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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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黒い魔物を迎撃せよ1

 まず広域をカバーする移動しながらの攻撃部隊が出動した。高機動、遠隔攻撃、近接攻撃に適したものたちからなるパーティである。空飛ぶ箒で偵察に舞い上がったノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)は、高空からさっと結界周辺を一望した。
「空から文字通り高みの見物とでも洒落込もうかと思ったが……どうやら団体さんでお出ましみたいだねぇ……。
 思ってたより数が多いようだ……。ちょっと遊ぶのも悪くないかもねぇ?」
パートナーの伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)が、にやっと笑う。
「ふぉっふぉっふぉ、確かにこれはちょいと数が多いの。どうやらノアもやる気みたいじゃし、我も協力してやるかのう。
 今回はまた随分と楽しそうな遊びを見つけたものじゃな」
「……だが、やるからには手は抜かないよ?」
ノアのすぐ傍を飛行していた高柳 陣(たかやなぎ・じん)が言う。
「……あんたらも慣れた様子だなー。ま、俺も当然前線に出て派手にぶちかますつもり……だったけどな」
ため息と共に下界を見下ろす。下方のジャングルで地表に近い場にいる黒い魔物――見かけは小型の龍やら子鬼のようなものさまざまだが、いずれも黒い影のような生き物――に向かって突き進む木曽 義仲(きそ・よしなか)のはしゃいだ声が通信機から流れてくる。
「ふむ、これが最後の戦ということか。よいよい、この高揚感、真に心地良い。
 俺も陣と契約してようやく一年の若輩者。だが、この機会、皆と共にこの苦難を乗り越えようではないか!」
「ふぅん、いい心がけじゃないか?」
ノアが言ってにやっと笑う。
「うむうむ、若いものには負けておれんのう」
權兵衛も頷いて、ノアと二人、徳利に入れていたギャザリングヘクスのスープと紅の魔眼で魔力を最大限まで高める。
「小手調べといくかねぇ」
ノアが言って、近くに現れた一群れの魔物めがけてファイアーストームを放つ。すぐにそれに合わせる形でで權兵衛が同じ魔法を続けて放った。相乗効果で勢いを増した紅蓮の炎が、黒い魔物たちを飲み込む。
「ギャギャーーーーーー!!」
「ギギギィーーーー!!」
甲高い悲鳴が上がり、炎に巻かれた魔物たちは黒い霧となって霧散してゆく。
「おや、あっけないもんだねぇ」
ノアが方眉を吊り上げた。
「気を抜いてはいかんのう。ふぉふぉ、ほれ、そこ、お前さん方の前方にも一群れおるようじゃぞ」
權兵衛の言葉は通信機を通じて緊張の面持ちで前進していた薙澤 駿香(なぎさわ・はやか)に向けられたものだ。義仲が周囲の状況も省みず、敵の群れへと突っ込んでいったのである。
「はいっ! すぐに義仲さんのサポートに入ります!」
すぐに駿香がチェインスマイトで前方の敵への攻撃を開始した。まだ不慣れなのだろう、動作がぎこちない。それでも弾丸は魔物2体を捉えて霧散させた。
「やった! ええっと、次は……」
「おっと、危ないですよ?!」
パートナーのアコ・アーク(あこ・あーく)がツインスラッシュで横手から駿香の方へ突っ込んできた小竜を切り捨てる。
「ありがとう!」
すぐに次の魔物に照準を合わせようとする駿香とは対照的に、アコは魔物をじっと観察していた。
「竜みたいの、小鬼みたいのと、タイプがあるようですが、何か違いがあるんでしょうかね……?
 それに……戦略も何も持たず、行き当たりばったりに攻撃してきているように見えますが……」
「ぼんやりしてたら危ないよぉ?」
考え込むアコの上空から襲い掛かろうとする群れを、ノアがファイアストームで殲滅する。
「あ、すみません」
ノアや駿香が数を減らしたとはいえ、まだかなりの数の魔物が残っている。義仲がそこに向かって突進しながら言う。
「炎、銃撃、剣戟……俺も色々持っておるぞ? 迅雷斬、煉獄斬、絶冷斬、どれが良いかな。
 どれでも好きなものを味あわせてやるぞ?」
パリパリと放電音を伴い、青白いスパークをまとった刀で眼前の一群れをなぎ払う。小鬼の影のようなものが3体、刃の餌食となり霧散した。その直前フォースフィールドを展開した陣が叫んだ。
「義仲、俺の分も派手にぶちかますのははいいが、後先考えずに突っ込みすぎんな!!」
「何を申す。将は先陣を切ってこそ、将たる力を皆に与える。ゆえに我は行くのだ」
「……すっげぇ楽しそうだな、お前」
「同じ目的で一緒に来ておられる仲間も、陣も信頼しておるゆえ、背後は振り向かんですむのだ。
 俺はただ目の前の敵全てを葬る!」
(がんばってこの戦いの犠牲者を減らせれるようにしなくちゃ!)
駿香は一心不乱に義仲のフォローを行っていた。やや注意散漫な様子のアコが共に歩んでいる。そのさらに後ろには本名 渉(ほんな・わたる)とその護衛に当たるパートナーの雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)が続く。
「そう強い敵ではないようですが、広範囲を移動しながらの攻撃ですし、この湿度の高さも機械には不向きでしょう。
機械系統に不調を感じたら、すぐに言ってくださいね」
渉が呼びかける。
「不調ってわけでもないんだが、飛空挺の調子、見といてもらおうかな」
陣が言って舞い降りてくる。渉がすぐさま工具を手に駆け寄ってきた。
「長時間飛行の必要がありますからね。時々機体を休めることを忘れないでください」
そうにこやかに言ってすぐに丁寧に機体の各所をチェックし始める。
攻撃部隊から漏れた3体の黒い魔物が漂うように向かってくるのを警戒にあたっていた悠乃が認め、まったく躊躇する様子も見せず1体に慣れた手つきでソニックブレードを見舞い、残る2体を続けてツインスラッシュで葬った。
(……なんだろう、この感じ……前にも何かあったような気がする……嫌な感じ……)
悠乃は数年前に故障し打ち捨てられていたところを渉に拾われ、修理された機晶姫である。彼女にはそれ以前の記憶はない。
「おーお、なかなかやるじゃないか?」
「すごいですね」
陣とアコが悠乃の立ち回りに感嘆の声を上げる。整備の合間に戦いの様子を見ていた渉は、整備を行いながら悠乃のことを考えていた。
(僕と出会ってから戦闘技術を学んだり戦闘訓練をしていない。なのに戦いに慣れている節があると思っていたが、やはり……)
渉は立ち上がり、整備完了を告げた。再び舞い上がってゆく陣。悠乃がどこか不安げな表情で佇んでいる。
「どうしたの?」
「……なにか思い出しかけたんですけど……すぐ消えてしまって。私……何者なんでしょうか……」
「慌てないで。無くした記憶はそのうち戻ってくると思いますよ。さ、今は目の前の事に集中してください。
 よけいなことを考えて命を危うくしてはいけません」
そっと悠乃の頭に手を置き、やさしく微笑みかける。
「はいっ! 兄様!」
「そろそろ向こうに移動するよぉ〜?」
ノアの声が各自の通信機から飛び出し、全員が気を引き締め、次なる現場に向けて移動を始めた。