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夢のクリスマスパーティ

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夢のクリスマスパーティ
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 メイベルたち百合園女学院のメンバーの隣には、薔薇の学舎の生徒が集まっていた。
「クリスマスケーキって食べたことないんだよね……」
 ハーポクラテス・ベイバロン(はーぽくらてす・べいばろん)は同じ調理台になった薔薇学の先輩エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)に呟くようにそう言った。
「へえ、そうなんだ。俺の家はいつもクリスマスはケーキとチキンとかそんなだったなあ。親が仕事で忙しいときもあったけど、そういうときは弟と2人で楽しんだし」
 弟、という言葉を口にすると、エースの口元が緩んだ。
 その様子を見てクハブス・ベイバロン(くはぶす・べいばろん)が少し興味を持ち、いちごをつまみ食いをしていた手を止めた。
「兄弟がいるのですか?」
「ああ、エルシュって言う弟がいるんだ。これがまた可愛くて……」
 エースは楽しそうに、恋人でもある弟の話をする。
 クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は一瞬止めようかと思ったが、クハブスが意外とつまらなくなさそうに聞いているのでそのままにした。
 実はクハブスは兄に似ているからという理由で、ハーポクラテスと契約したという過去があった。
 兄を求め続けていたクハブスにとっては、弟を慕うエースの姿というのは微笑ましく思えるのかもしれない。
「そんなわけでその年のクリスマスは、エルシュとプレゼント交換で終わったんだ」
「へえ……」
 エースの話はハーポクラテスにとっては違う世界の話のようだった。
 ハーポクラテスはそのあまりの美しさゆえに、人を大きく超えた美貌ゆえに、人間として扱ってもらえない悲しい子供時代を過ごした。
 だから、そんなエースの話のようなちょっと寂しいけれど楽しい子供の頃の話などというのはないのだ。
「いかがですかー?」
 男性ばかりの集団ということで、真菜が心配して声をかけてくる。
 すると、エースは「真菜ちゃんが書いてくれたレシピのおかげで順調」と答え、一輪の薔薇を差し出した。
「レシピのお礼に、どうぞ、真菜ちゃん」
「え、でも、私だけ頂くのは……」
「いやいや、他の女性陣にもプレゼントしたので。真菜ちゃんにも」
 その言葉通り、香鈴がうれしそうにおだんごの頭に薔薇を挿していた。
「そういうことでしたら、喜んで」
 真菜が笑顔で受け取る。
「うん、その笑顔をもらえただけでうれしいよ。あ、あと一つお願いがあるんだけど……」
「はい、なんでしょう?」
「ホットケーキの作り方も教えてくれるかな。クマラが毎日のようにおやつをねだるから覚えておきたいんだよ」
「あら、クマラさんが?」
「そうそう、いつまでお子様なんだか……」
「だって子供だも〜ん」
 エースのぼやきに屈せず、クマラが笑顔で言う。
「分かりました。それじゃ、ホットケーキの作り方と、デコレーションを……」
「わあ、ありがとう」
 クマラが目を輝かせる。
「……楽しそうだなあ」
 そんなクマラに、パライパトルマリンブルーの瞳を向けハーポクラテスが呟く。
 同じくらいの年のときにあんなふうに笑ったことがあっただろうか……。
 小麦粉と卵を混ぜていた手を止め、ハーポクラテスが考え込んでいると、いつの間にか混ぜていた小麦粉と卵が赤くなっていた。
「何してるの?」
 ハーポクラテスが視線を向けると、ボールに血のように赤いワインをたらしていたクハブスが首を傾げた。
「赤い方がおいしそうではないですか?」
 吸血鬼らしい感覚として、クハブスは真っ赤なものが好きらしい。
 他にも真っ赤な薔薇や乙女の血を持ってきた。
「……あの、その真空パックの中身は……」
 赤い液体の入ったそれが真菜は気になったが、深く追及しないことにした。
「赤い方がおいしいかな」
「そういうものだと思いますよ。食欲に色味って関わるそうですから。色が綺麗ですし、良いと思います」
 クハブスはそう言いながら、とうがらしや梅干までつっこんでいった。
「気のせいか、混ぜにくくなったんだけど……」
「あ、きっと牛乳とかが足りないんじゃない?」
 横の調理台の鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)がハーポクラテスたちの会話を聞いて混ざってくる。
「牛乳……?」
「先ほどから見ていたが、小麦粉と卵と砂糖しか入れてないようなので……」
 同じく隣から氷雨のパートナーのレイン・ルナテッィク(れいん・るなてっぃく)がアドバイスを送る。
「あ、これだけじゃダメなんだ」
「そうだよぉ。ケーキって割と色々入れるものあってね」
 先ほど真菜に教えてもらった知識を、氷雨は楽しそうに披露する。
 ハーポクラテスが、うんうん、と素直に聞いてくれるので、氷雨の話に熱が入り、気づくとケーキ作りのほうの手はお留守になっていた。
「氷雨、それは砂糖じゃなくて塩だ」
「お嬢さん、それ、塩だ」
 思わずレインとエースの言葉が重なり、2人は目を合わせて笑った。
「え、あれ、こっちお塩だっけ」
 氷雨は慌てて入れかけたお塩を戻す。
「ええと……牛乳だっけ」
 ハーポクラテスは言われたとおりに牛乳を入れた。
 量は言われてないので適当だ。
「あ、なんだかピンク色の生地になったね。色がついてるって特別っぽくて楽しいよね」
 そう言いながら、氷雨が青い色の生クリームを出してきた。
「……それは、何?」
「飾り付け用のクリームだよ。やっぱり、青は大切だよね」
 にこにこっとしている氷雨を見て、レインは小さなため息をついた。
「……クリーム自体はきっと我が作ったからまともな味なはずだし……クリスマスだし……まぁ、いいだろう……」
 心配しながらもレインは自分の作業に移った。