シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

夢のクリスマスパーティ

リアクション公開中!

夢のクリスマスパーティ
夢のクリスマスパーティ 夢のクリスマスパーティ 夢のクリスマスパーティ

リアクション



【白百合団のお茶会兼相談室】

 パーティが進む中、生徒会執行部『白百合団』班長であるロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は【白百合団のお茶会兼相談室】を開いていた。
 参加者は冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)の3人だ。
 「ひとまずクッキーなどいかがでしょう?」
 サンタ服姿の小夜子が白い袋に入ったクッキーを取り出し、紅茶を振舞う。
 パーティ会場でティーセットを借りられたので割と本格的だ。
「白百合団のお茶会……になりますね。私はあまりそれらしい行動をしてないのですが」
「それらしいとかそんな気にすることじゃないわよ」
 小夜子の言葉に、亜璃珠がクッキーに手を伸ばしながら、軽く答える。
「そうでしょうか? 亜璃珠さんも頑張っているようですし、これから私も頑張らないといけませんね」
「頑張ろうと思う心があれば大丈夫だと思います。いつでも機会はありますよ」
 ロザリンドも小夜子にそうアドバイスを送り、紅茶に口をつけた。
 しかし、紅茶を一口飲んだロザリンドの表情はどこか明るくなかった。
「お口に合いませんでしたか……?」
「いいえ。そうではなくて……ある方のことを思っていまして」
「……ああ」
「なるほど……」
 ロザリンドがある方のことを思っているというだけで、小夜子も亜璃珠もピンと来た。
 百合園の桜井静香校長だ。
「何を悩んでるの?」
「校長に告白をしたのですが……」
「ですが?」
「つい美人や可愛い娘を見たら目で追ったり話しかけたりしてしまって……」
 その言葉に小夜子も亜璃珠もガクッとなりかける。
「あ、あのね……」
 真剣に聞こうとしていた2人はつっこみたくなったが、ロザリンドは溜息をついて話を続けた。
「でも、最後には桜井校長の事が好きでどうしようもなくなったりするんです。一緒にいたい、こっちを見て欲しい。そんなことばかり思って……」
「まあ、普通そう思うものだからいいんじゃないの?」
 亜璃珠がティーカップを優雅に持ち上げ、そう答える。
 しかし、校長に告白してからずっとロザリンドの悩みが完全に晴れるということはなかった。
「普通そう思うから……大丈夫なのでしょうか。桜井校長のそばにいるようになって、いろんな校長を見ることが出来るようになりましたが……逆に校長に自分の黒い部分が見られてしまうのではないかと不安なんです」
「黒い部分?」
「他の人を押しのけても校長を独占したい……とか」
 恥ずかしそうにロザリンドが自分の胸の内を告げる。
 校長を好きな気持ちが募るほどに、他の人を見ないで欲しい、自分の方を向いて欲しいという感情がわきあがったりして、ロザリンドはそれをもてあましていた。
「私のすべてを見ても好きといってもらえたら、うれしいです。でも……その前に嫌われてしまいそうですよね。自然体でいられないんです。それが出来る人がうらやましくて、出来ない自分が悔しくて……」
「自然体って……そう簡単にできることではきっとないと思います。特に好きな人相手の場合は」
 小夜子はロザリンドの瞳を覗き込みながらそう相槌を打つ。
「そうでしょうか?」
「人からは自然体に見えても、本人はドキドキのガチガチってことも良くありますから。そういうものだと思いますわ」
「本人は……ですか」
 その言葉を聴き、人を羨ましいと思っていたロザリンドは少し恥ずかしくなった。
「まあ、黒い部分を見られたくない、自分を曝け出して嫌われたくないって気持ちも分かるけどね。でも、その人が好きだったら隠し事はダメよ。ちゃんと全部見せた上で前に進まないと」
「全部見せた上で?」
「そう。だっていつかは分かっちゃうんだもの。問題を先送りにしてもいいことないわ。静香さんが貴女の想うとおりの人なら、そんな不安ごと包み込んでくれるはずじゃない?」
「そ、そんな包むなんて……」
 おろおろとして、ロザリンドは首を振る。
「そばにいる資格すら、ないかもしれません。私は戦いで傷つき、相手を傷つけ、人を殺めることすらあるかもしれません。それでもこの身を挺して百合園女学院を守ることが出来るのは名誉であり誇れることです。でも、それでも人を傷つけ殺す女が校長の傍にいていいのか。校長にそんな事を言ったら逆に怒られそうなのですが、それでも怖く苦しくて。
なのに好きだという思いは強くなる一方です」
「好きだという想いが強いから怖いのですアルヨ」
「……え」
「わっ」
 いきなり混じってきた甲高い声に、亜璃珠たちは飛びのく。
 すると、そこには勝手にクッキーをかじる香鈴の姿があった。
