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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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7-05 アクィラの道

 他方、アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)の通った地下は、伐折羅やナガンのいた黒羊郷真下の地下とは、違った。
 ここで我々(読者)からすればだいぶわかってきたことになるが、黒羊郷の地下にあるのは、信徒らの居住区や地下神殿、それにあの地下湖といったおそらく黒羊郷の核心に関わる部分であり、アクィラやクレーメックが谷底から洞窟を辿ってきたのは、黒羊郷に至るまでの地下ルートなのだ。
 今、黒羊軍がぞろぞろと進軍している(その先端でジャレイラの軍と迎撃に来た李梅琳の軍が激突した)東の谷の、地下を通って、黒羊郷の付近に至る道なのだ。
 アクィラは、ケーニッヒに地図の写しを渡した後、自分の書いた地図をしっかりと携え、再び地下に入る。
「はわわわわ、アクィラさん、折角地上に出られたのに、また戻るんですかぁ?」
 クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)はそう言いながら、渋々と付いていく。
「三日月湖南方から直接黒羊郷へ突入できる道があれば、確かに奇襲にはなるわよね」
 アカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)は、再探索に賛成。
 が、アクィラには不安が……
「入るたびに道が変わるような、どっかのゲームみたいなダンジョンだったら嫌だナ……」
 三人は地図を辿り、再び入口まで戻ることで、無事、そうでないことを示した。
 だが……アクィラ達は、上を見上げる。吊り橋を落ちなければ洞窟に入れないでは、如何ともし難い。
 ここから、二度目の探索の方法は二通りあった。
 もう一度、同じ側の崖の入口から入り、前回見ていない部屋などを探す。どこかに、別の出口が見つかるか……? それとも……クレーメックがその長く暗い道を通るときに、邪念のような声を聞いたり、隙間から広い空間が覗けたりしたように、黒羊郷の核心部分に迫れる道も、あるかも知れない。前回は、開けなかった扉や、開けなかったことにした扉があった。
 いずれにしても、こちらの側から入れば黒羊郷の方に向かっていくことになる。
 あるいは……急流を挟んで反対の崖。あちらにも、洞穴がある。あちらに入れば、三日月湖や草原地方の方面へ続いてく筈。もっとも、出口があるのかどうかはわからないが。もしなければ……
 アクィラがドリルを取り出した。
「ちょ、ちょっとそれは強引すぎるんじゃないの?」アカリが止めたが。
 そのとき。
「あら? 小鬼? それともアクィラとクリスとアカリによく似た小鬼がいるわね」
 上空から、飛来してきたのはハーフフェアリーのパオラ・ロッタ(ぱおら・ろった)だ。
「……際どいジョークよ」
 三人を探して、現場周辺を飛び回っていたのだ。
「さて、三人の中でいちばん体重が軽いのはアクィラかしら?」
「へっ?」
 どどーん。クリス、アカリはアクィラを地面に打ちつけた。
「だ、だから秘密にしてるんじゃありませんですぅっ!」「軍機というのはそういう意味じゃないわ」
「……際どいジョークよ」
「な、なんで今、俺が食らったんだ、い、いつからそんなキャラに……」
 パオラはアクィラを地面から引っ張り出して、アクィラを抱えると、急流を何とか飛び越えて、反対側まで連れていった。
 クリス、アカリ、「……」
「じゃあ、あたしとアクィラがこっち側、クリスとアカリがそっち側を探索ね」
 こうして、各組は、三日月湖方面に至る側を新たに探索、黒羊郷に続く側を再探索に出たのだった。
 結果、アクィラ・パオラ組は、出口を草原地方付近の山(巡礼一行が東の谷ルートに入った付近)に見つけた。
 クリス・アカリ組は……
「あら? ここ前回行ってない部屋ね。面白そう」
「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」「えしぇしぇ」
「はわわわわわわ、だだ大丈夫です、いっ行けますっ!」
 アクィラさんと別の組になっちゃうなんて不安ですよぉ〜! ばしっっ!
 クリスティーナとアカリはキャラクエにも出てこないような魔物を倒しつつ……地下神殿への道に近づきつつあった。



7-06 時を待ちながら

 イレブンは……
 ひたすら、時を待っていた。
 髭を蓄え、時を待っていた。
 パントル・ラスコー(ぱんとる・らすこー)から届く手紙を見て、鉛筆を持ち、考え込み、何か鉛筆で記録する、それを繰り返し、そしてまたじっと時を待った。
「クー。また、頼むな」
「クッ」
 暴徒の話も、聞こえてきていた。
 様々な民が、この辺境の土地にはいる。
 中には、暴徒に乗じて、黒羊郷に攻め入る勢力がいるかも知れない。
 だが、まだ今は時ではないのだ。
 イレブンは、巻き込まれないよう、シャンバラ兵らと共に、場所を移したり、もちろん十分な警戒をした。定期的に情報を仕入れ、友デゼルとも連絡を取り合う。周囲の村や、勢力と、デゼルが接触を持っている。デゼルを信じる他ない。
 そしてひたすら、時を待つのであった。

 カッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)は……
 ひたすら、料理を作っていた。
 火は使えないから、山菜集めて蒸し料理だ。
 シャンバラ兵達も、お腹をすかせて待っている。浪人三人衆も待っている。
 皆、カッティの愛情料理を待っている。
「できたよーっ」
「わぁぁい!」
「イレブン、食べないの? ……イレブン。あんな髭なんか生やして……。
 それになんだか随分やつれちゃったのよね。まぁ、無理もないか。あんなに真剣に書いて、あんなに真剣に待って……。
 でもあんなに真剣なイレブン(いや、イレブンはおそらくいつも真面目なのだろうけど)……つまんないな」
「夜の相手ならわしがおるぞ」
 浪人の爺さんが来た。兵たちも来た。
「わたしどももおりますぞ」
「こもり〜うた〜。らららー」
 夜は寝てなさいって!



7-07 結束

 なかなか暴徒は治まりが付かず、異教徒や獣人達の、黒羊軍への不満は高まっていた。
 デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)と手分けして、付近の村や集落を回っていたルケト・ツーレ(るけと・つーれ)
「ここも随分ひどい略奪を受けたようだな。許せる行為じゃない……できればオレの手で成敗したいけど、それじゃあ、ダメだよな」
 そんな村は、沢山あるのだ。
 それに、成敗したいと思ったところで、暴徒も付近の村を荒らし回って移動している。
 彼らには、自分達で護る力を持ってもらわないと。いつも一緒にいるわけじゃないしね。そうルケトは思った。
 そこでルケト(その地ではシャン・ティレーヌの名で知られた)は、そういった辺境の民達に、剣の指導をして回った。トレーニング内容は、念のため、なるべく教導団方式は採用しないようにと思っていたのだがみっちりと教導団で鍛えられてきたわけで、無意識のうちに盛り込んでしまい、しかしこのことが教導団との関与を浮き出させるようなことにはならず民達はルケトにきっちりトレーニングされたのであった。
「シャンティねえちゃん、また来てな?」
「アア、暴徒に負けるなよ。でも無理はしないようにな」今は……。
 ともあれ、こうして直に民に接することで、彼らと信頼を築き上げることにもなった。
 山の中で落ちあう、デゼルとルケト。
「そうか。思った以上に、ルケトの方は成果を上げているか……」
「アノナァ……思った以上にとは余計だろ? デゼル。
 けど、事を起こすときには、あいつらも……ふゥ、でも子ども達は絶対に巻き込みたくないなぁ」
 デゼルの方も、村々を回り、とくに略奪に反抗を試みている村の主導者らと接触を持っていた。今のデゼルは髪を下ろし、フードをかぶって教導団にいる時とは別人のようになっているが(デゼルはサージュ・ロワと彼らに呼び名された)、彼は旅の戦士として彼らに会い、急進的な勢力には、まだ黒羊郷への直接の反抗は時ではないと諌めていた。
「イレブン達は、無事にやってるだろうかな」
 それも、クー・キューカー(くー・きゅーかー)が、手紙をやり取りする連絡係となり、月に一度はイレブンと互いの状況を確認し合っていた。クーは、(前項で触れたように)パントルとの連絡も取り合っている。大忙しだ。
「何と、オレ達以外にも、黒羊郷に潜伏してる奴がいるんだな。
 それに、あっちでも反発勢力を味方に付けたか。何ご当地12セイカ? 今ひとつわからんが、こっちもしっかりやるぜ、イレブン」
 これは、もしかしたらいけるんじゃないか。デゼルも、それにイレブンも、機が熟しつつあることを互いに感じ取っていた。

 一方、ルー・ラウファーダ(るー・らうふぁーだ)は、更に山の方に分け入り、野に放った騎狼達の様子を、定期的に見て回った。
「るーちゃんはー ぶさいく(自前の騎狼)といっしょにー きろう めんどうみる!」
 デゼル直属の騎オークも、目立つのでルーと一緒にいる。
「くさいの いくよー」
「オォォク!! るー様……!」
 騎狼達の群れの広がり具合や、縄張りの位置を覚えて、ルケトにメモして渡した。「あってるとおもう だいたい」「アハハ……大丈夫かなァ」「だいじょうぶ だいたい ぜったいだいじょうぶ」



 最も山の奥地に向かった騎狼がいる。騎狼のリーダーデロデロだ。
「ほう。お主の主人が黒羊郷を落とそうとしていると? その仲間を募っていると?」
 そう、ここにいたのが……
 デイセラ 留(でいせら・とめ)。お留さん。オトメ座のご当地十二セイカだ。5,000年前の戦いで、片目をなくした。
 狼の獣人である。
 髪色は銀というより、白髪なのだが……デロデロはそれは指摘しなかった。
「ふむ。面白い、この地を黒羊どもにのさばらせておくにはゆかぬ。わしも往くか」
 山の奥地、冷たい風が吹き付ける。
「ジユーよ」
「ウワャャャ」
 デイセラ側近のスライムだ。
「山の動物達、魔物達にも声をかけてくれぬか」
 そして、
「久しぶりの大きな狩りじゃ。羊どもを喰いにゆくぞ」