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彼氏彼女の作り方 1日目

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彼氏彼女の作り方 1日目

リアクション


会話の実践講座/後編

「さて、次の質問に移ろうか。相手の趣味が、自分とは全く真逆な物を告げられたときは、どうする?」
 つまらなさそうに溜め息を吐き、瀬戸鳥 海已(せとちょう・かいい)は眼鏡をかけ直す。
「テメェの趣味なんざ興味はねぇ、テメェはテメェで勝手に好きな事してればいい。俺は俺で勝手にやらせてもらう」
 あまりの威圧感に、全員が口を噤んでしまう。確かに言われてみればその通りなのかもしれないが、歩みよりの欠片もないその言葉にさすがの虚雲もつっこめず、頭を抱えている。
「ついていけない……理解に苦しむぞ俺は」
「なんだ鈴倉。俺に文句でもあるのか? まさか、俺がテメェに合わせろとでもいいたいのか」
 レンズの向こう側の冷たい視線。ぶんぶんと頭を振ってはぐらかす虚雲よりも、海已の矛先は直とヴィスタ。プライドの高い彼がこの講座に参加する真の目的は、逆に本当の言葉の巧みさを教えるつもりだからだ。
「うん……君の答えを否定するつもりはないけど、今回の趣旨は違うから、ね」
 刺激しないようにと気を遣う直に小馬鹿にしたような視線を送り、まだ答えていない参加者に目をやる。そんな視線を受けることになった城定 英希(じょうじょう・えいき)は、少し驚きながらも冷静に答えようとする。
「例えば俺なら、キャンプに誘われたら一緒に行くけど大自然に包まれて本を読むと思う。否定せずに受け入れる姿勢って大事だよね」
 それはそれで無理があるというか意味をなさない気もするが、海已のあとの答えだというだけでまともな意見に聞こえるのは気のせいだろうか。
「そうして相手に合わせてしまうのは、自分にとって負担にならないのであれば素晴らしいことだと思う。他には?」
 無理がでない程度に歩み寄れる方法……少し考えてリアが手を挙げる。
「キミの好物は辛いものなんだ。実は僕、甘党なんだよね。でもさ、お互いの好きなものを取り合う心配がないってことだよね、僕達」
 にこにこと微笑んで、平和的な考えはある意味幸せだろうが、英希は疑問を感じたのかすぐさまリアに質問する。
「それって、激辛バイキングとケーキバイキングが別の場所でやってたらどっちに行くの?」
 しまった、という顔をするのはリアだけではない。今までツッコミを欠かさなかった虚雲は自分が出遅れてしまったことに衝撃を受けている。
(くそっ、俺としたことが……! コイツ、出来るッ!!)
 しかし英希は今後のための勉強に必死のため、虚雲の闘志など気付くこともなく講義に参加している。危うく会話のテクニックを学ぶ場でツッコミ合戦が開始されそうになったが、それは一方通行な物で終わりそうだ。
 さて、直が見回してみると、リネン・エルフト(りねん・えるふと)が真っ直ぐに手を挙げている。彼女はどうやらパートナーから人付き合いというものを学んでこいと言われて参加のようで、直はその参加動機を読んで柔らかに微笑んだ。
「リネン君、だね。君はどんな意見なのかな」
 人付き合いが苦手だということは、とんでもない回答が飛び出すに違いない。事前にそのような心構えが出来るなら、動揺せずに対処出来るだろうし無闇やたらと刺激することもさけられると言うもの。そうして、少し間があり言葉を選ぶように彼女は微笑んだ。
「……そう、私も、大好きなの」
「苦手な物にも、そう答えるのかい?」
「相手に喜んでもらうには、これが1番だわ」
