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「 水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌 」(第1回/全2回)

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「 水中での戦い!人魚と魚人の協奏歌 」(第1回/全2回)

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 スク水姿でエペを構え戦っているのはセイバーの姫神 司(ひめがみ・つかさ)である。洞窟内はそれ程広くはなかったが、魚人とは浅瀬で一度戦っている。ルファニーへの想いが一直線過ぎる魚住 ゆういち(うおずみ・ゆういち)に魚人を任せ、司とパートナーのグレッグはルファニーを追って泉を抜けて来たのだ。尾行ならば冷静な判断を要すると考えたからである。
 魚人と戦っていれば分かる。人魚とは逆で、上半身が魚、足部は人間であるように見えたが、きっとそれは形だけなのだろう。幾ら上半身に力があろうとも、水中での泳ぎの疾さは人間の足部のそれでは為し得ない、故に足は形は形だけ、故に地上に立つ為ではなく、あくまで泳ぐための筋肉や構造をしているのだ。
 身軽で素早い動きをもって司は魚人を翻弄していた。とは言ってもやはり魚人はタフなのである、加えて武器はエペであり、SPも僅か。決定打を欠いていた。
 そんな戦闘の場を見て隠れていたのはセイバーの長曽禰 虎徹(ながそね・こてつ)とパートナーのドラゴニュート、アトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)である。グレッグがふと2人を見つけたようだ。
「あなた達、こんな所で何を?」
「僕たちは魚人の様子を観察していたんです。いや、決して彼女の姿に見惚れていたわけではないですよ」
「だが分からねぇな、操られているのか、それとも本当に狂ってるだけなのか」
「そなた、なかなかに面白い事を言う」
 舞い戻ってきた司が虎徹に言った。すらりと伸びた足を見て虎徹は顔を赤らめた。
「手助けをしなかった事は謝ります、でも魚人が皆一斉に狂い出すのは不可思議なんです。操られているにしても、魚人たちに意識が有るのか無いのか、それによっても対応が変わると思うんです」
「自我の有無か、なるほど」
 赤い目を光らせて魚人は司たちへと向かって来た。司は一時撤退を指示した。
「戦っているだけでは分かるまぃ。戦闘と離脱を繰り返し、その中で幾らか試してゆこう」
 魚人たちが操られている、だとすれば操り主は一体なぜ……。新たな疑問を抱きながら4人は洞窟の奥へと駆けて行った。


 ルファニーを追っては洞窟内へ。セイバーの高月 芳樹(たかつき・よしき)はパートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)と共に身を潜めていた。
 視線の先には魚人たちが5体、いや、通路の先にもいるであろうと思われるので、う〜ん、とにかく見つかる訳にはいかなかった。
「さぁて、どうするか」
「どうするかって、何も考えてないの? 信じられない」
「考えてる、考えてるよ、この場を無事に切り抜けられる方法、彼女たちに迷惑がかからない方法、何より、お前に危険が来ない様にしようとすると全てが難しくなる」
 頭を抱えながら言った芳樹の言葉に、アメリアは瞳を見開いた。
「そんな事…… 、私は別に少しくらい危険な目に合ったって別に…… 、ん? 彼女たちって?」
「んぁ?あぁ、ほら、あれだ」
 芳樹の視線の先、少し先の岩場の陰に、芳樹たちと同じように身を隠している者がいた。それがウィザードの比島 真紀(ひしま・まき)であり、パートナーでドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)であった。2人も、この状況に身動きが取れないでいるようだ。
「真紀、俺は何時でも戦えるぞ」
「敵の数を見ろ、適切な状況判断が出来なければ命は無いと思え」
 声を潜めて強く言った。確かにサイモンの腕力は魚人たちと良い勝負かもしれない、しかし敵の数は圧倒的に多く、また未知数でもあるのだ。今は、動く時ではない。
 真紀は、そっと後方の岩場を見た。芳樹の姿が小さくだが見えた。
 冷静な判断をしている。心の中で称賛した。同じ状況が続く事など有り得ない、故に今はただ待機するが正しいのである。
「それにしても……」
 魚人たちが頻繁に出入りしている通路の先、そこに一体何があるというのであろう。今回の騒動の根源とも言える何かが眠っている様な予感を、真紀と芳樹は感じているのだった。


