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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃

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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃
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第7章 言葉巧みに牢へ忍び込む

「・・・このままこちらの生徒の数が減っては動きが取れなくなりかねません・・・救助に向かいましょう」
 地下2階にいるアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は光学迷彩で姿を隠し、生徒たちを助けようと地下牢へ向かう。
「こういうジメジメした場所、おじさんには結構きついものがあるねぇ・・・」
 水路を歩きながらラズ・シュバイセン(らず・しゅばいせん)がぼやく。
「それに・・・足音を立てないように進むなんて、身体的疲労がねぇ・・・筋肉痛になりそうだよ」
 ラズはゴーストたちに聞こえないように小さな声音で呟いた。


「困ったわね・・・まさか捕まるなんて。そんで・・・何なの、この食事。こんなの食べろというの」
 弥十郎が作った料理ではなく、コウモリのどんぶり飯の方を出されたシルヴァーナ・イレイン(しるう゛ぁーな・いれいん)は顔を顰めた。
「牢へ向かっている人たちに、何とか連絡を取りたいですね」
 御堂 緋音(みどう・あかね)は連絡を取ろうと試みる。
「この状態じゃ、携帯電話を取り出すことも出来ないわよ」
 簀巻きにされているせいで使うことが出来ないと、シルヴァーナは首を左右に振った。
 巻かれた姿はまるでミノムシのようだ。
「(私の縛り方は甘かったようだな。気づかれないうちに、なんとか逃げないと)」
 看守の目を盗みながらミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、アシッドミストの術で鎖を溶かそうとする。
「やばっ!」
 怪しい行動をしていないか、巡回しにきた足音が聞こえ、眠ったふりをする。
「(な、何で私のところで止まるんだ?あっちいけよ!)」
 ミューレリアの前で足音が止まってしまい、早く離れてくれと心の中で呟いた。
「行ったようだな・・・」
 歩き始めた音を聞き、ふぅっと息を吐く。
「イッてて、アシッドミストの酸で手に怪我しちまった。さてと、なんとか鎖を溶かせたけど・・・ここから慎重に行動しないとな」
 リボンに仕込んでいた針金を取り出し、ピッキングで鍵を開けようとする。
「開かねぇな・・・。うぁっ、何だ!?」
 無理やりこじ開けようとすると、セキュリティの警報がけたたましく鳴り響く。
「け、警報が鳴っているぞっ。誰か脱獄しようとしたのか!」
 異常がないか兵たちは急ぎ各牢屋を見て回る。
「誤作動が起きたみたいだな」
 兵たちは異常がないと確認し、ミューレリアが脱獄しようとしたことに気づかなかった。
「やべぇな。少し様子を見るか」
 ばれないように鎖を身体に巻きつかせ、誰か助けに来てくれるまで、眠っているふりをすることにした。



「やはり姚天君の仕業ですか。兵の数が増えているような気がします」
 巡回から戻り待機人数が増えている兵を見た島村 幸(しまむら・さち)は小さな声音で言う。
「ということはこの施設のどこかで、何かを製作しているようですね。邪魔者を見張るために数を増やしているのかもしれません」
「計画を阻止されないために隔離しているのですかな?」
 首を傾げたガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)が幸へ顔を向ける。
「おそらくは・・・。見つけて破壊したいですが、まずはここを脱出しないとお話になりませんね」
 幸はどうやって脱出しようかと、思考を巡らせる。
「―・・・っ」
 アシッドミストで鎖を溶かそうとしたガートナは、酸によって手に傷を負ってしまう。
 電力を地面へと逃がすアース体を作ろうと、アース用に自分の服を破る。
「で、電気がっ」
 光条兵器で幸の鎖を斬ろうとするが、電気の流れるロープに切っ先が当たった瞬間、ビリビリと感電してしまった。
「何だ今の声は!」
 運が悪いことに牢獄の見張りとして待機している兵が、幸たちの方へやってきた。
「はて、何か聞こえたのですかな?」
 縛られているフリをし、ガートナは何事もなかったように振る舞う。
「(危ない・・・見つかってしまうところでしたな)」
 牢の前から兵が離れていくのを見届け、ほっと安堵の息をついた。



