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リアクション
第6章 夜、更けて
「桃子さん、揃ってるよ?」
「あ……っ、ビンゴ、です…」
静香に言われて、桃子が控え目に声を上げる。
「私も!」
鏡花も、用紙を皆に見せた。
「あたしもあたしも、ビンゴ! よかった、1人だけ揃わなかったらどうしようかと思ったよ!」
瑠菜はにっこりと笑った、3人は顔を合わせて微笑み合う。
途中、会話に夢中になっていた3人はいくつか数字を聞き逃してしまったのだ。
尤も、トップを取ることに、3人とも執着していなかったからというのもある。
誰かに譲りたいという大和撫子らしい奥ゆかしく控え目な思いを持っていた娘もいた。
「ビンゴおめでとう。3人共、ビンゴの形が良く似ている。まるで仲の良さの現われであるようだ」
そう言って、黎が3人に拍手を送る。
「おめでとっ」
ロザリンドに誘われて、途中から加わった瀬蓮も拍手をする。
3人が同時に終了したことで、談笑しながらゆっくり進めていたビンゴ大会の順位が決定した。
「では、賞品だが、先にビンゴした者からクジを引いてもらう、でいいかな?」
黎の言葉にメンバー達は微笑みを浮かべながら頷く。
「それじゃ、私からね」
1位だったリナリエッタがクジを引き、テーブルの上に並べられていく賞品を見回して、ロザリンドが提供したものをひょいっと持ち上げた。
「このお菓子美味しいんだよね。茶請けにも出てたけどさ」
「はい。美味しかったですよね」
ロザリンドが提供したのは、旅館で販売されているお菓子だった。
「それじゃ、次は僕だっけ?」
静香の言葉に、黎が頷いてみせる。
「んーと……瀬蓮さんのだ」
静香は黎から瀬蓮が提供した小さな袋を受け取った。
「何かな何かな〜」
中に入っていたのは、可愛らしい桃色のゴムだ。
「うわっ、ありがと〜」
「近くのお店でさっき買ったの! よかった、似合いそうな方に貰ってもらえて」
静香と瀬蓮は嬉しそうに微笑み合う。
「次は僕ですね。ん、どれも興味深いですが、百合園生向けのものが多そうですね」
「わたくしのは、他校の方にも気に入っていただけると思いますわ」
「では、ジュリエットさんのを狙います」
そう言った葉月は、見事ジュリエットの名前を引き当てた。
受け取った袋の中身を確認すると……。
『百合園裏サーバ・ビギナーズパックディスク』
と、表紙に書かれたディスクが入っていた。
「戻られましたら、アクセスしてみて下さいませね。特典もついておりますのよ」
「は、はい。しかしこのようなもの、どこで入手されたのです?」
「それは秘密ですわ」
にこっとジュリエットは笑う。
ちなみに、ディスクの中身は、ジュリエットが夏に運用を開始したサーバ用の素材集だ。
特典として裏サーバログイン用キーコードやジュスティーヌのドルワーズなどが入っている。
ここにいるメンバーには価値はわからなかったが、オークションにかけたら、それなりの値がつきそうな品だ。
「では、わたくしもいただきましょうか」
そんなジュリエットが引き当てたのは、黎が提供したカードだった。
カードには、
『指定した記念日に一度だけ、我が育てた薔薇の花束をお届けにあがる。届け先は権利者本人でも別の人でも可』
と、書かれている。
「まあ、素敵なプレゼントですこと。いつにするか迷いますわ」
ジュリエットは艶やかに微笑む。
「ご指定いただければ、いつでも」
黎は学園で薔薇の品種改良を手がけている。
園芸種ではない薔薇を楽しませていただけそうだ。
「私は鏡花さんのを戴きますぅ〜」
続いてメイベルは鏡花の名前を引き当て、彼女が提供した「におい袋」だった。
「可愛いですぅ」
とても可愛らしい袋であり、お香の薫りが安らぎを与えてくれる。
「気に入ってもらえて良かった」
鏡花はほっと胸を撫で下ろす。
「私は校長のを戴きます」
ロザリンドはクジで引き当てて静香が提供したもの……その場で書いたメモを手にとった。
メモには、
『校長室で美味しいお茶を飲む権利』
と、書かれていた。
「お茶の差し入れ、結構貰ってるんだけど、ラズィーヤさんと2人だけで飲んでても減らないし。よかったら遊びに来てね」
微笑む静香に、ロザリンドは「喜んで」と答えるのだった。
「瀬蓮は桃子の!」
瀬蓮が手にとったのは、桃子が作った手作りクッキーだ。
