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幻のダイエット草を探せ!

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 第2章 罠を仕掛ける人々のこと

 イルミンスールの森の中では、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)と、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、クロセルのパートナーのドラゴニュートマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が、蒼空学園生を罠にはめようと準備を行っていた。
 「校長公認だもんな、なにやったって許されるよな〜♪」
 ウィルネストは山のようなほうれん草と小松菜を、田植えかと思うほど、大量に地面に植えていた。
 クロセルとマナは、さらにこっそりほうれん草に細工をしていた。
 「イルミンスールの森は、イルミンスール魔法学校のテリトリー。余所様のテリトリーにあるものを許可なく持って行くのは、即ち悪。『悪』には相応の罰が必要なのです。ふっふっふ、というわけで、このトウガラシの粉末を水で溶いた汁をほうれん草に塗っておくというのはどうでしょう!」
 「それはいい考えだな! どうせなら、目立たないように葉の裏など、わかりにくい場所に塗っておこう」
 マナはほうれん草のひとつひとつに、トウガラシの汁を塗り始めた。
 「ふっふっふっ、このようなはかりごとを思いつくとは、キミも悪だなぁ」
 「いえいえ、実行しようとしてるマナさん程では」
 マナとクロセルは、時代劇の悪代官と越後屋のようなやりとりをしていた。
 お茶の間のヒーローを自称するクロセルだったが、これではどっちが悪なのやらわからない。
 「ん、面白いことしてるじゃないか。俺も……べ、別にオマエに協力するわけじゃないんだからな! 勘違いするなよ! そのほうが効率いいと思っただけなんだからなっ!?」
 「はっはっは、ウィルネストさんも悪ですねえ」
 協力を申し出つつも、素直でない発言をするウィルネストに、クロセルは仮面の奥の瞳を光らせて笑った。
 こうして3人は着々と準備を行い、ほうれん草を植えた一帯に蒼空学園の捜索隊がやってきた。
 「あっ! あそこにあるのがダイエット草じゃない!?」
 さっそくほうれん草を手に取ろうとする風森 望(かぜもり・のぞみ)だったが、その瞬間、ウィルネストが火術でほうれん草を真っ黒焦げにした。
 「なっ!?」
 「ふははははっ! この森の植物は一本たりとも貴様らにはやらーんっ! 名付けて、『ガッカリさせてやる気を削ごう作戦』だっ!」
 驚く望に、ウィルネストが高笑う。
 「しまった蒼空学園の生徒がいる。折角ここの辺り一帯のダイエット草を獲りつくして妨害しようと思ったのに、奪われてしまったら本末転倒ではないですか。奪われてなるものかー」
 さらに、棒読みの三文芝居で、クロセルが叫び、トウガラシを塗ったダミーのほうれん草を持って空飛ぶ箒で逃げようとする。
 「きゃー! ダイエット草が奪われちゃうよ! 早く食べないと……って、辛ッ!? か、辛いーっ!!」
 愛美があわててほうれん草を食べてしまい、トウガラシの罠に引っかかる。
 「愛美さん! 許さないわ。蒼空学園の実力を見なさい!」
 望は仕込み竹箒を振り回し、ウィルネストに殴りかかる。
 一応、相手が大怪我しないように刃物は使わないつもりである。
 「うおっ!? へっへーん、そんな攻撃当らないぜ!」
 「待ちなさい!!」
 雷術を閃光弾代わりにして、箒で逃げるウィルネストを、望が追いかける。
 一方、他にも罠を仕掛けるイルミンスール生がいた。
 日堂 真宵(にちどう・まよい)であった。
 「判りました校長、仰せのままにっ! いえ、むしろ草木の一本どころか、空気の一吸い、水の一滴たりとも奴らには渡しません! エリザベート校長の名にかけて!」
