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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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【十二の星の華】ヒラニプラ南部戦記(第1回)

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7-04 エリシュカと菊

 ところで、水軍の戦いの場となっている、東河。
 三日月湖より北へ向かうと、対岸に、敵対国であるブトレバ(実際には少し入り組んでいるが)、更に進むと、やがて黒羊水上砦、そこを越えると、黒羊郷へ至る。
 もちろん、教導団と湖賊の水軍はこのルートを攻めるのだが、少し、南へ目を向けてみよう。
 河は、南東へ蛇行して流れ、草原地方から入る東の谷ルートと、東の谷の入口と言える付近を通る。その少し手前に、李梅琳の部隊が降りた船着ポイントがある。(他、かつての一つ目鬼の寝所(「黒羊郷探訪」に登場)も近い。)更に更に、南東へ蛇行して進むと、幾つかの支流があるが、やがて南部諸国に至る。最南の地と呼ばれるところだ。(外交使節は、湖賊の船を借り、こうして南へ向かったわけである。)
 その南部諸国におけるある出来事が、ここに思わぬ出会いを生み出していた。



 前回の南部諸国において、このような出来事があったのを読者の方は覚えていらっしゃるだろうか。
 南部諸国に早くから入り込んだ騎士クライスが、諸侯に呼びかけ、兵を動かすべきだと進言した時のことだ。
 ――「教導団が動いてくれなければ我が国も動けぬ」日和見の諸侯は、動かなかった。しかし、この場には、もう一人、隣国の諸侯が居合わせた。彼は、クライスのもたらした情報を聞くと、自国へ戻り、兵を動かした。(クライスの考えとは違って)旧オークスバレーに兵を出し手薄になっている親黒羊側の本国を攻めたのだ。が、これは早まった行動だった。制圧は一時的なもので、すぐに、周囲の親黒羊郷の国々に反撃を受け、その諸侯が殺されてしまった(「ヒラニプラ南部戦記・序」第4章(最南の地)より)。
 (このことは、南部諸侯や、オークスバレーにおける戦いにまで影響を及ぼすことになったのだが、そのことは、後の9章や10章において語られる。)



「あぅ……ここどこ?」
 女の子は、その殺されてしまった名もない諸侯に仕えていたアリスだった。
 主を殺された後、見せしめにアリスの角を根元から切断されるという拷問を受け、街角に曝されていたところを、諸国を放浪していたある女性に助けられる。
「このような惨い仕打ち、赦せません!」
 それが一つ目での出会いであり、更にこの二人はまた、追っ手を逃れ、東河伝いに早馬を飛ばした先で二つ目の出会いが起こることとなったのだ。
 二人は、教導団が来ている……との噂を頼りに、そこまで落ち延びた。
「貴方様が、教導団のお人でしょうか? 私は幽霊の菊と申します」
 和服の長衣に身を包んでいる。落ち着いた、しかし凛々しさも窺える女性だ。長弓を携えている。
「お願いでございます、どうか私も戦列にお加え下さいませ」
 幽霊……と語ったが、実際には彼女は、英霊。夫である上杉景勝を探して、彷徨っていた野良英霊である。
 上杉 菊(うえすぎ・きく)だ。
「わかった」
 ローザマリアは、契約の上、彼女の申し出を受け入れた。菊らは、東河の途中でさいわいにも湖賊の船に拾われ、湖賊砦に保護されたのだ。そこで最初に面会が叶ったのが、水軍を預かるローザマリアだったことになる。
「そちらにいる女の子は?」
 菊が答える。「この娘は、黒羊側に与する諸侯に攻め滅ぼされた領主の使用人です。斯様に惨たらしい仕打ちを受け街角に曝されていたところを、救い出して参りました次第に御座います」
「そうか……黒羊側の諸侯に。……。名は?」
「何も、覚えてない」
 女の子は呟くように言った。アリスの角が切断された様が痛々しい。本来ならば、無邪気な女の子なのだろう。
「エリシュカ」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)。ローザマリアは、ライザ(グロリアーナ)と一緒に、女の子にそう名付けた。とくに゛エリシュカ゛は、ライザの本名エリザベスの読み方を変えたもので、ライザには気に入られた模様であった。
 こうしてまた、新しく水軍に人材が訪れたことになる。