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アトラス・ロックフェスティバル

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アトラス・ロックフェスティバル

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TRACK 10

「……ったく、ひどい歌もあったもんだ」
 カーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)は楽屋でつぶやいた。
 別に午後の部に出場しようというのではない。ステージに注意が向いている隙に、楽屋に忍び込んでめぼしいものを盗もうという魂胆である。
「カーシュ様……せっかくロックフェスティバルに連れて行ってくださるとおっしゃるから、楽しみにしておりましたのに……
 いけませんわ、盗みなど……」
 機晶姫のハルトビート・ファーラミア(はるとびーと・ふぁーらみあ)はそう言いつつも、カーシュから渡された荷物を持っている。ハルトビートのカーシュに対する忠誠心は、倫理観よりも強いのだ。
「ごちゃごちゃ言うんじゃねえ。ローグとしての本領を発揮するチャンスじゃねえか。
 ほら、こいつも持て」
 そういってカーシュはギターケースを渡す。どの程度の価値のものかはわからないが、楽器だからそう安いものでもないだろう。
 楽器がなくなったら演奏できないだろうな、ハルトビートの脳裏をそんな考えがよぎったが、顔も知らないギターの持ち主よりカーシュのほうが大事だった。
「ようし、それじゃ売っ払いにいくか」

 カーシュたちはバイクに乗って走り出す。しばらくすると芳樹とアメリアが空飛ぶ箒で追ってきた。盗みに気づいたのだろう。
「そこのバイク、止まれ!」
「誰が止まるか!」
 芳樹は氷術で威嚇射撃を行うが、カーシュは器用に避けながら走って行く。そこで芳樹は攻撃をアシッドミストに切り替えた。広範囲に広がる酸の霧が、バイクのタイヤを腐食する。カーシュとハルトビートは転倒し、バイクから投げ出された。


 客席から少し離れた場所で、瀬島 壮太(せじま・そうた)はグッズの販売を行っていた。といっても正規品ではなく、適当にこしらえた海賊品だ。そこらで買ってきた無地の白Tシャツやうちわに、マジックでなげやりな「P−KO」のロゴが描かれている。

「いいかよく聞け。お前が怪しむのもよくわかる、確かにこのタオルはただのグッズに見えるよな。でもな、ライブ中にほとばしる熱いパトス(汗です)が拭けるし、万が一乱闘が起きたとしてもこれで相手の目を塞いだり、首絞めたりできるんだぜ。
 さらに、自分が怪我した時には止血もできるスグレモノだ。
 団扇にいたっては、仰げば涼しいうえに、なんと柄の部分を使って相手に目潰し攻撃もできる。どうだすげーだろ!」

 驚くべきことに、このいい加減なグッズは売れた。そもそも正規品のグッズ販売がなかったからだ。