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バトルフェスティバル・ハロウィン編

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バトルフェスティバル・ハロウィン編

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バトルフェスティバル、開始!

 いよいよハロウィンパーティが始まった。すでに仮装を済ませた参加者たちがゲートをくぐると、一面はテーマパークのように飾られていて、少し怖いようなワクワクするような可愛らしい飾りがいっぱいだ。
 そんな中、別の方向で野望を燃やす男が2人。エル・ウィンド(える・うぃんど)は金髪を活かした金狼姿で見目麗しいゴージャスな人狼に。対する鈴木 周(すずき・しゅう)はかぼちゃパンツの童話に出てくるような白馬の王子様の姿だというのに、格好良いというよりも何かを企んだ笑顔だ。
(とうとうこの日がやってきた! ボクの狙いはただ1つ……!)
(ハロウィンを素直に楽しんでもいいが、俺ともあろう男がそんな素直に楽しむわけがない!)
『絶対、可愛い女の子と知り合いになるぜッ!』
 別々でやってきたハズの2人が、なぜだか同じ目的だったと知る瞬間。ここは、相手に先を越されないためにライバル心をむき出しにするか、それとも効率よく女の子捜しをするかの2つに1つ。
「……キミもか。好みが同じだったらやっかいだな」
「いや、物は考えようだぜ! お祭りなんだから、女の子も1人では来ていないはずだッ!」
 グッと互いの手を握り女の子とお知り合い、そしてあわよくばグループデートへ持ち込もうという作戦がこの瞬間に決定された。
 しかし、このパラミタは凄いところだ。男顔負けの強い女の子がいたり、下手な女の子よりも可愛い男の子がいたり……彼らのナンパ劇場が上手く行くのかどうかは定かではないが、すっかり意気投合している様子は楽しそうだ。
 そうして続々とやってくる参加者を出迎えるのは飲食店。冷え込んで来ていることを考えて、そのメニューも温かそうな物が並んでいる。主催となった薔薇の学舎からは、カーリー・ディアディール(かーりー・でぃあでぃーる)が呼び込みをしているようだ。
「甘いお菓子に、暖かいシチューがあるわよ。そこの可愛い子! よって行きなさい!」
 奥ではサトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)が主に調理を、そして補佐に銭 白陰(せん・びゃくいん)が任されアルカナ・ディアディール(あるかな・でぃあでぃーる)は会計係のようだ。
 可愛い食べ物として出店する内容は、コウモリ型のココア・南瓜型のオレンジピール・幽霊のプレーン3種類のクッキーを6枚入りで包んだ物と南瓜パイ。そして器ごと食べられる丸ごと南瓜シチューの3点。見た目に拘りが伺えるラインナップに、お店の看板へも注目が集まっている。
「ちょっとアルー? そんな顔してたら、可愛い子が逃げちゃうじゃない」
 呼び込みをしているカーリーの次に参加者の目に触れるアルカナ。仮装こそ悪魔のツノのついたカチューシャや羽根などを付けただけと作業をするのに邪魔にならない程度の仮装だが、その顔は少しこわばっていて仮装以上に少し怖そうに見える。
「こ、この顔は……生まれつきだ」
 引きつった営業スマイルを見せられても説得力の欠片もない。いくら小さな頃ハロウィンのお菓子を全部取り上げられたからと言って、お菓子を差し出したのに悪戯され放題だったからといって、今もそうなるとは限らない。
(あ、あれは小さいときだからな。今なら……今ならきっと)
 そう思い返しても、既にトラウマとなりつつある姉の存在のせいでサトゥルヌス唯一のパートナーだった頃の平穏な日常は崩れ去り、自分には悪魔と対峙するどころか負け通しである。
 改めてその現実を思い知りがっくりと肩を落とすアルカナの前に、可愛らしい女の子が通った。
