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魔法スライム駆除作戦

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魔法スライム駆除作戦

リアクション

 
    ☆    ☆    ☆
 
「急ぐのだ、自称正義の味方」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)の肩に留まったマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が、ばたばたと白銀の翼をはためかせながらパートナーを急かした。姿形こそ成体のドラゴンと同じ姿のドラゴニュートだが、その大きさはしっかりミニチュアサイズだ。
「自称ではありません。俺は、星辰(せいしん)の騎士クロセル・ラインツァートです」
 通りすがりの布類をひったくるようにして集めながら、クロセルは言った。その集めた布をマントのように翻しながら広場へと駆け込んでいく。
「おいてかないでよー」
 すぐ後ろから、途中から一緒になった遠野 歌菜(とおの・かな)が、カーテンをかかえてやってくる。
「とりあえず、バスタオル確保してきましたよー」
「さあ、急げや急げ」
 さらに後ろからは、バスタオルの山をかかえた片野 永久(かたの・とわ)の背中を、巫女服姿の三池 みつよ(みいけ・みつよ)が押して走ってきた。
「さて、どこから俺の正義を示したものか……」
 クロセル・ラインツァートは、不幸な被害者を捜すために、一人立ち止まってキョロキョロと周囲を見回した。
「危ない!」
 ふいに、マナ・ウィンスレットが、クロセルの肩から飛びたった。そんな彼女に、飛んできたスライムがべちゃりと命中する。
「私の屍を越えて行け……。がくっ」
「チビッコドラゴン!」
 我が身の盾になってくれたパートナーに、クロセルが感動の涙を流した。だが、スライムたちが、次はクロセルを狙って襲いかかってきた。
「伏せてね!」
 突然そう言われて、反射的にクロセルは身をかがめた。
 光弾がスライムに命中して消滅させる。
「ごめんなさい。少し遅かったね」
 銃型の光条兵器をもって駆けつけた峰谷 恵(みねたに・けい)が、地上でのびているマナを見て言った。
「助かりました。彼女は、俺が運びます」
「では、気をつけてくださいね」
 マナをクロセルに任せると、峰谷は主力である風紀委員たちに合流すべく先へと進んだ。
「まさか、救助第一号がチビッコドラゴンになるとは」
 クロセルはパートナーをそっとだきあげると、避難所へと連れていった。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「さあ、お掃除タイムですよ。ズィーベン、手伝ってくださいね」
 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は、清掃用具置き場の中をごそごそとあさりながら、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)に言った。メイドとして、スライムのような害虫駆除には、闘志が燃えあがるというところだ。とにかく、お掃除ということで、ゴム手袋や、アルコール消毒液や、酸性洗剤など、使えそうな物を次々にバケツに放り込んでいく。
「私がスライムを集めますから、後はお願いしますよ」
「任せといてよ。スライムは火術で消毒だ〜!」
 魔女のズィーベンが力強くうなずいていると、ばたばたと三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)がやってきた。
「あー、あたしにもバケツくださーい」
 あわただしく用具置き場に入ると、バケツとチリトリとガムテープを手に入れる。
「【夏のスライム捕獲祭り】にあたしも参加するんだよ。でも、攻撃魔法使えないから、入れ物がほしかったんだ」
 ニコニコと楽しそうに言いながら、のぞみはガムテープを切って粘着面が外側にくるように丸めていった。言動と同じように、キャミソールにデニムのショートパンツと、服装の方も元気一杯だ。
「よーし、準備かんりょー」
 あっけにとられるナナたちを残して、のぞみは空飛ぶ箒にまたがると、噴水の方にむかって一気に飛んでいった。
「おいていかないでください」
 用具室の外で待っていた沢渡 真言(さわたり・まこと)は、急いで箒にまたがると、のぞみの後を追いかけていった。
「ちょっと、邪魔しないでよ」
 頭上を飛んで行かれたカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が、のぞみにむかって文句を言った。ちょうど、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)のために用意した即席の松明に火をつけるところだったのだ。
 そんなカレンの様子に、ジュレールはちょっと不安になった。いつもなら、こんなに人を怒鳴りつけたりはしない。それに、なぜか用意周到に制服の下はビキニの水着姿で、その制服もさっさとバッグにしまってしまったのだ。
「さあ、火がついた。いい、これで奴らをすべて焼き尽くすのよ。なんなら、この広場ごと焼き尽くしてもいいわ。許す!」
「カレン、キャラが変わっているのだ」
「いいのよ、ジュレ。そうよ、あの時の恨みは、そう簡単に消えないんだからね!」
 去年の不幸な事故を思い出して、カレンは拳に力を込めた。ここにデスリンク姉妹がいたら、きっとお友達指定を申し込んでいたことだろう。
「スライムは水みたいなものだから、きっと水回りから入ってきたに決まっているわ。だとしたら、噴水は一番危険よね」
「そうだとしたら、さっきの生徒は、バーストダッシュまで使って噴水に突っ込んでいったのだが」
「骨は拾いに行きましょうね」
 
