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うそ

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うそ

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    ★    ★    ★
 
「なんとかしないと。このままではイルミンスールが無茶苦茶になってしまいます」
「でも、面白い映像がたくさん撮れたんだもん」
 ビデオカメラを片手に、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)ナナ・ノルデン(なな・のるでん)に言った。桜の映像を撮るつもりが、チャイナドレスの少女をだいたまま落下していく仮面の男とか、面白い映像ばっか撮れている。
「鷽は強敵のようですね。あちこちで死屍累々のようです。でも、なんでしょう、この、周囲に満ちる魔力の高まりは。もしかして、ズィーベンに半分渡した魔力が、再び自由になろうとしているのでしょうか。今なら、いったん魔力を返してもらって、全力全開の錬金術が使えるかもしれません」
「試す?」
 おずおずと、ズィーベン・ズューデンが訊ねた。
「やってみましょう」
 ナナ・ノルデンが、ズィーベン・ズューデンにむかって手をかざした。かつてズィーベン・ズューデンが自らの封印を破るために取り込んだナナ・ノルデンの半分の魂と魔力が、本来あるべきところに戻っていく。
「あう、動けなくなっちゃったよー」
 変なポーズで、ズィーベン・ズューデンが固まった。魔力を返してしまったために、再び封印が効力を発揮し始めたらしい。
「やり直してー」
「少しだけ我慢していてください」
 そう言うと、ナナ・ノルデンは、パンと手を打ち合わせてから、床に両手をついた。流れ込む力を受けて、床に光り輝く魔法陣が浮かびあがる。
「何か、錬成する物を……。ああ、なぜか、こんなところに<ピー>製のギターが。ちょうどいいです、これを強力な魔法の武器に作り替えてしまいましょう」
 ナナ・ノルデンは、ギターを魔法陣の上におくと、再び両手を打ち合わせた。
「ちょっと待ったー!!」
 間一髪、蒼空寺路々奈たちが駆けつけてくる。
「もの凄い高価なギターに、なんというまねをするんですか」
「邪魔はしないでください。私の錬金術の力で、これを強力な武器に作り替えるのです」
 ヒメナ・コルネットに横やりを入れられて、ナナ・ノルデンが言い返した。
「ちょっと待って、錬金術ってそういう物だったっけ?」
「えー、こうやって、物質の原子を一瞬にして組み替えて別の物に……」
「嘘だよ。それ嘘。錬金術というのは、こうやって乳鉢でごりごりと……」
 蒼空寺路々奈は、得意の説得でこんこんとナナ・ノルデンに正しい錬金術はなんなのかを説明し始めた。そのすきに、ヒメナ・コルネットが、高価なギターを回収する。
「えー、錬金術ってそんなに地味なの!?」
「知らなかったの?」
 ズィーベン・ズューデンまでもがだめ押しをする。
「嘘よー!!」
 ナナ・ノルデンの叫びだけが、むなしく周囲に響き渡っていった。
 
