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リアクション
ツァンダ/市街戦1
街中だからか、龍を降りて立つ、ツァンダを制圧しようとする龍騎士を見付け、葛葉 翔(くずのは・しょう)はその前に立ちはだかった。
「エリュシオンの龍騎士だな。
ロイヤルガードの葛葉翔だ。
これ以上、ツァンダで勝手はさせない。去らないのなら、武力を以って阻止させてもらう!」
「……ロイヤルガード?」
正面から睨み付ける翔を、龍騎士は冷たく睨み返す。
竦まれそうなほどの威圧感だったが、翔は怯まなかった。
「口先だけでないといいのだがな」
龍騎士はそう言って剣を抜く。
次の瞬間、懐に飛び込んで来た龍騎士の、その前に、パートナーのヴァルキリー、アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が飛び込んだ。
「きゃ……!」
翔への攻撃を代わりに受け止めようとしたアリアは、防御ごと後方へ吹き飛ばされる。
「アリア!」
気を失ったか、アリアは動かず、駆け寄ろうとした翔はしかし思いとどまって龍騎士に向かった。――こちらが先だ。
「イコンに頼らねば、我々の足元にも及ばない輩が――身の程を知るがいい」
「黙れ!
エリュシオンや龍騎士が何だって言うんだ、人間をなめるなあ!」
あらかじめ、アリアがパワーブレスを掛けている。
グレートソードに金剛力の威力を上乗せして、翔は龍騎士に斬りかかった。
龍騎士は正面からそれを受け止める。
僅かに眉間を寄せた。翔はそのまま力押ししようとしたが、龍騎士もまた、ふと姿勢を低くした後、一気に踏み込んできた。
「――くっ!」
二人の力は拮抗したが、タイミングを崩され、体勢を崩されたのは翔の方だった。
素早く剣を引いた龍騎士は、もう一歩踏み込み、剣を横薙ぐ。
「ぐっ……!」
躱しきれず腹部を裂かれ、翔はうめいた。
とどめ、と斬り込もうとした龍騎士は、ふと横を見た。
「おっと、そこまでだぜ!」
駆けつけたのは、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)とパートナーの魔道書、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)だった。
「……新手か。懲りないな」
龍騎士は瞳を眇める。
「人間を舐めるな、と言ったぜ?」
ラルクは肩を竦めた。
その叫びを聞きつけて、敵はここかと駆けつけたのだ。
「一人で敵わなかったら二人、それでも駄目なら三人、てな。
諦めないのが人間だぜ」
言いながら、ラルクは身構える。
「今迄の修行の成果……試させてもらうぜ?」
『闘神の書』は翔の腹部の傷を見た。
「終わるまで待てるかぃ?」
「……掠り傷だ」
翔は剣を杖に立ち上がろうとしながら答える。
「とりあえず休んでな」
言って再び龍騎士に向かった。
僅かのための後、ラルクは龍騎士に攻めこんだ。
その拳を剣で受け止め、龍騎士は明らかに顔を顰めた。
「まだまだあ!」
続く攻撃を、龍騎士は素早く後退して避けるが、『闘神の書』が回り込んでいるのに気付くと、舌打ちをして剣を持ち直す。
突き込むラルクの拳を横から払おうとした剣が、折れ飛んだ。
「――何!?」
信じられない、と、咄嗟に刃の閃きを目で追う。
「隙有りだぜ!」
そこへ、まともに攻撃を食らった。
「ぐっ!」
倒れた龍騎士は、起き上がろうともがいたが、やがて力尽きたようにがくりと意識を失った。
「サポートの必要はなかったねぃ?」
『闘神の書』が笑って言うのに、ラルクは肩を竦めて返した。
後方で仲間達を支援することを担当する蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、救護班と共に移動する際に、護衛であることを悟られないよう、敵の目を欺く為に、蒼十字の腕章をつけた。
これをつけていれば、敵に攻撃はされない。
パートナーのアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)と共に、救護班と紛れて移動しながら、注意深く周囲に目を光らせる。
ツァンダの民の避難誘導は、敵襲の報と同時に速やかに行われはじめ、あちこちで戦闘が始まった今も、巻き込まれた一般民はいない。
「殺気のようなものは感じられぬな……近くにはいないのか」
