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4.あたたかいうそ
 
 
「まったく、今日は騒がしくって困るですぅ」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)の入れてくれたミルクティーを飲みながら、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)が愚痴をこぼした。
「鷽がいるそうですぅ」
 皿に載せたクッキーを運びながら、神代明日香が答えた。
「また、やっかいなのが来てるですぅ。早く、北に追っ払うですぅ」
「あらまぁ〜。でも、そうすると私がエリザベート様のお世話をできなくなってしまいますぅ」(V)
 それは寂しいと、神代明日香は言った。
「魔法に頼らなければ、好きな人にお茶の一つも淹れられないですかぁ? 私は、イルミンスール魔法学校の生徒に、そんな教育をした覚えはないですぅ」
 その言葉に、神代明日香はちょっとハッとする。
「また、お茶をお持ちしにきてもよろしいですぅかぁ?」
 恐る恐る神代明日香は訊ねてみた。
「ほしい場合は、私から呼ぶですぅ。さもなければ……、言われなくても察して持ってくるですぅ」
「分かりましたですぅ」
 校長に深々とお辞儀をすると、神代明日香は静かに校長室を下がった。
「明日香さん……」
 校長室の隅でおとなしく魔道書を読んでいたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、あわてて後をついてきた。
「ノルンちゃん、何か書いてあったですかぁ?」
 未来が神聖なルーンによって文字として浮かびあがる魔道書。今ならば、そんな設定も本当になるだろう。
「うん、世界樹は暖まり、鷽は北に去っていくですって」
「じゃあ、それを実行に移すですぅ。世界樹を暖めるですぅ」
 神代明日香はノルニル『運命の書』の手を引くと、世界樹の下層にむかって下りていった。
「でも、どうやって世界樹を暖めたらいいんですぅ? 火術を使ったりして、世界樹が燃えちゃったりしたら大変ですぅ」
 方法が思いつかなくて、神代明日香が困った。
「魔道書に書いてあった。修練場は燃えないと」
「それですぅ」
 修練場は、様々な魔法の実験場でもある。そのため、世界樹の中でも最高レベルの防御魔法がかけてあった。ここであれば、天井や壁や床が燃えることは絶対にありえない。ここで中の空気をファイヤーストームで暖めれば、世界樹全体にぬくもりが広がっていくかもしれない。
「行くですぅ、修練場へ」
 神代明日香は道すがら人を集めながら、修練場へと急いだ。
 
    ★    ★    ★
 
「ああもう、いったいどうすれば事態が収拾するんだ。このままじゃ、イルミンスールが大変なことになってしまう!」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は頭をかかえた。
 もう相当数の鷽が退治されたであろうはずなのに、混乱はいっこうに収まらない。
「やはり、基本に返って、鷽の生態に即する必要があるな。障害は取り除かねばな。つまり、世界樹を暖めて、そうそうにお引き取りを願うのだ」(V)
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)が、打開策を提示する。
「それだ。よし、世界樹の地下に行って、根を暖めよう。そうすれば、世界樹全体が暑苦しくなって、鷽は逃げていくさ。シスも手伝え」
 面倒くさいと逃げだそうとしたシス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)の首根っこを押さえると、緋桜ケイは地下へむかって階段を下り始めた。
 心なしか、進むうちに世界樹の中の気温が上がり始めたような気がする。
「もしかして、もう誰かが同じようなことをしているんだろうか」
「おそらく、そうであろうな」
 少し汗ばんで後れ毛が貼りついた襟元をパタパタとさせて空気を入れながら、悠久ノカナタが答えた。
「ああ、もう熱いにゃ。こんな毛皮なんか着ていられないにゃ」
 そう叫ぶなり、シス・ブラッドフィールドが、階段を飛び降りるような勢いで一回転した。その姿が、一瞬で大きくなって、人間の姿になる。
「おお、元に戻れたぜ。鷽様々だなあ」
 いかにも遊び人ふうのちょっと退廃的な青年の姿で、シス・ブラッドフィールドが言った。
「今なら、お嬢とも対等に渡り合えるかな」
 にやりと、シス・ブラッドフィールドが笑う。彼の背後に、サングラスの一団が現れた。総勢十四名のゆるスターとデビルゆるスターからなるシス軍団もまた人間化したのである。
「シス様、ばんざーい」
「うそちーす」
 階段の左右に整列したサングラスの男たちが、片手を挙げてシスを讃えた。その中に、いつの間にか、等身大の鷽が混じっている。
 その声につつまれて、いかにもシスは満足気だ。
「ふっ、このまま、俺様の魅力でイルミンスールを乗っ取って、シス王国を建国してやるぜ!」
 自信満々でシス・ブラッドフィールドが宣言した。
「まず、手始めにお嬢を完全に俺様の支配下においてやる」
 そう叫ぶなり、シス・ブラッドフィールドが緋桜ケイに襲いかかろうとした。
「ちと待たぬか」
 勢いに乗るシス・ブラッドフィールドの後ろ髪をつかんで、悠久ノカナタがぐいと引き戻した。
「なぜ、ケイからなのだ。なぜに、ここにおる絶世のロリババを無視する。わらわは、あらゆるニーズをすべて網羅しておるつもりだぞ」
「ちょっ、そんなこと言われても」
 つい猫の姿のときの癖が抜けなくて、首根っこを押さえられたシス・ブラッドフィールドがじたばたする。
「そうか、その手があったか。こいつで……どうだッ!」(V)
 いきなり何か思いつくと、緋桜ケイが鷽に襲いかかった。カプリと噛みついて、血を吸い始める。
「ごのまま、ぢはいがにおいで、ぎたへいづでもらうんだ」
 ちゅーちゅーしながら、緋桜ケイが言った。
「うそち……っすすすす」
 だが、血を吸われた鷽はみるみるうちにひからびていったのだった。
「す、吸い過ぎた!?」
 緋桜ケイが気づいたときにはもう遅かった。かさかさになった鷽が粉になって消えていく。
「ああ、鷽がぁ……」
 束の間の栄光であった。シス・ブラッドフィールドの姿が、あっけなく元の黒猫に戻る。
「ふっ、おぬしには、その姿がお似合いだな。逃げ隠れしても無駄だぞ」(V)
 くっくっと、悠久ノカナタが忍び笑いを漏らした。
「ちーちー」
 がっくりとうなだれるシス・ブラッドフィールドの周りをゆるスターたちが取り囲んで、ちーちーと讃えた。
 
