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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃

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【海を支配する水竜王】侵入者に向ける刃
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第3章 実験の秘密を探りだせ

「潜入出来たのはいいけど、これからどうしよう」
 施設に潜入しているリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、どうしたらいいか途方に暮れている。
「労働交渉してみてはどうですか?」
 隠れ身の術で姿を隠してる天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)が小声で言う。
「そうね・・・。上手くいけば施設の構造が少し分かるかもしれないし」
 交渉相手を見つけようと、食堂の中を覗き込む。
「誰かいないかしら・・・」
「もう来たの?まだ食事の用意出来てないんだけど」
 牢屋に運ぶ食事を兵が取りに来たのかと思い、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が厨房から出てきた。
 驚いたリカインは思わず声を上げそうになる。
「あれ、もしかしてどこかの学園の生徒?」
 弥十郎はゴースト兵と違い血色のいい彼女の顔をじーっと見る。
「―・・・」
 施設内の兵と同じ服を着ている弥十郎を警戒してリカインは口を閉じる。
「この服だから分からないか。捕まった人たちがせめて人の飯を食べられるように、作りに来たんだよ」
「よかった・・・ここの兵じゃないのね」
 彼を敵兵かと思ったリカインはほっと安堵した。
「この中に入れたのはいいんだけど、ヴィーが捕まちゃってさ・・・。どうしたらいいのか困っちゃったのよ。もしよかったら、しばらくここで働かせてくれないかしら」
「うーん、そうだな。今のところ皿洗いとかしかないけど。それでいいかな?」
「分かった、任せて」
「たしかそこに余っている服があるはずだけど」
 棚にある兵の服を弥十郎が掴み、リカインに手渡してやる。
「SPが切れそうですから、わたくしはこの辺りに隠れていますね」
 棚の中に空っぽの紙袋を敷き詰め、SPを温存しようとルナミネスは身を隠した。
「うぁ・・・沢山あるわね」
 シンクに置いてある数十枚の皿を見たリカインはため息をついた。
「ちょっと味見してみようかな。羽が邪魔で食べづらい・・・」
 どんな味なのかと気になり、酢飯の上にコウモリを盛りつけ、醤油で味付けされたどんぶり飯を弥十郎が一口食べてみた。
「―・・・うぁっ、ぁああ゛ーーーっ!!」
 あまりの不味さに絶叫してしまう。
 こんなのを人に食べさせてはいけないと、考えついた料理方でコウモリを調理することにし、コウモリの産毛をそり蒸篭で蒸した。
 出たコウモリエキスを鍋に移す。
「砂糖はどこかな」
「こっちにあるわよ」
「ありがとう。うん、大丈夫そうだ」
 弥十郎はリカインから砂糖の袋を受け取り、使えそうか袋の中を見てチェックした。
「量はこれくらいが丁度いいね」
 水と砂糖を加えて沸騰させ、かえしを作る。
「ねぇ、シントン条約の絶滅リストで、グアムオオコウモリが絶滅した理由を覚えている?」
 弥十郎は引き出しから醤油を取り出しながら仁科 響(にしな・ひびき)に聞く。
「美味しかったから乱獲された」
 答えを聞いた弥十郎はニヤリと笑う。
 彼の笑顔に眉を潜めるが、一緒に料理を作っている人たちと仲良くなれたし、ゴーストの観察もできるからいいかと響は肩をすくめた。
「どうしてそんなに一生懸命、料理を作るの?」
 冷ましたかえしに醤油を加えている弥十郎に響が話しかける。
「君も本に関しては譲れないものがあるだろ。人には1つくらい譲れないものがあるよ」
「―・・・そうだね」
 彼の言葉に響は、なるほどと納得したように言う。
「うーん・・・これならいいかな」
 酢飯に丁度いい配合を見つけた弥十郎は、醤油瓶ごと配合を変更する。
 黒焼きにして粉末にした粉末を酢飯に混ぜていく。
 かえしをいえれたおかげで、醤油がうすくなった。
「ふぅ、出来上がり」
 弥十郎は完成したコウモリのどんぶり飯を、満足そうに見る。
「まかないですが」
 リカインたちの後にやってきた調理を担当している兵に、響きは余った材料で作ったまかない料理を勧める。
 “美味しい”と言われ、褒められた彼は思わず照れ笑いをした。



