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年越しとお正月にやること…アーデルハイト&ラズィーヤ編

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年越しとお正月にやること…アーデルハイト&ラズィーヤ編

リアクション

 1月1日 10:00
 年が明けた。お正月バトルのラストを飾り、一年の最初を楽しく彩る勝敗の行方が今日こそ決まるのである。
 「ところで、一組足りないようなのですが…」
 メンコは3組ずつの参戦だったはずなのだが、白組に一組姿を表さないペアがいて、どうにも始めることができない。時間までに姿を現さなければ白組不利のまま始めるしかない。そもそも人数が少ないので、戦力差が歴然としすぎていると思われるのだ。
 なかなか始まらない開始の合図に、会場がざわつき始める。
「どうやら、一組来ぬようじゃ」
「あらあら、どこかで倒れておられないとよいのですが」
 主催者二人は、本日は振袖で観客席にいた。今日はヒパティアも振袖を着て、彼女らのとなりに座っている。
 この中でだれか間違っている気がするのだが、突っ込んではいけない。
 
 白組面子を集めてフューラーは臨時に会議を行った。
 のほほんと志位 大地(しい・だいち)が相棒のシーラ・カンス(しーら・かんす)と、白組仲間のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)に話しかけた。
「シーラさん、エヴァルトさん、どうしますかねえ」
「そんな難しいことかしら? 全部ぶっ飛ばせばいいのよお」
「そうだな、貴女のいうとおりですよ」
「やっちゃいましょー!」
 エヴァルトは全て同意し、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が元気に返事をした。
 誰からも「ぶっ潰せ」以外の意見が出ない、大地はにっこりと笑った。
「というわけで、白組の総意はこのままでかまわないんで続行を望みます」
「了解致しました、それではアナウンスを始めますので」
 そこをシーラが呼び止めた。
「待って、どうせならこちらは二組なんだし、じゃんけんでどっちかが赤の二組を相手するってことでどうでしょう?」
「いいですよ、勝ったほうが相手にする二組を選びましょう」
 結局シーラが勝ち、うきうきと相手を即席のくじで決めた。
 
『お待たせいたしました、これよりメンコ大会を始めます。泣いても笑ってもこれで勝敗が決まります、前二日の競技に参加されていた方々のおかげで、勝負はどちらにも転がります。是非とも固唾を呑んでお待ちください。なおトラブルのため、少々やり方の変更を加えさせていただくことになりました』
 観客は早々のトラブルに不安を覚えていて、無事開始されるならそれだけで喝采である。
 多少のレギュレーションの変更など、大したこだわりはない。
 ちなみに姿を現さない残り一組、百々目鬼 迅は、闇討ちの返り討ちによる行動不能である。合掌。
 
『さて、あらためてメンコの解説を致しましょう。参加者にはこのカードが配られていますね?』
 何の変哲もない黒いカードが手渡された。これを叩きつけるのだという。
『メンコは凧やコマと違って一瞬で勝負がつく競技です、それではちょっと面白くありませんので、我々は少し考えてみました』
『一回で勝負はつきません、100ポイントを平等に与え、メンコを3回叩きつけ、どちらのポイントがどれだけ削られるかという勝負になります。…それから…』
「なんじゃ、はよう続きを言うのじゃー!」
 アーデルハイトに野次られて、執事はしぶしぶ続きを繋げた。
『…裏ポイントとして、メンコになる男性はどれだけ間抜けに叩きつけられひっくり返るか、女性はその…どれだけ、叩きつけられる代わりに服がはだけるか…と…』
 も、申し訳ありませんどう説得しても止められませんでした! と執事はかなり泣きが入っている。
 …主催者達か…、と参加者達はすべからく犯人を当てる。
『せめてもと思い、これらは審査はされますが勝敗には左右しません、記憶には残るかもしれませんがお気になさらず。痛覚も完全にブロックしておきますので、想像の限りをつくして面白いポーズをお願いしますね。あと別に女性が叩きつけられても、男性が脱いでもいいと思います、ブーイングが出なければね』
「ふふふ、初笑いと、初萌えじゃ」
「アーデルハイト様、ほんとうにそれだけですか?」
 といいつつラズィーヤもにやにや笑っているのだ。しかし初萌えなんて言葉、あったでしょうか?
 
 サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)は少しおろおろしていた。
 嫌に上機嫌だったヨーフィア・イーリッシュ(よーふぃあ・いーりっし)が、おそらく主催者達の暴挙でほぼ単独のセクシー担当になってしまうらしいことに気を悪くしないか気をもんでいた。参加者を見回してみたところ、何せもう一人の女性は、いかにもメカ然とした機晶姫なのである。あちらさんはどこをどう脱ぐのか、彼女にはわからない。
「うわあ、ヨーさん、どうしよう…」
「大丈夫望む所よ、私は準備万端よ!」
「ちょっ…準備万端っスか!? アーデルハイト様じゃないけど、こんなこともあろうかと! っスか!?」
 彼女の上機嫌の真の意味をようやく悟ったサッちゃんである。
 ヨーさんは、なんとそのために着物をあつらえていたのだ。ここは死に物狂いにならなければ、ヨーさんのだいじな所が晒されてしまう…!
 
「なにか、一組来られないとのことで、大変だったみたいですね。私が力になれるとよかったんですけど」
 ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)は、戻ってきたエヴァルト達を心配した。
「ミュリエル殿、これは事前登録制なのだし、来られない者は何か理由があったのだろう、気に病むことはない」
 デーゲンハルト・スペイデル(でーげんはると・すぺいでる)がそれをなだめる。
「そーよミュリエルちゃん、それにボク達そんなハンデには負けないから、大丈夫だもん」
「でも女の人は脱ぐって、ロートラウトさんはどうするんですか!?」
「だから大丈夫だよ、ボクの格好見てよ!」
「…すごく、メカであるな」
「それ以前に、そんなことはミュリエルにはさせられんからな」
「お兄ちゃん…ありがとうございます…!」
 うっとりとミュリエルはエヴァルトの気遣いに頬を染めた。
 
 
「皆、勝ちにいこうぜ!」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)は、ホワイト・カラー(ほわいと・からー)や、共に組むことになった椎堂 紗月(しどう・さつき)に笑いかけた。
 そうして笑顔で振り向いたものの、それ以上に笑顔なホワイトに、彼は若干汗をたらす、どうしてこんなに異様なまでにやる気なんでしょうか?
 想像以上に燃えているというよりも、むしろ怒りに似たものをホワイトの裏に感じるエルである。
 紗月は相手がだれであろうとやる気にはいささかも目減りしない。
 有栖川 凪沙(ありすがわ・なぎさ)椎堂 アヤメ(しどう・あやめ)は、紗月がメンコのときに脱ぐ役をやらされはしないか、それだけが心配である。
「むしろ向こうは一組で俺達二組を相手する気らしいぜ、舐めてやがるよな!」
 そういえば相手は誰だったかな、とエルは敵方を伺った。そこにいる人達を見て、嫌な予感ばかりがするのである。
「まさか…ね…」
 二組のうち片方はともかく、もう片方は味方にするならともかく、敵として当たりたくない相手なのだ。
 しかし時間は迫り、簡単な打ち合わせを行ってPODに向かう。
 紗月たちは、投影されたエルを見て、とても不思議な顔をした。
「あんた、なんかフィルターでもかけてんの? えらくまぶしいんだけど」
「この人はこういうピカピカやかましい人なんです、気になさらないで」
 自己イメージ生成とはかくあるべきものである、彼の脳内では、彼自身はこうなっているのだから。
 今回は輝度何割増しだろうか、勝負事という要素がさらに彼の輝度を増しているのは間違いなかった。


 1月1日 11:00
 
 サレンとヨーフィア、エヴァルトとロートラウトが相対して、一組目のメンコ勝負が始まった。
 
 ヨーさんは振袖姿で現れ、会場からはどよめきがあがる。
 一方ロートラウトは、自分の記憶の中のメカを再現してもらうことにした。
 重戦車型メカが現れ、重爆撃機型メカが飛翔する、光とともに変形したメカとロートラウトが合体し、ヘルメットとフェイスガードが装着された。フェイスのヒンジがかちりと止まり、合体変形が完了した。
「ロートラウト・エッカート完全体! 参! 上!」
 振袖とは違う意味でのどよめきもあがった。
「すごいぞ! そうなっているのか!」
 エヴァルトはロボットマニアだけあって、相棒の勇姿に興奮気味だ。
 
