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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

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第三章

 イルミンスール魔法学校。
 屋上で大爆発が起きる前、川で河童が現れた数十分後くらいの時。
 校長エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の部屋。つまり校長室前の風景。
 そこにはメイド宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)とそのパートナー? らしき物体がいた。
「今回こそ大丈夫よ。あの謎の天に近い場所っていうのは、イルミンスールで最も高みにいる者。つまり、最高の魔力を持つエリザベート校長の居る場所、校長室! そして更に、名前を呼ぶという事は……ジュンロクの正体はエリザベート校長の偽装だったのよ!」
 実は以前にも祥子はエリザベート校長にオシオキされたのだが、それはまた別のお話。
 今回はリベンジの意味もあって、余計にはりきっているのだ。
「ぬぁるほど、大した推理よ……だが祥子。我輩思ふに、今回の一件、エリザブェ〜ト校長のように見せかけ、実はっ、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の仕業ではなひのかっ?」
 その渋い男の良い声は祥子のとなりの物体、樽から出ていた。タルの中では無い、タルからだ。
 彼の名は樽原明(たるはら・あきら)。セイバーだ。種族は樽では無く、機晶姫である。
 誰が何の為に作ったのか不明な樽型機晶姫だった。誰が得をするのか。
 顔であるらしい部分には何も無いので、これまた渋い男のお面を付けている。
「そう、身内の超ババ様の仕業であるぬぁらば、校長も笑い飛ばして気にしなひのも、頷けると云ふもの」
「なるほど、でも……それは訊けば全て解る事よ」
 校長室の扉に手を押し当て、勢いよく開け放つ。
「エリザベート校長! ジュンロクはあなたよっ!」
「アーデルハイト・ワルプルギスぅ、黒幕は、あんただ……。神妙にお縄につけぇぇいっ!」

 チャンチャラチャンチャンッチャンチャラチャラチャラ、チャラララアラララチャラララチャルチャラ。

 どこかのパレードで使われてそうな軽快な音楽が流れて来た。
 同時に、校長室の中の光景も飛び込んできた。
「これはッ……?」
「な……、ぬぁんたる明るさッ!」
 電飾のようなもので飾り付けられ、部屋中がクリスマスムード一色に染まっていた。
「君たちもパーティーに参加しに来たのかい?」
 そこにはやたら派手で眩しい男がいた。
 ウィザードエル・ウィンド(える・うぃんど)。エリザベート校長を神、アーデルハイトを先生と慕う者の一人。
「エルじゃない。どうしてここに? それにこれは……」
「見ての通り、クリスマスパーティーだよ」
 エルはここでパーティーをする経緯を説明する。

 謎は全て解けた! → 頭に立派な角といえばアーデルハイト様。 → 毛むくじゃらというのはサンタのコスプレ。 → 良い生徒にはご褒美を、悪い子には説教すると解釈。 → そしてクリスマス……。

 真相『暗にアーデルハイト様がプレゼントを要求しているということだったんだよ!』

「という訳だよ」
「どういう訳よ」
「流石の吾輩も、驚きを禁じ得ぬぁ〜い」
 そう言った樽(明)の後ろに大きな角が当たった。
「誰が超ババ様じゃ〜っ!」
 突き上げられた樽(明)は重力に引き寄せられて床へと激突。衝撃でゴロゴロと転がり部屋の外へ退場。
「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 イイ声だけが後に残った。
「は、ハリケーンミキサー!?」
「誰がバッファローじゃっ!!」
 それは立派な角を誇るアーデルハイト本人だ。
「校長室前での推理は丸聞こえだったよ」
 やれやれとでも言うかのようにエルは呟く。
「えっ、じゃあ……校長は」
「ここにいますよぉ〜?」
 声は背後から聞こえた。いつの間に死角に入られたのか。
「また、私が犯人だぁなどと言っていたようですねぇ〜……聞き違いですかぁ?」
「……いいえ、ジュンロクは、あなたよエリザベート校長!」
 一歩も引かずに宣言する。犯人の名を。
 直後、扉の外から樽が転がって来る。
「この樽原 明ぁ……この程度で落ちたりはせぬぅッッッ!」
 樽の脇や底からワイヤーやらアームやらウネウネした長いモノやらが飛び出す。
 射出されたそれらはアーデルハイトに絡みつく様に巻き付く。
「アァァデルハイトぉ! 汝を捕らえる事が騒ぎの収束に繋がる。その先に、未来があぁぁるっ!!」
「校長、自首を勧めます」
 二人して自分の推理を推し進めるのだった。
「あぁー……、友達のよしみで言うと、逃げた方がいいよ」
 エルの言葉が終わるか終わらないか、その瞬間に――

