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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(序章)

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 三ヶ月目。そろそろか。
 デゼルは行動を起こした。今まで接触してきた反抗勢力に一斉蜂起を呼びかけたのだ。
 もちろん、イレブンにも手紙を送ってある。



 イレブンは、騎狼部隊の隊員を集めた。
「狼山の計、成った。今夜、黒羊郷を落とす。狙うは、教祖の首一つ」
 兵はすでに、以前に入手し隠しておいた黒羊軍の装備(前回参照)に着がえている。
 皆、この時を待っていた。それぞれが、長い三ヶ月を経てきた漢達の顔つきだ。カッティもだ。
 イレブンは、行軍を開始した。


7-08 Last Battle from the Beginning

 黒羊要塞、入口。(門の一つ。ここまでは、来れた。)
「占領軍から一部戻ってきた。この通りボロボロだ。早く通してくれ」
「は、はっ。少しお待ちを」
 兵らが話している。一人が駆けていき、すぐに上官らしい男が出てきた。
「むっ? 見ん顔だな。どの方面軍の所属だ、何があった? 討伐に失敗したのか? そのひどい格好は……」
「ああ。……ところで後ろから煙が出ているがいいのか?」
「何」
 男が振り返ったとき、イレブンのライトブレード一閃。
「あっ」
 門番はそれ以上声を上げる間もなく、首にナイフ。浪人衆の爺さんがニヤリと笑った。「行くか、隊長」
「門を叩き壊せ! 増援が入れるように!」
 騎狼達が山を下りてくる。黒い鎧を脱ぎ捨て、
「騎狼と合流! 人狼一体の構え! 野生の蹂躙を行う!」
 この時、信じていたぞ。
「イレブン!」
 パントルも合流してくる。
「ああ」
 狙うは教祖の首、ただ一つ!



「イレブン。一つ尋ねよう、何故戦う」
 デロデロと駆けてきた、デイセラ。配下のジユー、狼達も一緒だ。
「世界を救うためだ」
 笑うデイセラ。久々の馬鹿な男だ、と。
 だが、……デイセラは思った。お主のような男も嫌いではない。



 郊外の、居酒屋ハインリヒ亭。
「狼の咆哮。今夜は、何だか騒がしいでございますな。それに胸騒ぎか……。
 まぁ……寝るか。情報もなかなか集まらないしな」



7-09 Last Battle from the Beginning(2)

 パントルの与えた情報は、教祖の首への最短経路。
 しかし、そこまでの道のりはまだ遠い。
「教祖は何処だ!?」
「イレブン、教祖はマダマダ、上の階だ」
 黒羊兵が、続々と出てくる。
 シャンバラ騎狼兵がそれを防ぎ、デイセラが配下を右へ左へ繰り出す。
 そうこうするうち、どんどん本隊人数が少なくなる。
 これで、到達できるか……教祖の首まで。
「ウッ。イレブン、先へ行け」
 矢が降ってくる。パントルが肩に矢を受けた。
「パントル! くっ」
「イレブン。今は前だけを見よ」
 デイセラがイレブンを導く。
 波のように押し寄せてくる黒羊の兵、兵。
 階段を駆け上がる。
 まだ、まだ上階へ……
 教祖の首は……遠かったか。まだ……しかし。
「貴様教導団か。
 ふはは。まだ序章のうちから、最後の戦いを仕掛けてくるとは。その意気は認めてやろう」
ラス・アル・ハマルか。討つ!」
「よし、ジユー。敵の魔法からイレブンを守れ!」
 デイセラが叫ぶ。わしも続く!
「! ジ、ジユー!?」
「ウワャャャ」
 こ、これがラス・アル・ハマルの魔法の威力か。ジユーは溶けてしまった。
「小賢しい雑魚ども。
 肩慣らしにこのわしが相手してやろう。まだまだ遊び程度じゃわ」
 あれを食らったらひとたまりもない。
「ジユー。おのれ!」
「デイセラ待て、危険だ!」
 カッティ!」
 刀折れ矢尽きようとも。
「あいよ、光条兵器!」
 これはルミナスシミター? 新たな力か!
「今までの武器とは一味違うぞ!」
 イレブンと教祖ラス・アル・ハマル。
 中段から胴抜き! 振り返り、面!
「うっ」
 手応えありだ。
「あたしの番だよ!」
 ルミナスワンドでぶん殴るカッティ。
「ギャァァァァ!!」
「討ち取った?! イレブン!」
「あ、ああ。やったか」
 パントルが、騎狼部隊の旗を掲げ追いついてくる。歓喜の声だ。
 しかし……
 空間が揺らいでいく。
 はっはっは。イレブン。黒羊郷へようこそ。騎狼部隊、さすがじゃな。わしのもとへ一番乗りとは。しかしな……
 辺りが真っ黒になった。
 巨大な羊の頭が浮かび上がる。炎が包み込む。
 浪人三人衆が来た。
「おおっ。どうなっておる。イレブン、危ない!」
 管槍を投げる。
 しかし、暗がりに消え、ヒュンッ、と音がしたと思うと、先投げた槍が同じ勢いで跳ね返ってき、浪人の胸に突き立った。
「グ! ッ、ウヮヮ」
「お、おうイレブン。これは駄目じゃ。今のうちに、逃げるのじゃ!」
 残る浪人二人もそれぞれ、ナイフ、杖を構えるが、何をどうしようもない。
「邪まな力が働いている……」
 デイセラも、残りの力を振り絞って、立ち上がった。カッティは、倒れ伏している。
 浪人の爺さんがイレブンを担いで、デイセラに乗せた。「おい、デロデロ、しっかりするのじゃ」爺さんは何とか、騎狼を起こそうとする。
「姫」青白の浪人が、カッティをかかえた。
 それからすぐに、炎が全てを包んだ。
 あとは、暗闇だけだった。