『それでははじめさせていただきます、一回目、カウントが0になると同時に叩きつけてくださいね』
 一回目のカウントが開始される。
 ロートラウトは轟雷閃をまとい、エヴァルトのドラゴンアーツで叩きつけられた。
 ヨーフィアはチェインスマイトと、サレンの遠当てで投げつけられた。
 ロートラウトは30ポイントを失い、ヨーフィアは35ポイントを失った。
「あちゃ、こっちが不利っス…ヨーさんのお肌が…!」
 会場は固唾をのんで見守っていた。
 はらりと帯が解かれ、前板や帯枕などの小道具が転がる。ヨーさんの脱衣度はそこで止まり、前あわせを手で掻き合わせてセクシーな姿に野次めいたざわめきが起きている。
 一方ロートラウトの方はどうなるのかという、別種の期待があったが、こちらは体のあちこちに小さな爆発を起こして、装甲をぼろぼろにしている。
 どうやら、ヨーさんの脱ぎ率に対抗し、装甲の破損率で再現をする模様である。
「痛みはないんだけど、ものすごい戦いをした感じがするよ…!」
「こ、これは萌えではない、燃えだ!」
 装甲の破損は、過酷な戦いを繰り広げた証ともいえる、熱い展開の証拠なのだ。
 
 二回目が始まる前に、サレンは相棒の様子を伺った。これ以上彼女の着物を剥かれるわけにはいかないのだ…!
 しかしそこでサレンは違和感を覚えた。彼女の知識にある着物とは、何かが足りない気がしたのだ。
「…!? ヨーさん!?」
 襟元のあわせをよく見て、彼女は気がついた。ヨーさんは肌襦袢をつけていない!
 ―ストーップ!!!
 ものすごい叫び声が会場を凍りつかせた。
「すみません! いきなりですが降参するっスっ!!!」
「えええー、サッちゃんどうしてよー!」
「ヨーさんいくらなんでもそれ以上脱いだらだめだからッス!」
 お色気担当とはいえど、超えてはならないラインがあるのだ。
 ブーイングが当然起きたが、譲れないものはあるのだ。
 
『赤組のヨーフィア・イーリッシュ、サレン・シルフィーユコンビ、リタイアにより白組のロートラウト・エッカート、エヴァルト・マルトリッツコンビの勝利となりました…!』
 ブーイングをものともせず、フューラーは揚々と次へ進めた。
 
『さあ、次の方々どうぞ。今回は人数の関係と本人の希望で、白組の方は赤組の方二組を相手することになっております』
 バトルの開始点にたち、エルは相手を認めて驚愕の表情になった。
 あの赤いパイルバンカーは、間違いない!
「紅い(パイル)バンカーのシーラ(ァ)か!!」
「ふふふ、エルさん、お手柔らかにお願いしますよ」
「あら〜、雪合戦のときの彼女達ね〜、今度こそ紅爛ちゃんの感想、きかせてね〜」
「あの時のパイルバンカーだと…攻撃力の違いが、メンコの絶対的差でないということを教えてやる! アヤメいくぞ!」
 
 演出を打ち合わせ、紅白は向き合う。
『それでは、一回目、カウントが0になると同時に叩きつけてください』
「了解、ホワイト…僕を導いてくれ!」
「地面に、ですわねわかります!」
「とりあえず、叩きつければいいんだな?」
 ご機嫌、という説明では済まされない勢いでホワイトはエルを叩きつける、爆炎波の勢いまで利用してかなりのポイントをたたき出した。
 一方シーラはパイルバンカーを改造してメンコを打ち出せるようにしてあった。
 叩きつける勢いを演出して、地面にのめりこむ。ギャグマンガなどでよくあるように、地面を人型にえぐるアレである。しゅうしゅうという煙のエフェクトまで追加し、エルにいたっては光の粒子を散らしていかにも『機体がダメージを受けました』という燃料漏れ的な感じの演出なのだ。
「おー、見事な人型じゃ! 赤組に裏ポイントをひとつ!」
 ヒパティアも今回はアーデルハイト達と同じ観客席で、ビジュアル判断の審査員にされている。とにかく現実では出来ない演出を求められ、人間の想像力というものに思いをはせている。ぱちぱちと手を叩いてアーデルハイトの意見に同意だ。
 観客席から笑いがおこり、目立てたエルはご満悦だ。
「ふふふ、ボクの本領発揮させてもらいますよ」
「おやあ、甘かったですね」
 大地はふつうに地べたにべったりと這ったのだ。何もないところでもしこのように転べば確かに面白いかもしれないが、これはインパクト面でははるかに敵に負けている。
「シーラさん、ポイントは大丈夫ですか?」
「ええ、二人を相手にするものだから、その分多くいただいているようですね」
 大地は紗月の攻撃で30ポイント、エルの攻撃で35ポイントを失い、二人はそれぞれ35ポイントを持って行かれた。
 現在大地135ポイント、紗月・エルともに65ポイントである。
 
