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リアクション
混乱が混沌の中に堕ちていく中。
ぷすぷすぷす……
むきプリ君は全身を黒こげにして煙を出して動かなくなった。しかし、ホレグスリ入りの鞄を手放さなかったのはあっぱれと言えるだろう。
「えい」
ぷちっ。
美味しそうな、いややっぱりまずそうな身体の上を、ファーシーライトが通過していく。
(……あれ、ますますかわいそうになった気が……)
うん、間違ってないよファーシー。君はラスに騙されたんだよ。
「ホレグスリを量産したそれこそが、最大の罪です。覚悟はできているのでしょうね」
スヴェンのつめた〜い視線がむきプリ君を突き刺す。一方、ラスは命の火が風前の灯となっているむきプリ君の髪を掴み、持ち上げてガンをつけた。
「おいこら。てめーはピノを攫っといて無事に帰れると思ってんのか? ん? その罪が万死に値することに気付くまで、俺が続きをやってやるよ」
ひたひたと刃物で頬を叩く。こちらは、素面で目がイっちゃっていた。
「なんか……コワイんだけど……」
どん引きするファーシーに、響子が言う。
「ラス様は『ツンデレ』の上に『シスコン』らしいです……パートナーが心配でたまらなくなる病気、かと?」
「病気? あ、そうなんだ……でも、わたしも…………」
「……僕もそれなのかな……ケイラの事……心配になるし……」
「せ、整備した方がいいのかな?」
少し慌てる響子達。シスコンとは恐ろしいものだ。決して、ああはなりたくない。
「大丈夫だよ。響子やファーシーさんのは普通の感情だから。響子、今の言葉うれしかったな……ありがと」
ケイラがにっこりと笑い、殺伐とした空気の中にほのぼのとした空気が生まれる。
「ところで、ラス……」
追いかけてきていたアシャンテが、動物達を連れてラスの名を呼んだ。
「何だよ……って、何だそいつら!」
動物達にいろいろとトラウマを持っている彼は、一気に素面で元に戻った。
「カンナに頼まれている……騒動を起こした者達と、校長室に入った泥棒にお仕置きをするように、とな……」
「お、俺は今回は被害者だぞ……?」
「校長室に入っただろう……」
「イヤイヤナンノコトデスカ? ……大体、何でお前にそんな依頼が入るんだよ!」
「こいつらが一番効果的だからだそうだ……」
「いやいや、俺達はもう友達だろう? なあポリューシュ、グレッグ。………………えーと……わっ!」
名前を覚えてもらっていなかったボアが突進をしかけた。それをぎりぎりで避けた所で、同じく名前を覚えてもらっていなかったギャリーが首に飛びついてくる。
「ぎゃー! だから、虫はダメだって言って……! この虫! いや名前……名前なんですか……」
「…………」
アシャンテは黙って、カンフーパンダ……あ、間違えたティーカップパンダ達に攻撃指示を出す。
「なんで新顔がいるんだ! ま、まあパンダっていってもティーカップだしな……」
しかしそのティーカップ達は強かった。蘭華だけ、何だか退屈そうにしていたが。微笑んでいるように見えるのは気のせいだろう。うん、気のせいだ。
一方、ザイエンデは笑顔の永太と話をしていた。
「これでよろしいのでしょうか永太」
「ザイン! すごく良かったよ! で、つるぺた……いや、ピノちゃんに挨拶を……あれ、ピノちゃんはどこだ?」
むきプリ君がピノを再び連れ去ってからこちら。上空からヒーローショーを眺めていた明日香が降りてくる。
「そういえばいないですねぇ〜。私、上からずっと見てましたけど気付きませんでした〜」
「なんだって!?」
ラスが過剰反応する。ごちゃまぜの状況の中、誰かが言った。
「ピノちゃんはどこ?」
(えっ、今度は何、なに? どこに連れてかれるの?)
素で驚き、また、素でわくわくしながら、ピノは思う。
そんな彼女を小脇に抱えて、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)はロータリーから離れ、人気の無い細い路地裏に入り込んだ。
すとん、とピノを地面に降ろして目を合わせ、ポケットに入れていたお菓子を出す。
「お嬢ちゃん。お嬢ちゃんの持ってる写真、お兄さんに渡してくれないなぁ〜?」
「?」
しっかりとお菓子を受け取りつつ、ピノは目をぱちくりさせた。
「写真?」
「いや、分かる、分かるよ。頼まれたことは最後までやりたいよね。だけど、お兄さんにもそれが必要なんだ」
「あ、あれかあー」
うずまき模様のぺろぺろキャンディーの袋を取ってひと舐めし、何でもないことのようにピノは言った。
「あれなら、もう無いよ?」
(何ーーーーーーーーーーっ!!!?)
トライブは心の中で絶叫した。
その2分程前のロータリー。騒ぎを聞きつけた警官達がやってきた。高層ホテルに押し入った顔ぶれと街中を捜索していた面々。むきプリ君を見つけた時に本人確認が出来るようにと言われ、風森 望(かぜもり・のぞみ)も同行していた。
「むきプリはどこだ!」
警部の問いに、望が答える。
「あの焼肉だと思います」
「焼肉のタレはどこだ!」
「食べる気ですか! 食あたりおこすからやめてください!」
部下が突っ込む。
「正露丸はどこだ!」
「ああもう、馬鹿だこの人……」
「……冗談だ。むきプリをひっ捕らえるぞ!」
「冗談のセンス磨いてください……」
「…………」
警部はショックを受けた。
「……奴はイルミンスールの生徒らしいから校長に連絡しろ」
「はいはい……」
「あと、死なれても厄介だから救急車を手配しろ! その辺いっぱい走ってるだろ」
「はいはい……」
「しかし、ああも無残になってしまうと、ホレグスリは無事なのか……!?」
「なんの心配してんですか!」
その時、ホレグスリ入りコーヒーを飲んだ暴徒(元ヒーロー見習い)達がどよめいた。彼等の多様な髪色でマーブル模様になっていたロータリーに、ぽつぽつと穴が開いていく。クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が、彼等に手刀を叩きつけつつ中央に歩み寄ってきていた。
「ホレグスリか……よくもまあ……こんな……くだらん……物で……ここまでの……騒ぎを……起こせるな……」
三点リーダー1個分につき1人が、クルードの手刀によって倒れていく。呆れに呆れている彼は、こんな事で本気になって血を流す必要もないと思っていた(もう、他でだらだらぶしゅーと流れているが)。超感覚で生えた銀色の尻尾が華麗に揺れる。
「蒼空……学園……には……持ち込ません……。この……騒ぎを……起こした……全てに……制裁を……加える……」
学園にまでホレグスリが蔓延したら、パートナー達まで巻き込まれてしまう。クルードはそう言うと、美少女ヒーローと警官達、要するに全員を睨み付けた。
「え、本官達もですか!?」
「いや違うぞ! 我々もこの騒ぎをおさめようと……」
「明らかに……貴様らも……一員だ……」
「ちっ、仕方あるまい。お前達、発砲を許可する! 覚悟しろ!」
警部は部下達にとんでもない事を言うと、自分も銃を取り出してすばやく発砲する。かっこいいように見えるが、その実、全然かっこよくない。
迫りくる銃弾を、クルードは刀で叩き落した。元々その位の力は持っているが、身体能力に超感覚を加味したことで、複数の銃弾にさえ対応できるようになっていた。印鑑(玉璽)×5の効果もあるだろう。
「警部!」
警部はあっけなくやられた。
「ファーシー様、逃げるであります!」
スカサハに促され、ファーシーは慌てて逃げ出した。