 真宵は、ヒーローを倒しに向かう悪の怪人っぽくエリザベートの命を受けていたのだった。
 「これぞほうれん草をカロリーたっぷり濃縮の特製シロップに漬け込んだ必殺必太のやめられない止まらないメタボリック草! 生のほうれん草にエキスを吸収させてるのがポイントなのよ。それによって自生してるのを装って植える事も可能!」
 真宵はトウガラシのほうれん草の近くにメタボリック草を植えまくっていた。
 「早くダイエット草を食べないと……って、何これ、甘い!! おいしーい!!」
 あわててダイエット草を確保しようとしたマリエルが引っかかり、メタボリック草を食べ続けてしまう。
 「太ってしまえ、不埒者は太ってしまえ」
 真宵は低い声で笑いながら、マリエルにむかって呪いの言葉をつぶやいていた。
 それに対し、真宵のパートナーの吸血鬼アーサー・レイス(あーさー・れいす)は、メタボリック草に便乗して「ダイエットカレー草」を植えていた。
 「ダイエットカレー草とは、カレー味で凄い美味しい。ご飯やナンが欲しくなる。そしてカレーに使われているスパイスの力で健康的に代謝効率を上げて痩せる事が出来るのだ! これは野菜の形をそのままに残したカレーなのだ」
 アーサーは特撮っぽくダイエットカレー草の解説をする。
 「無理なダイエットや魔法的に余計なダイエットをした女性の血は美味しくありません。健康的な女性の血こそ至高の血。特にカレーで健康になった女性の血は究極至高の血なのです!」
 ティラミスとモンブランと落雁は滅ぼすべき対象で、カレーは王者の食べ物と信じて疑わないアーサーは、ひとり、木の陰で拳を握りしめていた。
 そこに、百合園女学院のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が騒ぎを聞いて駆けつけてきた。
 ミルディアは、
 「あたしはまだ太ってるわけじゃないからい〜けど、でも先生に持ってって、恩でも売っておけば単位になりそうじゃん? 勉強が全然だから、こうやって恩でも売って単位にしないと、ね?」
 と、先生に単位をもらうためにダイエット草を手に入れようと考えていた。
 とはいえ、もし、ダイエット草を渡したりしたら太っていることを明言しているようなものなので、先生は複雑な顔をしそうであったが。
 「これが幻のダイエット草!? でも、本物かどうかわからないのよね。でも、罠は踏み壊すものっ! とりあえず食べてみよう!」
 ミルディアは、ダイエットカレー草を口に運ぶ。
 「ほ、ほうれん草カレーの味がする!?」
 ミルディアが驚いていると、隠れていたアーサーが飛び出してきた。
 「ち、ちちちち、ち、ちちを吸わせて下さーい! カレー味の血ィー!」
 「ぎゃああああああああっ!? へ、変態ーっ!?」
 覆いかぶさろうとしたアーサーを、ミルディアは拳と陸上部で鍛えた足でボコボコにする。
 「な、なんだったの、一体……」
 ミルディアは、地面に転がったアーサーを足蹴にしつつ、呆然とするのだった。

 ゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)とパートナーのヴァルキリーイリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)も、ほうれん草を植えていたが、自分たちの所属校である蒼空学園生を引っ掛けるためであった。
 「障害が多いほうが達成したときの喜びは大きくなるでござるよ、うえへへへへ」
 ほうれん草を手にぬか喜びする生徒を観察しようと、笑うゲッコーだったが、そこに、同じ蒼空学園の生徒であるクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)とパートナーの剣の花嫁ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)橘 恭司(たちばな・きょうじ)とパートナーのヴァルキリークレア・アルバート(くれあ・あるばーと)があらわれた。
