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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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35. 二日目 エーテル館 大ホール 午前四時十九分

V:PMRのミレイユ・グリシャムだよ。イレブンさんが、みんなに推理を発表するんだって。こんな朝早くから、いろいろあって、みんな大変だよね。ワタシは、事件が早めに片付いたら、かわい家の敷地内の森や、イギリスの有名な森を再現したっていう、レングリシャム島に行こうと思ってたんだけど、これ、解決するかな。
 そうだ。イレブンさんの推理の前に、あれを練習しなくちゃね。

V:PMRのホワイト・カラーです。昨日は、撮影所でライトが落っこちてきて、びっくりしました。黒猫のデュパンちゃんは、命の恩人ですね。さっきまで、PMRのみんなで事件について相談してて、イレブン様が推理を披露することになったんで、ミレイユ様と練習します。

「ホワイトさん、いくよ」
「はい。ミレイユ様」
 せーの。
「な・・・なんだってえー!!」

 昨日の昼間のブリジットと同じように、青の着流しの、PMR、イレブン・オーヴィルは、マイクを手に大ホールの中央に進みでた。
「話は聞かせてもらったああああ!」
 窓ガラスが震えるほどの、残響が残る大音量で話しだし、パートナーのカッティ・スタードロップが慌てて、音量調整へ走った。
「驚かしてすまない。
 みんな、聞いてくれ。
 この事件には、犯人はいない!」
 大ホールは静まり、みんなイレブンの話の続きを待っている。
「実際に被害者がいるんだ。イレブンさん。いくらなんでも、それはムリがある」
 イレブンの友人、金色の騎士、エル・グラントが疑問を呈し、首を傾げた。
「エルの意見は、もっともだ。
 しかし、少し待って欲しい。
 事件がある。犯人がいる。その犯人が事件を起こしたのはなぜなのか?
 それを突き止めなければ、犯人がいるのは当たり前とは、言えないのではないか。
 今回の事件。遺言を見れば、かわいみのるの財産相続目当てに一族が争うことになるのは、誰の目にも明らか。
 それではなぜ、彼はこのような遺言を残してしまったのだろうか?
 いや、なぜ、残すように突き動かされてしまったのだろうか?
 その答えは、彼、かわいみのるが空京にきた理由とオサム医師の言葉にある!
 資産家とは、良くも悪くも土地に縛られる。いわんや大資産家たるかわい家だ。地球に築いた勢力地盤は、並大抵のものではあるまい。
 では、なぜ、空京にきたのか?
 かわい家当主といえど、逃げられないなにかから、逃げたかったのではないか?
 大資産家かわいみのるならば、ほとんどすべてのものは、金、権力で遠ざけることができる。
 しかし、かわい家が、かわい家そのものから逃げることはできないだろう!
 つまり、かわいみのるは、逃げたくとも逃げられない「家」から逃げるために、地球を離れてパラミタにきたんだよ!」
「な、なんだってえー!」
 PMRとエルが驚嘆の叫びを合唱する。
「なぜ、かわい家から逃げたがったのか、その答えはオサム医師の言葉「かわい家は血に染まる」にある!
「かわい家は血に染まる」はこうも言いかえられる。
 かわい家は血を欲している、自らを血で染めたがっていると!
 つまり、この事件、犯人は、いない!
 敵はかわい家という血を好む「血統」そのものだったんだよ!!
 敵の正体がわかれば後の対処法は簡単だ。かわい家の「か」を「い」に変えて、いわい家に改名しよう。
 祝い家となり縁起も良くなるし、逆から読むと、けいわい、つまりKY(空気読んでる)。
 私たちの行動が、もっとも空気読んでる行動だということが、明らかだ!」
 どうだ! と言わんばかりに、ホール中を見回すイレブンの横に、同じPMRの城定英希が近づいてきた。
「イレブンさんの推理に、俺の意見もちょこっと、付け足すね。「いわい家」に改名すれば、いまの「かわい家」の一族は、「いわい家」の一族になるから血に染まらない。これは、名推理だよね。
 俺は気づいたんだけど、「か」は六番目の平仮名で「い」は二番目。六引く四(死)は、イコール二「い」だから、これ以上縁起が良い改名も無い。みんなは、そう思わないかな」
「さあ、次期当主に改名を依頼だ!」
 イレブンは、茶会のテーブルにいる三人の麻美を、英希は火藍といる麻美と、ヴァーナーの横にいる麻美を指さした。