 二回目のカウントが始まった。
 紗月はエンデュアとディフェンスシフトをかけて、叩きつけられに挑んだ。
 エルはサンダーブラストとともに叩きつけられることにした。スキルがポイント増減に有効だと気づいたのである。
「少し本気を出しましょうか…」
 大地はくるりと裏返った。メンコは眼鏡を外した大地のビジュアルに変更され、彼の本気が伺える。
 シーラが適者生存を使って相手の妨害に入り、大地はエンデュアで身を守る。
 カウントが0になり、「見せてもらおうか!」などと言って三者三様にメンコがたたきつけられると、エルの雷とともに、全員が見事に地面に突き刺さった。
 手を体の脇に揃え、まっすぐ頭から地面に突き刺さり、体が半分びよーんと突き出していた。
「くほぅ(くそう)、えんふふははふはひひは(演出がまるかぶりだ)…!」
 紗月が半分埋まったまま悔しがる。次はどんな愉快なポーズを考え抜くかだ。
『これはこれは見事なシンクロ率、ウォーターボーイズならぬ、アースボーイズとでも言いましょうか』
「あら、これはイーブンですわね」
「うむ、ポイントをどうするかのう」
 結局双方に裏ポイントが与えられることになった。
 大地は紗月に25ポイント、エルに30ポイントを持っていかれ、紗月は25ポイント、エルは30ポイント持って行かれた。
 大地残り80ポイント、紗月40ポイント、エル35ポイント、赤組が合計で若干不利のまま覆せてはいない。
「…ねえ、ホワイト、ボクだけ異様に埋まってた気がするんだけど、気のせいかな?」
 
 三回目、これで勝負が決まる。
「よし、ラストシュートいきますよ!」
「おう!」
「伽藍ちゃん、いきますよ?」
 今度はシーラは、虎の突進力まで使ってメンコを叩きつけた。
 一方ホワイトは、ソニックブレードでメンコを叩きつけた。それはもう嬉々として。
 赤組の二人は、仁王立ちで地面に突き刺さった、ミラーシンクロで二人とも片手をあげ、綺麗に足元から吸い込まれる、まるで自由の女神のように。
「ふふふ、私の想像力を防げるでしょうかね…!?」
 一方大地は身体を丸め、まさしく隕石となって飛んできた。着地点には巨大都市のミニチュアがあらわれ、スケールを再現してか、都市はゆっくりと大地隕石によって破壊されていく。
 そして隕石の衝撃はとうとう赤組の二人ごと吹き飛ばしてしまったのだった。
『な、なんだってー!?』
 空中をくるくる飛んでいく赤組二人は、爆発とともに悲鳴と綺麗な弧を描いて吹き飛ばされていった。
「隕石落としじゃと!?」
「まあ、すごいですわ! 掛け値なしにポイントはこちらですわ!」
 大地は紗月に25ポイント、エルに40ポイント、紗月は30ポイント、エルは35ポイントを持っていかれた。
 大地は20ポイント、紗月は10ポイント、エルはポイントを全て失い、軍配は白組の大地に上がった。
 
 
『ただいますべての決着が完了いたしました、凧揚げは白組、コマ回しは赤組、メンコは白組。結果ここに白組の勝利が確定いたしました!』
 うおおおお、というどよめきが会場を満たした。ざわざわと広場に人が埋まりだして、3Dの花火やバーチャルな小鳥が花の枝を撒いていく。3日間の勝負の見所がスクリーンに現れて、勝敗こだわらずいい見世物になっている。
 アーデルハイトとラズィーヤが壇上に現れて、会場に集まっている皆に向かって軽いスピーチを始めた。
『今回も楽しませてもらった、勝者には一年よきことがあるように願っておる』
『負けた方も、とても頑張っていましたわ、皆様素敵でした。年末年始にかけて、これほど力の入ったバトルを見られた我々は喜ばしい限りです』
『私どもも、三日間真心をこめて悪ノリさせていただきました。このような場を与えてくださって感謝しています』
『負けたほうも気を落とすな、初詣でもして一年を祈って参れ』
『私も参拝してから学園に戻るとしましょう、それでは皆様ごきげんよう』
 ラズィーヤの腕にバーチャルの孔雀がとまり、彼女の導きで羽ばたいて、尾をなびかせて会場を一巡した。
 バトルは終わった、あとは生徒達が自主的に遊びに行ったり、やりたいことをやるのだ。
 一月一日はまだまだある、空京の神社まで足を伸ばしても時間はある。
「じゃあ、俺たちも初詣にいくか」
 誰かがそういって、皆は各々好きなように行動し始めた。