 ルファニーを追いて洞窟へ、水から出た所が悪かったようだ。まず目に入ってきたのが魚人だった。ふっふっふっ、目があったのさ。プリーストのエレート・フレディアーニ(えれーと・ふれでぃあーに)と、パートナーで英霊の武田 信玄(たけだ・しんげん)は一目散に逃げ出していたのであるが、唇を噛み続けていたのは信玄である。
「エレート殿を安全にお守りするのに、今のわしでは、とてもに勝ちきれぬ」
 逃げるなど何よりの屈辱、しかし信念を貫く為には生き恥も晒そうぞ。
 後方から迫り来る魚人、無論にエレートを先に行かせていた、しかしそれが裏目に出た。
 前方から、もう一体、魚人が現れたのだ。
「エレート殿!!」
 距離を取り過ぎた、間に合わない。見開いたエレートの瞳には両手を組んで振り降ろそうとしている魚人の姿が映っていた。
 ドォン。
 重き拳を受け止めたのは波羅蜜多実業高等学校のソルジャー、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)である。ラルクはその強靭で太い腕で魚人の両拳を受け止めると、掛け声と共に魚人の腹へ拳を放った。
 エレートの元へ駆け寄る信玄にも追い来た魚人の拳が襲い掛かったが、この拳を受け止めたはラルクのパートナーでドラゴニュートのアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)であった。こちらは魚人の腕を掴むと、一思いに投げ飛ばしていた。
 ラルクの背を見上げて見つめて、エレートはようやく礼を言えた。
「あの、ありがとうございます、助かりましたわ」
「おぅ。ほぉ、アンタ、プリーストか。丁度いい、アイツにヒールをかけてくれ、雷撃を撃って自分も喰らっちまったんだ、マヌケだろ?」
「あぁ! テメェを巻き込まないようにしたから、あんな事になったんだろうが、感謝しやがれ」
「何言ってやがる、自業自得だろうが。大体、ドラゴニュートのくせにスキルなんかに頼るからそうなるんだ、漢なら拳で勝負しやがれ」
「んだと! もう頭にキタ、オレ様の雷撃の威力、今一度見せてやるぜ! ラルク、テメェ感電しても知らねぇからな」
「へっ、そうしねぇようにやりやがれってんだ」
 ラルクとアインは共に同時に魚人を睨みつけた。その顔には笑みも浮かんでいる。拳を交える事、スリルを感じれる事、何より並び戦える事に心地よさを感じているようだった。
 二人は同時に飛び出して行った。


 さて、そろそろ紹介するとしよう。ルファニーを追って水中を行き、洞窟を歩んだ先にルファニーの後ろ姿を見つけたのは、イルミンスール魔法学校のウィザード、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)である。
「一人での散歩は、危険じゃと思うがのぅ」
 ファタの声に、ルファニーは背を向けたまま足を止めた。
「ボディーガードは、いらんかね? 今なら、わしを含めて3人も居るんじゃがのう」
「いつから気付いてたの?」
 低い声がルファニーから聞こえた。ルファニーの声ではあるが、顔の筋肉の全てを下げた状態で出しているのであろう、全くにハリの無い声だった。
「貴殿があまりにも可愛いかったので、ずっと見ていたんですの」
「逃げるから、追いかけたんだよー、楽しかったんだー」
 ファタのパートナーでナイトのサン・ジェルマン(さん・じぇるまん)とメイドのファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)が続け言ったのを聞いてから、ルファニーはゆっくりと振り向いた。その顔は妖しく笑んでいた。
「ついて来るんでしょう?何を言っても」
「物分かりが良いと助かるのう」
 笑みで応えて歩みを始めた。瞳の奥には鋭さを、ルファニーとファタは共に抱いて歩みを始めていた。