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都市伝説「地下水路の闇」

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都市伝説「地下水路の闇」

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SCENE・8 
 
 セトたちが空飛ぶ箒で青楽亭に着くと、明かりが全て消えていた。当然、物音一つしない。まるで死んでしまったような静けさに、数時間前までの賑やかさは思い出せない。
 セトとクロセルは事前に少女に何を質問するか話し合っていた。セトはエレミアに最終確認をする。
「ミア、いいかい? 先に俺たちが質問するから、絶対にいきなり火術や雷術を使ってはいけないよ」
 ミアはイライラと足を鳴らしながら怒鳴る。
「しつこいぞ! 何度も言うではない! 攻撃をしてはいけないんじゃろ?」
 クロセルは慌てて訂正する。
「いや、でも、俺達が危なそうなら、ミアちゃんの魔法でどっかーんと……」
「おお! 任せろ! 塵ひとつ残さずに焼き尽くしてやろう!」
「え? 塵ひとつって……俺たちも?」
 セトはクロセルの肩にぽんっと手を置き、首を横に振る。
「……ミアに余計な事を言わないで。加減を知らない子ですから」

 しかし、青楽亭の扉を開けた時、セトたちは尋問など必要のないことを悟る。
 少女は入口から向かい合うように座っていた。最初に会った時は色白だった気がするが、今は懐中電灯に照らし出された肌は黒ずんでいる。
 クロセルは一応少女に訊く。
「……傷はもう治ったんですか?」
 少女は自分の傷一つない腕を撫で、ニタリと笑う。クロセルは少女に白い歯が無いことにも気づく。少女はクスクス笑う。
「お前達のおかげでな。馳走になった」
「馳走? どういうことだ!」
 セトはランスを構え怒鳴った。少女が立ち上がる。セトとクロセルは思わず後ずさる。
「ああ、そうだ。地下水路に残した私のお友達は保護してくれたか?」
 クロセルもランスを構えながら怒鳴る。
「友達など最初からいない! お前が俺たちを罠に嵌めるための嘘だろっ?」
 少女は耳障りな掠れた笑い声を上げる。
「あはははは! そうかそうか。やはり信じなかったか。お友達の話は本当だ。あの娘は友達に裏切られて虐められていた。娘にとって、一番怖ろしいのはお友達。だが、人はおかしな生き物だな。一番怖ろしい友達に化けた私にどうしたと思う? 願いを叶えてくれたのさ。新月の夜にマンホールの蓋のロックを外してくれた。もう一度、お友達になって欲しいと言ってな。あははは!」
 すでに少女の姿を保つことを止めていた。顔が溶けてなくなっていく。どこから声を発しているのか、まだ話し続ける。
「ところで、さっきは馳走になったと言ったが、思ったよりも恐怖を感じる者が少なくてな。まだ満足していない……補ってくれるか?」
 突然、少女であった体が天井いっぱいに膨れ上がり、そのままセトたちに圧し掛かってきた。あまりの迫力に動けないでいると、
「伏せて!」
「伏せてください!」
 背後からソアとアラミルの声が飛んだ。セトたちは考えるよりも先に、咄嗟に体が反応して伏せる。
 セトたちの頭上を火の玉が飛び、化け物の体に直撃する。
 しかし、一瞬白い煙と悪臭が上がっただけで、さらに近づいてくる。
「おら! 行くぞ!」
 雪国ベアがセトの体をひょいと担ぐ。
「ワタシはそちらの少女を……」
 狭間癒月がエレミアを抱えようとするが、
「お前はアッチだ!」
 ベアが先にエレミアを小脇に抱える。
 癒月は渋々クロセルを抱えあげ、青楽亭を逃げ出した。
バキバキバキ……
 化け物は狭い入口を壊しながら外まで追いかけてきたが、外にはすでに太陽が昇り始めていた。朝の清らかな日差しを浴び、化け物は白い煙と悪臭をまき散らしながら、跡形もなく消えて行った。