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大怪獣と星槍の巫女~前編~

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大怪獣と星槍の巫女~前編~

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第四章 密林から裏口へ
 遠く茂みの間に、神殿の裏口が見える。
「さすがに見張りが居るかぁ……」
 陽神 光(ひのかみ・ひかる)は樹上から、木々に埋もれるように存在する裏口の方を見ながらボヤいた。
 裏口の手前にはホブゴブリンが二匹。
 アサルトライフルを構えながら、見張りに立っていた。
「一匹くらいだったら、どうにか誤魔化せそうだけど……どうしよっかな、他に侵入出来そうな場所は――ん?」
 ホブゴブリン達が一斉に銃を、ある方向へと向けた。
 誰かが現れたらしい。
「私達より早いなんて……やるなぁ」
 単純に感心しながら呟く。
 しかし、ホブゴブリン達が銃を撃つ気配も、銃に撃たれる気配も無かった。
 しばらくして、光の視界の中、ホブゴブリン達の目の前へ藤原 すいか(ふじわら・すいか)イーヴィ・ブラウン(いーびー・ぶらうん)が両手を挙げながら姿を現す。
「ふぅん……?」
「光、何かあったの?」
 樹下で待機していたパートナーのレティナ・エンペリウス(れてぃな・えんぺりうす)が、光の様子に首を傾げて見上げてくる。
「先を越されちゃった」
「先に侵入を?」
「うー……ん、なんか、捕まってるみたい?」
「?」
 光は、眉根を寄せたレティナは置いておいて、一匹のホブゴブリンに奥へと連れて行かれるすいか達の方に目を細めた。
「……違う、捕まってるんじゃない。なんだろ? ま、いっか」
「光、私にも分かるように――」
 と、腰に手を当てたレティナの前に、光がするするっと樹上から降りてくる。
「説明はあとあと。今が侵入のチャンスだよ、見張りが一匹になった!」
「……もう」
 レティナは軽く息を付き、スゥと気配を消しながら先行して合図を送る光の後を追った。


「これで、よしっと」
 安芸宮 和輝(あきみや・かずき)が疾風の腕にバンソーコーを貼り終える。
 その向こうでは、和輝のパートナーのクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)は、月守の膝の方にバンソーコーを貼ってあげていた。
「ほんっと助かった。ありがとな、和輝さん!」
 疾風が言って、
「いえ、困った時はお互いさまですから」
 和輝がやわらかく笑む。
 ヒルに噛まれた二人を見つけたのは、たまたまだった。
 通り掛かり、和輝達はそれなりに応急道具を持っていたので、ヒルを取り。
 ついでに消毒を含めた簡単な処置をしてあげて、今に至る。
「クレアさん、重装備だねぇ」
 月守がクレアの格好をまじまじと見遣った。
 和輝とクレアは、ヒルや蛇対策に、肌の露出部分を少なくし、更に服の隙間をタオルなどで埋めていた。
「あの……これは、安芸宮さんが、ジャングルに行く時の正装だと――ええっと……変でしょうか? その、似合って、ません?」
「あ、ううん、大丈夫!――んや、似合う似合わないの問題じゃないと思うけどっ」
 月守がぶるぶると首を振る。
「良かったですわ」
 月守の言葉に、クレアが安堵したようにふわっと微笑み。
「あ、月守さん。汗止めや匂い消しがございますの。良かったらお使いになられません?」
「そんなものまで……クレアさん、完璧だねっ!」
「これも安芸宮さんの勧めですわ」
 その会話を聞いて、疾風が感心したように頷く。
「和輝さんって気が利くんだな」
「いえ、そんな事は」
 和輝が微笑みながら顔を傾け。
「しかし、思っていたよりヒルや蛇は少ないみたいですし――そんなものより怖いのは、どうやら、罠のようですね」
 言って、和輝が月守の落ちかけていた穴の方を見た。


