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曲水とひいなの宴

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曲水とひいなの宴
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 第6章 そぞろ歩きの梅の花
 
 
 空京で梅の花が見られると聞いた秋月 葵(あきづき・あおい)は、さっそくパートナーたちを誘ってホテルへと出かけることにした。
「お花見ですか。でしたら花柄のワンピースにジャケットが良いかしら? でも外はまだ寒いかも……」
 葵に風邪でも引かせては大変と、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)はクローゼットから白いコートを出したり、と慌ただしく前日から梅見の準備をし、当日は当日で花見に持っていくお茶とおやつの用意に忙しく立ち働いた。
「梅?」
「カレンは見たことないかな。桜も綺麗だけど、梅の花も可愛くて綺麗なんだよ。梅の花をこっちでも見られるなんて考えても無かったよ〜」
 秋月 カレン(あきづき・かれん)は梅が何なのか分からなかったけれど、葵が楽しそうに見に行こうと言うのだから、きっと良いものに違いないと期待を膨らませる。梅見がなくても、葵とエレンディラと一緒にお出かけ出来るだけで、カレンには十分嬉しいことだ。
 エレンディラが出かける準備を整えるとすぐに、3人は出かけていった。
 平安装束に着飾った人を眺めたりしながら、庭をぐるっと回っていくと梅が見えるより先に風に乗って香りが漂ってくる。まだ少し冷たいその風に葵は身をすくめると、エレンディラにくっついた。
「やっぱりエレンの側は暖かい〜、カレンちゃんもおいで〜」
 葵とカレンは両側からぴったりとエレンディラにくっついて歩く。
「そんなに押したら歩きにくいですよ」
 エレンディラは両側からの圧力にちょっとふらつきながらも、笑顔で2人を受けた。
 梅の見える処まで来ると、カレンは目を輝かせる。
「木にちっちゃいお花がいっぱい咲いてるね〜」
「それに清々しい香りがします。図書館の本で拝見した梅も綺麗でしたが、本物は一層素敵です」
「でしょ? 2人には絶対に見て欲しかったんだ〜」
 自分が褒められたかのように、葵は胸を張った。
「あおいママ、向こうに大きな梅の木があるよ〜」
「じゃああそこまで競争しようか〜。よーい、どんっ!」
「カレンちゃん、そんなに走ると危ないですよ……葵ちゃんまで一緒になっちゃって……もう」
 きゃあきゃあ言いながら駆け出す2人に、エレンディラははらはらと声を掛けた。
 一番大きな梅の木に到着すると、葵とカレンは木の周りで鬼ごっこ。エレンディラはどこか座れる場所がないかと見回した。
 そこに翔がさっと近づいて、優雅に一礼する。
「何かお探しでございましょうか?」
 エレンディラが座れる場所を聞くと、翔は花見用のござを出してきた。
「どうぞこれをお使い下さい。飲み物等もございますがいかがでしょう?」
「それは持ってきましたから大丈夫です」
「では、何かあればお声をお掛け下さいませ」
 必要なサービスを終えると、翔は邪魔にならぬようにさっと引いていった。
 エレンディラが荷物をござの上に広げていると、戻ってきたカレンが飛びつくように抱きついてくる。
「えれんママー!」
「はいはい。カレンちゃん、走り回ったら喉が渇きませんか? お茶とお菓子がありますよ」
「食べるー」
 葵の方が先に返事をして、ござに座った。
「今日は早起きして、桜餅と日本茶を用意してみました。でも桜の葉の塩漬けが無かったので、桜餅とはいえませんね」
「ううん十分だよー。うわ、美味しそう」
「ピンクのお菓子、きれいだねー」
 仲良く桜餅を頬張る2人をエレンディラは目を細めて見ていた、が……。
「すぅ…………」
 春の陽射しを受けているうちに、葵に持たれて眠ってしまう。昨日からの準備の疲れが出たのだろう。
「えれんママ、寝ちゃった?」
「しーっ。しばらくこのまま寝かせてあげようよ」
 静かに静かに寄り添って。
 ……しばらくの後、梅の木の下からは3つの寝息が聞こえてきたのだった。
 
