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【GWSP】星の華たちのお買い物

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【GWSP】星の華たちのお買い物

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 ティセラが、某たちとのお喋りに夢中になっている間にも、周りにはどんどん人が集まってきていた。
 半分は甘いものをわけてくれるということに便乗した者。
 もう半分は、やはりティセラに興味がある者たちだ。
 喫茶スペースの一角にできた人だかりは、少し異様な光景であった。
「あれー? なんか人がいっぱいいるー。なんだろう?」
 その異様な光景に、足を止める者もいた。
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、なぜか喫茶スペースの客席の一部が盛り上がっていることに驚き、思わず立ち止まった。
 人は、行列があったら並んでしまい、大勢が集まっているところに加わってしまいたくなる。それが、人のサガか。
「ねー、行ってみよう」
 氷雨は、パートナークロス・レッドドール(くろす・れっどどーる)の手を引いて、人混みの中へと分け入った。
「……あ、主様!」
 まっすぐ人混みに突っ込んだものだから、当然もみくちゃにされ、氷雨とクロスは離ればなれになってしまった。
「いけない。主様を落としてしまった。主様、主様ー!」
 人混みの中を進み、どうにか最前列までやってきたクロス。
「あっ……あれは……」
 クロスは、探し求める氷雨の姿を見つけたことは見つけたのだが……。
「ねーねー。お姉さん有名人なの?」
 氷雨の問いかけに、ティセラは笑いながら首をかしげた。
「さあ、どうかしらね」
「お名前は?」
「ティセラ・リーブラといいますのよ、お嬢さん」
「ふうん。ティセラお姉さんね。紅茶が好き?」
「わたくしの血は紅茶でできていますのよ」
 いつの間にか氷雨は、ティセラの横に立ち、楽しそうにお喋りをしていた。
「主様が話しかけてるのって……天秤座のティセラ嬢?」
 その様子を離れたところから見ながら、クロスはつぶやいた。
「……主様は気付いていないのかな? それとも忘れてる?」
 おおかた後者だろう。クロスは肩をすくめた。
 見たところティセラは、単にお茶を愉しんでいたところを一般客に見つかって、囲まれているようだ。
 お茶を飲んでいるだけだし、危険はないだろう。
 クロスはそのまま、氷雨が満足するまで見守ることにした。
「あ、そろそろ行かないと。お姉さん、またどこかで会ったらお話してねー」
 しばらくお喋りを楽しんだ後、氷雨はティセラに別れを告げた。
「ええ。またお会いしましょう、お嬢さん」
 ティセラは、少しだけ残っていた金平糖を氷雨の手に握らせた。
「ばいばーい!」
 ティセラのもとを離れる氷雨。
 相手が天秤座ティセラであることを、氷雨は結局最後まで思い出すことはなかった。
 口に入れた金平糖がとてもおいしかったことだけが、氷雨の記憶に強く刻まれた。

「十二星華がいると聞いて『トランザム!』ですっ飛んできました〜!」
 今まで氷雨が陣取っていたティセラの真横が空いたとたん、滑り込むようにメリエル・ウェインレイド(めりえる・うぇいんれいど)が入り込んできた。
「ま、また元気のいいお嬢さんですこと」
 さすがのティセラも、少々メリエルの勢いに圧倒されている。
「あーあ」
 メリエルのパートナー、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は、大きなため息をついた。
「この元気なお嬢さんの、保護者でいらっしゃいますこと?」
「そんなところだ。まあ貴女には言いたい事や聞きたい事が色々とあるが、今日はやめておこう。状況が状況だし、場所が場所だしな……」
「言いたいことがあるのでしたら、はっきりおっしゃたらよろしいかと思いますけど」
 一瞬、ティセラとエリオットとの間に、冷たい空気が流れた。
「ティセラちゃ〜ん! やぱり第七感に目覚めてて、光速のパンチを放てるの?」
「……はい?」
 そんな空気を、見事にメリエルがぶっ壊した。
「黄金のバトルスーツは着ないの?」
「あのー……何か、別の星座モノと勘違いをなさっているのでは?」
「十二星華なんだから、黄金のバトルスーツを着ないとダメなんだよ!」
 ティセラに質問しているのに、回答は聞いちゃいないメリエル。
「すまないがうちのパートナーは、一度『そう』なったら簡単には止まらなくてな……。まあ、適当に相手してやってくれ、フロイライン・リーブラ」
 合掌。
 もはやエリオットですら、メリエルを止めることはできない。
「女の人は素顔を見られたら、その人を殺すか愛するかしないといけないんだよ?」
「……では、手始めにあなたを殺しましょうか?」
「うわー! 小宇宙が爆発するぅ!」
「あ、あのですね……本気を出しますわよ?」
「本気! ああ、とうとう第八感に目覚めるんだね!」
 その後しばらく、この調子のメリエルに付き合わされることとなった。