アインが言うのに、朱里も頷く。
「龍騎士が町のあちこちに降りてきたみたい……。皆、きっと戦ってるね」
雨の中、降りてくる龍をここから確認することはできなかったけれど。
皆大丈夫かな、と、仲間達を心配する朱里の肩に、アインはそっと手を置いた。
「やれやれ、景気の悪い雨だねえ。
邪魔な前髪をかきあげやすいのは助かるが」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、雨に濡れた前髪をかきあげて溜め息を吐いた。
「……ゾンビでも今日の飯でもねえモンを斬るのも初めて、かぁ」
パートナーの剣の花嫁、柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が心配そうに見上げる。
「大丈夫、カガチ、なぎさんがついてるし、皆も一緒だよ」
「ああ……」
容姿は幼いが、なぎこはこれまで、何度も戦場を渡り歩いている。
そんななぎこの励ましに、カガチはフッと笑った。
「まあ、それを何とも思わない奴なんざいねえさ。
だがここに立ってる時点で、もう答えは出てるんだろ」
椎名 真(しいな・まこと)のパートナー、英霊の原田 左之助(はらだ・さのすけ)が、カガチの言葉を聞いて言う。
カガチは、に、と笑った。
「……ああ、大丈夫。わかってるよ、原田さん」
自分にはこれしかないし、ここしかない。
そして、なぎこの言う通り、頼れる仲間達がいるのだ。何を恐れることがあろうか。
「龍騎士達は北東から来るらしい」
パートナーの奈落人、七誌乃 刹貴(ななしの・さつき)をその身に憑依させている七枷 陣(ななかせ・じん)のところに、哨戒からの連絡がダリル・カイザックから入り、
「ビンゴだね」
と真は頷く。
ある程度龍騎士達の来る方向を予測し、ツァンダの外側、北東の位置について待ち構えていたのだ。
「ここは通さないよ」
「……ま、仕方ないか。宿主さまの意向だ」
刹貴自身は、特に今回の戦いに興味はなかったが、龍騎士と戦う機会などそうないだろう、と、そこは楽しみにしていた。
「遅れるなよ、英霊に、ろくでなし」
「誰に言ってる」
呼ばれた左之助はそう言い返す。カガチは肩を竦めた。
ツァンダに降りる為に、龍騎士達の高度が下がる。
「さってぇ、壇上から降りてもらうかねぇ?」
龍を降りる場所はツァンダではなく、その手前だ。
佐々良 縁(ささら・よすが)は、椎名真と共に、カガチ達よりも下がった位置で、龍騎士達を迎え見る。
機晶ロケットランチャーに、シャープシューターとスナイプを使うという力技で精密射撃を試み、龍の翼や顔、目を狙って撃った。
パートナーの剣の花嫁、佐々良 皐月(ささら・さつき)は、カガチ達にパワーブレスを掛けた後は後方に控え、仲間達が負傷した時に備えている。
「皐月、後ろも気にしといてねぇ」
「うんっ」
縁の指示に皐月は、小型飛空艇上で頷く。
彼等を飛び越えてツァンダに向かう龍騎士もいたが、旋回して更に高度を下げ、彼等に向かって来る龍騎士もいた。
「は! 好都合だぜ!」
左之助が笑う。
どうやって射程内に誘き寄せるかと思っていたところだったのだ。
真が、光条兵器のクロスボウを龍の目を狙って撃った。
そして刹貴が、天のいかづちを龍に叩き込む。
龍騎士は、攻撃を受けたが体勢を立て直し、接近しながら準備をしていた魔法を撃った。
雷撃が降り注ぐ。
強烈な雷撃は雨の中を走って、広範囲まで広がった。
「きゃあ!」
皐月は小型飛空艇から落ち、縁もなぎこもその場に倒れた。
「あ、あう……」
全身に激痛が走る。
よろよろと顔を上げながら、それでも、仲間達を見て、皆の回復しなきゃ、と思う。
「うわっ……!」
真は跪いたが、すぐに振り切るように立ち上がった。
痛むが、動けないほどではない。雷撃は、拡散されてむしろ威力を低めたようだ。
「大丈夫か!?」
左之助に声をかけられ、カガチは
「……何とか。まだバチバチするけどねえ」
やられたよ、と苦笑する。
負傷に加え、雷撃がまだ体内に残っているような感覚だ。
地上の真達がまだ動いているのを見て、龍騎士はもう一撃食らわそうとする。
「させるか! こっちが先だ!」
刹貴が叫んで、再び天のいかづちを叩きつけた。
呪文を唱える隙をつけたか、今度はまともに入り、大きく体勢を崩した龍から龍騎士が落下する。
刹貴は素早く走り寄り、容赦なくとどめを刺した。