7-10 プリモ国

「ええーっ。もう反乱が起こって、それで、鎮圧されちゃったの??」
 黒羊郷付近某プリモ国。
 ここには、教導団の兵100をプリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)が温存していたのだが。
 プリモは初め、その兵100をもって賊徒化し、黒羊軍の小規模な部隊や、郊外の砦を攻めた。更に、反黒羊の勢力等を併合し(庇護下におき)、戦力の規模を拡大。今、併合勢力や他に帰順した黒羊兵、暴徒等を含め、300ほどの勢力になっていた。プリモ国の誕生だ。
 これだけの数なら……プリモは内心ほくそえんでいたが……
 先日の戦いで鎮圧された反乱軍は、黒羊軍を装った教導団であったという50程の他に、ご当地12セイカの一人デイセラ勢力はじめ周辺に点在する反抗勢力含め、500か、それ以上には膨れ上がっていたという。
 それでも、黒羊郷を落とすことはできなかったのだ。
「プリモ。黒羊郷に現在、駐屯する軍は、4,000とも5,000とも言うぞ」
 兵を指揮しているジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)がプリモ王に言う。
 各反抗勢力はそれぞれに勢いがあったが、まだ結束が弱く、作戦もなかった。
 50強の偽装部隊は、黒羊要塞にまで入り込むことができたが、それだけでは勝てず、一斉蜂起も、敵の数の力に飲み込まれてしまった。後発の組は、二の足を踏み、蜂起自体を見合わせてしまった勢力もあった。
 まだ決起の時ではなかったのだ。
「ぶるぶる。じゃあ、黒羊郷を倒すには、どうすれば……?」
 数だけでは駄目だ。策だけでも駄目だ。



7-11 ヴァリアの酒場にて

「姫」
「えっ。あなた口利いたね……初台詞じゃないの」
「いえ。先ほども一度、同じ台詞を。よかった。お目覚めになられて」
 浪人三人衆の一人だった青白の風呂敷男だ。戦いの後、山に逃げカッティを介抱した。
「姫? じゃ、あなたは?」
「12月にあった黒羊軍との最初の戦い。貴女がわたしどもの姫であったとは……あの場で初めて知りました。
 わたしども、撲殺寺院は全滅。残念ながらこれは事実です。わたしは三日月湖まで逃れてきた。わたしは撲殺家臣の末席に列したアイヲジョーロと言います」
「え、えぇ」
「姫、撲殺の地に帰りましょう。イレブン殿は死んだ。もう、地球人との絆に縛られることもない。
 あなたは、わたしども撲殺の姫に帰るのです。そこが、わたしどもの最後の地です」
「イレブンは生きてるよきっと。私がこれだけ元気なんだから」



 郊外の、居酒屋ハインリヒ亭、改め、ヴァリアの酒場。
「よくここまで大きくしたものだなぁ……」
「もちろん、私達の努力のおかげですわ」
「だよな。ヴァリア……」
 珍しくハインリヒはヴァリアにキスを迫った。
「私と亜衣のおかげと言っているのですわ」
 ヴァリアは拒否した。
「だ、だよな……」
 ヴァリアは割烹着、亜衣は露出度100パーセントの服で、客を集めてきたのだ。
「さて今日はもう店じまいだな」
 真っ暗になった店の中では……一人の男が静かに泣いていた。
「今はそっとしておいてやるか。また、再起の時が来るぜ、イレブン」