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ホレグスリと魂の輪舞曲

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ホレグスリと魂の輪舞曲

リアクション

 第4章


 空京公園の入口に『ホレグスリ試飲会会場。解毒剤もあります』という看板が立てられた。ベンチに座って着々と設置されていく屋台を見ながら、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は戸惑っていた。
(まさか、ここでホレグスリを配るとは思ってなかった……!)
 遊園地でホレグスリを飲ませたことがきっかけでなかよくなった栂羽 りを(つがはね・りお)とデートをすべく、正悟は公園にやってきていた。
(待ち合わせ場所を変えるわけにもいかないし……)
 りをは極度の方向音痴だ。ここで場所を変えたら、また落ち合えなくなってしまう。実を言うと場所を変えるのは3度目だった。1度目は空京の駅前だったがお互い交通機関を使わなかったために広い中で迷子になり、それならばと有名なゆる族の像がある場所にしたのだがやはりすれ違い、そして今、公園で待っているというわけである。
 りをがホレグスリを求めて、こっそりひな達と接触していたことなど露知らない。
(……街でもホレグスリでどうこうって騒いでたけど、むきプリ君も飽きないなぁ……まさか、りをさんはしこむわけないよなぁ……あはは、うん純粋に楽しもう)
「あっ! しょーご先輩!」
 そこで、りをがやってきた。両手で底の広い巾着を持っている。既にホレグスリには用がないので看板には見向きもしない。
(は、走ったらお弁当が崩れちゃう!)
 若干頬を紅潮させて歩いてくるりをに、正悟は笑いかけた。
「じゃあ、お昼にしようか」
「うんっ!」
 並んで座り、巾着を開ける。以前に蒼空学園でデートをした時、料理の腕を疑う的発言をした正悟にお弁当を作ると約束したのだ。で、今、それが実現するわけである。
 漆塗りの箱の中には、卵焼きや唐揚げ、タコさんウィンナーといった、オーソドックスでいてほのぼのとするおかずが入っていた。紫ごはんの真ん中には梅干が1つ乗っていて、まわりを『ピンク色』に染めている。ミニトマトやポテトサラダ等も入っていて、栄養バランスも考えられているようだ。
「えっと、いただきます」
 りをが自分の分を広げると、正悟も箸を取った。女の子の作ったお弁当を食べるというのは緊張するものだ。
 最初はやっぱり、卵焼きを。
「……あ、本当においしいね」
 じぃっとその様子を見つめていたりをが、ぱっ、と明るい笑顔になった。
「だから言ったでしょー! 料理は少し自信あるんだよ! でもやっぱり、どきどきしちゃった」
 唐揚げをつまみ、正悟は思う。
(あーんとかしてもらいたいけど、だめだよなあ。俺の片思いだしなあ。それにしても……)
 りをもお弁当を食べだしたが、こちらに注目している時間が長くてほとんど中身が減っていない。
(そんなに、気になるものなのかな?)
「りをさんは食べないの?」
「えっ! あっ! 食べるよ!」
 慌てて箸を動かしながら、りをは思う。
(ま、まだ効いてないみたい……。しょーご先輩にあーんとかしてみたいなあ。でも、だめだよね、私の片思いだし……薬が効いたら、効果があるうちに恋人デートしてみたいな☆)
 お互いの近況を話しながら食事は進み――
 空になったお弁当箱を片付けていたとき、りをは正悟に手を取られた。
「りをさん……」
「せ、先輩?」
(き、きた!? これきた!? ど、どうなるんだろう! あの時は私が飲んだから……)
「……俺、……りをさんのこと、ずっと気になってた」
「え、ええっ!?」
 突然の発言に、りをはびっくりする。頭が真っ白になって、考えがまとまらない感じだ。
「多分……合同歓迎会の時くらいから。迷惑かもしれないけど……」
(えっ、えっ、あの時!?)
 あの時、りをは確かに『すきっ!』と言ったけど、あれは……パフォーマンスだったのか本気だったのかなりきりだったのか、自分でも未だに分からない部分があって。
 でもでも。
「迷惑じゃないよ! 私も、先輩が好きだよ! 今日……思いを伝えられたらいいなって思ってたんだ」
「え……本当に?」
 正悟は、驚いた顔でりをを見返した。
(これ……ホレグスリ効いてるんだよね? 素面っぽいけど……)
「じゃ、じゃあ……これから、夜まで一緒にいてくれるかい」
「うん!」
「そして今夜こそ、“一つ”になりたいな……」
 その途端、正悟はりをに抱きついた。お弁当箱がぽとりと落ちる。ぎゅっとされて、鼓動の音まで聞こえそうだ。見つめあって、その唇にキスを――
 と同時、正悟の手がりをの服の中に入ってきた。夜どころではない。まだ昼である。上もダメだけど、しかしよりによって、下――
「先輩のえっちー!」
 唇が合わさる直前、りをは思いっきりビンタをかました。はっと気付く。
(だ、だって……ま、まだ心の準備が……!)
 いやなわけじゃない。いやじゃないけど……!
「付き合うんだからいいだろう? 今日、両思いになった記念に……」
 めっちゃ効いている。ホレグスリが効きまくっている。三点リーダーで誤魔化したがこの後にもエロいことを言いまくっている。
(あ、そうだ、解毒剤!)
 りをは急いで涼介のところに言って、解毒剤を貰ってきた。カプセルを口に突っ込む。
「……ん? りをさん?」
「先輩……確認するけど、私のこと……」
「……うん、好きだよ」