念の為にと、パートナーの魔鎧、那須 朱美(なす・あけみ)を装備して、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、ほぼ終了した一般民の避難を確認する為、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と共にツァンダの町を見回った。
「ティセラ」
と、気になっていたことを伝える。
「戦って功を上げることを、自身の恩赦の為とは考えないで。
アムリアナ様の願いを、想いを叶えて、後に伝える為に戦いましょう」
後ろめたく思うことなど何も無い。
胸を張ればいいのだ。全てはあの方の理想の為にと。
ティセラはふと、何かを思うように宙を見る。
「……そうですわね」
確かに、その通りなのかもしれない。
漫然と己の罪を受け入れるならば、それよりも、アムリアナの理想を叶える為に努力すべきだ。
「……ティセラ」
心配げな祥子に、視線を戻してティセラは微笑む。
「……二度と、過ちを犯したりはしませんわ」
ありがとう、と励ましてくれた祥子に礼を言おうとした時、それは起こった。
突然、雨に紛れて特攻して来た白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が、ティセラを斬り捨てたのだ。
寸前で、竜造が武器を狙って『奈落の鉄鎖』を仕掛け、反応が遅れたことが、命運を分けた。
「ようやく永眠する時が来たな、大将!」
まともに胴を斬り捨てられたティセラは倒れ、竜造は勝ち誇って吠えたが、すぐに気付いた。
それは、ティセラではなかった。
「ち! 雨のせいで見間違えたか!」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)とリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)が、ティセラ本人よりやや離れた前を歩いていたのは、まさしく影武者を務めるつもりでいたからだった。
「ティセラねーさんも、敵が多いしな。
この場に乗じて仕掛けて来やがる奴がいないとも限らねーし」
「素敵な方ですのに……」
シリウスとぼそぼそと語り合っていたリーブラを、ティセラと間違えた竜造は、まんまとそれに引っ掛かってしまったわけだが、駆け寄ろうとするティセラ本人を見て、にい、と残忍な笑みを浮かべた。
「身代わりたぁ、非道なことをしやがるじゃねーか、大将。
まあいい、順番は変わったが、先にてめえの手下が死ぬのを見てな!」
「リーブラ!」
突き飛ばされていたシリウスが、起き上がりながら叫び、同時に、
「やめなさい!」
とどめを刺そうとする竜造に、祥子が叫んで、サイコキネシスでリーブラから引き剥がそうとする。
それよりも早く、ティセラが地を蹴った。
「ッ!?」
身に着けていた、パートナーの魔鎧、アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)ごと、竜造は下から袈裟懸けに斬り捨てられる。
身構える隙もなかった。
「……がはっ!」
膝を付く竜造に、
「立ち去りなさい」
と、ティセラは言った。
「とどめを刺したくは、ありませんわ。……立ち去りなさい」
「ティセラ!」
祥子が抗議する。
祥子は、地球人であろうが、敵対する者であれば容赦はしないと覚悟していた。
ここでこの男を見逃すべきではない。
案の定、竜造は憎悪の目でティセラを睨み付ける。
「人形の分際で、この俺に情けなんぞかけやがって、しゃらくせえ!
てめぇ、後悔するなよ……!」
吐き捨てて、竜造は撤退した。
その後姿を見送ることなく、ティセラは倒れるリーブラを抱きかかえる。
「何てことを……」
ばっくりと割れた腹部の傷を見て、ティセラは眉を寄せた。
「リーブラ、しっかりしな!」
その横で、シリウスが必死に回復魔法を掛ける。
「お姉様……ごめん……なさい……」
痛ましい表情で見つめるティセラに、薄く目を開けたリーブラが謝った。
そんな顔をさせたかったわけではないのに。ただ、護りたかっただけなのだ。
「しゃべらないで」
「……わたくしが……弱いせいで……」
「いいえ」
ティセラは微笑みかける。
間違えたりはしない。今の自分は、ちゃんとそれを知っている。
他人の為に使う力が、何よりも最も、強いのだと。
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