First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last
リアクション
「…… 寝て… るの? …………」
「???」
肩を落としたパッフェルにも、雫れた言葉にも覇気は無く、自問しているようにも思えて取れて。
オリヴィアの怒りが足止めをくらった頃、瞳を輝かせたのはアンドラスであった。
「なろほど、な! 朔!!」
アンドラスの火術を後方に回転しながら避ける六花を視界の端に捉えながら、パートナーである朔と瞬きに視線を交わした。
「… 了解」
組みしていたシャーロットに氷術を放ちて距離を作ると、朔は背を見せ駆けだした。
「つっ…… ちょっと、どこへ行くのです!」
狙うはパッフェル! これまでも、いや、狙いは変わらず、そうだったとは言っても、今の状況ならばこの選択が最良だと2人は…… いや、ミルザムの護衛を兼ねて戦場から距離をとっていた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)も、同じ判断をしていた。
「今、ですね。リース、手筈通りに」
「はい」
リース・バーロット(りーす・ばーろっと)は懐から取り出した手鏡を戦部に見せると、掌内に隠し握りしめた。
手鏡を見て捉えたナナ・ノルデン(なな・のるでん)は、その意図を察すると、駆け出した2人とは逆の方向へ駆け出した。そこにはミルザムと彼女の護衛をしていた生徒たちが居た。
「誰か、アシッドミストを使える人は居ませんか?」
「俺が使える」
名乗り出たイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)にナナは協力して欲しいと告げた。
「しかし、今は」
「構いません、何か策があるのでしょう?」
ミルザムの視線に、ナナは頷きで応えた。
「行って下さい」
「そうだぜ、俺たちも居るんだ」
大野木 市井(おおのぎ・いちい)}は握った拳を力強く見せて突き出した。
「行ってこい」
ナナと共にイーオン、そしてパートナーのフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)が幾らかの言葉を交わしながら策を抱いて戦場へ飛び込んだ。
「… ここだ」
駆けながら朔はパッフェルめがけて氷術を、それをトライブが舌打ちと共に雷術を撃ち墜として防いだが。
生じた隙に的確に撃ち込んだフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)の氷術がトライブを打ち飛ばし、地に叩きつけた。
「っっつ… くそっ、氷術がウゼェ!」
頭に感じた鈍い痛みも、目に入る画が吹き飛ばした。
トライブは決死に飛び出して、アンドラスが放ったファイアストームをその身で受けた。
「ぐっ… あぁ゛っ…」
束ねていた銀髪が、弾いたように舞い拡がった。また一人、パッフェルの前に倒れゆく。
「トライブッ!!」
ベルナデットは葵に雷術を、エレンディラに火術を放った直後に、フォンに捕まった。
「ぐっ」
雷術による痺痛が駆け巡る。ベルナデットは箒からも、そして地へ落下した。
葵とエレンディラに、そして朔とアンドラスに討たれた六花とシャーロットも、すぐ側に落ちたわった。
「…… どうして…… 寝るの……」
「しっかりし−−−」
倒れる者が増えてゆく。それでも瞳は虚ろなままのパッフェルにオリヴィアは詰め寄ったのだが、真理奈の銃弾が足を貫き−−−
「くっ、そっ」
続く肩への被弾に、オリヴィアも崩れていった。彼女もまたパッフェルの瞳の前で、その身を横たえた。
あっと言う間の崩壊劇。これまでは比較的護られていた彼女が攻めに動いた事、そしてその為に戦力が散らされた事、さらに対する者が一人と増えた事、そして何より彼女自身がその身を硬直させてしまった事。
「これが… 事の顛末です」
戦部は横たわる生徒たちに目を向けながらに。
「目的が何であれ、ヴァルキリーや我らに害を成すだけの狂行では、何も達せられないという事です」
「これは、あなたの独断なのですか? それともティセラ、という十二星華の企みなのですか?」
リースの言葉に呼び覚まされた。鼓動が… 大きく跳ねて、凍っていた体に血が巡り始めた。
「…… ティ…… セラ……」
目の前の光景を、理解できる。何が起こったのかも、自分が何に怒りを抱いているのかも。
「どちらだとしても、こんなやり方しか出来ないような方々が、いえ、ティセラは本当にこの国を治められると思っているのですか?」
この声は… この声はティセラを…… ティセラを侮辱する………。
「もう…… いい……」
静かに、凝縮しているように。それは今にも暴するほどに。
「もう……………… いい!! 殺す!!!」
見開いた瞳は殺気に満ちていた。大砲の如き波動の弾か、と戦部は身構えたが、パッフェルは左手を地にかざしただけだった。溜まった水を毒水に変えて一度に奴らを殺そうと−−−
水が無い……?
