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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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黒い魔物を迎撃せよ2


 魔法攻撃や支援魔法、銃を使う契約者たちは最前線のメンバーのフォローを行うべく、前線メンバー同様に数グループに分かれて結界が見える程度の後方に控えた。遠距離攻撃をかいくぐってきたものに対しては近接戦闘が可能な者や、魔法攻撃を得意とするものが担当することになった。
「要するにこちらに向かってくる敵を片づければ問題ないのでしょ? ワタシたちは攻撃するのみよ」
白雪 魔姫(しらゆき・まき)がレーザー銃を構える。パートナーの白雪 妃華琉(しらゆき・ひかる)は、トラッパーを使って敵の足止めや行動阻害のほか、軽装を生かした一撃離脱の近接戦も担当する。非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は今回のミッションを手伝おうと合流したイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)と共に、主にメンバーの支援に回ることにした。
「万一も考えて、な」
イグナが目標を石原肥満に据えてサクロサンクトを作動させる。
「……龍頭の勢いとかを考えれば、イアペトスさんはもう……、アトラスさんも今回やはり……」
近遠が言葉を濁す。
「そんな……縁起でもないこと言わないでくださいよ……」
妃華琉が首をすくめる。
「両者の代わりは近い内に要りそうだなと思ってさ」
近遠が答える。
「そんな暗いこと、考えてちゃダメだよ」
派手なピンクのふわふわミニスカートにスパッツ、そろいのコスチュームに身を包んだ想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が進み出る。瑠兎子が声を張り上げた。
「歌って踊って闘える、味方の支援も任せとけ! 男の娘アイドル夢悠登場♪」
ディーヴァである夢悠の存在で場の空気は一変した。そこにイグナが声をかける。
「お出ましのようだ」
結界の弱い部分に微かな動きが生じ、そこから黒い霧のようなものが漏れ出てくると、次々と奇妙な小鬼やドラゴンのような姿をとり、前線で待機していたメンバーに次々襲い掛かり始めた。すぐに瑠兎子がアコースティックギターを手に、ハイテンションのアップテンポな曲を演奏し始める。それに乗せて夢悠の澄んだ歌声が支援効果を乗せて響き渡る。瑠兎子がコーラスに幸せの歌の効果を上乗せして、魔物がおそらく持つであろう闇の属性への抵抗を上げながら、ギターの演奏による魔法攻撃を織り交ぜる。前線を通過してきた魔物たちをまとめるべく、各種の保護魔法で守られた妃華琉が囮となって飛び出し、挑発する。
「私の動きにそう簡単について来させないよ!」
まんまと挑発に乗った十数体が妃華琉を追い始める。イグナが行動予測を使い、最高の効果を上げるルートを妃華琉に伝え、彼女はわざと敵との距離を一定に保ちながら逃げる。そこに支援魔法や歌でパワーを底上げされたイグナの裁きの光が炸裂し、一気に十数体が霧散する。
「ほーらほら、こっちだよ」
妃華琉が次々と現れ出てくる敵を誘導する。
「スキだらけねっ!」
魔姫が残る魔物をクロスファイアで確実にしとめてゆく。
「男の娘アイドルアピールと、支援攻撃がぴったりマッチ! ワタシってば、もしか天才!?」
瑠兎子が演奏による攻撃を行いながら自画自賛する。
「……あほら、向こうからも来てる!」」
黒い魔物2体が別方向から近づいてきていた。近遠が呼びかけ、瑠兎子はそちらに向けて演奏攻撃を放つ。同時に魔姫の銃撃がヒットし、魔物は黒い霧となって消えた。
「やったね!」
彼女のテンションは上がりっぱなしのようだ。
「瑠兎姉、戦闘中なんだからもう少し落ち着こうよ……」
夢悠が小声でいさめる。

 雅羅たちもまた、近接戦闘メンバーの補佐をすべく、結界の特に弱いと思われる位置を全て把握できる位置に陣取っていた。ここは漏れ出てくる魔物の数がかなり多いと予想され、近接戦闘のスキルを有するものも配備されている。
「我は今回回復を担当するぞ。巡回しておるゆえ、何かあれば遠慮なく言うが良い。
 もっとも、我が動かずにすむに越したことはないがな」