 ギ、ギ、と軋む音と共に視界と体が揺れる。
 ついでに時々、葉っぱが降って眼下の地面に落ちていく。
 しかし、現状は一向に解決しなかった。
「……駄目、か」
 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)は、綱網に捕らえられ、こんがらがった体勢で宙吊りにされていた。
 密林を裏口に向かう途中で、罠に掛かってしまっていたのだ。
 横の方で、はぁと漏れる溜め息が聞こえる。
「油断、しましたね」
「申し訳ありません、お嬢様。……わたくしが付いていながら……」
 隣では有栖と有栖のパートナーのミルフィが、リリと同じように綱網に吊るされていた。
「あ、ううん、ミルフィの所為じゃ、ありませんから」
 有栖が、申し訳なさそうに声を曇らせるミルフィの方に言う。
「いえ、わたくしさえ、しっかりしていれば……リリ様も申し訳ありません。お助けするつもりが、このような失態に……」
「……胸が邪魔だったのだな」
「は?」
「い?」
 リリの言葉に有栖とミルフィが、それぞれ目をぱちくりと瞬かせた。
 リリは、フッと、やや自虐的に笑って。
「そんなに大きな胸をしているから悪いのだ」
 睨み付けるように、というか、半ば羨むようにミルフィの胸を見つめた。
「こ――こここれは、なにもわたくしから望んでこのようになったわけではっ!」
「いえ、あの、ミルフィ……返答のポイントはそこでは無いと思います……けど」
 罠に掛かったのと胸の大きさとは何の関係性も無い。
「……まあ、冗談は置いておくとして、だ」
 リリは、鼻先を鳴らして、言葉を置いた。
 その言葉の割には何やら名残り惜しげに、ミルフィの胸を一瞥してから、
「この罠が殺傷目的では無いのは何故なのだろうな」
 言って、口元を少しだけ曲げた。
 ミルフィは、話が己の胸の事から変わって、ほぅっと息を付き。
「わたくし達を生かしたまま捕らえる目的は何か、ということですわね」
「目的……ですか」
「考えられるのは、情報を吐かせたり、人質にしたり、だろうか」
「わたくし達から何の情報が得られますの?」
「……どのくらいの人が、どこから攻めてきているか、とかでしょうか?」
 有栖が、ンーと考えるようにしながら言って。
 リリが頷く代わりに、ゆっくりとした瞬きで肯定する。
「だろうな。例えば、正面通路の陽動。それから、地下通路の事など寺院の奴らは知り得ていない可能性がある。大きな情報だ」
「なるほど……」
「あ。今、思いついたのですけれど」
 ミルフィが言って、二人の視線がそちらに向けられる。
「あの、わたくし達が生かされて、ここに宙釣りにされている理由」
 前置いてから続ける。
「餌、なんじゃないでしょうか?」
「餌?」
「ええ、こうしている事によって、仲間が助けにきてくれる。だけれど、その仲間もまた罠に掛かる……という」
 と、近くの茂みがガサリと蠢き、三人はハッと息を潜めた。
 姿を現したのはクロードだった。
 草汁や泥などを顔などに塗りつけ、目立たぬようにボロ布を羽織っている。
「ふむ……なるほど、な」
 彼は吊るされた三人の状況を見回し、頷き。
「今、助けてやろう」
「あの、ありがとうございますっ! でも、他にも罠があるかも――」
「大丈夫だ」
 クロードが言う。
 その言葉通りに、彼は罠に掛かる事なく近づいて来る。
「禁猟区を展開しているからな」
 罠が近づけば察知する事が出来た。
 そして、クロードは憂う事なく、三人を網から開放するために剣を抜いた。

■裏口通路
「しかし……想像以上に手薄だな」
 葉山 龍壱(はやま・りゅういち)が通路端に倒れたホブゴブリンの屍骸を横目に駆け抜けていく。
 通路は時折り、分岐や、亀裂で出来た深い段差、階段を交えながら地下へ地下へと続いていた。
「正面口の方の人たちが巧く誘導してくださっているから?」
 パートナーの空菜 雪(そらな・ゆき)は龍壱の後を追いながら、ンと首を傾げた。
「かもしれないな……。雪」
 言って、龍壱が短く立ち止まり、雪の方へと手を伸ばす。
「はいっ!」
 龍壱は、返事する雪の手を取り、引き寄せ、彼女の腰を片手に抱いて、段差を跳んだ。

 一方。
「へっへ、案外に楽だな」
 ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、裏口から侵入し、通路を神殿中心部に――
 では無く、正面通路の方へと向かって駆けていた。
「待ってろよー」
 パーティータイムを想像して、ニィ、と笑む。