 淡々と語るリネンに、人付き合いが苦手というよりもまず人付き合いがどういった物なのかを教えなければならないのかと脱力してしまうが、もしかしたら彼女のような人は多いのかもしれない。
 その機械的な微笑みは理解せずに合わせているようだが、現代でも長いものに巻かれるように自分の主張を押し込めて周りに合わせて楽な方へ流れたり、そうすることで目立つことなく安心して過ごせる場所を確保している人はいるはずだ。
「嘘をついてまで合わせてもらいたいと、相手も思うかな」
「……喜んでもらうことは、悪いことなの? ……わからないわ」
 感情表現に乏しいリネンに代わり、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が手本を見せてやると言わんばかりに立ち上がった。
「わざわざ合わせてやる必要なんてないわ。こう言ってやればいいのよ……何それ? バッカじゃないの!?」
『なんでそうなるんだー!!』
 英希と虚雲のダブルツッコミを受けて、ヘイリーはその喧嘩を買うかのように食ってかかるが、こうして言い争っていても解決に向かいそうにない。その騒動から逃げるようにして黒霧 悠(くろぎり・ゆう)は直に近づいてくる。
「俺なら、それはそれで面白そうだな。けど俺はどっちかって言うとこっちの方が好きだな。って言うな」
「そう、そういう答えを期待していたんだけどね……」
 全く収まる気配を見せない言い争いに真と翔が落ち着くように言っているが、互いに信念があることは良いことだし人付き合いに必ずしも正解はない。ひとまずツッコミを我慢してもらうということで落ち着きを取り戻し、どっと疲れが押し寄せてきた。
「今、悠君が素晴らしい答えを聞かせてくれたので、君たちにも聞いてほしい。特に……」
 ちらり、と横目で見るのは先ほどまで騒いでいた3人とリネン。3人は悪いことをしたと自覚があるのか言葉に詰まって申し訳ないという顔をするが、リネンはやはり何が良くないのかがわからないようだ。
「相手を少しは煽てもするがやっぱり自分の意見を曲げてまで他人のご機嫌伺いをしたくないし、俺だったら相手が自分の意見も言わずにこちらの顔色を見てばかりいるような奴なら友達や恋人にはあまりしたくないタイプだ。あと、趣味を面白いからやってみたらってすすめるだけならまだしも、相手に押し付けたり相手から押し付けられたりするのもあまり好きじゃないな」
 相手を認めた上で、自分の好きな物を言う。全面的に受け入れるわけではなくしっかり自分の意志を伝えるのは相手にとっても失礼じゃないだろうし自分にも負担は少なく済むだろう。
「相手の好みについて知ろうとするのは悪くない。ただ、質問攻めにならないように注意しなければならないね」
 他に最善の方法もあるんじゃないかと考え込む英希は、ふと思いついたことを呟いてしまう。
「相容れる物なら、問題ないんだろうけどなぁ……」
「何か具体的な案でもあるのかい?」
 直からの質問に、これを口に出すかどうかは躊躇われる。自分にとっては画期的な名案だとしても、もしかしたらマイナスイメージかもしれない。けれども、周りの期待に満ちあふれた目は何でもないと引くことを許してくれない雰囲気だ。
 意を決した英希は、壇上へ上がり黒板へつらつらと自分の考えを書き教卓を叩いた。
「いいですか皆さん! 真逆でも、まだチャンスはあります! 真逆だからこそ噛みあう事もあるんです!」
 その真剣な様子に、眼鏡が光り輝いた気もする。確かに、年下好きと年上好きという内容ならば問題ないだろうが、英希の力説はそんな平凡な回答に止まらない。
「覗きが趣味なら、覗かれ趣味の相手を探せばいい。苛めっ子は、苛められっ子という具合に――」