回復担当のセドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)が名乗りを上げた。本当は彼女もまた、闘うつもりであった。だが瀬乃 和深(せの・かずみ)が待ったをかけたのだ。
「我が回復サポートを担当するのか?」
セドナの不服そうな声に、和深が静かに言った。
「ああ、そうだ。強い敵ではないとはいえ、不慣れなものも多いと聞いている。
 無茶をするものもあるかもしれん。 ……目の前で死人や重傷者を見るのは気分が悪いだろう?」
「……」
「お前の力を見込んで、考えたんだ。頼むぞ」
「……フン、和深も他人の面倒を見るようなおせっかいになったか」
セドナは内心和深の言葉を嬉しく思ったのだが、正面から認めるのは照れくさすぎた。そっぽを向き、仕方ないという声音で皮肉を言った。だが、和深はそれに対して温厚に微笑んだだけだった。彼女の態度を彼がどう取ったのか……セドナにはわからなかった。和海の本音はまったく別のところにあった。
(セドナ……ツンデレは今時流行らない……)
「回復役もまた大事な存在じゃよ。だが大丈夫、死にはせぬよ……儂も、他の者も……皆、心は強い」
ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が微かな笑みを浮かべて黒いもやが集い始めた結界を見、言葉を継いだ。
「石原校長殿……其方の命、魔物に食わせたりはせぬ。ここは儂らに任せ、秘策とやらを成功させてもらおう」
ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が蝙蝠の翼を広げ、空中からホークアイで油断なく見張る。
「だいぶ影が濃くなってきた。そろそろかも。みな準備は良いか?」
キリト・ベレスファースト(きりと・べれすふぁーすと)が武器を構えた。
「まだ、この世界にきたばかりで経験も少ないんだ。もっといろんな土地を見たり、沢山の人と話したり……。 この目で見て、感じて……いろんなことを確かめたいんだ。
 まだまだ知らないことがいっぱいなのに、世界を勝手に終わらせられても困るよ」
キリトの呟きを耳にして、銃を構えた雅羅が笑いかける。
「そうよね。私だってまだまだ知らないことがいっぱいあるよ。
 個人の事情で勝手に世界を滅ぼすとか、許してたまるもんですか!」
ウォーレンが翼をはためかせてにやっと笑う。
「おうともさ! 世界の見聞はまだまだこれからだぜ? その前に世界壊されちゃたまんねぇよ!」
「そうですよねっ!」
キリトが力強く頷き返すと、武器を握る手に力をこめた。
「最終防衛は儂等に任せてもらおう」
ルファンが力強く言った。
「弟分が頑張って奮起しているのに、わたくしだけ後ろでのんびりお茶を飲んでいるわけにはいかないわよね。
 ……もっともわたくしもそんなに力があるわけではないけどね。
 魔法でキリトや他の人を援護することにしましょう」
キリトのパートナー、エルルーン・エイム(えるるーん・えいむ)が言い、立ち上がった。
「おーおー、来やがったぜ。さて、いっちょやりますかね!」
ウォーレンが戦闘開始を告げた。もやのような黒いものが結界から噴出して、そこかしこで小鬼や小竜など異形の生き物の姿に変わる。その体は漆黒で、実体を持った影のようだった。雅羅がすぐに動いた。スプレーショット、弾幕援護でそこここの、特に大きな魔物の塊を叩く。そこから漏れた魔物をキリトが打撃攻撃で一体ずつ確実にしとめてゆく。数体でまとまる場に、エルルーンがアシッドミストや火術を見舞うと、酸に侵され、あるいは炎で焼かれた魔物たちが実体を保てなくなり、か細い声を上げて霧となって散る。エルルーンはギャザリングヘクスを手に、ほかのメンバーにも魔力補給をしてもらおうと、攻撃の合間に契約者たちの間を文字通り駆け巡っている。
「めんどくさそうなことを言いながら、いざとなれば、人一倍やるんだよね」
キリトがそんな彼女をちらりと見てくすりと笑った。正子、雅羅の予想通り、このエリアは前衛、後衛共に激戦区となった。セドナが一段と戦況が激化したのを見て、救済の聖域を発動させる。癒しの空気がエリア一面に広がってゆく。集中する彼女の傍らにあらわれた魔物の群れを、和深がアンダーテーカーで生み出した、簡易ブラックホールとも言うべき異空間に敵を次々と飲み込ませる。ルファンが繰り出す芭蕉扇の風に、魔物が翻弄され、その風に乗って舞うようにウォーレンが混乱する魔物に龍飛翔突や雷術を見舞っている。ルファンもまた対術を駆使して敵を次々と倒していく。皆の連携がきっちりと取れている。この調子でいければ安泰だ。