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リアクション
割れた花瓶が、水を床に散り広げる。
十分に広がった所で、司は宙に跳んで皆に叫んだ。
「宙に跳べ!! 感電するぞ!!!」
「なっ」
「何ぃっ!」
「考えたねぇ、くっくっくっ」
司が轟雷閃を床に打ち放った。床を、水の絨毯を雷が駆け抜ける。
操られた生徒たちは一様に感電し、その場に崩れ倒れていった。すでに倒れていた生徒も感電してしまったようだが…。
翼を広げ、跳び避けていたグレッグが司に寄りて嘆息を混じえてヒールを唱えた。
「司、あなた、またこんな無茶を…」
「調整は苦手なのでな、加減せずに全力で行くしかなかったのだ」
「いえ、そういう事を言っているのではなく」
幾つにも続きそうなグレッグの小言を止めて、司はフラッドボルグに向かい向いた。
「とにかくこれで、残るは一人」
荒れ壊れた室内に一人、フラッドボルグだけが向かいている。
操った生徒たちも、とっさの判断は出来なかったようで、駒は全て彼の手を離れていた。
「さぁ、どうするんだ?」
ショウが笑みを見せて立ち向いた。彼の足元には気絶したチェスナーが座り込んでいた。彼女のパワーアシストアームは砕け壊れていた。
「一人で俺たち全員と戦うのか?」
皆が一斉に構えた。それでもフラッドボルグは声を上げて笑って見せた。
「手負いの君たちが全員でかかってきた所で私を倒せるとは思えんな」
「くっ」
先ほどまでに見せた戦闘、そしてヴァジュアラ湾で垣間見た彼の力。それらを思い出て、ショウは小さく顔を歪めた。
「オレたちを忘れるなよ!」
上階から、いや、正確には階間の通路からジャックとインフィニティーが降り現れた。
状況は瞬時に判断した。2人はハンドガンと火術を放つ構えを見せた。
「オレたちだけじゃない、オレのパートナーたちが直に駆けつける、そして学校中の友を連れてやってくる!」
「そんな事になる前にキサマ等を組み伏せて娘を砕く、それで終いだ」
「本当に出来るのかねぇ」
ノーム教諭が手を挙げると、ジェニファがクッションと毛布を巻いたユイードを皆の前に出した。と同時に同じ光景が部屋の至る所に現れた。
「これは…」
十、いや、二十のユイード像、そして二十のジェニファが一斉に顔の横で手を振った。
「彼女にはメモリープロジェクターの仕込みをして貰ったんだ、数が多くて大変だっただろうけどねぇ」
「これだけの量を、一度にだと……」
「くっくっくっ、何を言っているんだぃ、ここは魔法学校イルミンスールだよ。舐めてもらっては困る」
大量のダミーがあると言っても、所詮は映像である。しかしそれでも、応援が来るまで持てば良いのである。皆が手負いであろうと、それまで持ちこたえれば勝ちなのである。
奴の動きと共に行動を開始しようと気を張る中、奴が次に取ったのは鳴り出した携帯電話に出る事だった。
「………… 十三人………… なるほど、そうか」
奴が笑みを浮かべる。
ショウや司が飛び出そうとしたが、それを教諭が止めた。どうやら奴の口元をじっと見ているようだった。
「なっ………… 囚われ…… というのか……」
「何か良くない事でも、あったのかぃ?」
「ふっ、遊んでやれるのも、どうやらここまでのようだ」
「逃げる気かぃ? いや、逃がすと思っているのかぃ?」
携帯電話を持つ手を返すと、瞬時に別の機械へと変わった。そして奴がそれに指をかけた瞬間−−−。
鳴り響く爆発音。そして研究室の床が、抜けた。
「なっ、何だっ」
「うわっ、床がっ!」
「落ちるぅぅぅぅ〜!!」
下の階まで、瓦礫と共に。
落ちるだけというのならば、みな意外と着地には成功したのだが。大量の落下物を避ける事の方がはるかに難易度が高かった。
「まったく、いつでも逃げられたって訳かぃ。くっくっくっ、臆病な事だねぇ」
フラッドボルグの姿は既に無い。ユイードは…… 抱きかかえて無事を知らせるジェニファの姿が目に入った。
「教諭」
教諭を含め、落下した生徒はみな、瓦礫を背で押し上げて現れる。そんな中、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)とルカルカ・ルー(るかるか・るー)は共に胸に機械を抱えて立ち上がった。
「解毒薬… 全て… 完成しました!!」
上蓋を開けると、保冷ボックスの中には色の異なるビーカーが詰め合わせて入っていた。
「ごくろうさま。ふむ、量も十分だろう。運んでくれるかぃ?」
「もちろん! ようやく私の出番ねっ、ダリル、行くよっ!」
「あぁ… ルカっ、忘れ物だっ」
スポーツ飲料とミネラルウォーターの入ったボックスを持ち、ダリルはルカルカを追った。
落下した研究室の残骸を見て、教諭はため息をついたが、室内には安堵の息が多く漏れたのだった。
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