空京

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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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黒い魔物を迎撃せよ3

 雅羅たちの前方で闘うメンバーも、決して魔物の猛攻に手をこまねいていたわけではない。敵の出現と同時に叩ければいいのだが、とにかく数が多い上に霧の形で出現し、それが散開して魔物の形を取るので始末が悪い。城 紅月(じょう・こうげつ)は魔物が出てくる前に、皆と集まって幸運のおまじないへのハイタッチを提案した。少しでも気分が高揚するように、そして何かの守りになるようにと考えたのだ。パートナーのレオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)が叡智の聖霊で、紅月が熱狂と幸せの歌でサポートを行った後はもう、紅月は三面六臂といった闘いっぷりだった。
「羅刹たる力を存分に見せてくれる!」
青龍に疾風術を駆使して敵を切り捨て、朱雀で灼く。友であるルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)もオートガードやオートバリアを味方たちにかけたのち、最前線に身を投じて、パートナーの鳳龍 黒蓮(ほうりゅう・こくれん)が変じた白い鞘の長剣を手に、紅月とともに闘っていた。
「長く望んでいた烈士となり、黒い魔物を撃退すべく戦う皆を支えることが、今私のすべきことだと思う。
 そしてこれもまたパラミタを救う道だと思うんだ。
 皆と……雅羅やパートナー、友人たちと平和に楽しく暮らしていくために」」
そんなルゥに黒蓮は1も2もなく賛成したのだった。
「大好きなルゥや他の家族達と一緒に、色んな美味しいものを食べたり遊んだりしたいのニャ♪
 そのためにも……ギフトに未来を託し滅んだニルヴァーナの人達の為にも……。
 未来を守ろうと戦うみんなのためにも、全霊をかけてルゥ達に協力するニャよ!」
「ありがとうっ!」
闘うルゥに、紅月が声をかけてきた。
「ルゥ、囮としての役割もかねてるんだ、引き付けて攻撃するぞ」
「わかった!」
ソードプレイで一群れを殲滅しながら、ルゥが答える。
「では、陽動に乗らないものを始末してゆきますね」
オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)が魔杖シアンアンジェロを構えた。激励を全員にかけながら、フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)がオデットに言う。
「後方のカバーをするわ」
「ありがとう!」
「レオンも頼むぞ」
紅月の言葉にレオンはニヤニヤしながら答えた。
「……だいぶ数が多そうですが……夜のご褒美のために頑張りますよ」
「アホかっ! 目の前のことに集中しろ!」
にやけるレオンを返す刀の峰でぶん殴る。
「あたっ! 戦闘前に怪我しそうですよ……」
「余計なことを言うからだ」
軽口の応酬をしながらも、レオンも天のいかづちや凍てつく炎を忙しく敵の群れに放ち、霧散させている。
「とにかく大きい群れにまとめて引き付けて。ついて来ないのはオデットさん、頼んだ!」
ルゥに向かってオデットは真剣な表情で答える。
「任せてくださいッ!」
すこし前衛の位置から下がり、どんどん膨れ上がる魔物の群れを従えて駆けて行く紅月とルゥのあとを追い、オデットは群れからはぐれた魔物を叩いてゆく。
「貴方たちに校長の瞑想の邪魔はさせない! 行くよ、トリニティ・ブラストッ!!」
2匹が霧散して消える。雅羅が様子を見にやってきた。
「どう? なんだか魔物の群れに追いかけられているようだけど……」
「囮になってひきつけて、大技で一気に殲滅するんだそうよ」
ショパンが言う。3体の魔物がこちらに向きを変えて襲ってくるのを、オデットが裁きの光で押し返し、雅羅が情報撹乱で惑わせ、スプレーショットで片付ける。
「まだまだ、たくさんの人と友達になるんだから!」
オデットが呟く。
「友達、そうね。いいものだわ」
雅羅がしみじみと呟く。
「あら、貴女腕に傷をしてるじゃないの」
ショパンが、雅羅に言い、ヒールをかける。
「たいしたことはないわ」
「油断大敵よ。女の子は傷なんか残さないようにしなくちゃ」
紅月は後ろを振り返った。
「ころあいだな」
全てを無に帰す者アポルオンが空間を引き裂いた。追ってきていた魔物たちの眼前に小型のブラックホールのようなものが現れ、飲み込んでゆく。
「現世はお前らには似合わない! 灰塵と化せ黒き者よ!」
魔物の塊はそっくり消えうせた。

