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海上大決戦!

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海上大決戦!

リアクション

「あっちはうまくいったみたいだね。こっちも頑張ろう」
 【子分相手班ボートA】のメンバーが乗船に成功したころ、それを見てミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)がそう言った。ミレイユの他シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)晃月 蒼(あきつき・あお)レイ・コンラッド(れい・こんらっど)で構成された【子分相手班ボートB】も海賊船に向かっていたのだ。
「おうおう、早速勇者様のお出ましか。オレも那須与一でも気取ってみるかね」
 海賊船の上から【子分相手班ボートB】を見つけて胸を高鳴らせているのは国頭 武尊(くにがみ・たける)。彼は海上で戦闘できることと報酬とに惹かれ、怪しいうたい文句で船員を募集していた海賊の仲間になっていた。
「それじゃあ一発かますか。南無八幡大菩薩!!」
 武尊はミレイユたちに狙いを定めると、シャープシューターを応用して大砲を発射する。
「わわ、こっちに大砲の弾がきますよぉ」
 それに気がついた蒼が、ボートの中で慌てふためく。
「大丈夫、私に任せて」
 ミレイユは落ち着いて呪文を唱えると、大砲の弾目がけて氷術を発動させる。
「それっ」
 術は見事に弾を捉え、その起動を変えた。ミレイユと蒼がハイタッチをしてはしゃぐ。
「すごおぃ。ミレイユさんやるね」
「それほどでもないよ」
 しかし、シェイドの顔色は芳しくない。
「確かに直撃は避けられそうですが、このままだと……」
「蒼様、伏せてください!」
 レイが蒼を抱え込む。
 次の瞬間、ボートのすぐ近くに弾が落ちた。激しい音を立てて水しぶきが上がり、軽いボートはいとも簡単にひっくり返る。四人は宙へと投げ出された。
「結局こうなるのね」
「ミレイユ、あなたはもう少し考えて行動しないと……」
「でも、他にどうしようもなかったと思わない?」
「まあ、確かにそうですね」
 ミレイユとシェイドは、そんなことを話ながら海面に叩きつけられる。一方、蒼はレイに抱きかかえられて空中にいた。
「やれやれ、危ないところでしたな」
「もう、子供扱いしないでよ〜! 私も空飛ぶ箒もってるんだし、レイが助けてくれなくても平気だったもん」
「それは失礼」
 ふくれっ面をする蒼に、レイは笑って答える。
「あのー、お取り込み中悪いんですけど」
 そんな二人に、全身ずぶ濡れになったミレイユが遠慮がちに声をかけた。
「二人とも空飛ぶ箒をもってるんなら、一つ貸してくれない?」
「あ、ごめん。そうだったね。ミレイユさん、ワタシの箒に乗って」
 蒼は、レイとのやりとりを見られていたことに気がつき、顔を赤らめる。
「レイはシェイドさんを乗せてあげてね」
「かしこまりました」
 ミレイユたちのボートに球が直撃しなかったのを見て、武尊は舌打ちをする。
「ちい、外したか。ようしもう一発」
 武尊は次の砲撃を開始しようとする。
「その大砲は調子が悪いから、こっちのを使うといいっすよ」
「お、そうなのか? ありがとよ。それじゃあこっちの大砲でっと……そら、食らえ!」
 武尊が大砲を発射する。が、大砲は暴発した。
「うわっ、なんだ! 暴発したぞ!」
「おっと、申し訳ないっす。どうやらその大砲も調子が悪いみたいっすね。あっちのを使うといいっす」
「頼むぜおい。まあ気を取りなおして次いくか」
 もう一度武尊が大砲を発射する。再び暴発。
「おい、どうなってんだ! また暴発したぞ!」
 と、そこで武尊は他の場所でもいくつか大砲が暴発していることに気がつく。
「まさか……謀ったな!」
「ふはははは! そのとおり! 騙されたっすね! これはおいらの罠っす!!」
 そう勝ち誇ったのは誠のパートナー黄 明(うぉん・みん)。彼女も空飛ぶ箒で先行し、海賊の仲間になるふりをしていたのだ。今では武尊とも顔見知りだ。
 海賊船に潜り込むのは簡単だった。明が『雑用でもなんでもするんで、兄貴達の部下にして下さいっす!』と言うと、そのノリの良さから海賊たちは明をいたく気に入ったのだ。そんな彼女の目的は砲撃を阻害すること。隙をみて大砲に細工をしていた。
「裏切るとは太え野郎だ」
 武尊がゴム弾を装填したショットガンを構えようとする。
「おっと」
 いくつかの大砲を暴発させることに成功した明は、潮時とみて空飛ぶ箒にまたがる。そして、
「おいらを誰だと思ってるっすか、軍師系魔法少女コーメイっすよ!」
 そう言い残して空へと消えていった。
「大丈夫ですか?」
 体勢を立て直しているミレイユたちに、箒に乗ったランツェレット・ハンマーシュミット(らんつぇれっと・はんまーしゅみっと)が声をかける。
「海賊と戦ってくださる方々ですね。援護させてください。戦闘には不慣れなので、後方からの部分的な支援しかできませんが」
「それは助かります。私たちは二人乗りで機動力も落ちるでしょうし、是非お願いします」
 シェイドが水に濡れた顔を拭いながら答える。
「僕はヒールを担当しますね。と言っても、数回しか使えませんが……」
 そう言ったのはランツェレットのパートナーシャロット・マリス(しゃろっと・まりす)だ。ランツェレットとは義姉弟の契りをかわしている。
「二人ともありがとう。それじゃあ、気を取り直して行くよ!」
 ミレイユのかけ声で、一同は海賊船に向かって発進する。
 先行するミレイユと蒼に気がついた海賊たちは、彼女たち目がけて矢を放つ。蒼は箒を操ってこれをかわそうとしたが、一つの矢が二人に向かって一直線に飛んできた。
「ミレイユ!」
「蒼様!」
 シェイドとレイが青ざめる。
「ええいっ」
 しかし、すんでのところでランツェレットが火術で矢を焼き落とした。
「すごいや姉さん!」
「で、できました」
 実は、今回がランツェレットの経験する初めての戦闘だった。その記念すべき最初の戦闘で見事初仕事を成功させ、ランツェレットはシャロットと手を取り合って喜ぶ。
「ふう……。やれやれ、危なっかしくて見ておれませんな」
 危機を切り抜けた蒼を見て、レイはほっと胸をなで下ろす。
「同感です。お互いパートナーのお守りには苦労しますね」
 レイの後ろでシェイドもため息をつく。
 魔力に余裕のないランツェレットは、術を使うのを要所に絞って援護をする。彼女のサポートのおかげもあって、ミレイユたちは無事乗船に成功した。
「よーし、ようやくワタシの出番だね!」
 よほどストレスがたまっていたのだろうか。ミレイユは、甲板に降りるや否や、襲ってくる子分たちに向かって火術を連発する。
「そらそらそらー」
 当然のことながらミレイユの魔力はすぐに底をついた。
「だからもっと考えて行動を……」
 雷術とセスタスをバランスよく使って戦うシェイドは呆れて言ったが、ミレイユは杖で攻撃し、海賊を海に落としにかかる。
「ようし、僕だって!」
 シャロットは、激しい戦闘で体力を消耗しているミレイユにヒールをかける。礼を言う彼女の顔を見て、シャロットは得も言われぬ達成感を感じる。
 ミレイユとは対照的に、蒼は慎重な戦い方を見せる。禁猟区を使用した後、海賊の仕掛けてくる物理的な攻撃をしっかりと防御。無理はしない。
 レイも蒼と同様に盾と禁猟区を使いこなして防御的な立ち回りを展開する。もちろん、最優先で守るのは蒼だ。
「蒼様、チャンスですぞ」
「ええぃ」
 蒼は堅い守りから、隙を見せた相手にチェインスマイトで攻撃。一人一人確実に海賊を倒していった。
「なかなか上手ではありませんか、蒼様」
「えへへ、レイがしっかり守ってくれるおかげだよ。この調子でよろしくね」
「はい、お任せを。蒼様は私がなんとしても守り抜きますから、安心して戦ってください」
「あ、ありがとう」
 レイの言葉に、蒼は戦闘中にもかかわらず心が温まるのだった。
「この調子なら大丈夫そうですね。シャロット、わたくしはもう魔力が残っていませんし、撤退しますよ」
「うん。分かったよ、姉さん」
 ランツェレットの呼びかけに、シャロットに呼びかける。
「みなさん、わたくしはここで失礼いたします。ご武運を!」
 ランツェレットはミレイユたちにウインクをしつつ、ぐっと親指を立てる。撤退していくランツェレットとシャロットを、ミレイユたちは感謝の言葉で見送った。
「はあ、緊張しました。でもうまくいってよかったです」
「姉さん、僕たちだってやればできるんだね。これからも頑張ろう!」
「ええ。もっともっと精進して、たくさんの方々のお役に立てるようになりましょう」
 今回の戦闘は、二人にとって確かな自信となった。

