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第七章 マレーナ来たる

 裏口に誰か来た。食料の追加でも届いたのかと思い、そばにいた永夷 零(ながい・ぜろ)が出た。そこに立っていたのはみすぼらしい服をまとった美女だった。零の視線は、自然とその胸に引きつけられる。
「マレーナ……さん!?」
 なんと言っていいのかわからず、戸惑い気味に確認する。頷くマレーナ。
「先日はご迷惑をおかけしましたわ。その……ラズィーヤ様からお話を伺いましたのですけれど……正面のほうからでは入りづらくて……」
「まあとにかく、上がってください」
 黒服姿であるため、普段とは異なる丁寧語が自然と口をついて出る。



 『マレーナ来たる』、この報告を受けて控え室に動揺が走った。

 マレーナはドージェ・カイラスの“剣の花嫁”である。ドージェこそは現在のパラミタにおいて最強無比の生き神、意志持つ天変地異、彷徨う核兵器とでも呼ぶべき存在だ。もしこの場でマレーナに何かあって、ドージェの機嫌を損ねるようなことがあれば……生き残れるとしてもアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)がせいぜいだろう。

(極々一部に『ヨーコさんはドージェもパシリにしてるらしいぜ』と言う意見もあるが、信憑性はたいへん疑わしい)

 けれどもラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)だけはまったく平然とした様子で、マレーナを出迎えたのだった。

「本当に来てくださったのね♪ お会いできて光栄ですわ。まあ、そのお召し物はどうなさったのかしら。わたくしの私服でよろしければお使いになる? ……本当は明日のコスプレ用衣装ですけど」
 マレーナははじめ遠慮していたが、ラズィーヤに話しかけられるうちに緊張が解けたのか、しばらくすると勧められるままに着替えてきた。

 汚れを拭き、ドレスを着たマレーナは、輝くばかりに美しかった。胸はいくぶん窮屈そうだったが、それ以外はおおよそぴったりだ。

 指名が入り、マレーナは恥じらいながらもお客のところで出て行った。

「あなたとマレーナ、ずいぶん背格好が近いのね?」
 いぶかしむように環菜が聞く。
「わたくし以外の方のぶんまで衣装を用意してきましたのよ☆ ……それでもあのサイズに調度のものはありませんでしたけど」
 環菜はそれ以上聞かないことにした。


「お…何か珍しい……じゃあ、指名すっかな!」
という軽い理由でラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はマレーナを指名した。恋人はどうしたラルク?

 こういう店ははじめてなのでどうしていいかわからず待っていると、予想外の姿でマレーナが現れた。
「ご指名ありがとうございますわ。マレーナです。あなた様のお名前を伺ってもよろしいかしら」
「あーうむ……おっす! ラルク・クローディスだ。ドージェは一緒じゃないのかい?」
 マレーナは微笑んで答えた。
「ああ見えて、ドージェ様は色々とお忙しいのですわ……ところで何をお飲みになりますの?」
「んじゃあ、俺は……キマク地酒で……」
 本当は日本酒が飲みたかったが、値段を見て安酒を選ぶ。マレーナも同じものを選らんだので、内心ホッとする。

 酒を飲みながら、ラルクは常々疑問だったドージェについての疑問をぶつけてみた。ドージェはパラ実の総長とされているし、逸話はいろいろ聞いている。しかしその実態はあまり知らない。
 マレーナの話によれば、ドージェとマレーナはキマクを中心に各地を転々としているらしかった。

「ドージェ様は本当はお優しい心の持ち主なのですわ」
という言葉が記憶に残った。

 気がつくと、ラルクとマレーナは何杯かグラスを空けていた。しかし違和感がある。話が続くうち、ラルクはついつい日本酒を頼んでしまっていたのだ……それも何杯も。

「毎度ありー♪」
 陽気なレジの声に見送られて、しょんぼり帰るラルクであった。

マレーナの売り上げ:3200G



第八章 狂い咲く人間の尊厳

「やっぱりさ……男としては女の子が接待してくれるお店って興味あるわけだよ、うん」
「ふむ、まぁこういう店に出入りするのも男の嗜みだろうな。だが、油断ならぬ世界だということは覚えておけ」

 そんなやりとりをしつつ、和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が来店。指名は少し迷った末にアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)。話を聞くなら年長者のほうが面白いのではないかという樹の考えだった。