「そこは噛み合うのか!? 噛み合っているようで何かずれてないか!?」
 虚雲が全力でツッコむも、自信満々の英希の信念を揺るがすことは出来なくて、話は長くなりそうだ。しかし、それに終止符でも打つつもりなのか、またもナガンが自分の意見を叫ぶ。
「悪いヤツなナガンには、コロッと騙されそうなお人好しばっかり相手にしろってことだな!」
『それはなんだか犯罪の匂いがするっ!!』
 またも英希と虚雲のダブルツッコミが発動し、騒ぎが大きくなってきた。再び頭を抱える直は、ちらりとヴィスタに視線を投げると彼は急いで自分の両耳を塞ぐ。欠片も収まりを見せない教室に軽く俯き、胸一杯に息を吸い込みながら直は自ら仮面を外した。
「テメェらいい加減にせぇやッ!!」
 あまりの怒声に時間が止まってしまう。その間に直は仮面を付け直し、口元はにっこりと微笑んでいた。
「……この議題についてまとめは終わっているはずだけど、次へいっても構わないかな?」
 このとき、誰もが彼を怒らせてはいけない――そう感じて初めて一体感が芽生えたときだった。柔らかな物腰や恥ずかしがり屋という噂で親しみ深い印象を与えていたが、実のところはイエニチェリとしての意識を切り替えるための仮面であり内気な性格ではないということが判明した瞬間。
 なんとも言い難い空気打ち破るようにか、はたまた空気が読めていないのか。明智 珠輝(あけち・たまき)が壇上へと躍り出て英希を座席の方へと追いやった。
「2番目の設問が終わったということは、次は通学路で一目惚れした相手についてだと思うのですが……ッ!」
 何やら期待に満ちあふれた目をしている珠輝にリアは訝しみ、ポポガは兄者の出番だと拍手で応援している。同じパートナーでもここまで信頼に差が出るものなのかと一同が感心しきっているのを余所に、どこからか用意されたスポットライトと薔薇の花びらが彼を包み始めた……ような気がした。
「嗚呼、いっそ出会わなければよかったと思えば楽になれるのでしょうか……否! そんなことはありません」
 眩しさに目がくらんだような仕草でよろめいたかと思えば、真っ直ぐに1点を見つめて立ち上がる。まるで何かのお芝居のようだが、彼は通学路でこのような行動に出るのだろうか。
「貴女を知らず過ごす日々を考えれば、この身分の差の苦しみ、想いの届かないもどかしさすら幸福です……! この薔薇の華に誓います。貴女に相応しい男になると! 貴女の瞳に私しか映らなくさせてみせましょう。 愛しております……ッ!」
 全てが終わったのか、恍惚とした表情の珠輝へ送られる拍手はやはりポポガのものだけで、沈黙に包まれてしまった。そして、哀れみの目で見られるのはパートナーであるリア。
「ち、違うんだ! 別に薔薇の学舎は歌劇団の真似事を日常的にやっているんじゃなくて、ただ今日はネジがズレているというか!」
「兄者、いつも通り。格好良い」
 フォローも上手くいかずがっくりと項垂れるリアに、最高の褒め言葉をもらったと言わんばかりにパートナーの2人へウインクで応え直の審査を待つ。考えるまでもなく、悪い見本だろう。誰もがそう思う中、ヴィスタは遅れて拍手を送った。
「……合格」
『なんでだーっ!?』
 もう定番となってきたダブルツッコミに驚くことなく、直に耳打ちをする。何か、他人に聞かれてはいけない判断基準でもあるのだろうか。
「なるほど。確かにそれは異色を放つのに十分だ」
「ふふふ、私の告白はお気に召して頂けましたか?」
 優雅な立ち振る舞いこそ、他の参加者にも見習ってもらいたい部分ではあるのに、彼のオーバーリアクション過ぎる部分は参考にならない。けれども、通常と違った物を企画するならば彼のリアクションは使い道が十二分にある。
「質問に対しての答えとしては及第点としておこう。君の発想とリアクションは、別で活かすことが出来る」
