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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・邂逅


「なんだか妙なタイミングで来ちゃったね」
 鴨と優梨子の戦いを傀儡師が遠目に見ていた。
「まあPASDがもう入ってようと、僕にはほとんど関係ないんだけどね」
 あくまで余裕な様子の傀儡師は、傍らにいる協力者を見遣る。
「さて、僕達は『別ルート』から行く事にしよう」
 地下への階段ではなく、施設跡の一階を歩いていく。
「……ところで、僕に何か用かい?」
 ひゅん、と糸が飛ぶ。
 それは佐伯 梓(さえき・あずさ)カデシュ・ラダトス(かでしゅ・らだとす)に絡んだ。
「いや、俺達は傀儡師って人を探しててさー」
 梓が答える。目の前にいる人物がまさに探している人物だと気付かなかったのは、その容姿にあるだろう。
 今の傀儡師は、情報通りの姿形ではなかった。
「俺別にPASDと関係無いよー、組織とかそういうの苦手なんだ」
「言われてみれば、この前の遺跡に君らの姿はなかったよね。まあ、そっちの子はいたんだけど情報くれたし、そのPASDとやらもまとまりがいいわけじゃないんだ」
 月実とリズリットに視線を送る。ガーネットと一緒にいた事を、傀儡師は覚えていたのだ。
「それで、僕に会ってどうするつもりだったんだい?」
「あれ、傀儡師って十二歳くらいの子供の姿だって聞いたんだけど……」
「僕には姿形なんて特に意味ないよ。あれ、さっきもこんな話したような……ま、いいか」
 その様子を見て、相手が本物の傀儡師だと確信する。
「仕事を、手伝わせて欲しいんだ」
「五機精の回収をかい? まあ、この前も手痛くやられたばかりだから、協力してくれたら助かるよ」
 傀儡師の表情からは真意を読みとることが出来ない。
 どこか人を食ったような仕草は子供のようでありながら、それ自体が「人形」としての演技から来る無機質なもののようにも思える。
(とりあえず、これでなんとかなるかなー)
 梓が近付いたのは、先日の事件の引っ掛かりが取れないからだ。口ぶりからしても、裏に何者かがいる気がしてならない。
「そういえば名前、まだ聞いてなかったなー。傀儡師以外の呼び方ってない?」
「マスター・オブ・パペッツ。あるいはマキーナ・イクス。後者の方が呼びやすいかな」
 仮面の男に対して名乗ったように、梓達に告げる。
「さて、それじゃあ中に入るとしようか」
 傀儡師――マキーナが立つのは、ただのコンクリートのような床の上だった。
 そこに亀裂が入る。
 マキーナの糸により、床が切断されたのだ。
「地下に行く道は一つじゃないんだよ」
 その下にあったのは排気ダクトのような空間だった。
 傀儡師がそこへ飛び降りる。
「大丈夫かしら、これ?」
 おそるおそる下を見る月実。
「アンバーさんやフィーアさんに近付くためなら、行くしかないでしょ」
 半ば押し出すようにリズリットと月実が落ちていく。傀儡師への協力をよく思っていないリズリットであったが、もう開き直っているようだ。
 続いて、仮面の男――トライブが飛び降り、次いで梓とガデシュが順々に入っていく。
 
            * * *

 地面にぶつかる際、マキーナの張り巡らせた糸がクッションとなり、全員着地に成功した。どうやらそういう使い道もあるようだ。
(アズサ)
(なにー?)
 梓とガデシュが傀儡師に聞こえないように会話を始める。
(あの人、僕達の顔を知らないようでした)
(それは気になったー。操って、しかも自分の事を探ってた人の事まで知ってたんだから、当然あの時の全員顔が割れてると思ったけど……)
 事件の調査に動いている人間の存在を知っており、なおかつ情報屋から出た直後に機晶姫を暴走させて乗っ取るという所業をやってのけていた。
 だからこそ、疑問だったのである。
(あの情報屋の方が伝えて、遠くから操ったのでしょうか?)
(もしかしたら、そうかもー。だけど、遠くってどのくらいだろ? 遺跡の方にもいたようだし)
 考えれば考えるほど、どつぼにはまる。
 今まさに、その情報屋がPASDに全面協力する事になっているなどとは、思いもしない。
(やっぱり、深く関わるのは危険です)
(だけど、もうここまで来ちゃったからなー)
 今更後には引けなかった。あまりいい事ではないが、傀儡師が五機精の一人を回収するのを手伝えば、間違いなく依頼主は現れるはずである。
 それが誰かを確かめさえすれば、一連の事件の真相に迫れるかもしれない。
 もっとも、それを知った時どうするかまではまだ考えは及んでいないのであるが……
「どうやら、ここは地下二階みたいだね」
 マキーナが口を開いた。
 暗がりではあるものの、眼前にはフェンスのようなものがある。地下二階から地下三階は吹き抜けになっているようだ。
「上の物音も止んだみたいだし、そろそろPASDとやらも乗り込んで来るかな?」
 いつの間にか、こちらの一団の方がPASDの本隊より先行する形になっていた。
 しかし、両者にはそれほど距離はない。
「今回の最優先事項は『五機精の確保』だから、この前みたいに遊んでるわけにはいかないんだよね。まあ、この姿は役に立ちそうだけどさ」
 マキーナが静かに笑う。

「さあ、そろそろ仕事時間だ」