「私を指名するとはなかなか見所のあるやつじゃな、まぁのんびりしていくといいじゃろ」

 アーデルハイトの気さくな口調に安心する樹。注文は樹が果実ジュース、フォルクスはコーヒーを選んだ。フォルクスはイルミンスールに属してはいるが吸血鬼であり、タシガンのコーヒーには憧憬があるのだろう。一方アーデルハイトは黄金の蜂蜜酒。

 運んできたボーイは薔薇の学舎に通うエディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)だった。
「お待たせしまっ……あ!」
 バランスを崩して転倒するエディラント。近くにいたアーデルハイトは素早く果実ジュースとコーヒーまではキャッチしたのだが、自分の蜂蜜酒は取り損ねた。
「すみません、オレ、ドジだから……」
としょべるエディラントを、アーデルハイトは
「よいよい、客人のぶんは無事じゃしな。私のぶんはまた追加で注文するから、ほれ、もう一回持ってくるんじゃ」
と元気づけて厨房に送り返した。

「ひょっとして、俺とフォルクスのぶんを優先してキャッチしたの?」
「なに、ただの偶然じゃ。たまたまじゃよ、たまたま」
 アーデルハイトはそういってやんわりと否定したが、客に対して気を遣ったのだろう。
 全員のぶんが揃ったところで乾杯が行われ、歓談がはじまった。アーデルハイトはさすがに物知りで、ふたりのことも覚えていた。

 しばらくすると、アーデルハイトの蜂蜜酒の匂いにやられたのか、樹の塩梅が妙なことになってきた。

「ふぉるくすぅ〜(腕をフォルクスの首に回そうとする)」
「何だ、樹。甘えたくなったか?(軽く拒む)」
「あんたさぁ…いっつもいっつも人前で変なこと言って……
俺だって男だし、別にそーゆー話が嫌いなわけじゃないけど……
あんたが、嫌いなわけじゃないけど……」
「……そうか、お前……」
「恋とか愛とかエロ話とか、口にするのは恥ずかしい年頃なんだよ!
周りに変態コンビとか思われたくないし、外では自重しろよ……!(首に腕がかかる)」
「ぐあ!? ……ま、待て樹。一度、落ち着いてその手を離……(ぐったり)」


「あれ? アーデルハイトおねえさん、どうしてこんな席にいるの?」
 離れた席で蜂蜜酒をちびちびやっているアーデルハイトを見て、エディラントが無邪気に尋ねた。
「余計な手出しをして馬に蹴られるのはご免じゃよ。それはそれとして蜂蜜酒をボトルで頼もうかの」


 あとで正気に返った樹は、気絶したフォルクスと高くついた飲食代に驚くのだった。


アーデルハイトの売り上げ:3500G


 アーデルハイトはまだ元気なので、次の指名が入った。
「キミのように美しい人を指名しないわけにはいかないのさ」
 指名したエル・ウィンド(える・うぃんど)は果実ジュースを注文、アーデルハイトはさらに蜂蜜酒。

 アーデルハイトはすでに結構酒が入った状態で、だいぶテンションが上がっている。エルもそのノリに釣られてジュースを飲んでいるうち、人として大事な何かが外れてしまった。

「ボクは犬ですワン! 飼い主になって欲しいですワン!!」
 アーデルハイトはにやにやしながら挑発する。
「おやおや、犬には見えないんじゃがのう。犬が椅子に座ったり、コップを手に持ったりするとはおかしな話じゃ。さては魔物じゃな? えい」
 そういって足で小突く。エルは大急ぎで床に四つん這いになって、ご主人様をすがるような目つきで見上げる。

「おお、犬じゃ犬じゃ。しかし耳と尻尾がないとはみすぼらしいのう」
 すかさす用意してきた犬耳と尻尾を装着するエル。
「よしよし、餌をやるかのう」
 アーデルハイトはソーセージを注文し、その皿を床に置く。エルはそれを器用に食べ、アーデルハイトにすり寄ろうとする。
 アーデルハイトはエルの頭を撫でながら、何か思いついたらしく、にやあっと笑った。
「そういえば犬と言えばすることがあるじゃろう、なんと言ったかのう、アレじゃ、アレ」
 エルの顔から血の気が引いた。アーデルハイトのいうアレって何だ。最悪の予想が脳裡に浮かぶ。しかしアレを要求されるなら、今のボクは犬……!

「アーデルハイトおねえさん、もう時間です」
 エディラントが時間切れを告げたので、エルは人としての尊厳を失わずに済んだ。


アーデルハイトの売り上げ:+1200G(計4700G)


「おねえさん、アレってなぁに?」
「思い出した、『三回まわってワン』じゃった」