葉原店
「なあ、もういいんじゃないのか? 俺にはどれも同じに聞こえてきたぞ……」
「翔、こういう所で手を抜くから後でツケを払うハメになるのだ。半端なものを選んでは校長の機嫌を損ねるぞ」
天御柱学院校長、コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)の求める『究極のデンパソング』を求めて、辻永 翔(つじなが・しょう)とアリサ・ダリン(ありさ・だりん)はアニメイト秋葉原店にやって来る。
映像作品、フィギュア、その他いわゆるオタクグッズはここにいけば一通り揃うとの触れ込みは伊達じゃないとばかりに、店内に入った二人を無数の商品が出迎える。
「そう! ここ、ここだよ!
ここならきっと、『ヤンデレ強化人間に死ぬほど愛されて寝れないCD(ヤマハ版)』とか、
『魔法少女・けみかるカノンVSラジカルまゆりん〜世界最後の日(DC版)初回限定仕様ウルトラレイディスク』
とかもあるよ!」
先に店内には、ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が目的の品を求めて探し回っていた。そんな不思議なアイテムがあるはずが……と思いきや、店の隅の方に何故か一つだけ陳列されていた。恐るべし、アニメイト秋葉原店。
「……あれ? あそこの人は……」
そこへ、入ってきた翔とアリサを見かけて、ミネシアがくふふ、と悪戯な笑みを浮かべる。直後、二人に気付いたシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)が声をかけた。
「こんにちは、奇遇ですね。お買い物ですか?」
「ああ、そうだ。色々と頼まれてな」
「そうですか。一体どんな物を……?」
チラ、と見た翔の持つ籠の中には、これまたどこで見つけてきたのか、『ロリっ娘ヴァルキリー調教モノ』と銘打たれた商品が入っていた。
「っ!? 辻永さん……」
「? ……うおっ!? だ、誰だこんな物入れたのは!」
じとー、と冷めた視線を向けられて、翔はようやく、籠の中に記憶にない商品が入れられていることに気付く。無論、犯人であるミネシアがくふふふふ、と笑っていたのは言うまでもない。
「いえ、何も言わなくてもいいですよ。辻永さんも男の子ですものね……そういう事に興味を持つのも仕方のない事だと……」
「ま、待ってくれ、違う、違うんだ! 誤解だ! 俺はそんな――」
弁解する翔を横目に、シフがアリサの両肩に手を置いて念を押すように言う。
「兎も角、アリサさんも気をつけてくださいね」
「あ、ああ……」(まあ、大方同じ学校生の悪戯だろうが……)
「違うって言ってるだろー!」
翔の訴えが店内に響く――。
「アリサさん、こっちにも良さそうなCDがありますよっ!」
宇佐川 抉子(うさがわ・えぐりこ)が自らの籠に、それっぽいCDを積み上げていく。
「う、うーん、い、入れ過ぎたかも……重くて持ち上がらないぃ……」
「ったく、考えなしに突っ込むからだろ? ほら、俺が持ってやるから選んでこい」
横から瞼寺 愚龍(まびでら・ぐりゅう)がひょい、と籠を引っ手繰るように持ち上げてしまう。
「お、おい、いくらなんでも買い過ぎじゃ……」
「まあ、校長が何とかするだろ。翔、抉子を見失うなよ」
店内をあっちこっちと渡る抉子に続いて、翔とアリサが後を追いかける。
「デンパソング……何々、『萌えデンパ系』『リアルデンパ系』……って、色々出てきちゃったな」
「うわあ、佑一さん、確かに『リアルデンパ系』って書かれた棚があったよ」
矢野 佑一(やの・ゆういち)が携帯で『デンパソング』を調べた結果の通り、ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)が見つけた先には『リアルデンパ系』と銘打たれたCDがずらりと並べられていた。
「どうせ選ぶなら、評判がいいの選んだ方がいいよね。えっと、これとこれとこれ……ミシェル、探してきてくれるかな」
「うぅ、ボク帰りたくなってきたよ……」
涙目になりつつ目的のCDを探すミシェルを見遣る佑一に、翔が手伝ってもらって済まないな、と声をかける。
「いいよお礼なんて。これを聞いたコリマ校長のテレパシーがどうなるか、興味あるから」
「……まさか、校長がこの『〜にゃん』だとか『はきゅ〜ん』とか言ってきたら嫌過ぎだろ――」
『はきゅ〜ん』×∞
「……ご、ごめんなさいコリマ校長……」
「お、恐ろしいまでの破壊力……ごふっ……」
うっかり噂話もできないことを思い知った二人だった。
「はぁ……酷い目に遭った――」
「大変そうですねご主人様〜♪」