彼女は、ようやく異変に気付いた。
本来ならば、時間的にも村中には膝丈ほどい水が溜まっていても、おかしくはない。それが、未だに踝さえも浸してはいないのだ。
滝に瞳を向けると、そこには巨大な氷の壁が現れ見えた。
ロートラウトのメモリープロジェクターの幻影が三槍蠍を誘き出し、葛葉とエヴァルトが逸れた蠍の進路を正し集める。そうして全ての蠍を囲いの中に追い込んだ所で風祭とデーゲンハルトが氷術で水を凍らせ重ねて壁を築き、囲いを閉じた。
氷を幾重にも重ねる事で、厚く強固な壁となる。路を造り、滝水そのものを囲いの中へと送る事で、水は溜まり、蠍たちは水没していった。体内の毒を噴き出させる事なく、その驚異を押さえ込む事に成功したのだ。
水が水槽内へ導かれている訳だから、当然、村中にもパッフェルの足下にも水が溜まるはずがない。
「いつの間に……」
それならば破壊してしまえば良い。氷壁に向けてランチャーを向けたとき、もう一つの違和感を覚えた。
「………………」
「ようやっと気付いたみたいやな」
ワイヤーに吊られて舞台上に降りてくる役者のように、日下部 社(くさかべ・やしろ)と望月 寺美(もちづき・てらみ)が箒に跨り降りてきた。
「いやぁ〜 活躍した言うても、今回は地味やったなぁ、縁の下の力持ち言うんは俺らみたいなんを言うんやろなぁ」
「それを自分から発表しちゃうのは… どうなのかなぁ…?」
滝水が生ずる岩山の口、その両脇を崩して水路を狭めた。それを通路の奥から出口の口まで。結果は滝水を細くするというものだが、作業自体はド派手な粉砕作業だったのだ。
「いや、言うやろ、ふつうは言う思うで。俺、このまま気付かれんかったら、寂しくて死んでまったかもしれへんねんから」
「そんな、ウサギじゃないんだから」
「おっ、ツッコミか? ツッコミやな今のは! くぅぅ〜 そうか、ようやく本気でツッコむ気ぃになってくれたんやな、俺は、俺ぇは嬉しいでぇ」
寺美に抱きつかんばかりに跳ぶ社を瞳画から消して、パッフェルは滝上の岩場を撃ち砕こうと−−−
ランチャーが微かに揺れた瞬間に雷術が目の前を過ぎ落ちた。
「させへんで、もちろん、あの水槽も壊させへん」
一転した鋭き眼光。掌ごしに見えた社は小さく口端を上げた。
「せっかく造った水槽だ、壊させてたまるか」
「当然です」
「何がきても防いでやるぜ」
葛葉、風祭、エヴァルトが水槽の前で立ち構えている。
…… 何人居ても…… 壊すだけ……
何もかも、誰もが私の邪魔をする。邪魔をしなかった者たちは…… 倒れてしまった……
…… 倒れて…………
「自らの力を示すため、人の苦しむ顔を見るために。そんな事をする奴が、思考や理想を
現実にさせる事など出来るはずがないのです」
戦部の静かな声。歩み寄ってくるリースの声は、柔らかい音をしていた。
「あなたも、十二星華もティセラさんも−−−」
…… ティセラ…!! そうだ…… コイツらはティセラを馬鹿にした…………
「このまま争いを続ければ、彼女たちのようになってしまいますわ」
!!…… ティセラが倒レル? ……そンな、ソんナ事はナイ! サセナイ!!
横たわるオリヴィアにティセラの姿を重ねた時、リースがそれに近づき膝をついて−−−
「この方も、あなたに手を貸すような事をしなければ、こんな事には−−−」
「!! 触ルナ!!」
来る!!
叫び声と共にランチャーの銃口が赤く輝き始めた瞬間、ナナが声をかけた同胞たちが一斉に飛び出した。
「妖精さん、お願い!」
「ここか」
葵が光精の指輪で呼び出した精霊が光を放つ。同瞬に、イーオンがパッフェルとの歩幅3歩の辺りに、アシッドミストにより霧を呼び出した。
発生した霧が八方に拡がってゆく。それが拡がりきるより前に、フィーネ、エレンディラ、フォン、朔、アンドラス、そしてズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が氷術にて、霧を外から凍らせた。
淡い視界の中、ランチャーの引き金を引く。
水晶化を成す「赤い光」がリースめがけて放たれた。
手鏡を砕くリース。
それに気付いて振り絞り、跳びつくが数名。
凍り切らずとも、氷面が出来ているミストの外面。
「赤い光」が鏡に当たり、跳ね返る。
成せず、に怒り、続射された光も跳ねて返る。
氷面に囲まれたミストの内部を赤い光線が乱れ駆けている。檻の中が赤く発光している。
そしてその光が、横たわる者を、そして彼女に跳びつき手を伸ばすミネルバとベルナデットの体をも貫いた。
First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last