 御厨 縁(みくりや・えにし)は浮き輪など急場しのぎの救命道具を満載したボートに身を潜め、味方が敵船に肉迫していく中、後方で待機していた。
 敵が派手に大砲を撃ち始めた今、彼女は浮き輪を持てるだけ持って箒でボートを離陸。敵船を中心に左回りで旋回している。
「ボートを破壊された味方の上に浮き輪を投げてやるつもりじゃったが、ここからだと敵との区別がつかんのう。ええい、適当に投げてしまえ」
 彼女はとにかく目立ちたかった。そこで持っている浮き輪を適当に投げ、さっさと海賊と戦いにいくことにする。この浮き輪によって救われた海賊も少なくないのだが、それはまた別の話。
 一方、パートナーのサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)も縁と同じ行動を取っていた。ただし、こちらは右回りに旋回している。縁が浮き輪を適当に投げ捨てたのを見ると、サラスも同じように浮き輪を投げてしまった。
「さあ、目立つのじゃ」
 縁は海賊船の真上から急降下すると、敵の真ん中目がけてバニッシュを撃ち込む。
「今だね」
 サラスは縁がバニッシュを撃ち込んだところに一足先に降下すると、怯んだ敵を振り回したグレートソードで切り伏せ、縁の着陸を支援する。
「サラス、好きな相手を選べ」
 縁はサラスにターゲットを任せる。サラスは基本的に手近の敵から狙っていったが、砲手を見つけると優先的に攻撃した。 
 縁は敵の目を引きつけるように行動しつつ、サラスと二人がかりで一人一人確実に海賊を倒していく。
「目立っておるか? わらわは目立っておるか?」
「目立ってるよ。サラスも負けられないね」
 負けず嫌いのサラスも縁以上に目立とうとし、船上には最高に目立つ二人組が誕生した。