 全ては終わっていた。


 廊下を歩く二人。
 屋上から避難して来たのだ。
「なぜ、罠に掛からなかったのです?」
 一人はナイトの赤羽美央(あかばね・みお)
「ミ〜のせいじゃないデ〜ス」
 もう一人はパートナーの吸血鬼ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)。ウィザードだ。
 ギャングサンタが発狂する前、二人は屋上に来ていた。場所だけは解ったのだ。
 しかし、肝心の謎が解けず、ライバルに先を越されまいと屋上の入り口に罠を仕掛けた。ハズだった。
「ちゃんと罠を見張っていたのデ〜ス」
「…………」
「ただ、みなさんが飛んで来たので仕方ないのデ〜ス……」
「……私たちが逃げる時に掛かるとは。皮肉です」
 彼女の白いロングウェーブの髪は湿っていた。というより、ずぶ濡れだ。
 どちらにしろ、屋上は跳梁跋扈といった感じになってしまったので、今は謎の解明とタオルが先だ。
 だが、タオルは無いがヒントはある。ジョセフが気づいたキー。
 そのキーを探す。それこそが答えへの道だと確信していた。
「おや、なにやら良い匂い……」
 その扉の向こうからは楽しげな声。そしてケーキの甘い匂い。
「ここは……校長室ネ」
「失礼します」(ガチャ)
「オーウ、怖気づかない所は凄いネ。でも美央? ノックを忘れてマース」
「その前に返事を待たずに入った事を注意するべきでは……」
 まず最初にエルが。
「パーティーなのだから人が多いに越したことはないのじゃ」
 次にアーデルハイト。
「私の部屋なのですけどぉ……大ババ様が言うなら仕方ないですぅ〜♪」
 続いてエリザベート校長が。
「あ〜……い〜……」
「オ、オ〜ルハイル、イルミンスゥゥル!!」
 最後に壊れた樽と、かつて人と呼ばれしモノが出迎える。
「……この樽はなんです?」
「全自動イルミンスール賛称機じゃ!」
「こちらのお嬢さんは酷い有様ネ」
「それはもう人じゃありませんよぉ〜。今日一日はそのままですぅ」
 あ〜、とか、え〜、とか、うい〜、とか言ってる人だったモノ。
 形はスライムになりかけているが、原型は保ったままでグニョングニョンになっている。
 何があったかは知らないが、それはそれでマスコット的な可愛らしさがあった。
「濡れていますね。このタオルをどうぞ」
 そう言って美央にタオルを手渡す大和。
「俺もさっきまでガチガチに凍えてたんですよ」
 はぁ……と生返事を返す美央。とりあえず風邪はひかずに済みそうだ。
「ところで、人数はもっと増えた方が楽しいと思うのじゃが?」
「お任せ下さいアーデルハイト様。屋上で暇そうなのを連れて来ます」
 脊髄反射の如く返答するエル。
「屋上……そうでした。謎を解かなければ」
 美央は謎の事を忘れていた。
 それほどにさっきの『全自動イルミンスール賛称機』はインパクトが強かった。
「じゃが、今屋上に行くのは止めた方がいいと思うのじゃ」
 魔法学校全体が振動を帯びたのは、その直後だった。