「予想通り、数がいるな」
周囲で魔物と戦うものたちから抜きん出て大きい正子が、岩石のような拳でこともなげにまとめて数匹ずつ魔物を叩き、霧散させながら言った。尋常でない闘気が全身を包んでいるが、本人は今特に気合を入れているわけではない。
「そうですねぇ……お、かっこいい!」
エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)が光術を魔物に放つ合間に闘う正子の姿をデジカメで撮る。
「石原さんが見える位置にいなかったのが返す返すも残念ですよ」
正子の強さは知っていたものの、彼女も女性。そこは男としてレディーは守らないと、などと考えてここにやってきたのだが。正直魔物のほうが正子の威容にひるんでいるような気がしなくもない。
「イコンはまったく触ってないしな……。手紙のリレーだってイコンで飛んだ方が速いってのは分かりきってる。
 じゃあ俺に何が出来るかって考えたんだよなー」
「で、此処だったんですね?」
ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)が光術で光属性を持たせたナックルで一体の黒い魔物を霧散させながら尋ねた。
「……石原さんと馬場さんのツーショットが見たかったというのもある」
「なるほど。おっと、危ない」
神妙なおももちで羅刹解刀を振り、魔物と闘っていた神凪 深月(かんなぎ・みづき)の背後から近づいていた小鬼をディオロスが粉砕する。
「おお、すまぬ。……油断したか」
「いやいや、コイツら霧で出てきて実体化しますからね。油断も何もありません。
 各々近くのメンバーがサポートすればいいんですよ」
ディオロスが軽い調子で言って、相手の緊張を和らげる。
「そ、そうか。そうじゃな!」
(あまり気合を入れすぎても……普段の動きが……できませんよ)
まとう鎧から微かな思念が届く。リタリエイター・アルヴァス(りたりえいたー・あるばす)は漆黒の地に紅いキメラの紋様のフード付サーコートに、銀のガントレットとグリーブという本来の魔鎧の姿をとって深月を護っていたのだ。
(しっかりと……深月を守ります。やりたいこと……知らないこと……まだまだ沢山。
 ……だから……知らないまま……失いたくない……です。皆と……もっともっと……一緒に居たいの……です)
(うむ、ここにはおぬしが―家族が居るのじゃ。パラミタでで手に入れた大事な家族達が。
 まだまだ一緒に居たい、ここが大好きなのじゃ。これからもずっとここで家族との時間を過ごすのじゃ!)
リタエイターの想いに、深月が決意と愛情のこもった思念を返し、次々と襲い来る魔物を切り捨てる。真っ二つになった黒い異形の生き物は、形が溶けて黒い霧となり、霧散した。
「馬場校長……正直苦手だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないものね……」
ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)が山のようにそびえる正子の後姿を見て、そっと呟く。正子はその巨躯だけでも周囲を圧倒するが、全身からにじみ出る闘気が恐怖感と圧迫感すら周囲に与えてしまう。彼女は実際頭もよく、案外常識人なのだが、第一印象は怖いというイメージしか持たれにくく、損をしているといえよう。
「とにかくあの黒い敵さんをなるべくいっぱいやっつけよう。
 雅羅さんが後ろのほうでフォローするメンバーを連れて戦ってる。できるだけ負担を軽くしなくっちゃ」
及川 翠(おいかわ・みどり)がミョルニルで砲撃しながら言った。
「そうね。今私達にできることをせいいっぱいする……それだけね」
翠に答えたミリアにディオロスが言う。
「そう、あと、この戦いは長期戦になるのか短期決戦か先が見えないとこがあるでしょう?
 へたにSPを使うとイザという時にガス欠になりかねない。私が光属性をつけた拳で戦うのはその為でもあるんです」
「なるほど……」
翠とミリア、深月が目を丸くして頷くと、エルシュが笑いながらツッコミを入れた。
「格闘技の番組を見て宗旨変えしたのかと思ってた」
「なんでそうなりますか……」
そこにひときわ大きな霧の塊が降りてきて正子の背後で実体化した。50体ほどはいるだろう。正子は結界からつぎつぎ漏れてくる魔物の処理をしており、手が離せない様子だ。
「危ない!」
深月が常闇の帳を放った。そこにディオロスがすかさず奥の手の六連ミサイルポッドからミサイルを撃ち込んだ。同時に翠が特戦隊、十嬢侍を放って正子の迎撃援護に送り出すと、ミリアがフェニックスを召還し、広範囲攻撃を行った。
「お見事」
エルシュが拍手し、のんびりと正子に声をかける。
「しかし、きりが無いな。馬場さん、いつまでやってりゃいいんだコレ」
「……時が来るまで、だ」
簡潔にして何の答えにもなっていないような、重低音のバリトンで返事が帰ってきた。