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第15章 731

 和服姿の緋桜 ケイ(ひおう・けい)が、落ち着かない様子できょろきょろしている。妹のように思っているヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がドリームメイデンに応募したときいて、その身を案ぜずにいられないのだ。
 自分で客になればよさそうなものだが、ケイは敢えて自らもドリームメイデンとなることで、より近い場所から見守ることにしたのである。

「ああっだめだ、そんなサービスをしては!」

などと気を揉んでいると、パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)から助言が入った。
「今のおぬしは吸血鬼としての魔性を身につけておろう。それで男どもを誘き寄せ、指名させるのだ」
「そうだな、カナタ……ああっヴァーナー!」
などとやっているところに、予想外の指名が入ってしまった。
 パラ実の姫宮 和希(SFM0000656)が冷やかしに来たのである。

 こうなると接客に集中しないわけにもいかないが、やっぱりヴァーナーの様子も気になる。
 女性客が来るというのはカナタにとっても予想外だったが、今のケイでは売り上げが心許ないので、覚悟を決めることにした。

(わらわたちと席を共にしたのが運の尽きよ。血の一滴までも搾り取ってくれるわ!)
「姉上〜、その果実ジュース、わらわも飲んでみたいのだ〜」
 甘えた声を出して和希のジュースをもらい、そのまま飲み干してしまう。そこから追加で注文させるという作戦だ。

 この作戦で何杯か追加オーダーさせることに成功したが、すぐに和希は
「今日あんまり持ち合わせがないんだよな」
と自白。確認させてみたが900Gしかなかった。これ以上オーダーさせても儲けは出ないので、時間が来たところでお帰りいただいた。


ケイの売り上げ:900G

 ケイのもうひとりのパートナー、シス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)を指名していた。
 目標はルミーナを酔わせること。キマク地酒を自分とルミーナに注文し、ひたすらルミーナに飲ませようとする。しばらくするとルミーナにも酔いが回ってきたらしく、
「わたくしがいつも言っているのに環菜さんときたら……」
という台詞が増えてきた。
 シスはここぞとばかりに、
“チョコレートでコーティングされた棒状の焼き菓子を使って行う紳士のゲーム”
のプレイを提案。ルミーナこれを受諾。
 ルミーナの加える焼き菓子に食いつくシス。一口、二口、三口、ここでルミーナの唇を狙っていくシス。しかしルミーナはここでシスを拒絶。
「失礼ですが“禁猟区”を使っておりましたの。今のあなたからはピュアでない願望が感じられましたわ」


ルミーナの売り上げ:1200G


 微妙に酔った状態でルミーナは次の指名を受けることに。
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)の指定したコスプレは、ウエディングドレス姿である。

 気もそぞろでルミーナを待っている優斗の様子を、柱の陰から見守る姿があった。変装したテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)である。
「優斗さんが妙にそわそわしているからといっても疑っているわけではないですよ! 本当ですよ!! もちろん私は、優斗さんは邪な遊びをしないと信じていますけど、優斗さんが如何わしい遊びを覚えるのは、家族として止めなければいけないと思うのです」
と内心の声が漏れ出るテレサ。

 新婚さんごっこをしようと待ち構える優斗の前に、とうとう花嫁姿のルミーナが姿を現した。
 頬にはほんのりと紅が差していて(酔っているせいだが)、環菜やエリザベートにはない大人の色香があった。
 まだ少年の優斗ではあるが、その美しさには魅入らずにいられない。何かを言おうとするものの、言葉を成さない。

 しかしその背後では大惨事が起こる寸前となっている。

 “剣の花嫁”であるテレサにとって、家族であり幼なじみでありパートナーである優斗がほかの女性と仲良くしていても、それは耐えられることだ。
 自分が一番想われている、そう確信が持てるからだ。
 しかし、相手が花嫁姿であるとは……
 テレサにとって、それはアイデンティティの危機であった。

 テレサは半泣きになって飛び出した。
「優斗さん! こんなところで何を、何をしているんですか!」
「て、テレサ!? これはただの遊びで、その」
 ルミーナはテレサをなだめようと考えたらしい。
「日本国の民法においては第731条において
『男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることかできない。』
と規定されていますわ。よって優斗さんとわたくしが結婚を希望しても婚姻は受理されないのですわ」
「それじゃあ法律の問題さえなければ結婚するつもりなんですかっ!!!」
 話がややこしくなったあたりで、黒服の文月 唯(ふみづき・ゆい)エディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)がやってきて優斗とテレサを別室に連れて行った。


ルミーナの売り上げ:+0G(計1200G)


第16章 のばら

 忌部 綿姫(いんべ・わたひめ)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)を指名、衣装はスクール水着を希望した。
 不思議なことに、綿姫はエリザベートの水着姿にはあまり興味がないらしく、
「なんでもいいからカラオケ頼む。あと日本酒追加で」
と、どちらかというと酒に興味がある様子。
 エリザベートはとりあえず故郷の歌曲を歌うことにした。織機 誠(おりはた・まこと)が応援用のケミカルライト類や紙吹雪などを客に配って回る。

(著作権の都合により、ドイツ語歌詞にてお楽しみください)


『Heideroeslein』

作詞:ゲーテ 作曲:シューベルト


Sah ein Knab’ ein Roeslein stehn,
Roeslein auf der Heiden,
war so jung und morgenschoen,
lief er schnell, es nah zu sehn,
sah’s mit vielen Freuden.
Roeslein, Roeslein, Roeslein rot,
Roeslein auf der Heiden.


「可愛らしいなぁ……」
 誠は見とれつつも写真撮影。ふと窓の外に強い邪念を感じ、様子をみたが誰もいない。
 時間が来ると綿姫は(酒が)名残惜しそうに帰って行った。


エリザベートの売り上げ:+3000G(12900G)


 エリザベートはほとんど歌を歌っただけなので、まだ余力がある。そこで次の指名を受けようとしたのだが、恐ろしい形相の藍澤 黎(あいざわ・れい)がエリザベートを抱えて控え室に連れ戻してしまった。

 黎が白い制服を身に付けてきたのは、第1回ジェイダス杯でパラ実生に優勝を奪われた屈辱に対する戒めであった。

 そして今!
 このリリーハウスに!
 まさにその不倶戴天の相手がやってきたのだ!