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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃

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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃
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第2章 仲間を助けろ・・・施設へ潜入

「この辺で上昇するか」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)は施設から2km地点で小型飛空艇を上昇させる。
「天城ちゃん〜!」
 一輝に向かって広瀬 ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が左手を振った。
「さっき砲撃で撃ち落とされそうになっている人を見かけたです!気づかれたら、ファイたちにも飛んで来ちゃいます」
 飛空艇を彼の方へ寄せたファイリアは警戒するように言う。
「そんなのが飛んでくるのか・・・」
 海に沈められる可能性を予感した一輝は眉を潜めた。
「太陽の方角はこっちです」
「あぁ、キツイのをくらわしてやる」
 太陽を背にした一輝は機関銃を片手に持ち、もう片方の手でハンドルを操作する。
「空の方は任せたよ」
 小型飛空艇に乗ったウィノナ・ライプニッツ(うぃのな・らいぷにっつ)が彼の隣へ寄り声をかけた。
「もう間もなく目的地点へつきますよ」
 ウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)の声に一輝はハンドルから手を離す。
「高度を下げよう・・・600m、550m・・・500m。よし、この位置で待機していよう」
「2人とも、行くですよ!」
 上陸したファイリアたちは飛空艇から降り施設の方へ走る。
「燃えちゃいなよっ!」
 侵入者を阻もうと東門に群がる兵たちに向かってウィノナは火術を放つ。
 襲撃された亡者がいっせいに彼女たちの方へ振り向く。
「そこの木の密集する所に行くよ。相手の攻撃手段を減らすんだ!」
 門の前から引き離そうとウィノナは声を上げて林へ陽動する。
「ま、ままま、前も見たから怖くない、怖くないですーっ!!」
 ファイリアは薙刀を握る手を震わせながらも立ち向かう。
「ほぉう。その震える手で得物を振うことが出来るのか?」
 炎に包まれながら兵が刀の切っ先を少女へ向ける。
「生きている者どもは傷つけられると悲鳴を上げるんだったな」
「―・・・あぅっ」
 一歩前に出し間合いを詰めようとする兵を恐れ、ファイリアは瞳に涙を溜める。
「くたばれば痛みも感じなくなるだろうがな!」
 恐怖に震えて術が使えない少女を仕留めようと刀を振り下ろす。
 ズシャァアアッ。
 真っ赤な血が地面に飛び散った。
「あれ、痛みを感じない・・・。ファイはもう・・・ナラカに落ちちゃいましたか・・・?」
「何を言っているんですか、まだ生きていますよ」
「え・・・でもさっき刺されて・・・」
「その前にボクが倒しましたよ」
 少女は恐る恐る目を開けると、そこには見知った顔が瞳に映る。
 ファイリアが斬られる前に、木の上から飛び降りたウィルヘルミーナは兵の脳天から喉へ剣を突き刺した。
「ちょっと、こんなところで倒れている場合!?怯えている暇があったら、1匹でも多く兵の数を減らすのよ!」
 ゴースト兵に怯えるパートナーのファイリアを守ろうと、駆けつけたウィノナが眉を吊り上げて怒鳴り散らす。
「とりあえず怪我がなくてよかったわ」
「うぅ、ごめんなさいです」
「さぁファイリアさん、頑張りましょう」
 しょんぼりするファイリアの銀色の髪をウィルヘルミーナが優しく撫でてやる。
「兵たちが来たわ。やるわよファイ!」
 ウィノナが亡者の群れへ氷術を放つ。
「う、動きが止まっていれば怖くないですっ」
 ファイリアは薙刀の刃を振るい、恐れていた存在の胴体を斬り裂く。
 無理やり身体を動かそうとする兵の肩を踏み台にしたウィルヘルミーナがターゲットたちをバラバラに断裂させる。
「はぅっ、まだ来るですよー!」
 彼女たちを捕らえようと施設の中から出来てた兵たちが林へ向かってくる。
「で・・・でも、生徒さんたちのために頑張るですっ」
 薙刀をぎゅっと握り締め、ファイリアは襲いかかるゴーストの数を減らそうと果敢に挑む。
「やっと入りやすくなったようね」
 シエラ・クレージュア(しえら・くれーじゅあ)はファイリアたちに兵が向かっている隙に、隠れ身の術を使い施設内へ侵入した。
「ここが例の孤島みたいだねぇ」
 孤島に到着したルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)は、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)に携帯電話で連絡する。
「もしもしルーセスカだけど、今ついたよ」
「あぁ分かった。準備を終えたらこっちから連絡する」
「おっけー!」
 連絡を入れるとルーセスカは電話を切った。