    ★    ★    ★
 
「あちー。うそだぴょーん」
 世界樹の中がサウナのように熱くなっていくにつれて、世界樹中に分散していた鷽たちが、再び一つの巨大な鷽に合体し始めた。
「うそだぴょーん」
 世界樹のてっぺんで、間の抜けた雄叫びをあげる。
「ついに本体を現したわね。それがあなたの死亡フラグよ」
 世界樹の中腹の枝の上から、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は鷽を見あげて言った。
「さあ、言ってごらんなさい。僕、この戦いが終わったら北へ帰るんだと!」
「うっ、うそだびょーん?」
「それは、鳥語で、僕、この戦いが終わったら北へ帰るんだって言ったと認めてあげるわ。さあ、集え、光よ!!」
 アリア・セレスティは、自らの光条兵器を高々と掲げた。その真上の空に、美しいオーロラが現れる。そのオーロラから、大量の光の粒子がアリア・セレスティに降り注いだ。それを吸収して、光条兵器の輝きが、ありえないほどの大きさに生長していく。
「思いの力よ、この剣に輝きを! いくわよ、アサルト・サンクチュアリ!!」(V)
 天空高くどこまでのびたかも分からない光の刃を、アリア・セレスティは世界樹のてっぺんにいる鷽めがけて振り下ろした。
「うそだぴょーん!」
 鷽の身体が、縦に真っ二つになる……世界樹ごと。
「えっ、やってもうた!?」
 ズズズズと激しい地響きをたてて、世界樹が左右に裂けて倒れ始めた。
 あちらこちらで悲鳴があがる……と思ったとたん、まるで映像を巻き戻すかのように世界樹と鷽が元に戻ってピタリと一つに合わさった。
「全部うそだぴょーん!!」
 そうひときわ大きく鳴くと、鷽が羽ばたいて空に舞いあがった。そのまま、北を目指して飛び去っていく。
「もう来るなー」
「嘘つきー」
「帰ってきてー」
「俺の自由設定を返せー」
 世界樹のあちこちから罵声が鷽を見送る。
「また来年なー」
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 
 いや、来年またやりません。誰かやってください。お願い。
 予想はしてましたが、カオスすぎます。
 激しくキャラ崩壊していても、このシナリオでは泣かない。嘘ですから。
 なお、リアクション内の描写はすべて鷽が見せた嘘ですので、すべての登場物や現象は、現実のルールとは一切関係ありません。よい子のみんなはまねしちゃだめだよ。

P.S.誤字修正。一部追記。
P.S.2 誤字修正。口調の修正。