 「おまえら、何してるんだ!」
 「蒼空の生徒のくせに、裏切るつもりですね!」
 クルードと恭司は、ゲッコーとイリスキュスティスの行動を見咎め、迫る。
 「むむっ、師匠、同じ学校の生徒でござるが、例の作戦を行うでござる!」
 「了解だよ、ゲッコーくん!」
 ゲッコーとイリスキュスティスは顔を見合わせると、あらかじめ打ち合わせていた作戦を行うことにした。
 「やあやあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、拙者の名はゴザルザ ゲッコー、貴公らも名を名乗るでござる!」
 「私はイリスキュスティス・ルーフェンムーンだよっ! いざ尋常に勝負―っ!」
 「俺はクルード・フォルスマイヤー……『閃光の銀狼』の爪牙……見せてやろう……その身に刻め!」
 「橘 恭司です! 怪我しないようにこれで戦わせてもらいますよ!」
 恭司の手にはハリセンが握られていた。
 踊りかかるクルードと恭司の攻撃を木々の間を縫ってバーストダッシュで避けながら、ゲッコーとイリスキュスティスはうなずきあう。
 「……今だ……行くぞ、ユニ……援護してくれ……」
 「はい! 援護します! クルードさんは全力でやってください。全てフォローします」
 ユニのパワーブレスで、クルードの動きが素早くなる。
 「行くぞ! 『駿狼』!」
 クルードの技が、ゲッコーの身体にヒットする。
 「これなら怪我しないはずです! やあああっ!」
 「やっちゃえー! 絶対、ダイエット草を手に入れるんだからね!」
 恭司のイリスキュスティスへのハリセンによる攻撃に、クレアの声援が飛ぶ。
 「ぐおおおおおおっ!!!」
 「うああああああっ!!」
 ゲッコーとイリスキュスティスは叫び声を上げながら吹っ飛んだ。
 地面に倒れた瞬間、ゲッコーはいきなり渋い声でしゃべりはじめた。
 「クルードとユニと恭司とクレアはゲッコー達をたおした! 経験値8と0Gを手に入れた! なんとゲッコー達は『不思議な薬草』をもっていた! クルードとユニと恭司とクレアは不思議な薬草を手に入れた!」
 そう言いつつ、ゲッコーはほうれん草をユニとクレアに渡す。
 「あ、これ、くださるんですか? ありがとうございます」
 「やったー、ダイエット草だ……って、これ、ほうれん草よね?」
 ユニはついお礼を言ってしまい、クレアもあっけに取られつつも受け取ってしまう。
 その様子をクルードと恭司はポカーンと見つめていた。
 「アバヨでござる」
 「まったね〜!」
 その隙にゲッコーとイリスキュスティスはバーストダッシュで逃げて行った。
 「な、なんだったんだ……?」
 「経験値8って、少なくないですか……?」
 クルードはそれを呆然と見送り、恭司は小声でツッコミを入れた。
 「ふふふふふ、うまくいったでござるな、師匠……ぐわあっ!?」
 「ゲ、ゲッコーくん!?」
 木々の間をすり抜けて走るゲッコーの上に、いきなり巨大な分銅が落ちてきた。
 驚くイリスキュスティスに、桐生 ひな(きりゅう・ひな)が名乗りを上げる。
 「自称『蒼学の潰し屋』、桐生 ひなは此処にいるぞぉーですっ」
 ひなの笑顔とともに、八重歯がのぞく。
 「森といえばゲリラ戦、ゲリラ戦といえばトラップ、トラップといえばぺっちゃんこっ、やったもの勝ちですっ」
 ひなは、巨大分銅の罠を辺り一面に仕掛けまくっていたのだ。
 安全地帯はないので、ひな自身も潰れる覚悟であった。
 「ゲッコーくんがぺっちゃんこになっちゃったよ! なんてことするの!」
 「ぺっちゃんこにつぶれても、コメディだから死なないですよー」
 「なんというメタ発言! て、敵ながらあっぱれでござる……」
 紙のようにぺらぺらになったゲッコーがコメントする。
 「見つかったからには、カミカゼタックルなのですっ!」
 ひなは分銅を背負ってイリスキュスティスに突撃する。
 「ぷぎゅっ……ぎゅ〜……」
 「むぎゅ〜……」
 ひなとイリスキュスティスは、ゲッコーと一緒に仲良くぺっちゃんこになったのであった。