 さすがに迷惑だからと、メリエルがエリオットに引きずられていき、やっと静かになったティセラ席。
 その頃には、たくさんあったお菓子やケーキ、パフェもほとんどが食べ尽くされていた。
 ……パフェに関しては「残したら料理人に申し訳ない」として、買ってきた長門自身が1.5人前を食べたのだけど。
 その長門は、食べ終えた直後にトイレに駆け込んで、そのまま戻ってこなかった。
 とにもかくにも、テーブルの上は落ち着き、甘いもの目当てだった一般客も引けて、周囲は落ち着きを取り戻しつつあった。
「おつかれさまでした。少しお休みになってくださいね〜」
 人々の相手をしているうちにすっかり冷めてしまった紅茶を、臨時バイトのメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、あたたかいものに入れ替えた。
「……本当は静かにお茶をいただくのが好きなんですけどね。まっ。たまには交流というのも、悪くはありませんわ」
 ティセラはメイベルにお礼を言いながら、新しい紅茶のカップを受け取った。
「何かお菓子も新しいものをお持ちしますか?」
「いえ、もうお腹いっぱいよ」
 祥子のお菓子に長門のパフェ、ヴァーナーのケーキ。
 周りの人々と分け合ったとはいえ、ティセラは「わたくしがいただいたものを、わたくしが手を付けないのはマナー違反」といって、律儀に全ての品に手を伸ばしたため、お腹はすっかり満たされていた。
「少し落ち着いていただけるように、お片付けしますぅ」
 メイベルは、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)と一緒に、テーブルの上をきれいに片付けた。
「お、重いです……ぅ……」
 巨大パフェが入っていた、ガラス製の器はさすがに重くて、セシリアとフィリッパふたりがかりでも辛そうだ。
 ……そもそも、ここはセルフサービスなのだから、食べ終わったら返却口にお客が持って行かなくてはならないはずなのだが、ティセラ仕様の特別営業は、まだ続いているようだ。
「他の皆さんにも、新しい飲み物をお持ちしますねぇ」
 メイベルはご丁寧に、まだティセラの周りに残っている人々にも、新しい飲み物を運んできた。
「こっちにもコーヒー、いいかな」
 いつの間にかティセラの隣には、斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)が静かに着席していた。
「暇だし、しばらくお話でもしないか」
「イケメンさんとのお話も、好きですわよ」
 メイベルが、邦彦のコーヒーを運んできた。
「紅茶の香りよりも、コーヒーの香りのほうが強いんですわよね。負けてしまっていますわ」
 あたりには、コーヒーの香りがただよっている。
 今日はティセラ仕様の特別営業のため、コーヒーのグレードも高い。コーヒー党の邦彦にとっても、今日の空京堂来店はラッキーだった。
「私は、コーヒーがのんびり飲めれば満足だ」
「ふふ。わたくしにとっての紅茶と同じですわね」
 好きな飲み物を口に運ぶ。先ほどまでとはうってかわって、大人の静かな時間が流れていた。
「ティセラさん、映画は見たことがあるか?」
「映画……ですか。ええ、だいぶ前ですけど、ありますわよ」
「どんな作品を?」
「あの時は……ああ、そうでしたわ。ブルーのタヌキが空を飛んで人々を助ける、ファンタジー映画だったかと」
 タイトルは……言わずもがな。
「ふむ、アレか。想像力を豊かにするあのテの映画も良いが、今度は3D映画でも見てみるといい」
「赤青メガネで見るのですわよね。いいのですけど、ちょっとメガネがかっこわるいですわ」
「……今は赤青じゃないのもあるんだよ、ティセラさん」
 ティセラは、こうして休日に娯楽施設を訪れること自体が、とても珍しい。
 目的のために突き進み、たまにお茶会で息抜きをする。それの繰り返しだ。
 少し、文化に疎くなってしまうのも、仕方がないといえるだろう。