「お邪魔しますアル。紅葉の山ぶりですアル」
 香鈴は挨拶をし、許可も得ずにお茶会に混ざって話し始めた。
「百合園女学院を守ることは、すなわち静香校長を守ること。それくらいの道理は分かるはずなのに、感情がそう思えないのは、好きだからですアル」
「……好きだから?」
「そうですアル。好きだと怖いのですアル。嫌われないかな? 迷惑をかけないかな? そういうのは好きの裏返しですアルヨ」
「裏返し?」
「うんうん。どうでもいい人なら、嫌われようが関係ないのですアル。好きだから不安も怖さも募るのですアルヨ」
「…………」
 香鈴の言葉に、ロザリンドは自分の胸に手を当ててみる。
 そんな様子を見て、亜璃珠は小さく溜息をついた。
「まあ、でもそういうリンが正直羨ましいわ。たまにおかしい所はあっても、静香校長に一途だし」
「姐御は一途じゃないの?」
「黙れ、そこのテレサ」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)の言葉につい亜璃珠はつっこんだが、珍しく小さな溜息をこぼした。
「テレサの言うとおり、一途じゃないわよ。いろんな子にちょっかい出すしね。でも、そのせいで最近じゃロザリィやつかさとの時間も全然取れないし。妹たちに囲まれてほんわかも楽しいけど。ただ、この間、優子さんに釘も刺されちゃったしね」
 白百合団副団長であり、C級四天王でもある神楽崎優子は亜璃珠にこう忠告したのだ。
『本当にお前がパラ実送りになったら、団も私も困る。それに、素行の面で大きな問題があると、団としての重要な任を任せることが出来ない。団活動時の白百合団は百合園の顔だ』と。
「それだけ亜璃珠さんは頼みにされているのですわ」
 小夜子の言葉に、亜璃珠は小さく肩をすくめた。
「そうね、頼みにしてくれて、心配もしてくれるんだろうけれど……」
 それをわかってもなお、亜璃珠としては悩みどころだった。
「そういう人がいるのは幸せな事なんだろうけど……私の恋って一体どこに向かえばいいのかしら」
「その優子さんはー?」
 テレサのツッコミに亜璃珠は首を傾げる。
「優子さんは……恋愛対象というよりその、尊敬できるけどなにかと手のかかる上司というか、ね。自分の身を省みるって事をしないし、誰かが支えてやらないと……なによその目は」
 自分を見つめるロザリンドと小夜子に対し、亜璃珠は何か言いたそうな顔をした。
 しかし、2人はうんうんと頷きあい、小声で言い合った。
「ツンデレではないのですものね」
「ええ、ええ」
「…………」
 亜璃珠が微妙な表情を浮かべたが、テレサが空気を入れ替えるように新たな相談をした。
「それじゃ私から質問。白百合団入ったけど、その中で無茶する方法、というか白百合団の体裁を守ったまま無茶することってできる?」
「無茶って……何?
「いやね、私はお嬢様というよりヒャッハーッ!! やってる方が合いそうなお気楽人間でさ。元々入ったのも人手が全然足りない緊急措置だし。だから、無茶するにはどうしたらいいかなあって」
「無茶って言われても、私は白百合団内じゃ無茶な行動してないし……というかするなよ」
 からからと笑うテレサの額を、亜璃珠は突っつく。
「……まあでも、そんなに気負ったり堅苦しくなる必要はないんじゃないかしら? ムードメーカーもきっと必要よ」
「ムードメーカーかあ。あ、そうだ、忘れる前に亜璃珠の姐御にこれを」
「何よ、落ち着かないわね」
「はい、クリスマスプレゼント」
「……え?」
 いきなり渡された包みに驚き、亜璃珠が中を開ける。
「ロザリーからの手編みのマフラーと、私からの温かい靴下と手袋が入ってるよ」
 その言葉通り、マフラーと靴下と手袋が入っていた。
「あ、ありがとう……」
 突然のことに驚きながら、亜璃珠が感謝の言葉を言う。
 それにうんうんと満足して、テレサは小夜子に話を振った。
「え、いえ、私にはお付き合いしているお相手はいませんので……気になる人はいますが」
「へえ」
 目を輝かすテレサだったが、小夜子は特定の名前は言わなかった。
 テレサも無理強いせず、その背中を軽く叩いた。
「ま、好きなだけ悩んで、好きなようにぶつかって行けばいいだけだと思うなー。この人かなと思ったらアタック、駄目だったら新しい恋を探せばいいだけじゃないかな。駄目だったらの先が見えないのも若さだよ?」
「若さですか……」
 何か言いかけて、小夜子は一度口を噤み、上品な笑みを浮かべて、再び口を開いた。
「そもそも私自身、亜璃珠さん、ロザリンドさんに比べて強くも魅力的でもないので……どうしたら魅力的になるか。あとは、異性同性問わず可愛い、綺麗な人の気を引くにはどうすればいいのでしょうか……? あー。それとも、これは神様から与えられた試練なのでしょうか……?」
「随分と欲にまみれた試練ね」
 亜璃珠が苦笑混じりに笑いながらも、小夜子の問いに答える。
 そんな感じで女の子同士の話は尽きないのだった。