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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

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サンタさん? いいえ、ジュンロクです

リアクション


第四章

 怒涛の勢いで氷塊の域に達した雪玉が飛び交う様は、やはり戦場だった。
 そんな合戦を背景に、別の集団が集まり、議論を醸していた。
 その総数、十八人。
「それでは、おおよその推理は皆、同じという事か」
 そう発言したのはウィザードリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)
「でも、少しだけ違ったりしてますね」
 お茶をその場の全員に提供しつつ、小首を傾げるパートナーの剣の花嫁のミンストレル。ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)
「それはこれから摺り合わせるんだ。そうすれば、やがて真実が見えてくる」
 答えたのはもう一人のパートナー。ララサーズデイ(らら・さーずでい)機晶姫のセイバーだ。

「天に近き場所が屋上ってのは、変わらないな」
「でも、世界樹の方が高いよ? どうしてコッチなの?」
 二人はフェルブレイドの神名祐太(かみな・ゆうた)とそのパートナー。剣の花嫁、ナイトのシャルル・ピアリース(しゃるる・ぴありーす)

「目撃情報が目撃情報だし、それを含めての謎だと考えたら、コッチだと思うわ」
 ミンストレルアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)がその質問に答える。
 といっても、この中にも世界樹の頂点が天に近き場所と解釈し、そこからコッチに戻って来た者もいる。

「……っは! 俺の出番か! あとは眼下のキーってトコだなっ!」
 貴重な出番を逃さずに発言できたのはプリースト影野陽太(かげの・ようた)

「そういえば、さっきキーを探しに行くとか言ってバケツの水を被ってたのがいたな」
「キーって、やっぱり『あのキー』の事だよね」
 女の子みたいなナイト椎堂紗月(しどう・さつき)。そのパートナー、守護天使のプリースト有栖川凪沙(ありすがわ・なぎさ)
 二人はさっきの光景を思い出していた。

「ジュンロクがトナカイというのは、もう確定でいいな」
「ジュンロクはトナカイの別名ですわ。漢字で『馴鹿』これはまず、間違いないですわね」
 それはフェルブレイドのアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)と。
 パートナーの英霊。メイドのエレーナ・レイクレディ(えれーな・れいくれでぃ)だ。

 ココまでは多くの者が辿り着いていた。
 天に近き場所。それが世界樹の頂上だと解読した者は応用が効く柔らかい頭だ。
 しかし、ジュンロクが目撃された場所で最も高い場所は屋上だった。多くはその考えで一堂に会した。
 更にジュンロクという名は、馴鹿と書く。
 別名トナカイ。
 辞書でも見ればすぐに分かる。

「あとは、王と騎士、女王についてですねぇ」
「ここから皆さんの解釈が違うのですね。難しいですわ」
 それはフェルブレイド神代明日香(かみしろ・あすか)と、ローグのパートナー。剣の花嫁神代夕菜(かみしろ・ゆうな)

 様々な意見がここで出ている。何故、王と騎士が寄り添い、女王が離れているのか。
「これはそのままでいいから簡単だよね〜!」
 メイドのどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)はそう言い。
「王と騎士が寄り添い……やっぱり男の方同士でも恋愛はあるんですね……」
 何かスゴイ事を言ったのはパートナー。魔女のウィザードふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)