「さ・・・寒、い・・・」
 脇腹に大怪我を負っている天 黒龍(てぃえん・へいろん)がブルブルと震える。
 傷口から細菌が入ってしまい、彼の身体はすでに敗血症の症状が現れている。
 悪寒を感じるのはその症状の1つだ。
「黒龍・・・。水、しか・・・飲んで、・・・いない。何か、・・・食べない、と・・・」
 弱っている彼に食事をとらせようと紫煙 葛葉(しえん・くずは)は、残っている蛙料理が盛られた器を顎を使って黒龍の方へ寄せてやった。
「・・・少し、・・・でも」
「―・・・」
 黒龍はイヤイヤをするように首を左右に振り、口にしようとしない。
 縁の方を見ると黒龍とは違い、高熱にうなされている。
「こんな役回り・・・いつもならかがっちゃんとか真くんなのになぁ」
 黒龍と同じく発症している縁は転がりながらぼやく。
 苦しんでいる2人を目の前に葛葉は何も出来ない己に苛立ち、悔しさのあまり歯をギリッと噛み締めた。



「ちょっとでいいから両手を自由にしてよぉ!」
 簀巻きにされながらもニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)は顔を上げて兵に怒鳴る。
「(人によって巻き方が違うなんてあんまりだっ)」
 ぎちぎちに巻かれたせいで、術を使うことすらできない。
「はぁ?よし自由にしてやろうとか言うとでも思っているのか」
 交代で見張り役をしている兵が、小バカにしたように鼻で笑い飛ばす。
「やだ、やだ!ご飯食べられなくてもいいから本だけ読ませてよぉ!僕寝る前にこの本、自分で読まないと眠れないんだよぅ!」
 ニコは目の前にある本を開けるようにして欲しいと訴える。
「そんなもん知るか」
「パパとママからもらった大事な本なのにぃ、やだやだ、やーだぁー!」
 あっさりと却下されたニコは、床をゴロゴロと転がって叫ぶ。
「ちょっとだけでいいから、お願い!30分・・・いや、10分でいいから」
「ざけんなっ。そんなこと言って、逃げ出そうと思っているんだろうがっ」
「そこで監視してていいから手を自由にして!本読ませてー!うわぁぁん!」
 拘束を解いてとギャァギャァ大声を上げる。
 彼らが騒いでいる隙に、御凪 真人(みなぎ・まこと)は周りに魔法などを感知するものが無いか周囲を見回す。
「(海の水圧に耐えられる耐久性と、壁を破壊されないように耐魔補強もしているようですね)」
 牢の壁を足で叩き、厚みの感覚を確認する。
「どうして捕まったんですか?」
 捕まった経緯を聞こうと、小声で隣の牢に捕まっている椎名 真(しいな・まこと)に話しかける。
「わざと捕まって情報を聞きだそうと思ったんだけどさ。無理だよな・・・ぁははっ・・・」
「そうだったんですか・・・」
「なんで生徒を殺さずに捕獲したのかも気になるけど。無抵抗なら怪我も負わされなかったし、何か目的があるのかもな」
「―・・・たしかにそうですよね」
 真の言葉に真人は軽く頷いた。
「君の方は何か情報を掴んだのか」
「捕縛される前に、会議室である資料を見つけました」
「ある資料って?」
 真は真人に首を傾げて聞き返す。
「それに水竜の魔力を使った実験内容が書かれていました。生物兵器・・・というか、ゴーストの他にウィルス兵器を作っているようです」
「作ってばらまくことが目的だとして、その標的が何なのかだな・・・」
「えぇ、牢屋から出られたらそれを調べようかと」
 牢から脱出する準備をしようと、真人は氷術と火術で鎖の接続部を劣化させとようとする。
「そ・・・そんなことしたら、君の手が・・・!」
「ヒールで癒しながらやってますから大丈夫です。それに・・・ただ助けを待っているよりも、自分から出ないと」
 懸命に脱出しようとする真人の姿に、真は自分と見知った仲間たち以外にも無茶をする人がいるもんだと目を丸くした。
「―・・・何のお話をしているんですか?」
 真人の向かい側の牢の中にいるヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)が彼らに声をかけてきた。
「この施設が何の実験を行っているのかについて話しているんですよ」
「実験・・・ですか」
 何の実験なのかと考え込んでいると、ニコと喚き合っていた兵がヴィゼントたちの方へ視線を向ける。
「あぁっ、そういえば!ニコさんは毎晩本を読まないと、夜泣きしちゃうんです!」
 注意を引きつけようとユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)がわざとらしく大声で言う。
「ほぅ、どの程度泣くんだ?」
 兵に突っ込みを入れられ、困ったユーノは横目でニコを見る。
「(えっ!そのネタ、また表現しろっていうの!?)」
 彼の無茶ぶりにニコは驚きのあまり目を丸くした。
「いいの・・・泣いちゃうよ。本当に泣いちゃうよ。きっと十天君がいるところまで聞こえるよ?・・・ぶぇえぇんー、うぁあん〜!!」
 力いっぱい大声で泣き叫ぶニコの声が牢屋中に響き渡る。
「ぐぁ、うるせぇえ!」
 耳に痛みを感じないものの、聴覚から脳内に響くような声に、兵は思わず耳を塞いだ。