「ホレグスリですよ〜、いかがですか〜?」
「飲んで楽しいホレグスリだよ。この機会に1つどうかな!」
 赤地に白いラインが入った光沢のある服を着て、桐生 ひな(きりゅう・ひな)久世 沙幸(くぜ・さゆき)、真菜華とピノはホレグスリを配っていた。おへその出るタイプのキャンギャル衣装である。もちろん、超ミニスカだ。
「解毒剤は必ず持っていくように! 外では飲まないようにしてください!」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が叫ぶ。この中で1番必死かもしれない。
 公園に設置した屋台は3つ。通常のホレグスリと新&失敗&通常ホレグスリ、解毒剤がそれぞれ間隔を空けて並んでいる。
 客の入りは上々だった。報道で好奇心を持ち始めたところにこのイベントを見つけ、薬だけ貰って帰っていく客も多い。どこで使うかは……まあ、自由だしね☆
「じゃあさゆゆ、私たちも始めましょっかー」
 屋台にずらりと紙コップを並べてセルフサービス状態にすると、ひなと沙幸は屋台の陰へと入っていった。そこには、自分達用に取っておいた10個程の小瓶がある。
「強力なのが欲しかったら、もっと凄いのもあるよ! どんどん持ってっちゃってねー! にへへっ」
「やっと見つけたか……」
「あっ、煌おばあちゃんっ……て、何やってるんですかー!」
 公園に入ってきた宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)は、作るだけではなく配布までしている煌星の書に驚いた。だが、すぐにまた肩を落とした。
「煌おばあちゃんなら、やりますよねえ……」
 裏に回り、隣の屋台で行われていることに赤面しながら煌星の書の腕を引っ張って連れ帰ろうとする。
「もうっ煌おばあちゃん、校長先生に怒られちゃいますようううっ」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「大丈夫じゃないですーっ」
 煌星の書は、離れた所に立っているセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)の方をちらりと見た。一拍後に何かを思いついたような顔をして、みらびの耳に口を寄せる。
「ねえみらびー、セイの本音、聞いてみたくない?」
「え?」
 瞬間、どきっとしてセイに視線を送る。彼はつまらなさそうに2人が来るのを待っている。
「みらびには特別だよ」
 そういって、ポケットから小瓶を取り出した。紙コップに入れずに、こっそり取っておいたやつだ。
(嫌な予感がするな、あの煌星の表情……)
 2人が離れる。みらびはこちらを振り向くと、何か決意した様子で突進してきた。
「……むぐっ! ……ごくん」
「セイくんの心の声、ひとつだけ教えてくださいいいいいっ」 セイの心の中で何かが……反転する暇もなかった。いつも通りの冷静な自分とは裏腹に、熱い身体が勝手に動き出す。
 気がつくと、セイはみらびの手をガシッと握っていた。
(ちょっ! 俺、そこの俺! 何やって……!)
「ほえ、せ、セイく……」
 赤面するみらびに、セイは真剣な眼差しを向ける。
「宇佐木! 俺、いつも素っ気ない態度取っちまうけど……本当は宇佐木のこと、大切に思ってんだぞ!」
(!?)
「!?」
 思いがけない言葉に、みらびは固まる。自分が彼にとってどのくらいの位置にいるのか、とか、他に好きな子がいるのかなー、とか、ずっと気になっていたけれど。
「セイくん……それって……?」
 みらびは口元を両手で押さえ、ふるふると震えた。潤んではいないものの、うれしさと不安が入り混じったつぶらな瞳をセイに向ける。
「うさぎが一番ってこと……で……いいんですか……?」
「……!」
(な、何てことを言ったんだ俺! いや、そんな、なんで……! 大切って大切って、この言い方じゃ……!)
 不意打ちもいいところだと、自分に言ってやりたくなる。
(どうする! なんとかいつも通りに……!)
 パニックになりかけて頭が――
「……ば、ばかやろおおおおおおお」
 セイは、素面に戻るや否や耳まで顔を真っ赤にし、全力で公園から逃げていった。