「そういう問題では無いのだが」
「男性同士で、ですかっ……!」
 ツッコミを入れるのはバトラー四条輪廻(しじょう・りんね)
 顔を赤らめるのはパートナーの守護天使。プリーストのアリス・ミゼル(ありす・みぜる)
「男の子同士でもいいじゃな〜い、あたしも女の子大好きだし〜。あ、だから女王が列から離れてるのね」
 なるほど〜、と感心するほしの。
 話が脱線しつつあるのをバトラー水神樹(みなかみ・いつき)が戻す。
「私はK、J、Qだと思ったのだけど。トランプの」
 王はキングでK、騎士はジャックでJ、女王はクイーンでQ。
 トランプの絵札になぞらえていると解釈したのだ。
「そうか? 俺はキングにナイトとクイーンで、チェスしか思いつかねえぜ」
 とは祐太の推理。
「王がキングとも限らないわよ。ロードという意味かもしれないわ」
 アリアはそういう解釈も取れると付け足す。
 それぞれの解釈でも正しい様に受け取れた。
「そうだな、そのチェスの推理を聞かせてくれないか?」
 リリは祐太にそう言った。
「俺のか、そうだな……俺はキング、クイーン、ナイトがチェスを想像させたからそう考えてみただけだ。そこから連想するのは……解るかシャルル?」
 自分のパートナーに訊いてみる。
「えっボク? え、えーと、ボクは王様に女王様、それと騎士だから。王様よりは偉くないけど女王様と一緒にいて騎士よりも偉い人かな……そうか、きっと王子様とお姫様だよっ!!」
「ああ、そうだな。そんな訳でチェスには順位がある。王の次は女王ってな具合にな」
 軽く流されて少し落ち込むシャルルだった。
「キング、クイーン、ナイト、この三つの間にはルークが入る。正確にはクイーンの次だな」
 それは一般的に言われるチェスの駒の価値というモノだ。ナイトとビショップは同列とすると、挟まれてルークが存在する。
「つまり、三つのキーから生まれる命ってのは『ルーク』なんだよ」
 これこそが祐太の推理によって導き出された答えだ。
「スゴイ祐太っ! 謎が解けちゃったよっ!」
「……ちょっと待て、まだ結論を出すのは早いと思うぞ。私はな」
 アシャンテが待ったを掛けた。
「そうね。他の人の話も聞いてみたいわ」
 アリアが同意した。続いて陽太も。
「でしたら、まずアリアさんの推理を聞いてみたいですね」
「えっ、私?」
「王はロード、という解釈もあるとか」
 その推理は王をキング、という解釈が安易で引っ掛けでは無いかと疑った考えだ。
 王がロード、騎士をナイト、女王をクイーン。
「あとの推理は、たぶん皆と同じで、ロードのL、ナイトのK、クイーンのQ。それぞれに跪く、見下ろす、支える三つのキー」
 アリアが辿り着いた答え。
「A、I、そして句点の三つ、つまり『愛。』よ」
 愛は命を育むもの。これこそがアリアの答えだった。
「なんて言っても、絶対に正しいとも言いきれないけどね」
 結局、アリアは深読みはしたものの、しっくり来ないのだ。
 他の者の推理はほとんど一致していた。
 アリアが途中まで言った解釈。
 その続きをリリが引き受ける。
「途中まで、既に説明されているけれど、王、騎士、女王はキング、ジャック、クイーンで間違いないと思うわ」
「トランプの絵札だね。そして、『あのキー』にそれらを当て嵌める」
 ララが引き継いだ。更にユリが確認するように続ける。
「えっと、キングはK、ジャックはJ、クイーンはQですよね?」
「そう、そしてKに跪くキー、Jを見下ろすキー、Qを支えるキーを探せばいいのさ。簡単だよ。何がある?」

 さて眼下のキーを確認しよう。
 目の前の隣同士にある『K』『J』列が違う『Q』
 その下、上、下とは?

「えむ……、ゆー、……えー……?」
 ユリが一つ一つ確認していく。
 順番に足元に積もった雪へと文字を記す。
 ムア。
 書いた本人が意味が解らないと首を傾げる。
「それでは命にならないのですぅ、なので、順番を入れ替えると……」
 明日香が横から手を加える。たった一文字、配列を逆にしただけだ。
 それだけで意味のある文字と、それはなった。
 その場にいた者のほとんどがそれを正解と確信している。
 遠く離れた地の者だって、答えは解っていた者がいるかも知れない。ただ場所が悪かったのだろう。
 冷たく白い雪の表面。