 
 遣り水付近では華やかに行事がなされている。それに参加してみようかと思わなかったでもないが、神崎 優(かんざき・ゆう)水無月 零(みなずき・れい)を梅見に誘った。
 庭に植えられた白梅紅梅の木々は、まさに見頃を迎えている。今を盛りと咲き誇っているのに、どこか静けさを感じさせる梅の花……自分の心も静まっていくようで、優は花々から目を離せなくなった。
 隣では、零が感に堪えないように息を漏らす。優はいつも通りの普段着だが、零は春にちなんだ淡紅の着物を着てきており、それが紅白の梅の花によく合っていた。
 しばらくは言葉もなく、どちらもただただ梅に見とれる。視界いっぱいに梅の花を映して。
 やがて優が呟いた。
「……綺麗だな」
 その言葉に、零は視線を梅から優の顔へと移した。優の目は梅から動かない。
「誰かに見せる為に咲いているわけでもないのに、咲き誇っている。満開を迎え、すべての花が咲ききった時、風邪に野って散っていく……まるで名残を惜しむかのように」
 呟きなのか、話しかけているのか。どちらともとれる口調でそう言うと、優はゆっくりと梅の花から零へと視線を移した。
「とても儚いが、それ故に美しい。人々はその美しさに惹かれ、自然と足を運んでしまう。色んな想いを馳せながら」
 優の話は零には難しかったけれど、でも難しい話をする優は嫌いではない。優の視線を受けながら、零は話の続きを待った。
 けれど優はそこで話をやめると、ふとかがみ込んだ。足下の一輪の梅を拾い、その美しさを愛でつつ零に近づいた。
「……優?」
 小首を傾げた零の髪に、優は梅を挿す。
「似合ってるよ」
「あ……ありがとう」
 そんなやり取りに互いに頬を赤らめると、2人はまた梅へと視線を戻した。さっきより近くに寄り添って。
 
 
 小さな花を一面につけた梅の木に、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は足を止めた。
「おお、これが梅の花ってやつなのか? 桜に比べれば多少地味だが、これはこれでいいな」
「可愛いですー。それにいい匂いもしますね」
 ソフィア・エルスティール(そふぃあ・えるすてぃーる)は胸いっぱいに梅の香を吸い込んだ。そのソフィアの姿に、連れてきて良かった、とラルクは思う。ソフィアにしては珍しく、梅を見に行きたいとねだったから、ラルク自身は梅には余り興味はなかったが、久々に願いを聞いてやるのもいいかと梅見に来たのだった。
 ソフィアがとても嬉しそうな様子だったから、ラルクはふと思いついて聞いてみる。
「そういやぁ、ソフィアは花好きなのか?」
「え? あ、はい。大好きですよ。基本花は好きです」
 ソフィアはぱっと目を開けると、ラルクに顔を向けた。
「それじゃあ、私も質問です。パパは将来の夢とかありますか?」
「な、なんだいきなり……」
 急に振られた質問にラルクは驚いたけれど、ソフィアは自分の質問に答えたのだからと、それに答えることにする。
「あー、そうだなー誰にも言うなよ? あくまでも夢だからな」
 そう前置きしてラルクは話し出した。
「……俺はな、医者になりたい。治したい奴がいるんだ、俺の手でな。その為の努力も惜しまねぇつもりだ」
 夢を口に出すのは、どうしてこんなに気恥ずかしいのだろう。誰に恥じる夢でもないのに妙に照れくさくなってしまい、ラルクは早足で歩き出す。
「ふぇ……パパー、待ってくださいーパパー」
 すたすたと歩いて行くラルクの後をソフィアは懸命に追いかけた。
 しばらくは梅に目をやりもせず、ただ大股に足を進めていたラルクだったが、そうしているうちに大分落ち着いてきた。ようやくソフィアを気遣う余裕も出て来て、小走りに追いかけてくるソフィアを足を止めて待つ。
「いけない質問をしてしまいましたか? でも私、やっぱ夢がある人って羨ましいです!」
 真っ直ぐに向けられるソフィアの目に、また恥ずかしさがぶり返しそうになり、ラルクは慌てて質問を返した。
「そういやぁ、ソフィアこそ夢って無いのか?」
「私は……まだ、夢持ってませんね……でも、いつかきっと見つけます!」
 自分が心から追い求められる何かを探すこと。それが夢への第一歩だ。
「そっかーじゃあ見つかるといいな! おっさん応援してるぜ!」
「パパが応援してくれたら、頑張れそうです」
 夢を見つけたら、それに悩むことも出てくるだろう。この笑顔が曇ってしまうこともあるかもしれない。それでも。
「頑張れよ」
 ラルクはそう言ってソフィアの頭を撫でるのだった。
 