 目立ったといえば、風森 巽(かぜもり・たつみ)のことを忘れてはいけない。彼は銀色のヒーローお面に赤いマフラーを巻き、仮面ツァンダーソークー1として、海賊船をぶっ壊しにきたのだ。
「蒼い空からやってきて、蒼い海を護る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 巽はそう名乗ると、下からの銃撃に耐えられように鉄板で底を強化した飛空挺を急降下させる。小型飛空挺の重さと自由落下速度を利用して、甲板に穴を開けようというなんともスーサイドな作戦だ。
「ツァンダーブレェェェェェイク!」
 巽は大声で叫びながら甲板に墜落、作戦通り見事に甲板に穴を開けた。
 だがこれで終わりではない。海賊船より自分の方にダメージがありそうなものだが、巽は何事もなかったように立ち上がると辺りに灯油をぶちまけ、
「距離よし、逃げる準備よし、それでは、チェーンジ、縛炎ハンド! 着火!」
 爆炎波を素手で撃ち、灯油に火をつけた。
「海賊たちよ、この世に我がある限り、お前たちが何度船を造り直そうとも、我はそれを壊す。お前たちが真面目に働こうと改心するまでな。それではさらばだ、とうっ!」
 巽はやりたいだけやって、どこかへと消えていった。

 大切なのは海賊退治だけではない。そう、ルトラ族の財宝を取り返すのも重要な任務なのだ。その任務を全うせんとするのは、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)とパートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)。二人は回避行動に専念しながら空中を旋回している。
「ズィーベン、乱戦になってきましたね。そろそろ行きましょうか」
「うん、レッツゴー」
 二人は混乱に乗じて乗船し、真っ先に船内をめざす。途中何人かの海賊に襲われたが、ナナが適当に他の生徒に押しつけたり、子守歌を歌ったりして乗り切った。
「ズィーベン、財宝ってどこにあると思います?」
「そりゃ宝物庫じゃない?」
「その宝物庫の場所ですよ」
 博識のスキルを身につけているナナは、船内にたどり着くともてる知識を総動員して宝物庫を探す。散々船内を歩き回った結果、一つだけ怪しい部屋を発見したが、どうしても扉が開かなかった。
「……駄目ですね。知ってますか? お話の中ではこういうときに『開けゴマ』って言うと扉が開くんです」
 ナナがそう言うと、重厚な音を立てて扉が開いた。
「……開いたね」
「開いちゃいましたね……。もしかして本当にさっきのが合い言葉だったんでしょうか」
「あまりにもベタすぎて誰も気がつかないと思ったんじゃない?灯台もと暗しってね。船だけに」
「あら、うまいこと言いますね」
 二人は上機嫌で部屋の中に入る。そこにはめくるめく財宝があった。
「うわあ……すごいです」
「大きめのリュックもってきたけど、これじゃ全部は入りきらないね」
「まずはルトラ族さんたちの宝物を探しましょう」
 ナナは室内を見渡す。そして、無造作に置かれた一つの宝箱を発見した。
「これ、きっとこれです! ほら、村にあったのと同じマークがついてます。亀さん印」
「間違いなさそうだね。じゃあそれと、あとはできるだけ値打ちの高そうなものを、詰め込めるだけ詰め込もう」
 二人は宝箱と財宝をリュックに詰めて、速やかに船を後にする。船内を歩いている途中にキッチンもチェックしたが、ほとんどの食材が食べ尽くされていて、ろくなものが残っていなかった。
「では、ルトラ族さんたちにお宝を返しに行きましょう」
「本当は護衛でも欲しいところだけど」
「仕方ありませんよ。皆さんそれどころじゃありませんから」 
「そうだね。まあ、戦闘に巻き込まれなかっただけよしとしよう」
 二人はパンパンのリュックをボートに乗せて、ルトラ族の村に引き返した。