校長のデンパ攻撃を喰らって疲労感たっぷりの翔に、背後からメイド服に身を包んだ東森 颯希(ひがしもり・さつき)が抱きついてくる。
「ちょっと、何してるんですか!」
アリサが何かする前に、後からやって来た月舘 冴璃(つきだて・さえり)が颯希を引き剥がす。
「すみません、失礼しました」
「ああ、いいよ別に。何だか慣れてきたし……」
「翔、それはどうかと思うぞ」
そんな会話を交わしていると、向こうから颯希の声が飛んで来る。
「ねえねえ、こんなのどうかな〜?」
「あ、また……もう、颯希、勝手な行動しないで!」
「じゃあ冴璃もメイド服着る?」
「どうしてそうなるんですか……着ませんよ、そんな服。次言ったら風穴開けますよ」
ああだこうだと会話を続ける二人、そして翔の持つ籠にはいつの間にか、『メイドご奉仕もの』の商品が入れられていたとか。
「デンパソングですか……そのようなものを探し求めるとは、コリマ校長先生、よほど疲れてるんですね。疲れをとっていただくためにも、『ヒーリングデンパソング』を探しましょうか」
至極真面目な表情で呟いて、桐生 理知(きりゅう・りち)がその『ヒーリングデンパソング』を探しに店内を鼻歌を歌いつつ歩き回る。
「あ、これ欲しかったCD! あ、これも欲しかった限定版! うーん……ま、いいよね! せんせーも許してくれるよね!」
そして、翔とアリサの代わりにデンパソングを探してあげると言った北月 智緒(きげつ・ちお)が、自分の欲しかった商品も一緒に籠の中に突っ込んでしまう。
「……おい、大丈夫なのか、あれは?」
「うむ……そろそろ不安になってきたぞ」
疲れを感じていたこともあって、二人に任せたことに少々不安を抱き始めた翔とアリサの下に、何やらCDを持って理知がやって来る。
「翔くんもお疲れのようですので、これを」
「俺に?」
そう言われて理知から渡されたのは、デンパではないヒーリングCDだった。
「……俺、今すぐにでもこのCDの世界に篭りたくなったよ」
「……抜け駆けはナシだぞ、翔」
「……なるほど、そういうことだったの。それにしても、随分大所帯になったわね。……光? ちゃんと付いて来てる?」
そして、今まで会ってきた者たちを加えてすっかり大所帯になったグループの中で、蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)が翔とアリサから事情を聞いた後、蒼澄 光(あおすみ・ひかり)に声を飛ばす。
「お、お姉ちゃ〜〜〜ん……」
今にも泣きそうな顔で、光が雪香にしがみつく。同じ学園生であっても、知らない人は怖いようである。
「ま、これだけ買えば十分だろ……どこか静かなところに行って休みたいぜ」
「そうだな――む!? こ、この気配はまさか……」
感じた気配にアリサが険しい表情で振り向いた先、プラモデルやスケールキットが並べられていたそこに、グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)とプルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)から何かを受け取るカミロ・ベックマンとルイーゼ・クレメントの姿があった。
「カミロ! お前が何故ここにいる!」
「決まっている、修学旅行だからだ」
「そうか、それなら仕方ないな」
(な……!? こ、この展開はデジャヴを感じる……というかお前ら、敵同士じゃなかったのか!?)
驚愕するアリサを置いて、翔がカミロの持つ箱に興味を示す。
「何を持っている?」
「何でも彼が作ったという、イーグリットとシュバルツ・フリーゲのプラモデルキットだ」
そう言ってカミロが箱を見せると、確かに箱の表側にはイーグリットのビームサーベルを構えた姿が書かれていた。
「な! ちょ、ちょっと待て! いくらプラモデルとはいえ、敵のお前に俺たちのイコン技術を教えるわけにはいかない!」
奪い取ろうとする翔の手を避け、カミロが嫌味たらしい笑みを浮かべる。
「ただでは渡せんな……そうだな、俺とプラモデル対決で勝ったら渡してやろう」
「勝負ということか……いいだろう、受けて立つぜ!」
火花を散らせる翔とカミロ。
(……なあ、お前のパートナーは何をしたいのだ?)
(知らない。……この街は不快だわ、変なのが飛び交ってるから)
そんな彼らに愛想を尽かしたように、アリサとルイーゼが他の生徒たちと共にアニメイト秋葉原店を後にした――。
First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last