旅行で友達になった人と一緒に食べられたらと思って作って持って来たものだった。
「ありがと」
「はい、美味しくなかったらごめんなさい…」
桃子は少し恥ずかしげに答えた。
「あたし達は3人一緒だから……どうしようか?」
「私は、最後で…」
瑠菜の言葉に、桃子がそう微笑んだ。
「ふーん、私の賞品はそんな桃子にプレゼントしたいなぁ」
リナリエッタが意味ありげに笑う。
「それじゃ、あたしはこれを……」
瑠菜は、メイベルが提供した賞品を受け取った。
「私は、葉月さんのをもらうねっ」
鏡花が引いたクジには葉月の名が書かれている。
2人、同時に袋を上げて「うわーっ」と声を上げる。
瑠菜が受け取った袋の中に入っていたのは、京友禅のスカーフ。柄は立派な胡蝶蘭だ。
鏡花が受け取った袋に入っていたのは、西陣織の巾着だった。
両方とも、高級感たっぷりの美しく愛らしい品だった。
「ありがとー!」
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
「喜んでいただけて嬉しいです」
「私も素敵なものを戴きましたから」
瑠菜と鏡花に、葉月とメイベルは嬉しそうに答えた。
「それじゃ、ちょーっとこっちに来てもらおうかな」
「えっ…」
驚く桃子の腕を引いて、リナリエッタは自分の隣に座らせた。
「私のはこのポーチをプレゼント、じゃなくて」
テーブルの上においてあったポーチを引き寄せて、開くと中には化粧道具が入っている。
「メイクしてあ・げ・る」
「えーっ…!?」
「折角だから、着替えよう。私の服貸すし!」
「え、ええっ…?」
驚く桃子を、リナリエッタはぐいぐいと引っ張っていく。
「これは楽しみですな」
「それじゃ、あたしのカードは黎さんに。はい」
瑠菜がビンゴ用紙を黎に手渡す。
「これは……」
ビンゴ用紙の裏には『手作りお弁当券(1回分)』と書かれている。
「ありがたい。百合園を訪ねた時に是非」
「うん、任せといて。他校生の方も、みんなで集まって食べられる時とかがいいね!」
「黎さんも飲んで飲んで!」
鏡花が、ポットのお茶を黎のコップへ注ぐ。
「お菓子も召し上がって下さいねぇ。司会進行お疲れ様でした〜」
メイベルはお菓子の乗った皿を、黎へ差し出した。
「桃子のクッキーもどうぞ。1枚食べたけど凄く美味しかったよ!」
瀬蓮が皿の上に、貰ったクッキーを並べた。
「お気遣い感謝する」
――皆で談笑しながら、桃子の変身を待つこと数分。
「はい、完成。どう? 雰囲気随分変わったでしょ」
得意気にリナリエッタが連れてきた人物は――まるで別人だった。
胸元が大きく開いたワンピースを来て、派手なギャル風にバッチリメイクを施されたその人物は、とても百合園生には見えなかった。
「な、なんかラズィーヤさんが喜びそうだ」
「それは、校長もやってほしいって意味かな〜?」
静香の言葉にリナリエッタが悪戯気な笑みを見せる。
「遠慮しておくっ。今晩は」
「そうね、ラズィーヤ様がいる時じゃないとねー」
メンバー達から笑い声が上がる。
「変でしょうか…」
戸惑う桃子の手を、瑠菜が引っ張って、自分と鏡花の間に座らせた。
「そんな事ないよ。今度皆でそういう格好して街を歩いてみっか。世界が変わるかも」
こくりと鏡花も頷き、桃子が顔を赤らめたまま、同じように頷いたその時――。
ジリリリリリリリリリ……
終りを告げる音が鳴り響いた。
「目覚まし時計?」
鳴っていたものを取り出して、黎は音を止めた。
時計は21時30分を指している。
この時計はパートナーのヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)が使っている時計だ。
黎が時間を忘れないよう、用心の為にセットして鞄に入れてくれたのだろう。
口元に軽く笑みを浮かべながら、時計を鞄に戻し、百合園生達に目を向けた。
「終りの時間が近付いてきたようだ。今晩はお付き合いいただき感謝する。引き続き、よい夜を」
「ありがとうございます」
「とても楽しかったです」
「また是非遊ぼうね!」
百合園生達も、カップを置いて、一人一人黎に感謝の言葉を言い、地球人だけのビンゴ大会は閉会となった。
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