 それから数十分後の屋上。
 そこは、カオスといってもいい有様だった。
 何故なら、先程まで大暴れし、そのまま戦争が激化する勢いだった者たちが今。

 雪合戦をしていたからだ。

 既に十分な雪は積もっていた。雪合戦をしなければ嘘だという程の上質な雪だ。
 だがどうして急に雪合戦なのか。それは、ある人物が絡んでいた。

 もう少し前の屋上。
 まだそこは戦争中の時だ。
「お前らやめろぉぉぉぉおッ!」 
 戦場の中を、よく通る声が響いた。
 誰もがその声に驚き、そこにいた声の主に注目する。
 それは少年と、毛玉だった。
「お前らが討伐しようとしているジュンロクは、この子の親御さんかも知れないんだぞッ!!」
 少年の名は出雲竜牙(いずも・りょうが)。モンクだ。
 その手にはフワフワのケサランパサランのような毛玉を抱き抱えている。
「ボクのおとーさんや、おかーさんに会わせてください……」
 毛玉ではなく出雲たま(いずも・たま)。竜牙のパートナーだった。こう見えてもドラゴニュートのウィザードでもある。
「たまを親御さん会わせてやってくれよ! 捕獲だけでも良いモノは手に入るだろう?」
 確かにこのままではジュンロクを討伐と言うよりも、狩ってしまう。そうなると、もふもふ毛玉はどうなるか。
 恐らく、いや、確実に悲しむだろう。
「おとーさん……おかーさん……」
 つぶらな瞳には涙が浮かぶ。
 ほとんどの者が、ジュンロクは親御さんじゃねえだろ、とは思ったが、言葉にはしなかった。
「たまさん、僕たちが手伝いますよ」
 ニーチェがたまに言葉を掛ける。ついでに、もふもふ。その後ろにはヘーゲルもいた。
「仕方ねえな。俺も手伝ってやるよ」
 続いてディアス。ルナリィス。
「あれ、狩ってもいいんだっけ?」
「何を言ってるんですか美羽さん」
「高度で高級な高機能の私には至極簡単な事です。ホントです」
「普通より三段階高いんだ」
「あなたたちも手伝うわよね」
「そんなに睨まないで下さい唯乃ちゃん。もちろん手伝わせて頂きましょう!」
「やはり全弾はやり過ぎだった。でもスッキリしたな
「み、みんな、ありがとう。良かったな、たま」
 多くの者が賛同してくれる。
 ただ、全てでは無い。

「あたいは反対だぜぇ!」
 元々、良いモノが欲しくてここに来たのだ。それも、自分だけが独占したいと考える者もいるだろう。
「円ぁ、わかってるわねぇ〜?」
「面白そうなのでボクたちも反対だよね」
「ミネルバちゃんもガンバってジュンロクくんを狩っちゃうよ〜!」
「俺も枕元に立たれるのは御免だ。それにジュンロクを殴って、一汗かいてから寝ると決めたんだ」
「ヒーローとしては枕元に立つ者は許せないのですが、そういう事情がありましたか」
「クロセルよ、あの毛玉に協力するべきだ」
「しかしトナカイ鍋が……」
「じゅるり」
「マナ様ーー!?」
「今度こそ俺のトミーガンで」(以下略)
 捕獲派と討伐派、双方の火花が散る。
「ちょっとちょっとー! また大騒ぎしたらダメだよっ!」
 新しく屋上に訪れたプリースト三笠のぞみ(みかさ・のぞみ)
 彼女は衝撃の一言を放つ。
「次に爆発したりしたら校長が来るって!」
 それは同時に、この場が紅蓮地獄と化す事を意味していた。
 誰もが、それが他校であっても、エリザベート・ワルプルギスの名を知っている。
 無邪気な少女。無邪気それ故の恐ろしさもあった。
 だからといって、このままでは収まらない。
 ジュンロクは捕獲か、狩るか。今夜のクリスマスは、どっち!? という所まで来たのだ。
「ん〜! それじゃあさっ勝負をして決めればいいんだよね!」
 全員が何事かと、または、今更何をといった顔をした。
「平和的に勝負すればいいんだよっ!」

 という訳でサドンデス雪合戦(個人戦)が開催したのだ。
「そういう訳なんだけど……」
『なるほど……私はこのままジュンロクをこの森で捜して……』
 携帯電話の先で沈黙が流れた。。
これはこれは、私以外にも人がいたのですか。のぞみ、また後で連絡します』
 相手はそう言って切ってしまった。
「あれ、どうしたんだろう真言。まあいいや。こっちの状況は教えたしね!」
 携帯電話をしまって雪合戦に参加する。
「ん〜……本当は、なまはげさんのプレゼントを配る手伝いをしに来たんだけどなぁ。まあいっか!」
 どんなことだって楽しめる。彼女の長所だろう。