    ★    ★    ★
 
「また、なにやら悲痛な犠牲者の悲鳴が聞こえる。早くなんとかしなければなるまい」
 遠くから聞こえてきたナナ・ノルデンの悲鳴を聞いて、青 野武(せい・やぶ)が急いだ。
「うそわん」
「いたぜ、鷽だ!」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が、通路の端に鷽を見つけて指さした。
「鳥には猫。ここは、俺の憑依召喚魔法で、ケットシーを呼び出して鷽を倒してもらおう。おいでませ、猫神様ケットシーの真力よ、我が身体へと宿れ!!」
 ヤジロアイリが、両手を突きあげて天にむかって叫んだ。どこからか淡い光が下りてきて、ヤジロアイリの身体をつつみ込んだ。リング状の光の魔法陣の帯が幾重にも浮かびあがり、ヤジロアイリの身体をつつみ込む。
「みゃう」
 ヤジロアイリが一声鳴いた。その身体にケットシーの真力が宿り……彼女は仔猫になってしまった。
「ああ、何をやっているんですか。あれほど、力を借りる相手はちゃんと選ぶようにと言っておいたのに」
 迂闊にもかわいいアメショになってしまったヤジロアイリの姿を見て、セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)が、あちゃーっと手で顔を被った。
「これでは、まだまだまともに召喚は使いこなすことができませんね。当分封印しておいた方がよさそうです。それはそれとして……」
 ゆっくりと、猫ヤジロアイリに近づいていく。
「やはり、猫でしたら、もふらないわけには参りません。ほれほれほれ」
 どこから取り出したのか、セス・テヴァンは猫じゃらしをひらひらさせると、じゃれかかってきたヤジロアイリを素早く捕まえた。
「もう、放しませんよ。もふもふもふ♪」
 嫌がる猫ヤジロアイリにすりすりと顔をすりつけながら、セス・テヴァンは幸せそうに言った。
「だめじゃないですか。ここは、わたしがみんなを守ります」
 ヤジロアイリの姿を見て、蓮実 鏡花(はすみ・きょうか)が前面に出てきた。
「鏡花、その判断は合理的ではありません。ここは、ワタシが前に出るべき場面です」
 自立型機晶外骨格 流火(じりつがたきしょうがいこっかく・りゅうか)が、蓮実鏡花を押しのけるようにして前に出た。
「うそわん」
 戦う気満々の鷽が、鳴き声をあげた。
 カーンと、自立型機晶外骨格流火の頭の上に金だらいが落ちてくる。
「いったあーい」
 あっけなく自立型機晶外骨格流火が頭をかかえてうずくまった。弱い、弱すぎる。
「違います。鷽が強すぎるんですー」
「どうしてそうなる。これじゃだめだ、さくっとかたづけちまおうぜ。鏡花」
 自立型機晶外骨格流火に背負われていた剣型機晶姫のディソーダー トリストラム(でぃそーだー・とりすとらむ)が、蓮実鏡花をうながした。
「合体だ!」
「ええ分かったわ。ここで戦えるのは勇者しかいない。そして、わたしがその勇者よ」
 ディソーダー・トリストラムに言われて、蓮実鏡花が自立型機晶外骨格流火の後ろにすっくと立った。
「流火炎装!」
「ラジャー。システム移行。活動限界に注意してください」
 自立型機晶外骨格流火の背中がぱっくりと開いた。そこに飛び込むようにして、蓮実鏡花が身体を収める。展開して内部スペースを作りだした機構が、反転スライドして外部の追加装甲に変化した。ほっそりとしていた自立型機晶外骨格流火のシルエットが、ボリュームのある逞しい物に変化する。それでいて、どこかしら女性のラインを保ったしなやかさを残していた。
「私は……負けない! 勇気の光が消えない限りッ……!」
 蓮実鏡花が、上体を大きく振ってポーズをつけた。頭頂部からのびた炎のポニーテールが、空中に美しい軌跡を残してRyukaの文字を描きだした。
「覚悟しなさい!」
 カルスノウトで斬りかかるが、鷽はひらりひらりといとも簡単にその攻撃を躱していった。
「何をやっている。やはり、ここは我輩の出番なのだ。付け焼き刃の強化プロテクターは引っ込んでいてもらおう」
 そう言うと、飛び出してきた青野武が、動き回る鷽になぜか両手両足をむけて慎重に狙いを定めた。
シラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)青 ノニ・十八号(せい・のにじゅうはちごう)、全弾発射であーる!!」
 いきなり青野武たち三人の四肢から炎が噴き出したかと思うと、手足がロケットパンチとなって飛んでいった。
「こんなこともあろうかと、我輩たちの手足を黒 金烏(こく・きんう)に頼んでロケットパンチに改造しておいてもらったのだよ」
 青野武が勝ち誇った。
「うむ、多少苦労はしましたが、手術は成功であります!」
 満足そうに、黒金烏がマッドドクターらしい狂気の光を目に宿しながら言った。
「うそわーん」
 狭い室内だ。狙い違わず、青野武たちの十二本の手足が、みごと鷽を壁に磔にしていった。
「ははははは、止め……。あれっ、あれっ? これでは何もできないではないか」
 動くこともままならない姿で、青野武がじたばたと暴れた。手足を発射したのであるから、あたりまえである。
「ぬぉははははは、甘い、甘いぞ! この我輩がその程度のことを予測しておらぬと思うてか! さあ、来るがよい十八号、シラノ! 変形合体、超青ロボの完成であーる!」
「えー、やるんですかー」
 ちょっと嫌そうに、青ノニ・十八号とシラノ・ド・ベルジュラックが青野武の許に飛んできた。そのまま、それぞれが青野武の右腕と左腕に合体する。
「完成、超青ロボ!!」
 青野武が叫んだ。残りの二人は、口でグレートソードを噛んで持っている。
「ばぼ、ぼべびゃ……」
「何を言ってる、ちゃんとしゃべるのだ」
 青野武に言われて、シラノ・ド・ベルジュラックがグレートソードの柄から口を放した。
「足がないんですが……」
「何を言う、足なんて飾り……。うおおお、これでは歩けんではないか」
 青野武が絶句した、三人ではパーツが足りない。
「そうだ、黒金烏、我輩たちを肩車して脚部に……、あれ? 黒金烏? 黒金烏ー。おのれ、逃げおったな」
 青野武は必死にあたりを見回したが、黒金烏の姿はどこにもなかった。
「ええい、こうなったら、最後の手段、マッドサイエンティストの花道、自爆である」
「ああ、もうウザイ。ここからはアタシがやるぜ。引っ込んでろ!」
 我慢できなくなった蓮実鏡花が、青野武たちをコロンと転がした。
「そろそろ活動限界です」
「時間を無駄にしすぎたぜ。決めるぞ。ディソーダー! Awakening!」
「待ってました!」
 すっと、眼前に浮かびあがったディソーダー・トリストラムの拘束装甲にある鍵穴に、蓮実鏡花は機晶回路キーをさし込んで捻った。
「Exacerbation!」
 ディソーダー・トリストラムを拘束していた装甲が弾け飛び、自立型機晶外骨格流火を装着した蓮実鏡花の追加装甲として翼のように背中に合体して補助ジェネレータを構成する。
「さあ、受け取りやがれ!」
 唸りをあげて黄金色のフォトンを刀身から噴き出しながら、ディソーダー・トリストラムが叫んだ。
「受けてみろ、これが勇者の力だ!!」
 蓮実鏡花が、大上段に掲げたディソーダー・トリストラムを振り下ろした。刀身から噴き出す光が、鷽を真っ二つにする。
「美味しいところを独り占めにはさせないのだ。ぽちっとな」
 すかさず、青野武も四肢に仕込んだ爆薬のスイッチを押した。
「うそわーん!!」
 鷽が、大爆発を起こして吹っ飛んだ。爆風にあおられて、全員が吹き飛ばされる。
「タイムアップです」
 蓮実鏡花が、自立型機晶外骨格流火から弾き飛ばされるようにして排出された。青野武たちも、バラバラになって転がる。
「うー、痛いよー」
 あたりまえである。鷽時空が消えた今、もともと無茶な合体変形の反動は半端ではない。
「皆さん、よくやりました。後の改造、いえ、治療はお任せください」
 いつの間に戻ってきたのか、黒金烏が嬉しそうに目を細めて言った。
「じゃ、私たちは無関係なのでよろしく」
 元の姿に戻ったヤジロアイリをお姫様だっこしたまま、セス・テヴァンはあわててその場を逃げだしていった。