「死体の匂いがするようでござるが、我慢しよう・・・」
 隠れ身で物陰に隠れていた大神 白矢(おおかみ・びゃくや)は、地下4階でうろついている1人の兵に奇襲を仕掛け服を奪った。
「うーむ、牢屋の鍵は持っていないようでござるな」
「それなら、見張りをしているやつがもっているかもしれないな」
 地下へ降りている途中で出会ったグレンが言う。
「これは牢獄に持っていく食事か?」
 気絶している兵の傍に落ちている食事に視線を移す。
「そのようでござるな。拙者は怪しまれないように、これを持って行こう」
 白矢は銀のトレイの上に食事を乗せ、グレンたちと共に牢屋へ向かう。
「何やら兵たちが下の階へ集まっているようでござるが・・・」
 地下へ向かう兵の姿をちらりと見ながら白矢は小声で言う。
「(ここが牢屋か・・・。どこかに監視カメラがありそうだが、分からないように小型のやつを仕掛けているのか?)」
 たどり着いたグレンは見張りの兵から牢獄の中へと順番に見る。
「(牢屋の鍵を持っているのは誰でしょう)」
 ソニアは兵の手元や服を見て誰が鍵を持っているか確認しようとする。
「食事を持ってきたでござるよ」
 まずはパートナーに弥十郎が作った食事を渡そうと、白矢は四条 輪廻(しじょう・りんね)が捕らわれている牢の前に行く。
「すまぬが鍵を貸してくれないか?このままでは配りづらいでござる」
 見張りをしている兵に向かって言う。
「ぁあ?その隙間から渡せばいいだろう」
 兵が床を指差しているところを見ると、食事を入れるだけの金型の扉があった。
 幅8cm高さ4cmほどの小さな扉だ。
「ここへ来る前に、何人か侵入した生徒たちを見たでござる」
「もしかしたら脱出を手引きしようとしているのかもな」
 怪しまれないように輪廻はヒソヒソ声で喋る。
「食事でござるよ」
 白矢は彼の他に捕らわれている生徒たちにも食事を順番に配っていく。
「このコウモリライス、美央が作る料理より美味しいデスネ」
 差し出された料理をジョセフは拘束されたまま口をつける。
「美央が来る前に鎖を何とかしておきましょうカ。アウチッ!手がヒリヒリと痛いデス」
「他にも動いている者もいる、今は抑えて体力を温存しておくべきだ。仲間なら信じるのも仕事だろう」
 アシッドミストで無理やり鎖を溶かそうとしているジョセフの無茶な行動を、向かい側にいる輪廻が止めようとする。
「そうデスネ・・・出る前に手が使えなくなりそうデス・・・」
 鎖を溶かそうとしたジョセフは、パートナーが来る前に手が使えなくなりそうだと思い術を止めた。
「この味付けいいね」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は弥十郎が作った壽司茶漬けを美味しそうに食べる。
「俺にも食わせてくれカガチ」
「ん、ほら。さっぱりした味わいで美味しいよ」
 器を頬で真の方へ寄せてやる。
「グレン・・・この兵の多さでは、鍵を奪うどころか。他の仲間を呼ばれてしまうかもしれません」
「ならばどうすれば・・・」
「もうじき他の協力者が来るかもしれないでござろうから、しばらく待つでござる」
 兵たちに聞こえないように小声で話しているソニアとグレンの会話の中に、食事を配り終えた白矢が加わる。
「あぁ、そうしよう」
 グレンは脱出の手引きを手伝ってくれる生徒たちを待つことにした。
「(いつになったら出ていいんだろうな)」
 牢の中に入れらているナタクは退屈そうに床をコロコロと転がる。