 
「これは、見事な梅ですねえ……良い匂いがします」
 スーツの上に薄手のコートを羽織り、首もとにはマフラー、という恰好で神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は梅を眺めた。そうしていると、甘さよりも清々しさの勝る梅の香に包みこまれるようだ。
「綺麗だけど、桜の方が好きかも……」
「花梨ならそうかも知れませんね。でもたまには梅も良いでしょう」
 やや寂しさを感じる梅の花よりも、ふんわりピンクの桜の花が好きという榊 花梨(さかき・かりん)に翡翠は微笑み、しかし、と続ける。
「花梨、珍しい姿ですねえ……よく似合ってますよ」
 赤のチェック柄のミニスカートに白のカーデガン。普段は動きやすさ重視の服装をしていることが多い為、その恰好は新鮮に翡翠の目に映る。
「えへへ、そう? 慣れてないから恥ずかしいかも」
 花梨は赤くなって、ミニスカートの裾を引っ張った。
 梅の木の下を2人、肩を並べて歩きながら、翡翠は梅の写真を撮った。折角だから2人一緒の写真も、と見回せば、用と見た翔が駆け寄ってくる。
「どうかなさいましたか?」
「あのね、2人揃った写真を撮って欲しいな、って。それから……」
 と花梨は翡翠に聞こえないように翔の耳に囁く。
「翡翠1人だけの写真も撮ってもらえないかな。本人にはばれないように、ねっ」
 お守りにしたいから、と頼むと翔は心得たように肯いた。
「畏まりました。ではそちらは私のカメラにてお撮り致しましょう」
「後で出来たのを送ってねっ」
 連絡先を教えると、花梨は翡翠と並んだ。
 翔に礼を言ってまた歩き始めたけれど、薄着で来たせいか少し肌寒い。
「外に長時間は辛いですか?」
「少し寒いかも……どこかに入りたいな」
「では喫茶店にでも行きましょうか」
「うん、お腹もすいたし……あ、帰りにリンちゃんにお土産も見たいかも」
 そんな会話をしつつ、梅を後に歩き始めると。
 ふわり、と花梨の首にマフラーが掛けられる。翡翠の温もりが残っていて暖かいそのマフラーに、花梨はそっと顔を埋めた。
 
 
 梅がスケッチしたい。そんなテオディス・ハルムート(ておでぃす・はるむーと)の希望を受けて、アルフレート・シャリオヴァルト(あるふれーと・しゃりおう゛ぁると)はホテルの庭にやってきた。特に梅が見たかったわけではないが、最近は陽射しも暖かくなってきた。テオディスのスケッチが終わるまで待っていても苦にはならないだろう。
「ゆっくり楽しむと良い」
 早速スケッチを始めたテオディスにちらりと目をやった後、アルフレートは手持ち無沙汰に梅を視線を移した。和風ホテルの雰囲気を出す為に、日本から植樹したものだろう。別世界に植えられたのも知らぬげに、梅は花を一面につけている。
 そんなアルフレートの横で、テオディスはさらさらと筆を走らせ続けていた。その様子が何だかおかしくて、アルフレートは尋ねる。
「……偏見を承知で言わせてもらうが、いつかはあのドラゴンになるというドラゴニュートが、筆を握って嬉しそうにスケッチをする姿というのは……不思議な気がするな。なんでそんなに絵が好きなんだ……?」
 ん? と目を上げてテオディスは苦笑した。
「ドラゴンといっても、知性無く暴れるモンスターじゃないぞ」
「それは分かるが……」
「それでも不思議か。争いは傷以外何も残さない。けれど絵は違う。人や風景を残すことが出来る。それだけじゃなく、心象画のように心の様を残すことさえできる。とても素晴らしいことだと思わないか?」
 そんなことを話しながらもテオディスの手は動き、こっそりと梅の間に何かの姿を描き足してゆく。
 テオディスの絵はあまりに独創的だから、アルフレートがそれに気づくにはしばらくかかった。
「これは……私、か?」
「ああ」
 テオディスはあっさりと答えたが、アルフレート自身はよくこれが自分だと判別できたものだと思うほど、辛うじて判別できるかどうか、というラインだ。
「どうして? 私はテオディスが今見ている風景の中にはいない……だろう」
「絵は見たままのみを描くものではないだろう? 俺はアルフレートのいる風景を残したいと思った。だから描いた。……何か不都合でも?」
「いや……その、なんだ……まぁ、礼は言っておく……ありがとう……」
 そうは答えたものの、アルフレートは付け加える。
「……でも……とりあえず、感性のままに描く前に一度デッサンとか……基礎を習うのもいいんじゃないかな……」
「絵は感性が一番重要だろう。技術はそれについてくるものだ」
「ついて……くるなら、な」
 テオディスの描く自分が少しでも自分であると確信出来ないものかと、アルフレートは絵を矯めつ眇めつして眺めるのだった。
 