 そこには『UMA』と読める溝が刻まれていた。

 あまりにも呆気ない答えだ。
 その場にいた者、いない者。
 多くの者が挑んだ問い。その解。
 わかってしまえばやはり、ああそうか、の一言で終わる。
 そんな問題。
 ただ、この問題にはオマケがある。
 解いた者には良いモノがプレゼントされるはずなのだ。
 そもそも、それを目的としてここにいるのだから、期待せざるを得ないだろう。
 いよいよジュンロクのお出ましか。皆の期待は高まる。
「で、これって何て読むんだ?」
 ふと、紗月が呟いた。
「どういうこと?」
 パートナーの凪沙も何の事かと尋ねる。
 他の者も同じ気持ちだった。
「だからさ、これは何て読むのかなって……ユーマか? 未確認動物だな!?」
「それ絶対違うから! ユーマなんているわけないじゃん!? 馬じゃないの?」
「夢がねーなー、UMAとかいるって信じてた方がわくわくするじゃん」
 確かに、それはユーマとも読めた。そして未確認だろうが生物だ。命はあるだろう。
「あたしも同じだよ〜! それとも、おおぐま座かな〜?」
 ほしのが言ったのは星座の名だ。
 大熊座の略符としても読む事は出来るのだ。
「俺は馬だと思うけど、馬って天馬とかいるし……ペガサスとかユニコーンとか」
 種類で迷うのは陽太。どちらかっていうとユニコーンかな、と続ける。
「馬という意見には俺も同意だ。しかし、天馬か……」
 お茶を飲みながら輪廻は言う。
「それでは、何が正解なのかわかりませんねぇ」
「プレゼントも頂けないですわ……」
 明日香は不思議そうに、夕菜は残念そうに言った。
「……ジュンロクが来るまで、答え合わせは無し、か。……ん?」
「なー」
 猫がいる。
 アシャンテの足元に、黒い猫が。
「主様、猫ですわ」
「……見れば解る」
「なー」
「あーミケ―、こんなところにいたんだー!」
 子供のような声で駆け寄って来たのはウィザード立川るる(たちかわ・るる)
「なー」
 この猫はパートナーのアリス。メイド立川ミケ(たちかわ・みけ)
 ミケは何か言っているが、猫の言葉なので、当然ながら理解はできない。
「なー」(ジュンロクの正体は全身が毛むくじゃらで、頭に立派な角を生やしている生物……つまりあたし!)
 ミケは喉をゴロゴロ鳴らしている。
「なー」(あたし自身も気付かなかったけど、良い子にプレゼントを届けるのがあたしの使命……!)
 ミケは顔を洗っている。
「なー」(信じてくれる良い子にはご褒美をあげるわっ!)
 ミケはカッとした。アシャンテに。
「カッとされた……」
「ネコってカワイイよねー」
「ネコ、可愛い……」
「月夜はネコが好きだったんですか?」
 いつの間にかミケを撫でている剣の花嫁のローグ。漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)
 彼女はナイトである樹月刀真(きづき・とうま)のパートナーだ。
「ネコは可愛い」
「まあ、そうですね」
「可愛い」
「気に入ったのかな?」
 二人も例に漏れずにジュンロクにプレゼントを貰いに来たのだ。
 というよりも月夜が『刀真、ジュンロクさんは何をくれるのかな?』などと目をキラキラさせて言うのだ。
 否定するのも悪いし、というサンタ理論で刀真は夢を壊さないようにジュンロクを見定めに来た。また変態ならドロップキック。
「それにしても、ジュンロクが来ない事には答え合わせができないようですね」
「はい。まったくもって申し訳ない事で。ええ」
「本当ですよ……うん?」
「もふもふ〜♪」
「ニーチェ、ヘンなものに抱き付くな」
 刀真の隣にいた『毛むくじゃら』にもふもふするニーチェ。たしなめるヘーゲル。ハニワ顔の刀真。
「おやおや、お嬢さん。この毛むくじゃらめに興味がおありで?」
 にやり、と不敵な笑みを浮かべたのだろうが、マスコットが笑っている様にしか見えない。
「あの〜、まさかとは思いますが」
「ええ、はい。私はジュンロクと申します」
 毛むくじゃらの角が生えたトナカイ……の『ゆる族』が、そこにはいた。
「なー」(またまたご冗談を)
 ミケの言っている事は人間には解らない。
「えっ本当に? ジュンロクっ!?」
 誰もが驚いた。それも当然だ。待望の本人が目の前に、なんの前兆も無しに現れたのだから。
「あ、会いたかったのです。おとーさん!」
 もふもふがもふもふに駆け寄る。
「おお……息子よー!」
 もふもふが二つくっ付いて超もふもふが出来上がった。
「よかった……よかったなぁ、たま……」
「も、もふもふが……超もふもふがぁ……!」
「ニーチェ、自重ってしってるか」
「放してくださいディーくん! ルナちゃん助けてください!」
「……もふもふ、良かったね……ッ」
 もふもふの織り成す謎の感動ともふもふによって聞いていなかった。
 もふもふがゲシュタルト崩壊を起こしそうになった頃、ジュンロクは言った。
「って誰がお父さんやねーん!」
「ですよねー!」
 周りの人は一斉にこの展開に安著したが、同時に竜牙のドロップキックからエルボーのコンボがジュンロクを襲う。
 たまはというと、顔が『しょぼーん』としていた。それはそれでカワイイ。
 この時、ジュンロクの存在に気付いていたのは推理に勤しんでいた者だけでは無かった。
 戦争中でも、その姿は目立っていたのだ。