 黒のゴスロリを着て、背中にこうもりの翼をつけた女の子吸血鬼「カミーラ」の格好をした神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)と魔女の三角帽子を被り、胸元を露出し大きな胸を強調した、セクシーな紫色基調の魔女の服装のノエルリース・フィアリリィ(のえるりーす・ふぃありりぃ)。そしてペットのゆるスターにもカミーラに仕えるメイドとして吸血鬼の着ぐるみを着せているようだ。
(あんな風にしおらしかったら、どれだけ平和だったか……)
 そう望んだところで、姉が生まれ変わってくれるわけではない。溜め息を吐きながら、黙々とレジの隣でラッピングに勤しみ、早く時間が過ぎればいいと願うばかりだ。
「トリックオアトリート! お菓子をくれないと、いたずらしちゃいます☆」
 有栖が可愛らしくポーズを決めてカーリーに手を差し出すと、肩に乗せているゆるスターも同じポーズをとっている。可愛い物が大好きなカーリーにとっては、お菓子をあげても可愛い子に悪戯されても楽しそうだと思ってしまい、少し迷ってしまう。
「あらあら、売り物のお菓子ならあるんだけれど……どうしようかしらね?」
「ふふ、じゃあこれでどう?」
 くすくすと笑っているカーリーに有栖は自分のゆるスターをけしかけて、悪戯を開始する。けれどもそれは、ゆるスターが相手にほお擦りしたり甘えたり、2人でお菓子をくれるまでおねだりする作戦のようだ。
「まぁ、可愛らしい悪戯ね。仕事が出来なくて困ってしまうから、サービスしちゃおうかしら」
「ありがとうございます! ノエルさん、お菓子貰えそうですよ……ノエルさん?」
 ふと有栖がパートナーの方を向き直れば、別のターゲットを見つけていたのか既にお店に入ってしまっていたようだ。しかし、彼女の悪戯はセクシーな体型と衣装を活かしたお色気作戦だったようで、傍目から見ればアルカナに迫っているだけにしか見えない。
「ノ、ノエルさんっ、それはちょっとやり過ぎかも……っ」
 慌てて有栖が止めに入るも、姉のおかげで女性が苦手なアルカナにとっては嬉しい展開どころか恐怖に近い物があり固まるしかない。
「アル君、追加のクッキー持ってきたよ。少し失敗してる分は、ハロウィンだし配ってあげても……」
 そんな中に顔を出したサトゥルヌス。料理が趣味なだけにほとんど失敗はないのだが、たまに形が崩れてしまったりすることもある。2つの容器に分けて持ってきたが、接客をしていると思っていたアルカナの前には胸元を覗かせているノエルリースとその1歩後ろで顔を真っ赤にしている有栖。
「……良かったね、これは自分でやるよ」
 アルカナの女性嫌いが治ったのかとラッピングの材料を受け取り奥へ行こうとするサトゥルヌスの背中を見て、やっとアルカナは我に返る。
「違……ッ! サトゥ、待っ」
「なんなら、暫く休憩に出てもいいよ? カー姉に会計してもらえばいいし」
 ごゆっくり、と恐ろしいまでの満面の笑み。奥では白陰がパイ作りをしながら盗み見ている。
(それでこそアル君。ルウ君とリーさんのダブル攻撃で、どこまでヘコみますかねぇ)
 自分に害がなければそれでよしと言わんばかりに頷いて、これからの展開を考えると面白くなりそうだ。とまどう2人をカーリーが席へと案内し、焼き上がったばかりのパイを白陰が運ぶ。熱々の甘い南瓜パイを互いに冷ましあいながら、有栖とノエルリースは楽しそうに食べるのだった。
 そして、食べ物屋があるところにこの人あり。小林 翔太(こばやし・しょうた)は今日も今日とて食い倒れツアーを決行させた。サマーパーティでもいろんな飲食店があって大満足だった彼は、今日はパートナーのイーグル・ホワイト(いーぐる・ほわいと)佐々木 小次郎(ささき・こじろう)を連れてお店を端から端まで巡る予定のようだ。
 ……いや、連れてという表現は少しおかしいかもしれない。黒猫の仮装をした翔太とドラキュラの格好をした小次郎が連れられているのだ。テーマパークで夜のパレードにでも使われそうな電飾の激しいカボチャをモチーフにしたリヤカー。それを引くイーグル本人は妖精の仮装だと言い張っているがどうも配色がおぞましいことになっており、雨雲のような帽子はまだしも昆虫の孵化直後のような羽根と冬場のプールを連想させる色をしたぶかっとしたワンピース。お化けの仮装の間違いではないだろうか。
「いい、イーグル。次はちゃんとゆっくり走ってよ!」
