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海上大決戦!

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第2章 避難
 
 多くの生徒が海賊の撃退に向かう一方で、ルトラ族の避難誘導を買って出る者も少なからずいた。
「みんな、もう戦闘が始まってるから、ここは危険だよ。避難しよう!」
 そのメンバーの一人、峰谷 恵(みねたに・けい)がルトラ族たちに呼びかける。しかし、彼らは避難に消極的だった。
「村を離れるなんて……」
「残り少ない貴重な食料や財宝を置いていくことはできん」
 そこで各務 竜花(かがみ・りゅうか)も説得に当たる。
「食料や財宝も大事だけど、今は自分の命を一番に考えて。きっと皆が海賊から全部取り戻してくれるから大丈夫だよ。非常食も少しもってきてるし」
「しかし……」
 ルトラ族たちはそれでも首を縦に振らない。
「みなのもの」
 そのとき、生徒たちと共に村に戻ってきたイマオムが口を開いた。
「この方々は、わしの信頼できる友人がある人物に頼み込んで手配してくれたのじゃ。それに現にこうしてやってきて、我々のためにここまで真剣になってくれている。ここは一つ彼女らの言うとおりにしようではないか」
「むう……」
「長老がそうおっしゃるなら」
 イマオムの鶴の一声で、ルトラ族たちは避難に同意する。
「そういうことですので、よろしくお願いしますじゃ」
 イマオムは生徒たちに深々と頭を下げた。
「肝心の避難場所だけど、どこかに安全で、みんなが隠れられるような場所はない?」
 恵がイマオムに尋ねる。
「そうですなあ……。近くの海岸に小さな洞窟がありますが、そこでは大砲の被害にあわないとも限りませんな」
「そっか。どうしよう……」
 恵もイマオムも渋い顔をする。
「じゃあ、あそこに避難しよう。あそこなら砲弾も届かないだろう」
 白砂 司(しらすな・つかさ)が丘を指さして提案する。
「あの丘ですか。しかし、ご存じの通り我々は長時間陸にいられないもんでして……」
「それなら大丈夫だ。水槽や桶を用意してあるから、俺が後で海水を汲みに行く。他にも同じ事を考えてるやつらがいるようだから、数は足りるはずだ。少しの間なら待てるだろう?」
「そういうことなら」
 
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)もあらかじめ数多くのバケツを手に入れていた。パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)にもバケツを渡し、一緒に海水を汲む。
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)とパートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)ジンギス・カーン(じんぎす・かーん)は今回ケイたちと一緒に行動する予定だ。せっせと海水を汲むケイたちを見て、ベアが言う。
「水汲みか、めんどくせえなあ。おいジンギス、お前行け」
「え、僕だけ?」
「うるせえなあ、さっさとしろ! 多めに汲んでおけよっ」
「わ、分かったよ……」
 二人のやりとりを見て、ソアが言う。
「もうベアったら、そんなこと言ったらジンギスがかわいそうですよ。私もやります」
「そんな、いいよ。僕が一人でやるから。ソアさんは力仕事に向かないし、ルトラ族のみんなを守ってあげて。ベアさんは……ほら、ソアさんを守るという重大な任務があるし!」
 ジンギスが恐る恐るベアの方を見る。
「分かってるじゃねえか」
「そう……それじゃあ、悪いけどよろしくお願いしますね、ジンギス」
「うん、任せて」
 ジンギスはケイからバケツを受け取ると、可能な限りの海水を運ぶ。
「うう……重い。でも、海賊がこないうちにさっさと行かなきゃ」
 ケイたちが海水を汲み終えると、一同はいよいよ移動を開始する。

