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リアクション
第3章 トリックオアトリート! 皆で交換だ!!
「トリックオアトリート!」
猫耳のカチューシャとつけ尻尾で、三毛猫娘になりきった広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は、オレンジ色のリボンを付けた争奪戦参加者へと抱きつき、捕まえた。
「うわっ!?」
その参加者――クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、ジャック・オ・ランタンの被り物を被っており、傍から見れば、誰なのか判別はつかない。不意に抱きつかれて驚くものの振り返れば、争奪戦参加者同士だと分かった。
「トリック・オア・トリート! さあ、出す物を出してもらおうかっ!」
ジャック・オ・ランタン――もとい、クロセルの肩で小さな魔女が声をあげた。
クロセルのパートナー、ドラゴニュートのマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が乗っていたのだ。
「もちろん、ファイのお菓子を皆に食べてほしいし、ファイも皆のお菓子を食べたいの。だから、お菓子交換してほしいなっ」
そう言って、ファイリアはカボチャやニンジンをペースト状にして生地に混ぜ込み作ったクッキーが詰められた小さな袋を1つ取り出して、クロセルとマナへと差し出した。
「ボクのも良かったら受け取ってください」
ファイリアの後ろから、狐耳のカチューシャとふさふさなつけ尻尾をつけた狐娘――もとい、ファイリアのパートナー、ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)も小さな袋を取り出して、交換を願う。彼女の差し出した小袋にも、少しいびつながら、シンプルなクッキーが入っているのだ。
「ふふっ、ありがとう。お礼と言ってはなんだが、私からもお菓子を贈らせて欲しい」
マナはそう応えた。
ファイリアとウィルヘルミーナのそれぞれのクッキーを受け取った後、クロセルが用意した市販のマロングラッセが神々しいモンブランと、マナが用意した手作りのパンプキン・シュークリームをそれぞれ渡す。
「ありがとう。さあ、ウィルヘルミーナちゃん、次行くよ!」
「はい! あ、ファイリアさん、あそこの人、お菓子持ってます!」
それぞれのお菓子を受け取ったファイリアとウィルヘルミーナはそう言いながら、次の交換相手を探して、学園内を駆け出した。
*
「教導団じゃ、女の子できないから今日は思いっきり女の子満喫だから〜♪」
鼻歌でも聞こえてきそうな勢いで、蒼空学園へとやって来た黒乃 音子(くろの・ねこ)が纏うのは、膝上14センチというミニスカートで、ボディラインがはっきりと出る紺色のワンピースドレスだ。背中にはこうもりの羽をつけ、頭には猫耳のヘアバンドを着けている。三又の槍と、教導団PX(直売店)販売のうなぎパイ――家庭科の音子が作った、彼女らしい魚風味の強いものだ――をそれぞれの手に持って、早速学園内を駆け出した。
――お菓子って作って食べてもらうものじゃないの?
争奪戦というイベントを不思議に思いながら参加したミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が用意をしたのは、本場直伝のパンプキンプティングだ。少し大きめに切ったプティングをキャンディ型に包んで持ってきている。
仮装の方も本場式に死人スタイルで行こうと思った。けれど、あまり本格的にしては怖がられて、誰も近付いてくれないのではないかと考えた結果、顔を含む全身を青白く化粧し、首にロープを巻き、蒼空学園の制服を纏った首吊り人形のような格好になるだけにしている。
そうして訪れた蒼空学園で、ばったり出会ったのは、こうもり猫――もとい、音子であった。
「トリック・オア・トリート♪ タダでお触りは厳禁だけど、お菓子の交換はいくらでもOKだよ〜♪」
音子はそう言って、早速うなぎパイを差し出した。
「トリック・オア・トリート〜! おいしそうなパイね。お返しはパンプキンプティングよ」
うなぎパイを受け取ったミルディアは代わりにプティングを1つ差し出す。
「ありがとう〜♪ これも美味しそうだね、後でゆっくり味わうんだもん〜♪」
うなぎパイを配り終わってから纏めて食べようと、音子は受け取ったプティングを仕舞う。もちろん、間違って配ってしまわないように、パイとは別のところにだ。
「賞味期限は1週間が限度ですから。それを過ぎると、パサパサのゴワゴワになってしまうから、ご注意を〜!」
ミルディアは、そう注意を促して、分かれた。
それぞれ、また別の交換相手を探して、学園内を駆け回る。
*