 豪速球で屋台の前を通り過ぎ、危うく広い学舎内を1周しかけた翔太一行。どうにか飲食店の前にまで戻ってきて、食べたい順番にリストをまとめたメモを再確認する。
「翔太さん、今回は飲食店だけでなく他の人からも食べ物を貰える祭りのようですから、時間を有効に使わなければなりませんね」
「本当だよ、こんな調子で全店制覇なんて出来るのかな……」
 そんな食べ物を求める翔太に向かって、2つの手が伸びてくる。
『トリックオアトリート!』
 食べ物を食べやすくするため、かぶり物ではなく狼の耳だけつけた樹月 刀真(きづき・とうま)と胸や太ももを強調するセクシーな魔女の衣装に身を包んだ漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は仲良くお菓子を待っている。
「おやおや、先に渡す側になってしまいましたか。それでは、こちらをどうぞ」
 ハロウィンで渡す用としてよりも、翔太が空腹で暴れたときの対処法にと用意していたキャンディーとチョコレート。お好きな方を、と差し出すと翔太もそれに混じってチョコレートを頬張った。
「ありがとう! 全店制覇って食い倒れですか? 凄く楽しそうですね」
「うん、良かったら一緒にまわらない?」
 それも楽しそうだなと思うが、1歩ひいて派手なリヤカーを見る。一緒に店をまわるとなると、これに乗らなければいけないのだろうか。
「イーグルちゃんはそれでも大丈夫よ! 重いのも苦しいのも刺激的だわぁっ!」
 なぜか悦に入る何とも言い難い仮装をした犬のゆる族。どうしたものかと刀真が苦笑していると、月夜は黙って手を握ってきた。
「……折角ですけど、俺たちは2人でまわるよ。イルミンスールのカフェはなかなかでしたよ、特にババロアケーキが最高!」
「蒼学のミイラのケーキも、お化けなのに可愛かったわ……ぱちぱちしたけど」
 一緒に行けないけれど楽しんできてね、そんな思いの込められたオススメ店の情報に翔太は目を輝かせてお店への期待が高まる。
「よぉーっし! じゃあそこから行っちゃおう! イーグル、全速全開っ!」
 決して褒められたわけではないのに、2人の冷ややかな視線で興奮気味のイーグル。小次郎は辛いメニューもあることを願って、翔太は今度こそ美味しい物を食べるためにリヤカーに乗って走り去ってしまった。
「凄い乗り物だったね……まぁ、こんな感じにお菓子を貰えるお祭りなんですよ」
「貰えなかったら悪戯するのね。怒られない?」
 初めてのことでわからない月夜は、貰ったキャンディーでさえ本当に良かったのかとしげしげと見つめている。
「大丈夫! やりすぎちゃったときは、全力で逃げますから」
 にこにこと微笑みながら手を差し出す刀真に少し心配になりながらも、こんなに楽しそうな顔をしているのだから、そうやってドキドキしながら楽しむお祭りなのだと理解する。自分たちだって悪戯を仕掛けられるかもしれないし、お菓子にだって何か仕掛けがあるかもしれない。
「でも、あまりやりすぎないでね?」
 刀真が悪戯にと用意したのは胡椒で、どう悪戯に使うのかと尋ねたところ試しにと振られて2人してくしゃみが止まらなくなってしまった。相手に少しだけ振る分には大丈夫だろうけれど、やり過ぎるとまた自分たちにもかかってしまうだろう。
 けれど、それはそれで楽しい思い出になるかもしれない。月夜は差し出された手を取って、微笑み返すのだった。
 そんな仲睦まじい2人を見て、ヤマ・ダータロン(やま・だーたろん)は悪戯用のアサルトカービンを握りしめる。ゆる族なのでかばのぬいぐるみの上から羽根を付け、カバの妖精の仮装をしているようだ。決してどこぞの谷に住んでいるあの妖精のような姿ではない。なにせカバのぬいぐるみ自体が可愛くないのだ。
(ハロウィンはカップル共のイベントじゃねーっての)
 仮装した女の子を見るためにやってきたヤマにとって、その隣にいる男の存在は非常に邪魔だ。どうにかカップル崩しをしてやろうと思うが、悪戯は山本 夜麻(やまもと・やま)の指示待ちなので勝手に行動が出来ない。
 そんな夜麻はと言えば、ヤマに打ち抜かれたかのようなペイントを額に施し、ターゲットを絞っているようだ。
「基本の挨拶はトリトリでいいよね」
 トリックオアトリートだと見せかけて……その意味に騙されそうな年上を探すべく、夜麻は嬉しそうに駆け出すのだった。