「ここ、いいかな?」
 お茶を楽しんでいるティセラに、新たに声をかける者がいた。
「いいわよ、お座りになって」
「どうも」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、ティセラの向かいに着席した。
(驚いた。まさかとは思ったけど、本物のティセラ・リーブラだ!)
 ほぼ確信を持っていたものの、やはり実際に本人を目の前にすると、若干の緊張を覚えた。
「とりあえず、俺もお茶!」
「わらわも」
 完全にウィルネストやメイベルを給仕さんだと思いこんだケイと、パートナーの悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は、片手を挙げてお茶を注文した。
「はいはい」
 まあいいだろうと、ウィルネストは二人にもお茶を注ぐ。
「ほう、アールグレイか」
 ひとくち飲んで、カナタは満足そうにう微笑んだ。
「お紅茶に詳しいのですね」
「普段は日本の緑茶だがな。紅茶も嫌いではない」
 カナタはおいしそうに、紅茶を味わった。ティセラ仕様の紅茶は、デパート一階で出すものとは思えないほど、芳醇な香りをたたえている。
「今日は何しに来たの?」
 ケイが、紅茶をふうふうと冷ましながら、ティセラに尋ねた。
「待たされているだけですわ。お茶を飲むところがあるって言われたものですから」
 ティセラはやれやれといった表情で、肩をすくめてみせた。
「じゃ、買い物じゃないんだ。せっかくフェアをやってるのに?」
「ええ。そういうのには、あまり興味がありませんの」
「本当に? 何か悪だくみしてるんじゃないのか?」
 そうティセラに突っ込むのは、少し前から同席を許されていた風祭 隼人(かざまつり・はやと)
 この突っ込みは笑いながら、冗談で言ったもので、ティセラにもそれは伝わっている。
「ふふふ。わたくしが、悪だくみをするように見えますの?」
 ……見える。その場にいる全員が心の中でそう思ったが、口に出す者はいなかった。
「このお茶もおいしいけど、どんなお茶が好みなんだ?」
 隼人も、ティセラと同じ紅茶を飲んでいる。
「そうですわね。いつも常備しているものもありますけど、いろんなお茶を試してみたいと思っていますわ」
「紅茶だけでなく、日本の緑茶にもぜひ興味を持ってもらいたい」
 カナタの手には、いつの間にか湯飲み。どこからか、緑茶をもらってきたようだ。
「それも良い香りがしますわね。おいしそう」
「それなら、ここの茶葉コーナーに行ってみてはいかがかな」
 近くの席で静かにお茶を飲んでいた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が声をかけた。
「あら。ここに茶葉なんて売っていますの?」
「ここの茶葉コーナーは、空京で一、二を争うほどの品揃え。プロも買いに来るほど、高品質なものも置いている」
「なんてこと……!」
 玲の言葉に、ティセラが言葉を失った。満面の笑顔で。
「お茶もだけど、お茶菓子のほうも、ものすごい品揃えどすえ」
 玲の隣で、さっきからぱくぱくとジャンボパフェを食べていたイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)も話に乗ってきた。
 ちなみに、ジャンボパフェを売っていたアイス屋は、あまりの大量オーダーに、材料切れで既に閉店してしまっている。
 イルマが食べているのが、本日最後のジャンボパフェだった。
「ここで茶葉が買えるなんて……ステキですわ!」
 ティセラの瞳が、きらんきらんに輝いている。
「茶葉の売り場、行ってみる?」
 隼人が、ティセラに提案した。
「俺たちも付き合うけど」
 ケイとカナタも、うんうんとうなずいている。
「ここには時々来ている。よければ案内しよう」
「……これ、食べ終わってから……もぐ」
 玲とイルマも賛同した。
「それでは……お手数をおかけしますが、お付き合いいただいてもよろしいですか?」
 ティセラたちは、茶葉コーナーに向かうことになった。