    ☆    ☆    ☆
 
「皆さん元気ですなあ。マリオン、どこからスライムが入ってきたか分かりそうか?」
「ひぃ〜。こ、怖過ぎて無理無理ですぅ」
 魔楔 テッカ(まくさび・てっか)の背後に隠れながら、マリオン・キッス(まりおん・きっす)が答えた。とは言っても、テッカの倍の身長がある機晶姫のマリオンでは、とても隠れているとは言えないのだが。
「もう、そんなことでは、いつまでもこのバナナが食べられないではないか。安心して、すばらしきこのバナナを食べるためにも、早くスライムたちを排除しなくてはな」
 バナナの大きな房をかかえながら、テッカがうっとりと言った。
「まあ、ベタで怪しいと言えば、噴水だろうか。何人かがむかっているようだし、いってみようか」
「ええー、やめるですぅ」
 巨体を無理矢理縮みあがらせるマリオンだが、テッカはすでに歩き始めている。
「ああ、お姉様、おいてかないでくださいですぅ」
 一人で残されたら、きっとスライムにたかられる前に気絶してしまう。マリオンは、あわててテッカの後を追いかけていった。
「きゃっ。ふぅ……」
 突然スライムに襲いかかられて、マリオンはそのまま気を失いそうになった。あわやというところで、テッカの魔法がスライムを焼き殺す。
「行くよ」
 テッカが、立ち止まってマリオンをうながした。その背後から、スライムが迫る。
「危ないですぅ」
 マリオンの叫びに、テッカは素早く振り返って火球を放ったが、無理な体勢のために外してしまった。なんとか横飛びに躱したものの、持っていたバナナを落としてしまった。彼女の身代わりとなったバナナが、スライムにたかられてぐちゃぐちゃにされる。
「しまった、バナナが……」
 テッカが絶句する。
 だが、バナナに魔力がないと知ったスライムは、すぐに反転して再びテッカに襲いかかってきた。
「きゃああぁぁぁぁぁですぅ」
 テッカがまずいと思ったとき、剣を持ったマリオンが悲鳴をあげながら突っ込んできた。ジャンプして襲いかかってきたスライムを、身体にあわせた大剣の平で受けとめて弾き飛ばす。普通なら、衝撃でバラバラになったスライムが増殖して大変なことになっているところだが、気弱な性格が幸いしてか、実に優しくスライムを弾き飛ばしたのだった。
「ふえぇぇ、怖かったですぅ」
「助かったよ、マリオン。危なくなったら、今度は合体しような」
 べそをかくマリオンの頭をなでてなぐさめようとして、さすがに手が届かないなとテッカは苦笑した。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「私は右側を守るから、あなたは左側よ」
 空飛ぶ箒に乗ったまま通路を疾走しながら、ターラ・ラプティス(たーら・らぷてぃす)は、すぐ隣を同じように飛んでいるジェイク・コールソン(じぇいく・こーるそん)に言った。
「分かっているさ」
 ジェイクが答えた。そのままちょっと先行すると、軽く体当たりする感じで両開きの扉を開き、ターラの広場への侵入をさりげなくサポートする。
「きた!」
「ええ」
 雑木林を抜けるまもなく、木の枝からスライムが滴り落ちてくる。落ち着いて、二人とも、火術でそれを倒した。爆風で、木々の梢がゆれた。
 雑木林の木には、かなりのスライムが身を潜めていたらしい。今の攻撃で、何匹かのスライムがボトボトと地上に落下していった。
「たくさんいるわね」
 右前方から落ちてきたスライムに、ターラが火球を放った。数が多いのであれば、数多く倒せばいい。ターラは、単純にそう考えた。
 だが、今はまだあまりにも数が多すぎた。爆風で枝から弾かれたスライムが、ななめ後方からも飛んできた。その一匹が、ターラの箒の先にとりつく。
「ターラ、危ない!」
 背後からターラに飛びかかろうとするスライムに気づいて、ジェイクが叫んだ。火術を使えば、ターラも傷つけてしまう。ジェイクは箒を寄せると、その先端でスライムを弾き飛ばそうとした。だが、ターラにふれる寸前であったスライムが、新たな餌に気づいて、箒の先からジェイクの身体へと乗り移っていく。
「なんとか、守れたかな……」
 力を失って、ジェイクがゆっくりと墜落していった。
「やられちゃったの? まだ無事よね」
 ターラが、ジェイクから制服を剥ぎ取って逃げていくスライムを火術で倒しながら言った。助けてもらったことに気づいていないのか、あるいは気づいていて平静を装っているのかは分からない。
「まぁ、服が脱げたとしても布は残るんだから、適当に巻いておけば隠れるからそれでいいでしょ?」
 そう言って、ターラはいったん地上に降りた。用意してきたバスタオルを広げて、ジェイクに巻いてあげようとする。ついでに、そばに落ちていたマジックローブの大きな布を拾いあげようとした。
「!」
 制服の下に、予想しなかったスライムが隠れていた。逃げる間もなく、八方からのばされた偽足がターラをつつみ込む。
「裸は、嫌……なのに……」
 ジェイクに使おうとしていたバスタオルの束をかかえたまま、ターラは倒れていった。
「お待ちしておりましたー」
 バスタオルを広げて待ちかまえていた片野永久は、倒れている二人を見つけて、嬉々として駆けよってきた。彼女にとって、救助第一号の犠牲者だ。
「おお、あれに見えるのは、不幸な被害者。殉難の騎士クロセル・ラインツァート、ただいま光臨!」
 カーテンをかかえたクロセルは、目ざとくターラたちを見つけて駆けよっていった。
 すでに、二人とも、片野によって、素肌にバスタオルを巻かれている。ターラは、美しい銀髪がかかったむきだしの肩や、長身に似合うすらりとのびた脚がバスタオルからはみ出ているが、怪我などはしていないようだ。
「むむ、くるのが少し遅かった……いやいや、さあ、お運びしましょう」
 クロセルは、ターラにさらにカーテンをかけてつつみ込むと、お姫様だっこでだきあげた。こういうとき、仮面は表情が分かりにくくて便利ではある。
「とりあえず通路へ」
 ジェイクをかかえ上げた片野が言った。