 避難中、ケイは至れり尽くせりのスキルでメイドとしてルトラ族の世話をし、暑さで弱っている者がいれば氷術で周りを涼しくしてやる。ルトラ族の子供には、怖がらないよう話をしてやっていた。
「俺たちの通う学校は、世界樹イルミンスールっていう樹の中にあるんだ。滅茶苦茶でかいんだぜ」
「学校が樹の中にあるの? 嘘だー。そんなにおっきな樹があるわけないよ」
「嘘じゃねえって。今度見に来いよ。バケツに入れて箒で運んでやるよ」
「ホント? やったー、約束だよ!」 
「ああ」
 ケイの隣では、ソアとカナタが話をしている。
「ウミガメさんをいじめるなんて、いけないことですよねっ! 昔話でも、ウミガメをいじめた子供が一瞬で老化するとか、そういうのがありましたし!」
「それはわらわたちの故郷である日本に伝わる、浦島太郎というジャパニーズ御伽噺だな。しかしソア、おぬしは勘違いをしておるようだ。老人になったのは亀をいじめていた者たちではなく、助けた本人だぞ」
「ええ! なんでですか」
「亀を助けた太郎は、紆余曲折を経てお礼に宝箱を渡される。ところが、それを開けた太郎は宝箱に込められた呪いで精気を吸い取られ、老人のような姿となって死んでしまったのだ」
「そ、そんな……」
「つまりこれは、亀を助けても恩を仇で返されるという教訓を示した話で……」
「おいカナタ、あんまりソアをからかうなよ」
 見かねたケイがカナタの話を遮る。
「ケイは本当に堅物よのう」
「え、嘘なんですか? よかったー。私、ルトラ族のみなさんをお助けしたら、ひどいことをされるのかと思っちゃいました」
 ソアが安堵の表情を浮かべる。
「ご主人は本当に純粋だなあ。かわいいことこの上ないぜ」
 横でひいひい行っているジンギスを気にもとめず、ベアは一人で頷いた。
 
 同じく海水を運んでいる司は、自分の好奇心と、ルトラ族の気晴らしも兼ねて近くにいるルトラ族に尋ねる。
「なあ、海賊が狙うあんたたちの財宝って一体なんなんだ?」
「そりゃあ一杯あるさな。俺らが海で見つけたものもあれば、外部から手に入れたものもある。しかし一番の宝といえばもちろんジェラグメートだ」
「ジェラグメート?」
「ああ、代々の長が残すもので、それはそれは美しい。俺らの村を守ってくれるんだ」
「ほう」
 司はそれが何なのか少し気になったが、このルトラ族のもったいぶった口調からすると話が長くなりそうなので、聞かないでおいた。
「パウ、様子はどうだ」
「派手にドンパチやってるな。だが、まだ五分五分といったところだ。海賊船が沿岸に近づいてくる様子はないぞ」
 司のパートナーロレンシア・パウ(ろれんしあ・ぱう)は、海水運びは力のある司に任せ、ルトラ族の先導および海賊と生徒との戦闘を観察している。
 彼女としては素直に海賊を殴りに行ったほうが早いのではないかと思っていたが、何かと防御よりになるのが司の性格だ。
「今回私にできることはそう多くなさそうだが、司がどうしてもと言うなら、喜んで手伝おう。いつものことと言えばそれまでだがな」
「パウ、何か言ったか?」
「なんでもないよ」

 立川 るる(たちかわ・るる)は、ある計画を立てていた。それは海賊撃退の祝賀パーティー、名付けて「竜宮城パーティー」を開こうというものだ。
 海賊撃退に尽力してくれた人たちをねぎらうことに加えて、他のみんなが海賊をやっつけてくれるから大丈夫だとルトラ族を安心させ、せめてパーティーの準備をしている間は楽しい気持ちを味わわせてあげたいとるるは考えていた。
 そこでまずは、ルトラ族たちにパーティーを開きたい旨を話す。彼らは喜んで協力を申し出てくれた。次に浦島太郎の紙芝居を読んで聞かせると、ルトラ族たちは実に興味深そうに話に聞き入る。最後まで読み終えると、るるは海賊退治に向かったみんなのことを浦島太郎になぞらえて話し、
「悪い海賊は浦島太郎さんたちがバッチリ退治してくれるから大丈夫!」
 とルトラ族を励ます。るるのパートナー、黒猫の姿をしたアリスの立川 ミケ(たちかわ・みけ)も、そのかわいらしい容姿を生かして愛嬌を振りまいた。アニマルセラピーというやつだ。……揺る族に効果があるかは不明だが。
「なーなー、にゅっ☆」
 ミケは元気のないルトラ族にはアリスキッスもしてあげる。ミケなりに元気づけようとしているのだろう。
「歌やダンスで『ありがとう』って気持ちを伝えよう。あ、でも、玉手箱はナシだよ☆」
 るるがそう言うと、ルトラ族たちは村に伝わる歌と踊りがあると話す。そこで、丘についてからその歌と踊りを練習することにした。