「悪戯かお菓子か? ……お菓子で悪戯じゃろう」
クリスマスというには少し時期が早いだろうか。ミニスカートのサンタ姿に仮装したファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)は、蒼空学園の門をくぐりながら、そう呟いた。
彼女が用意したのは、中のクリームが4種類ほどある一口シュークリームと、メイズ・オブ・オナーと呼ばれるチーズケーキのパイ包みだ。
空飛ぶ箒に跨って、早速、オレンジ色のリボンを付けた上で仮装している、参加者たちを探す。
上空からまず目に入ったのは、カボチャ頭……ジャック・オ・ランタンの被り物であった。
近くへと降りていけば、ジャック・オ・ランタンの被り物をした者が誰なのか分からないが、肩に乗せた小さな魔女がマナであることに気付く。そこから、同じ学校の馴染み――クロセルであろうと、ファタは思う。
「トリック・オア・トリートじゃ♪」
そう言いながらファタは彼らへと近付いていった。
一口シューを入れた包みの口を開いて、中から1つ選ぶよう、告げる。
「私にも1つ取るのだよ!」
マナがクロセルへと言えば、クロセルはまず1つ摘み上げて、マナへと渡した。それから自分の分もともう1つ摘み上げる。
「「いただきます」」
そう言って、2人はシュークリームを一口で食べた。
「ッ!!?」
クロセルが食べたのは山葵入りのシュークリームだ。鼻に、山葵が抜けて、瞳に涙が滲む。
「ふふ、引っかかったようじゃのう」
ファタは言葉を失うクロセルの様子を見て、笑った。
「私のは普通のだったよ」
マナが食べたのは、どうやら普通のクリームだったらしい。
「それは当たりじゃ。これをあげよう」
彼女の言葉を聞いて、ファタはもう1つの包みを取り出した。
そちらにはメイズ・オブ・オナーを包んである。
「当たりだったのか! それは嬉しいのだよ!」
クロセルに受け取ってもらいながら、マナは喜んだ。
その様子を見てファタは笑みを浮かべながら、他の馴染みを探すべく、また空飛ぶ箒に跨って、飛び出した。
*
「ステフ! あまりあちこち歩き回らないで!」
やや時期は早いと思いながらも思いつく仮装がそれしかなかった、ミニスカートサンタ姿にニーソックスを履いたリアクライス・フェリシティ(りあくらいす・ふぇりしてぃ)は、前を行くパートナーのシュテファーニエ・ソレスター(しゅてふぁーにえ・それすたー)へと声を上げた。
シュテファーニエは、ビキニにミニスカート、そして黒いストッキングでサンタらしい格好をして、リアクライスと仮装を合わせている。
そんな彼女は、お菓子の争奪戦を楽しむというより、ナンパ目的で参加していた。
「んふ。可愛らしいおなごとおのこが群れておる……いいではないか……」
言いながら争奪戦の様子を眺めるシュテファーニエ。
リアクライスは彼女が何処か行ってしまわないように見張りながら、学園内を歩いた。
そうして初めに出会ったのは七瀬 瑠菜(ななせ・るな)だ。
矢絣袴に編み上げブーツを纏い、狐耳とふさふさ尻尾を着け、更に頭に狐のお面を着けている。
「あ、トリック・オア・トリート。お手玉勝負、どうかな? あたしに勝てば、この重箱の中身が貴方のものよ」
瑠菜は重箱の蓋を開けて見せた。中には、まだ誰とも勝負していないため、いなり寿司がぎっしり詰まっている。
和風なハロウィンはどうだろうかと考えて、敢えてお菓子ではなく、いなり寿司を作ってきたのだ。
「うむ、楽しそうじゃな。それに好みの顔じゃ。近う寄れ……」
シュテファーニエは瑠菜の容姿を気に入って、彼女を近付けさせた。
「勝負を受けるのね? それじゃあ、どうぞ。時間勝負でなくて、数の勝負よ」
いなり寿司の入った段の蓋を閉じ、もう1つ下の段を開けば、お手玉が詰まっている。
シュテファーニエは早速、お手玉2つを手に、投げ始めるけれど、3つ4つと増やしていくと、徐々に回転させるスピードは落ちて、5つ目を投入したときには落としてしまった。対する瑠菜は5つ6つと余裕で、回していく。
「あたしの勝ちね。キミのお菓子をくださいな」
「しょうがないのう。わらわからのお菓子はこれじゃ」
シュテファーニエが差し出すのは小袋に入れた色とりどりの金平糖だ。
「わ、私も勝負いいかしら?」
様子を見ていたリアクライスが瑠菜へと声をかける。
「もちろん」
瑠菜は頷いて、お手玉を渡した。
リアクライスも数を増やせば、徐々にスピードが落ちていき、上手く回せずお手玉を落としてしまう。
「負けちゃったわ。私からはこれ」
お手玉を返してからリアクライスが差し出したのは、ドライストロベリーにホワイトチョコをかけたものだ。
「ありがとう。折角だから、あたしからのお稲荷さんも食べて」
返されたお手玉を仕舞った後、瑠菜はいなり寿司を詰めた段の蓋を開ける。
リアクライスとシュテファーニエは喜んで、それを食べ、彼女らは分かれた。