リアクション
○ ○ ○ ○ 誰もいないはずの、深夜の公園。 付近の店は全て閉まっていて。 物音もせず、ただ梟の鳴き声だけが遠くに響いていた。 そんな静かな公園の、誰もいないはずのベンチに、少女が2人肩を並べて座っていた。 「……百合園に通う気持ち? おーほっほ! 色々大変なこともございますけれど……わたくしはこの環境に満足していましてよ? 今日の旅行も楽しかったですし」 公園に高笑いの声が響いた。 ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)の声だ。 「ロザリィヌさんの、将来の夢なんかも聞きたいです!」 ロザリィヌに質問を浴びせているのは、シャンバラ教導団のルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。 アンゴラ風の白いカーディガンに、チェック柄のロングスカート。 髪には真紅のリボンを結んだ彼女は、軍人ではなく普通の可愛らしい女の子の姿だった。 傍らには光の人工精霊が浮かび、2人を優しく照らしている。 「もちろん、貴族として家門を復興させることですわ! ルカルカ様はどうですの?」 「私は、将来は立派なナイトになり守るべき者の為活動したいです。……夢はお嫁さん」 「立派なお気持ちですわ。そして、女の子らしい可愛い夢ですわね」 ロザリィヌの言葉に、ルカルカは照れ笑いを見せる。 「好きなタイプ、なんかもお聞きしていいですか?」 ルカルカの問いに、ロザリィヌは首を傾げて少しだけ考える。 「うぅん……女の子ならどんな子でも好きですけれど……強いて言うならルカルカ様みたいな子ですわね?」 「えっ」 ロザリィヌの返答に、ルカルカはまた赤くなった。 以前関わった事件で、ルカルカはロザリィヌに憧れの念を抱いていた。 誇り高さと弱者を助ける力強さは、軍人として見習うべきと。 それ以来、兄弟のいない自分にとって、素敵なお姉さんだとルカルカはロザリィヌを慕っている。 赤くなって返答に困っているルカルカに、ロザリィヌは微笑みを浮かべて体を寄せた。 手を、彼女の金色の髪の上に乗せて、優しく撫でていく。 「あのっ、ロザリィヌさんは、本当に女の子がお好きですけれど……っ。じゃあもし、例えば……百合園女学院の校長の静香さんが男の娘だったら、どうなさるおつもりですか?」 頬を赤く染めながら発せられたその問いに、ロザリィヌは手を止める。 「私は静香さんが大好き。幸せになって欲しい。何が静香さんの幸せかは、よくわかんないけど……」 続けられたルカルカの言葉に、ロザリィヌは小さく吐息をつくも、迷いのない声でこう答えた。 「ルカルカ様には……悪いですけれど、男と確証がついたら私は容赦いたしませんわ。男の方でしたら、男として幸せを見つければいいのですわ! 本質までは偽れませんもの…」 少しだけ、ルカルカは微笑んだ。 女性であるロザリィヌは、彼女自身は女性としての幸せを望んでいる、のだろうか。本質は、どこにあるのか。 家門の復興への思いも、女の子を愛する気持ちも、男性的ともいえて。 外見はとても魅力的な女性なのに。 不思議で、強くて、美しい人。 「なんですの?」 ロザリィヌを見て、にこにこと笑みを浮かべているルカルカに、ロザリィヌは怪訝そうな目を見せた。 「学校違うのに仲良くしてくれてありがと。これからもよろしく」 そして、ルカルカは小さな袋を取り出して、中のものをロザリィヌに渡す。 それは、真紅のリボンだった。 ルカルカが今、髪に結んでいるものと同じものだ。 「お揃いっ☆」 と笑う、ルカルカに、ロザリィヌはそっと手を伸ばした。 「ありがとうございます。嬉しいですわ」 ルカルカを仰向かせて、顔を近づけて――。 ロザリィヌは彼女の額にキスを降らせた。 「唇はあなたがその気になったらですわ♪」 ルカルカは僅かに驚きの表情を見せた後、ぱっといつものような明るい笑みを見せた。 「お返しですっ」 ルカルカは、ロザリィヌの頬に軽くキスをする。 母が米国人のルカルカにとっては、頬へのキスは挨拶だ。 「日が昇る前に、戻らないといけませんね」 「はい」 すっかり冷えてしまった互いの手を、握り合って立ち上がり。 公園の外へと一緒に歩き出す。 「また、2人で会いましょう。どなたもいない時に――」 そう、約束を交し合いながら。 「お帰り」 「お帰りなさい」 大部屋に戻ったロザリィヌはミューレリアと礼香に声をかけられた。 「ただ今戻りました。おー……」 高笑いをしそうになり、両手で口を押さえて、笑い合った後。 ダミーの縫ぐるみを布団の中から取り出して、布団に戻り。 今度は「お休みなさい」と声を掛け合って、目を閉じた。 僅か数分後に、空が白み始める。 柔らかな光が、部屋の中に射し込んでいく。 彼女達の新たな一日が、始まろうとしていた。 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
ご参加ありがとうございました。 |
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