「……ふふ、まだ全容は秘密ですか」
 楽しみにしていますよ、と席に戻る姿は何かに気付いているのかとも思える発言だが、自分の勇姿を見ていたかとパートナーたちとじゃれ合う姿はそんな欠片も見せていない。
「相変わらず食えないヤツだな」
 ふぅ、と溜め息をつけば何やら鋭い視線を感じる。けれども辺りを見回せば消えてしまうその視線に、感でも鈍ったかと頭を掻きながらヴィスタがその場を離れると、朱 黎明(しゅ・れいめい)がにこやかな笑顔で手を挙げた。
「さっきの壮大な告白には及ばないかもしれないが、彼は1つ重大なことを聞きそびれている」
 ほう、と興味深げな顔で珠輝が視線を送ると、黎明はアルマ・アレフ(あるま・あれふ)の手を握り爽やかな笑顔で見つめる。まるで夏のひまわりを連想させるそれは、例え気がない相手だとしても悪い気はしないだろう。
「貴女に、どうしても1つ聞きたいことがあるんだ! いいかい?」
「あ、あたし……?」
 佑也のサポートに来ただけで、まさかこんな展開になると思ってもみなかったアルマは少し動揺するも、相手の返事を待たずに黎明の攻撃は続く。
「そうかいそうかい、答えてくれるんだね! では聞かせてもらうよ……貴女の胸は何カップなんだい? C、D? それともE!? さぁ! 答えておくれマイハニー!」
「………………」
 まさか、こんな爽やかな笑顔から繰り出される質問だとは全く予想していなかったのだろう。一瞬何を言われたのかと瞬いてみても、爽やかと一致しない質問はインパクトが強すぎて聞き間違ったとも思えない。変わらずに微笑んでいる黎明に言葉もなく、女性からは白い目で見られても、男性からは尊敬の眼差しを受けている。
 特にスカートの中に命をかけた仁、胸より尻派だった珠輝は彼の勇者っぷりの行動に感動していた。
「さぁ、私の胸に飛び込んでおいで子猫ちゃん! 恥ずかしいなら抱きしめてサイズを計ってあげるよ!」
「ストップ! 答えはわかったから、それ以上は慎むように!」
 直が止めに入ることを計算に入れていたかのようにオーバーリアクションで残念そうな素振りで席に着く。へらへらと笑っているようで、内心は注意力を一心に注いでいた。
(さぁ、お手並み拝見といこうか。イエニチェリの真城直――)
 薔薇の学舎に一定数しか選ばれない優秀な生徒。彼らの器量がどれほどの物か知りたくて参加した黎明にとってまともな受け答えをして円滑に講座を進める理由はない。先ほど一瞬だけ垣間見えた直の素顔と思しき言動。それを確かな物にするべく、あえてバカらしい行動をとったのだ。
「君にとって、相手の内面を知るよりも大切なことなんだね?」
「もちろん! そのボリュームが本物か否か。それを確認するのが最優先事項さ!」
 おどけた調子で言う黎明に、ふと薔薇園での一件を思い出す。何人もの生徒を見てきたが、確かに彼とも言葉を交わしたはずだ。
「……大切、なんだね」
 あえて「何が」とは言わなかったのに、哀れむわけでもなく切なげに呟かれた言葉には重みがある。真顔に戻りそうになった顔を隠すように眼鏡をかけ直すと、黎明は大げさに笑ってみせた。
「ははっ、当然だろう? 私は巨乳好きだからね」
「きっと君らしい答えなんだろうね。けど、女性に対してあまり不躾な態度はとらないように」
 呆れかえることもなく、強く否定もしない。たった1度の接触など忘れていると思ったのに記憶されているようで、興味深げに直を見る。
(あのエリアが印象的だったのか、それとも……まだ観察の余地はありそうだな)
 黎明が大人しくなったとは言え、アルマは機嫌が悪いようで佑也は声をかけづらそうにしている。
(どうしよう、俺もあれくらいやった方がいいのか……?)
