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ホレグスリと魂の輪舞曲

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ホレグスリと魂の輪舞曲

リアクション

「あの子、一生懸命でしたね。胸が苦しくなる……それは、心と関係しているのでしょうか」
「シェイド・クレインの様子もおかしかった。慌てていたり表情を和らげたり、怒ったり。ミレイユ・グリシャム関連の話を聞いた時に主に変化した」
 雪は彼等を見送ると、フィアに向き直った。
「飲んでみる」
「え」
「ボク」
「えっと……」
「アイドルレア写真集・雨雪の夜。雪でいい」
「雪が、飲むんですか?」
「ボクが相手になるから、飲んで」
 フィアは瞬きすると、手元の小瓶と雪を見比べて、少しだけ考えてから一気に飲んだ。唯乃と雪が見守る中で、フィアは胸元を押さえる。
「な、何だか、機晶石が熱いです……エネルギーの供給バランスが……」
「フィア!?」
 予想外の反応に、唯乃は驚いた。フィアから放出される熱が、白く視認できた。
「はれ〜? これ、機晶姫が恋するとみんなこうなるんれすか〜? 熱いけど気持ちいいです〜」
「たぶん、何個か段階飛ばしてるわ……」
「ぐるぐるします〜雪もどうですか〜?」
 ぷしゅー……とオーバーヒートして、フィアは仰向けに倒れかけた。それを支えて、唯乃は公園の出口へと向かった。
「しょうがないわね……。フィアには刺激が強かったかしら」
 そういう自分も、恋愛への興味はあまり無いし、飲んだらどうなるかは分からないけど。

「くそっ、ここには、むきプリの情報を持ってるやつはいないみたいだな」
 あれからも少し聞き込みをしたが、結局成果無しだった。
「喉が渇いたんなら、飲み物あるわよ」
 リリィは、2リットルの水が入ったペットボトルを出して牙竜に渡した。彼はそれを、遠くにいる虚雲達に目を遣りながらごくごくと飲む。
「ちょっと、どこ見てるのよ!」
 薬を飲んでる時はこっちを見てもらわないと……!
「いや、あの子、ちょっと変わってるな、と思ってよ」
「あの子……?」
「ほら、あのピンクの髪の。あいつのパートナーみたいだけど……なんか気になるんだよな……」
「気になる……!?」
 それはどういう意味か。まさか……!
 そしてペットボトルの中身を飲み干すと、牙竜は雪に歩いていった。リリィにはもう見向きもしない。
(うそっ! 失敗!? どうして他の女に惚れるのよ! ていうかまた貧乳!? もーーーーーーーーーーーーっ!)
 リリィはやけになって、配られているホレグスリを持ってきて中身を飲み干す。
(邪魔してやるんだから! あの子を好きになるのはあたしよ!)
「なあ、ちょっと話さないか?」
 牙竜は、声を掛けられて無言で見上げてくる雪に、胸が締め付けられるような気持ちになった。どうしようもなく気になる。どんな奴なのか、どんな事を考えているのか、もっと知りたい。
「何」
「いや、何でもいいんだ。何でもいいから、好きなこと」
「好き…………何故人は人を好きになるの? 心とは何」
「心、か」
「何処にも見えない。瞳に映らない不確かなもの。把握できない」
「そんなに難しく考えることないぜ。心とはハート! ハートは情熱! 見えなくて当たり前だ。理屈じゃないからな。とにかく、感じたことがそのまま心なんだ」
「感じた、こと」
「例えば、パートナーについておまえだっていろいろ思うことがあるだろ? フラグ立てすぎなのはそっちだろーがとか、ホレグスリなんて何に使うつもりだ焼却してやろうとか、いろいろな」
「…………」
 そこに、すっかりハイテンションの酔っ払いみたいになったリリィがやってきた。
「そんなバカと話してないであたしといちゃいちゃしましょ! ねえ、名前なんていうの?」
 雪が答えると、リリィはきょとんとしてから、その名前に興味を示した。
「えっ! アイドルレア写真集? 誰のが入ってるのか知らないけど、あたしの写真で埋め尽くしてみない? 暗黒卿リリィの写真!」
「お、おい、くっつくな! そうだ! 今、くっつくなと思ったのも心が成せる業! 俺は雪が……!」
 すぱこーん!
 リリィは聖者のサンダルを牙竜の顔面にお見舞いした。
「あれ? なんか投げたくなっちゃった。ごめんねぇー。でも、その嫉妬は……どっちに向けられたものなのかしら? ねえ雪。あたし? 雪? 雪はかわいいし貧乳だしっていうか胸無いし萌えるからすぐに大人気よ。そしたらあたしが、恋人になって守ってあげるわ……」
「…………」
 雪は、心というものが少し解ったような解らなかったような、とりあえず頭の中でエラーが起きて何かが消失しないように、心というもファイルを別フォルダに入れた。
 ――フォルダ名『保留』――