 
 巡り合わせというものは、時に意地悪をするもので。一緒に行こうと約束していた相手と、共に来られなくなってしまうこともある。
 淡紫から淡紅色へのグラデーションに白く小さな桜柄を散らした着物に袴。髪を結ぶのもいつものリボンではなく打ち紐にして、雛行事に相応しく和服でやってきた水神 樹(みなかみ・いつき)だったけれど、恋人の来られぬ寂しさが空けた穴は容易には埋まらない。
 曲水の宴や流し雛も少し見はしたけれど、賑やかさに背を押されるようにして庭を歩き、梅のもとへとやってきた。
「綺麗……」
 見頃となっている紅梅白梅。その慎ましやかな小花の優しい風情に、樹の心は和む。
 自分のペースでゆっくりと庭を歩き、同じようですべてが違う梅の木ごとの佇まいを心ゆくまで愛で。
 ここにいると落ち着く。そう思いつつも口から零れるのは、
「……ここにあの人がいたら、もっと楽しめたのだろうな……」
 そんな呟き。けれど、そう思える人がいる、というのは幸せなことなのだろう。
 梅の香は届けられないけれど、せめてこの美しさを、と樹はデジタルカメラで梅を撮った。プリントアウトしたものを後で彼に渡して共に眺めたら、この美しさを共有できるような気がして。
「よろしければ、写真をお撮りしましょうか?」
 梅見の客の助けとなろうと、ひっそりと控えていた翔が写真を撮る樹に気づいて声をかける。けれど樹は礼は言ったものの、その申し出は断った。
 写真に収まるのならまたいつか。彼の人と共に。
 その願いをこめて、梅の写真を持ち帰ろう、と。
 
 
 庭の片隅に腰を下ろせば、ひいなの宴に参加する人々、それを見物する客、見守るように立っている梅の木が見える。
 着付けてもらった着物姿でのんびりと腰を下ろし、浅葱翡翠は白乃 自由帳(しろの・じゆうちょう)の本体を広げた。
「な、何をなさるおつもりなのですか?」
 自由帳が慌てて本体との間に割り込む。本体が傷つけば自由帳も傷つく。無茶に扱われてはたまらない。
「せっかくの日本庭園だから写生でもしようかと……」
「おやめ下さいませ」
「でも、白地よりも花の絵でも描いてあった方が見栄えが良くなりますよ」
「綺麗に描いてもらえばいいんじゃない? だってほら、この梅、ほんとうに綺麗に咲いているもの」
 北条 円(ほうじょう・まどか)にも諭されて、それならば、と自由帳はしぶしぶながらに認めたけれど、それでも心配そうに翡翠の手元を見つめている。翡翠は色鉛筆を手に取ると、すっと遣り水の線を引いた。今日の雛行事の中心となっている場所だ。
「雛祭り、って私の名前のお祭りだね。これもお祭りの衣装?」
 絣の着物を着せてもらった永夜 雛菊(えいや・ひなぎく)が、袖を揺らして尋ねる。動くたびにひらひらする袖がなんだか楽しい。
「祭りのというよりは、日本の民族衣装ですね。最近は普段から着物を着ている人は減りましたけれど、雛祭りのような行事の時には着られるんですよ」
「着物を着て、みんなで川の近くに集まってお祭りするの?」
「うーん、それもあまりしませんね。普通の家でやる雛祭りというのは、雛人形を飾って、ちらし寿司や潮汁を食べて……」
 聞かれるまま、翡翠は日本の雛祭りの風景を語った。それでも分からなそうな顔をしている雛菊に、
「雛祭りの料理をもらってきてあげるわ」
 実際に食べてみると分かりやすいだろうと、円は料理の卓から主な雛料理を取ってきた。それをピクニックのように広げて、みんなでつつく。
「春のお祭りの所為か、料理も色合いが綺麗ね」
「お菓子もカラフルだよね」
 円と雛菊が食べている料理に自由帳も手を伸ばそうとして、ぎゅっと首をすくめる。
「く、くすぐったいですわ。やめて下さいまし」
 翡翠が色鉛筆で色を塗っているのがくすぐったくてたまらないらしい。
「色彩が綺麗な祭りですから、色はつけないと……」
「ああ、そんな処に描かないでくださいませ! それに、描くならもっと丁寧に描いてくださいまし」
 自分の本体に描かれるものだから、自由帳からの注文は多い。翡翠ははいはいと返事をしながらも、どんどんと絵を描いてゆく。
 梅の木のある緑の庭。中央に流れる遣り水付近にも、庭の周辺にもひいなの祭りを楽しむ人がたくさん。その皆が笑っている。
 最近、色んな処で色んな人が争ったりしているけれど、こうやって皆仲良く笑っていられればいいのに。そんな幸せの風景を自由帳に描きつける。
「後で私たちも流し雛をしに行かない?」
 こんな日々が続くようにとの願いを流したい、と円が誘えば。
「ええっ!」
 雛菊がびっくりした声を挙げ、あわてて口を押さえた。
「どうかしたの?」
 雛菊の反応に驚いた円に聞かれても、自分が流されるのかと勘違いして怯えた、とは白状できず、雛菊は口を押さえたまま首を横に振り続けるのだった。