 歌劇のような珠輝は合格だと言われるし、胸の大きさを尋ねるのも軽い注意で済んでいる。女の子に対して声をかけるのが苦手な佑也にとって、高嶺の花に対するアクションよりもまずは普通の女の子に対するアクションが知りたくて仕方がなかった。
「あ、あの……」
 いつもならば、恋愛講座はアルマにしてもらっているのだが、せっかくこういう場に来たんだと勇気を振り絞って直に尋ねようとした。けれどもそれは、上手く伝わらなかったようだ。
「答えを思いついた?」
「いや、答えというか……それを聞きたいというか」
(……相手とはなんの接点もないし、高嶺の花だし、俺じゃ役者不足だろうし……接点を持つには)
 佑也がブツブツと呟きだして困っていることに気付いたアルマは、助け船を出すべく自らが手を挙げた。
「そもそも女の子と喋る事もままならないシャイな人はどうすればいいんですかー?」
「そうだな……だからと言って受け身のままでは何も始まらないし、一言だけでも挨拶を交わすところからでも――」
「お、俺と一緒の墓に入ってください……!」
 ぐるぐると頭の中をめぐる言葉の中で、1番印象に残りそうな言葉を選んだのだろう。相手は高嶺の花、自分のような人間を記憶してもらうならば印象深い行動をしなければならない。その選択は間違っていないが、勇気を出して声をかけるにしても挨拶レベルではないその一言に隣にいたアルマもびっくりだ。
「間は!? 大事なステップ飛ばしすぎでしょ!!」
「え……あっ!」
(あ、違う。コレ完全にプロポーズだ。しかもかなり旧世代の……恥ずかしすぎるっ)
 今更後悔したところで、1度言ってしまった言葉は取り消せない。シャイどころか真逆の発言をしてしまい、これでは異色グループに仲間入りをしてしまう。
「……死にたい! 今すぐ死にたい!」
 恥ずかしさのあまりにしゃがみ込んで頭を抱えてみるが、やはり周りの反応は変わらない。どこか哀れみを含んでそうなクスクス笑いは聞かないフリをしたくとも耳に入ってきてしまう。しかしロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)だけは佑也の言葉に激しく同意し大きな拍手で敬意を表している。
「それくらいの勢いがないと、捕まえられんのじゃわー。余であれば、全ての信徒の父(ファーザー)として模範となるべく、あらゆる試練をのりこえる覚悟をそのナオンにぶつけてアタックするのじゃよー」
(聖下、それはちょっと頭痛が痛いですな。何か悪いものでも読んだのでしょうか……そう言えば、神聖モテモテ王国とか怪しげな本を見かけたような)
 頭痛が痛いという表現も猫の子猫並に頭が痛くなる発言だが、ロドリーゴは普段と違った独特な口調にパートナーたちから白い目で見られつつも得意げに笑っている。何世代か前にあったとされる伝説の隠語を使いこなすあたり、やはり英霊とは凄い人物のようだ。……というのは冗談にしても、行動あるのみという考えは良いことだろう。
「何もしないより、確かに行動するべきだけど……君は普段からその口調を?」
 ミヒャエルとアマーリエがあまりにも引いているので、意図してキャラクターを作り込んで来ているのかもしれない。念のため確認をしてみれば、手と首を振って否定する2人の前に立ちふさがるようにしてロドリーゴは少しだけお茶目なポーズをとってみた。
「余はまじめじゃよ? これは親しみやすさを出すための演出なのじゃわー」
 それならそれで構わないが、身を包むカトリックの荘重な僧衣とは不釣り合いな演出すぎる。しかし、例え疑問に思ったからと言って初対面の人間のキャラクターを否定するわけにもいかないだろう。
「……僕個人の意見だと、あまり好感のもてない話し方かな」
「ネタも寒いですしね」
 ちらり、と盗み見るアマーリエの視線は、最早哀れみが含んでいるようで、さすがのロドリーゴも堪えたのか黙り込んでしまう。
「もう少し、誰にでも好かれる話し方の方がアタックするにしてもいいんじゃないかな?」
「むぅ……今回の講師がそう仰られるのならば、致し方ありませんね」
(普通に話せるんだ!!)
 参加者に驚きを残しながら、いつもの話し方に戻ったロドリーゴは少し不服そうな顔をしながらも席に着く。あれが素ならば、もしかしたら救いようがなかったのかもしれないが、計算した上でバカを演じるのは場を和ます天才になり得る。……もっとも、滑ってしまった時点で彼に素質があるのかと問われれば精進あるのみとしか答えることは出来ないのだが。
「さて、あと2人かな?」
 いつ発言しようかと様子を伺っていた水上 光(みなかみ・ひかる)は、頭の中で思いつく台詞を何度もリピートさせる。
(恥ずかしがってちゃダメだ! ボクは一人前の男になるんだ!)