「試飲会か……。奪う手間が省けたぜ! 女子もこんなに……こんな……ん?」
 屋台に置かれているホレグスリを両手に持ち、弥涼 総司(いすず・そうじ)はザ・ターゲットを探していた。何のターゲットかって? それはのぞき……いや、おっぱいハーレムを作るためのターゲットである。
「巨乳が少ねえ! しかもみんなコブつきじゃねーか! 誰か……!」
 獣となった総司の目が、きらーんと光った。
「う〜、マナカちゃんカワイイ〜」
「ピノちゃんもカワイイよっ!」
「柔らかくて気持ちーーーーー! どうしたらそんなに大きくなるの?」
「マナカは何もしてないよー……ピノちゃんはおっきくなりたいっ?」
「うんっ!」
「牛乳飲めばたっゆんたゆんになるよーっ(嘘)」
 キャンギャル姿でぺたんっと地面に座っていちゃいちゃする真菜華とピノの上から、総司はばっしゃーと1杯目のホレグスリをかけた。
「?」
 2人して首を上げてきょとんとする。
(さあ、俺に惚れろ! そしてその巨乳をどーん! と……! 片方はつるぺただが!)
 しかし彼女達は、とろんっとした瞳で楽しそうに言った。
「あ、オトコの人だぁ〜」
「カワイくないね!」
「可愛くないね!」
「この衣装着せたらカワイくなるかなあ!」
「うーん……キモくなるかもねっ」
 2人の頭の中は『カワイイ』でいっぱいだった。新ホレグスリ――作る前の煌星の書の台詞を少し思い出してみよう。
『これ入れたらたぶん効果倍増でー、これ入れたらたぶん時間超過ー』
 ……効果倍増すると、ホレグスリの上書きが効かないらしい。
 真菜華は、谷間からトミーガンを取り出してばららららっと撃ち出した。
「可愛いは正義! 可愛くないは……悪だぁ!」
「物理的におかしいだろそれ! いくらでかいからって谷間から機関銃は……!」
「コメディだから良いんだよ!」
「ここにきてメタ発言!?」
「いい加減にしなさい!」
 そこで、涼介が2人の首根っこを捕まえた。試作した解毒剤を飲ませる。
「「まっっっっずい!!!!!」」
 そう、前作の解毒剤なんてまずいうちには入らない。薬の効果なのかまずさに負けたのかは不明だが、2人は正気を取り戻す。
 ――他のまずいものでも試してみたいものだ。

「ここか……ホレグスリをばらまいている本拠地というのは……」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は、ペット達を連れて公園に入った。むきプリ君捜査をしている警官達がそのうちの3匹程に目を丸くして追いかけてきたので、とりあえずボア(パラミタ猪)にノしてもらったわけだが。
 ペットとして店売りされているのだから、追いかけられる謂れはないはずである。
「むきプリと……あいつもいないようだな……」
 全体を見渡して、屋台の場所を確認する。そしてアシャンテは、前情報からこのイベントを開催したメンバーを割り出していた。解毒剤を配っていた涼介は抜かして、全6人。
 目視で確認出来るのは4人だけで、しかも1人は子供で、一応救出対象だった。
「サーカスですか〜?」
「違うと思うよっ。逃げた方がいい気がするにゃー」
「あのパンダ可愛い!」
「まずは……屋台を壊すか……レンファ」
 それを合図に、ティーカップパンダの蓮華がアシャンテの肩からぴょーんと飛んだ。その彼女(メス)を、あろうことかアシャンテは蹴り飛ばし――
 その勢いに乗って、蓮華が屋台の支柱の1本にドロップキックをかました。支柱がくの字になって屋台が傾く。蓮華は続いて台に乗ると、紙コップ群を蹴ってホレグスリを地に落としていく。
「あーっ!」
 煌星の書が嘆いたが、そんなこと知ったこっちゃない。残ったホレグスリを、いつの間にか台に上っていた桜華が舐めようとするので、アシャンテはひょいと彼(オス)の背中をつまんで持ち上げた。
「ロウファ……舐めるな……」
 アシャンテの肩に戻った蓮華が再び発射し、2本目の支柱をやはりくの字にする。バランスを崩して、屋台の屋根が崩れ落ちた。
「来ましたねー、脱出策も抜かり無しですっ」
「行くよー、ひなっ!」
 ひなと沙幸は、絡まり合いながら移動を始めた。脱いだ服もちゃんと持っていく。事前に用意していた大きめのダンボールに入って内側からガムテープを貼ると、ひなはシロネコトヤマの宅急便に電話をした。
「すみませんー。集荷を頼みたいんですけどっ。場所は空京公園ですよー」
 ダンボールには『杯2個(ナマモノ)』というシールが貼ってある。『天地無用』のシールはあえて貼らなかった。
「さー、さゆゆ、続きをしましょーっ」
 まさかの言いだしっぺ雲隠れである。
 その頃。
 蓮華が2台目の屋台も倒し、煌星の書とみらび(つい一緒に逃げ回ってしまった)、明日香、真菜華、ピノはパラミタ虎のグレッグとパラミタ猪のボア、毒蛇のポリューシュに囲まれていた。アシャンテの身体には、スナジゴクのギャリーと、蓮華と桜華の他に蘭華と梅華が乗っている。
 4匹のティーカップパンダ……。
「……お前達……今回の騒ぎを起こした以上、覚悟はできているな……?」
「マナカ達じゃないよっ! ピノちゃんを助けに来ただけだからね!」
「そうだそうだ!」
「その姿で言うことじゃないだろう……」
 キャンギャル姿で言われても説得力は無い。ちなみに、明日香は着替えていなかった。
「ノリノリで強力な薬を作ったのも、いただけないな……イルミンスールと蒼空学園……存分にお仕置きをしていいと……校長達から許可を貰っている」
 アシャンテが指示すると、動物達は一斉に襲い掛かった。とはいえ、相手が皆女子だったので彼等もどこか引け目を感じ、それは追いかけっこに近いものだった。遠慮なくやっていたのは、ポリューシュとギャリーである。ポリューシュは調子に乗って彼女達に触りたがり、ギャリーは主に顔面を狙って飛びついていた。
 たくさんの悲鳴でパニックになっているこの時。
 むきプリ君が公園の前を通りかかった。