「人海戦術で捕縛しようとしているようですよ・・・義父(とう)さん」
 パルマローザ・ローレンス(ぱるまろーざ・ろーれんす)は傍にいるスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)へ顔を向ける。
「気をつけねばな、囲まれたら終わりなのだよ」
 草木の中へ身を潜め、ニホンオオカミ化したヨシュアは超感覚で敵の気配を察知しようと耳を澄ます。
「ここら辺から誰かの声が聞こえたようだが・・・」
 隠れている彼らの声を聞いた兵が周囲を見回す。
 ガサササッ。
 相手が背を向けた瞬間、ヨシュアが標的の首に噛みつく。
「んなっ、こいつ・・・離れろ!」
 地面に倒れた兵はダガーを振り回し、彼を追い払おうとする。
「ほほぅ・・・まだ喋ることが出来るとはな」
 驚きのあまり彼は金色の瞳を丸くした。
「たしか痛覚がないのだったな。ならば、苦しまずにもう一度逝けるな」
 冷酷に言い放ち、首を食い千切る。
「獣風情がよくもぉおおっ!」
 仲間を倒されたゴースト兵は怒り狂い、ヨシュアへ目掛けて剣を突き下ろそうとする。
「義父(とう)さんに何しようとしてるんだよっ」
 リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)がドラゴンアーツのパワーで兵の腕を殴り飛ばす。
「他のやつらが来る前に早く行って!」
 潜入の隙を窺っている生徒の存在に気づき、振り向いたリアトリスは剣を門へ向けた。
「すまない・・・そうさせてもらう」
 虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は仲間と合流すべく、急ぎ施設内へ潜入する。
「おい、貴様!そこをどけっ」
「悪いけど、追わせるわけにはいかないんだよね」
 バスターソードの柄を握ったリアトリスはフラメンコを踊り始めた。
「踊りやがって・・・こいつ、オレらをバカにしてんのか!?」
 兵の怒りに拍車がかかり銃弾を放つ。
「バカに・・・?それは違うね。これが僕の戦い方だよ!」
 リアトリスが踊りながら轟雷閃の電光を纏った刃を振り回す。
 刃の餌食にして断裂させた死体の上を踊る光景は、死者を踏みつけ現世からあの世へ落としているような絵画に見えた。
「私もやりますよ。術を組み合わせて爆弾を・・・あれ!?」
 火術と雷術で爆弾を作ろうとしたパルマローザの手から、ぷしゅんっと術の気が消えてしまった。
「なにやら不発だったようだな」
 逃れようとしていた兵がニヤリと笑う。
「爆弾・・・?破壊工作で作るのだよ!」
 失敗してしまい、呆然としているパルマローザに向かってヨシュアが言う。
「あっ、何するんですか!離してくださいっ」
 兵に隙をつかれてしまったパルマローザは鎖とロープで鎖に巻かれ、じたばたと足を動かして暴れる。
「こいつらも捕まえろぉおっ」
「大変だよっ!パルマローザが捕まっちゃったよ、このままじゃ僕たち2人も!!」
 焦ったリアトリスは無線で一輝に連絡する。
「こちらもあまりよくない状況なんだが・・・」
「僕らも無理無理ぃい!人数が多すぎて倒せないよーっ」
「兵たちを一掃しかないな。急いで西側へ来てくれ」
「わ、分かったよ!」
 無線を切るとリアトリスたちは全力で西門へ向かう。
「あれか・・・40人くらいはいそうだな・・・」
 一輝は連絡してきた仲間の生徒を見つけ、彼らを追う兵の姿へ視線を移す。
 リアトリスたちに当たらないように、最後尾にいる亡者たちを狙う。
「ありがとう、ここまで減らしてくれれば片付けられるよ」
 残った数匹の兵を薙ぎ払った。
「少し林の中で休憩しよう。オレたちまで捕まってしまっては、牢から生徒たちを助け出した仲間を守れないであろうから」
 体力を温存するためにヨシュアはリアトリスと林の中に身を隠した。