 幼さの残っている外見からか、時折行動が女性らしくも見えて男らしさに欠けていることを気にしていた光は、今日のイエニチェリの講座で男らしい立ち振る舞いを磨こうとやってきた。男らしいだけでなく、数々の個性的な面々を前に緊張は高まるのだが、そこから逃げ出してはいけないと勇気を振り絞って立ち上がった。
「え、えっと……一目見たときから、好きなんだ! 付き合ってくれ!」
(玉砕覚悟で突撃! 諦めずに想いを伝えることが男らしさの1歩だ!)
「ダメだっ!」
 ストレートなその台詞に誰よりも素早く反応したのは泉 椿(いずみ・つばき)。どうやらパラ実の彼女は何度猛烈にアタックしても相手にされないので、今度こそイケメンの彼氏をゲットするんだと意欲満面で参加したのだが、そのストレートさが自分と重なりダメだしでもする気だろうか。
「直はあたしが狙ってんだ、おまえなんかに渡さないっ! ……だから、電話番号教えてください!」
「え、えーっと……」
 先の受け答えは、確かに個性溢れるものだった。だからこそ、ある意味ネタだと彼女は捕らえていたのかもしれない。しかし、光が恥ずかしがりながらストレートな答えを出した物だから、それが本当に直への告白だと思ってしまったようだ。
「あの、えっとボクは……」
「なんだよ、言いたいことも言えないなんて……ん? おまえ、顔は悪くないんだな」
 格好良いというよりも可愛らしいタイプで、これからの成長に期待出来るタイプかもしれない。上から下まで値踏みするように眺め倒すと、さすがに人見知りでなくとも動揺してしまう。
「だから、ボクはただ……質問の答えを……」
 そこまで聞いて、彼もまた先ほどまでと同じように自分なりの答えを出しただけで、直に告白するつもりはサラサラ無かったのだと気付く。早とちりしてしまった恥ずかしさと、勢いから直に電話番号を聞くという行動に出てしまったことに恥ずかしく思うが、直を気に入ってるのも本当だし真っ向勝負な所も普段から変わらないので咳払いを1つして誤魔化すことにした。
「ま、まぁ……見てるだけじゃ始まんねぇから行動するよな」
「なんだか、本当に告白したみたいで余計に恥ずかしいよ……」
 相手がいないところでも告白するのは恥ずかしいのに、危うく相手を作られるところだった。しかもそれがわざわざ講師役で招いた人が相手ともなれば本当に高嶺の花へ特攻しているようだ。
「細けえことは気にするな、いい練習になったろ? きっと本番もがんばれるさ」
 自分のせいでそうなったというのに懸命にフォローする様子に、根は悪い子じゃないんだなと光は思う。きっと、考えるよりも先に口が出てしまうだけで、決して悪意があって恥じをかかそうとしたんじゃない。
「つまり、バカっぽくストレートにぶつかれば結婚サギはしやすいぞってことか!」
『どこで結婚詐欺が出たんだー!』
 相変わらずのナガンの纏めっぷりにツッコミ役も疲れてきたのか、2人とも大きく息を乱している。もうそれが彼らのキャラクターなんだと受け入れた直は笑うしかない。
「これだと、随分賑やかな感じになりそうだね」
「ん? 最後の発表会は賑やかだとダメなのか?」
 椿の素朴な疑問にふと言葉を止める。恋愛講座として立ち振る舞いを教えているのだから、発表会はテストだと思っている参加者も多いだろう。けれども、堅苦しい形式だけのテストをするつもりなら和やかな雰囲気で進行しないし、きっと引き受けはしなかった。
「ああ、いや……存分に盛り上げてもらえると嬉しいよ」
 盛り上がった方が良い発表会。それならば個々のキャラクターを存分に出せる発表会になっているのかもしれない。
「どんな人が相手でも、黙ってないで行動する。それが出来るならきっと素晴らしい物になるに違いないよ」
 料理の腕と話術、それらが必要となる発表会とは――?
 まだ詳細を話そうとはしないけれど、会話の端々を拾っていけば答えは見えるのかもしれない。