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憧れあの子のお菓子争奪戦!

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憧れあの子のお菓子争奪戦!

リアクション

 真っ黒な外套を羽織り、顔にはコミカルなカボチャの面をつけているのは譲葉 大和(ゆずりは・やまと)だ。
 人目を気にしながら、校舎裏へと向かっている。
「メールアドレス教えて……じゃなかった、とりっくおあとりーとめんと!」
 そんな大和に声をかけてきたのは、白い魔女の格好をした泉 椿(いずみ・つばき)
 参加者の中からお菓子を渡す相手をイケメンに絞った上、更にその中から、コミカルな面をつけているもののにじみ出る何かを大和の内に見つけたのだろう、彼を選んで声をかけてきたのだ。
「掛け声、違うのではないか?」
 間違いを正しつつも大和が差し出すのは、紙袋の方だ。
「これ、貰っていいんだ? じゃあ、あたしからはこれ、あげるな」
 紙袋の中身を確認せずに受け取りながら、椿が差し出したのは、彼女がパートナーに作ってもらった赤色と青色のゼリーだ。何故だか不定形生物の如く、顔が書かれてあるものだったりする。
「ッ!?」
 それを目にした大和は一瞬、固まった後、咄嗟に外套の下に仕込んでいたライトブレードに手をかけた。
 ヴン……と鈍い音と共に、柄の先からビーム状の光の刃が作り出される。
「何てモノを……!!」
 大和はわなわな……と震えながら、差し出された2色のゼリーへと切りかかった。
「わあっ!?」
 避け切れなかった椿の手のひらの上で、赤いゼリーが切られ、弾き飛ぶ。
 更に振るわれた光の刃は、椿が受け取った紙袋を貫いた。紙袋に入れておいた唐辛子と胡椒で作られた爆弾が切られて、周囲に飛び散る。
「うっ! ゲホッ、ゴホッ!!」
 飛び散る唐辛子と胡椒に、椿は咽てしまった。咳が止まらなくなってしまう。
 その間に、青いゼリーをも切り裂いた大和は、ライトブレードをまた外套の下に仕舞い込み、その場を離れていった。



 目元を隠す仮面で、顔を隠し、ロングスカートで黒尽くめの魔女に扮した遠野 歌菜(とおの・かな)は、待ち合わせ場所である校舎裏に辿り着いていた。
「大和さん……は、まだ、みたいね」
 辺りを見回して、待ち合わせている相手――譲葉大和がまだ居ないことを確認した歌菜は、手にしたお菓子へと視線を落とした。
 それは彼と交換するために作ったお菓子だ。自然と、笑みが零れてくる。
「お待たせしました」
 暫し待っていると、外套を羽織り、カボチャの面を着けた人――大和が現れた。
「大丈夫です、私も少し前に着いたばかりですから」
 そう告げて、歌菜が仮面を外すと、大和も面を取った。
「トリック・オア・トリート! お菓子をくれないと……えっと拗ねちゃいますから」
 早速、歌菜はワンポイントに銀糸の入った青いリボンで飾った、淡いブルーの包装紙に包まれたお菓子を差し出しながら、そう告げる。
「トリック・オア・トリック! お菓子も捨てがたいですが、貴方に悪戯したいんです……」
「えええっ!?」
 大和がそう応えれば、歌菜は困ったように声を上げた。
「……なんて、からかって困る歌菜さんを見るのが楽しいのですよ。悪戯しちゃいましたけど、やっぱりお菓子を下さい」
 困った顔のままの歌菜の頭へと手を伸ばせば、ゆるりと撫でて、そう言った。
「大和さん、意地悪です……」
 言いながらも歌菜はお菓子をぐいっと差し出して、受け取ってもらう。
「お返しはこちらです」
 歌菜のお菓子を受け取った大和が差し出したのは右手に持っていたランタンだ。
 蓋を開けてみれば、ランタンを模した容器であって、中には白いレースリボンと純白の薔薇で飾られた真っ白な箱が入ってある。
「開けてもいいですか?」
 ランタン型容器の中から、その白い箱を取り出した歌菜は、大和の顔を見て訊ねた。
 こくと頷く大和を見て、歌菜はリボンを解いて、箱の蓋を開けていく。
「わあ……」
 箱の中身は、ハート型のガトーショコラだ。白い箱と対照的なショコラの色が映えている。
「俺も開けさせてもらいますね」
 そう告げて大和も歌菜から受け取った包みを開いた。
 中には綺麗に狐色に焼けたパンプキンタルトが入っている。
「美味しそうな焼き色ですね」
 早速それぞれ食べようかとしたところで、ガサリと近くの茂みが揺れた。
「居た居た。ハッピーハロウィーン♪」
 現れたのは、灰色の猫耳尻尾に、だぼそでシャツにチェックのミニスカート、そして緩めに首輪をつけている佐々良 縁(ささら・よすが)
「お2人にお菓子を渡しに来たの」
 お菓子のバスケットを抱えているのは、白色の猫耳尻尾に、だぼそでシャツにチェックのミニスカート、そして緩めに首輪をつけている佐々良 皐月(ささら・さつき)だ。
「ねーちゃんが探していたのは、この人たちー?」
 更に後ろから、ひょこんと顔を出した佐々良 睦月(ささら・むつき)は、黒色の猫尻尾、だぼそでシャツにチェック柄の半ズボン、そしてこれまた首輪を纏っている。
「うちの嫁と末っ子が、お菓子を作ってくれたんよ。だからお2人に届けに」
 そう告げて、縁は皐月が持つバスケットからカボチャ型のカップケーキを取り出した。
 大和と歌菜の手に、それぞれカップケーキを持たせる。
「お幸せにぃー……じゃねぇや、たのしんでってねぇ〜?」
 縁が手をひらひらと振って、その場を後にする。
 皐月と睦月も、それぞれ2人に手を振って、縁の後を追った。