「ずいぶんと東門が手薄になったな」
 侵入の隙を窺っていた風森 巽(かぜもり・たつみ)が門へ走り寄る。
「よぉおし、ドアを壊しちゃおう!」
 ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は扉を破壊しようと、ヘキサハンマーで殴りつけた。
 ドゴォンンッ、ドォオンッ。
 扉を殴りつける凄まじい音が辺りに響く。
 ビキキッと扉にヒビが入り崩れ落ちる。
「中に入ろう♪」
 ブラックコートを纏い施設内に足を踏み入れた瞬間、大勢のゴースト兵が待ち構えていた。
「あ・・・ちょっとやばい雰囲気?」
 侵入しようとしているティアの目の前には、騒音を聞きつけた兵たちが集まっている。
「こいつらを捕縛しろー!」
 ティアと巽を捕まえようといっせいに掴みかかる。
「―・・・こ、来ないでよぉおっ」
 牢獄に入れられてたまるかと、ティアはハンマーをぶんぶん振り回す。
「まったく、中で騒ぎを起こすなんて・・・」
 彼らと共に捕まっている仲間を助けに来たリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)はため息をつき、剣の柄を握り鞘から高周波ブレードを抜いた。
「そいつらと一緒に斬られたくなければ伏せてください!」
 リュースはバーストダッシュの加速を利用し、壁を駆け上がり天井をダンッと踏みつけて、轟雷閃の雷光を纏った刃で頭部から膝にかけて斬り裂く。
 刃の餌食になった死者の身体が数体、床へ崩れ落ちる。
「年増の嫉妬は醜いですね!」
 葬った兵の無線機を拾いそれだけ言うと、足で踏み潰して破壊した。
「オレたちの侵入に気づいたやつらが向かって来ていますね」
 大勢の足音がリュースたちの方へ近づいてくる。
「あいつらが来る前に、早く地下に行きましょう」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)は階段の方へ駆けていく。
「助けに来たのに捕まってしまっては意味がないですから」
 彼女のパートナーのエラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)も共に地下へと向かう。
「水の流れる音が聞こえますね・・・こっちでしょうか?」
「当たりみたいね」
 会議室の傍を通り過ぎると、唯乃は地下に通じる階段を見つけた。
「我が先に行って見てこよう」
 ブラックコートを纏った巽が先に階段を降りる。
 彼が地下へ降りた数分後、壁をコンコンと叩く音が聞こえた。
「大丈夫みたいだよ」
 何もいないと合図を聞いたティアがリュースたちの方に顔を向けて言う。
「水しぶきが凄いわね、流れも速いし・・・」
 薄暗い地下1階の水路を流れる水を、睨みつけるように唯乃は目を凝らす。
「幸い先に侵入している方たちのおかげで、足場がありますけど」
「ただ、ゴーストたちと戦うことになったら厄介ね。火術単体じゃ、水しぶきと湿気で消されてしまうわ。近距離からの雷系も危険よ、感電する可能性があるからね」
 ゴーストを寄せないよう小声で言う唯乃の注意に、エラノールたちはこくりと頷く。
「よすが・・・大丈夫かな・・・・・・」
 兵たちに殴られ重症の佐々良 縁(ささら・よすが)を心配している佐々良 皐月(ささら・さつき)は顔を俯かせる。
「そうだな、早く助けてやろう」
 暗い表情の皐月の頭を巽が優しく撫でてやる。
 巽の超感覚で周囲を警戒し、生徒たちは地下へ進んだ。



「兵の服を調達する手間が省けたな。この服のままだと侵入者だとばれてしまう」
 東門から入り込んだグレンはリュースが倒した兵の服を奪い、会議室の中で手早く着替える。
「私のほうはちょっとサイズが合わないですね・・・」
 着替え終わった彼の後にソニアは会議室の中に入り、兵の服に着替えた。
「おい、そこのお前ら。見かけない顔だが、そこで何をやっている」
 後ろの方からゴースト兵に声をかけられ、驚いたソニアは声を上げそうになる。
「私たちは新入りでこの方の指示に従えと言われています」
 ソニアがグレンの傍に寄ると、彼女がいた位置の背後に兵の姿があった。
 もちろんそれは施設の外にいた兵の姿を、メモリープロジェクターで投影しただけの映像だ。
 使えそうな音声を録音出来なかったため、静止している状態のみを映した。
「何の指示だ?」
「怪い侵入者を捕またので、牢屋に入れにいく途中です」
 訝しげな顔をする彼に、侵入者と疑われないようにソニアは言葉を続ける。
「畜生・・・解け!この無愛想野朗!」
「喚くな・・・このまま海に沈められたいか」
 疑いの眼差しを向ける兵をなんとか信用させようと、グレンは担いでいるナタクを拳で殴りつけた。
「そうか・・・。で、指示を出しているそいつがさっきから一言も喋らないんだが」
「あぁああっ!」
 兵が映像に手を触れようとした瞬間、ソニアは大声を上げる。
「な、何だ!?」
「侵入しようとしている人たちがいるんですよね?ここで話していると、誰か侵入してくるかもしれませんよ」
 正体がばれては意味がないと慌てた彼女は、とっさに思いついた言葉でごまかそうとする。
「オレは向こう側を見てくるから、お前らはそいつを牢に入れておけ」
 兵が離れて行ったのを確認し、グレンたちはほっと安堵の息をついた。



「そこにいるのはラルクか?」
 涼は柱の陰に身を潜めているラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)を見つけた。
「あぁ、待ってたぜ」
「さて、合流完了だな。これからルカルカたちの元に向かうわけだが・・・。行く前に彼らに連絡しないとな」
「電波傍受をされるかもしれないからな。念のため、情報攪乱で嘘情報を流しといたぜ」
「―・・・ありゃ?電波が届かないのか」
 携帯で仲間に連絡しようとしたが、地下にいるためつながらなかった。
「しゃぁない。目印があるだろうから、それを見つければ合流できるだろう」
 合流した涼とラルクは地下5階へ向かった。