「潜入には成功したようだな・・・。しかし得られた情報は何もなしか」
 連絡を受け取った小型 大首領様(こがた・だいしゅりょうさま)は冷静に中途報告を聞く。
「はい・・・申し訳ありません・・・・・・。(まだ情報を得ていないのかと怒鳴られるかと思った・・・)」
 景山 悪徒(かげやま・あくと)は腰を低くして謝る。
 しばらく考え込み、大首領様は悪徒に次の指示を与える。
「この施設の人間がリヴァイアサンの力を持ってして何を手に入れるか・・・。それも少々気になるな・・・フム、指令を追加する」
「はいっ!」
「リヴァイアサンに関する資料を手に入れてくるのだ。それが後々、我が組織で運用する時に役に立つかもしれん」
「了解いたしました、大首領様!」
「では良い報告を待っている」
 大首領様は伝えたいことだけ言い終わると、通話を切ってしまった。
「まずはここから探すか」
 こき使われすぎて探している暇もなかった悪徒は会議室へ向かう。
 仕事を頼まれないように、光学迷彩で身を隠しながらやってきた。
「ファイルがあるな、見てみよう」
 本棚にあるファイルを手に取りページを開いた。
「十天君の術で、水竜を凍らせたのか。運用方は・・・鎖を巻いて人力で運んだのか・・・。あれだけの兵の人数がいれば可能かもな」
 中を読むと施設まで運んできた記録がかかれている。
 読んでいると何者かがコツコツと靴音を響かせ、会議室に入ってきた。
「(見つかると厄介だ・・・)」
 ファイルを元の位置に戻し、入ってきたゴースト兵に見つからないように、そっと部屋の外へ出る。
「とりあえず次ぎは、資材置き場で探りを入れるか」
 足音を立てないように慎重に進む。
「3階に着いたはいいが、もうSPが限界だ・・・」
 光学迷彩が持続出来ず、途中で切らしてしまった。
「さすがにこんなところにいるのを見られるとやばいな」
 ひとまず隠れられそうな場所を探そうと歩き回る。
「ドアがあるな。誰もいなきゃいいが・・・・・・」
 悪徒はドアに耳を当て、誰かいないか中の音を聞こうとする。
「一応、話し声や物音はしないようだな」
 そっとドアを開けると運がよかったのか誰もいない。
「ちょっとここで休むか・・・。おっと、大首領様に連絡しないと叱られてしまう。大首領様、聞こえますか?」
 得た情報を伝えようと大首領様に連絡する。
「あぁ聞こえる」
「運用についてですが、どうやら十天君の術で水竜を凍らせたようです。その後、兵たちに運ばせたとファイルの記録にありました」
「やはり運ぶには相当な人材が必要だってことだな」
「えぇそうです」
「フムよくやった・・・してリヴァイアサンの力の利用法とは?」
「それがですね、えーっと・・・」
 肝心なことを調べられなかった悪徒は言葉を詰まらせてしまう。
「申し訳ありません、探している途中でSPが切れてしまったようで。新人だと言っても、この辺りにいると疑われてしまうかもしれません」
「―・・・フム。そうなってしまっては調べるどころでないからな。回復したら即、情報を集めをしろ。以上だ」
 大首領様は悪徒にそれだけ言うと通話を切った。



「ちょっくら情報集めでもしようかな」
 兵から情報を聞きだそうと、3階にいる佐伯 梓(さえき・あずさ)はブラックコートを纏いトイレに向かう。
「お、あった!」
 トイレに誰もいないか確認する。
「(通気口はないのか・・・。小さな換気扇はあるが、通れそうにないな)」
 天井を見上げてオゼト・ザクイウェム(おぜと・ざくいうぇむ)が通気口がないか確認する。
「ここに入るぞ」
 梓は一番手前のトイレを選んで入った。
「(トイレに篭る・・・だと?狭くないか・・・?)」
 一緒に隠れたオゼトは、トイレの狭さに顔を顰めた。
 和式便所へ足をつっこまないように、壁際へ身を寄せる。
「足音?誰か入って来たみたいだな」
 入ってきたゴースト兵のブーツの音が静かな空間に鳴り響く。
「ぐおお、腹が痛えー!」
 兵に聞こえるように梓は大声を上げる。
「誰かいるのか・・・!?」
 警戒しながら梓がいるトイレに近づく。
 ドアノブに手をかけ、鍵のかかってないドアを開けた。
 騒がれる前に引き込もうと、オゼトが兵の襟首を掴んで中へ引っ張る。
「な・・・何だ貴様ら!むぐっ」
 中へ引き込まれた彼は、オゼトに口を塞がれてしまう。
「ちょーっと聞きたいことがあってな」
 情報を手に入れようと、ドアの鍵を閉めた梓は身を蝕む妄執を放つ。
「誰が言うものかっ」
 ガブリとオゼトの手に噛みつた兵は、袖の中に隠し持っていたダガーを取り出した。
「同情なやつだ。どこまで頑張れるかな・・・」
 ダガーを手に暴れようとする兵に、妄執を放ち続ける。
「う・・・・・・ぅ・・・」
 餌食になった相手は幻覚を見せられてしまう。
「術がかかったようだな。よし、魔力を奪ってしようとした幻覚を見せてやろう」
 作戦を失敗してしまい、姚天君に葬られそうになる幻覚を見せた。
「―・・・やっ、やめてくれぇ。目を抉らないでくれぇえーっ!」
 どうやら兵は指を突き刺され、目玉を抉られそうになっている恐ろしい光景を見ているようだ。
「ウィルス兵器に使う魔力はまた集める!だからやめてくれーー!!」
 幻覚を見せられている彼は、喉から血が出そうなほど叫んだ。
「やばっ!こんなデカイ声を出されたら、さすがに他のやつらを引き寄せるよな」
 鍵を開けて梓たちはトイレから全力で出て行く。
「あっ。妄執かけっぱなしだけど、そのうち解けるよな」
 梓は身を蝕む妄執を兵にかけっぱなしのまま出てしまった。
「侵入者だぞ!撃てぇえーっ!」
 トイレにいる兵の喚き声を聞きつけた兵が梓たちの姿を見つけて機関銃の銃弾を放つ。
「捕まってたまるか!」
 梓は姿を隠すために、低濃度の酸に調節したアシッドミストを放ち、2人は仲間が待つ4階へ向かった。