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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・扉

 同じく地下二階。資料室に立ち寄る事よりも、最深部を目指してひたすらに先へ先へと歩を進めるのは、支倉 遥(はせくら・はるか)達であった。
「五機精というと、この前のガーナのような感じなんでしょうかね」
 前の遺跡の時は、ガーネットと共に行動をしている。
「ふむ……わらわは直に会った事はないが、いろいろと興味深いのう」
 と、御厨 縁(みくりや・えにし)が言う。
 イルミンスールの遺跡、ということで連絡を取って遥と合流したのである。
「人間から造られた機晶姫なんて、今まで聞いたことありませんでしたからね。とはいえ、私達とはそう変わりませんでしたが」
 ガーネットと一緒にいて感じたのは、思いの外人間臭いという事だった。
 戦場へ投入するなら、感情を排するのが適切なような気がする。そうはしなかったのは、彼女達を「造った」ジェネシス・ワーズワースが単なる兵器製造と見なしてなかったからだろう。
 それならば、その遺志を尊重しよう。それが遥達の考えであった。
「話は出来そうじゃな。会うのが楽しみじゃ」
 しかし、まだここは地下二階。この階で終わっているようには思えなかった。
「そういえば、さっきの資料なんだが」
 遥のパートナーのベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が口を開く。
「そこには五機精の事など書かれていなかった。どういうことだろうか?」
「それは気になっておった。PASDの目的は『五機精』の保護じゃろう? なぜその情報が出てこぬのか……」
「それは、ここが別の目的で使われていたからでしょう。前の遺跡も、元々は機晶石の研究に使われていた施設だったようですし」
 ただ、ツァンダではそれからアンバーが封印されるまでに施設がどう移行していったかの資料が残されていた。同様に、アンバー他五機精のデータについても。
「分からないのは、こういう場所ってのは何かが守ってたりするもんだろ? こうも敵の気配がないってのは妙だ」
 伊達 藤五郎成実(だて・とうごろうしげざね)が首を傾げる。
「まだそれほど重要な場所にいないか、あるいは完全に見捨てられた場所なのか」
 それに応じるのは伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)だ。
 ただ、遥は直接知っている事だが、前の遺跡も途中までは特に危険なものに遭遇はしなかった。後になって、最深部にはスレイプニルという合成魔獣と、失敗作としての有機型機晶姫がいた事を知ったのだ。
 気配を隠して一行に同行している屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)も、まだ特には何も捉えられていないようである。
「出るとしたら、奥に辿り着いたか、あるいは私達とは異なる第三者が来たのどちらかでしょう」
 傀儡師、そして報告によって知った英霊、芹沢 鴨の存在。
「芹沢 鴨か……」
 同じ英霊として、藤次郎正宗と藤五郎成実には思うところがあるのだろうか。
 かたや天下統一をかけた時代を生きた戦国武将に連なる者、かたや幕末という動乱の中で散っていった者。
「事前に調べてはいるが、果たしてどれほどの者だろうか。神道無念流の免許皆伝となれば、一筋縄でいく相手ではあるまい」
 異なる時代に生きた彼には神道無念流がどのうような剣術か、直には知らない。それでも、免許皆伝の言葉が持つ意味合いは理解していた。
 今の力で太刀打ちできる相手か……

 先へ進む一行の前に、封鎖された扉が立ちはだかる。
 遺跡が変形したことによって開かなくなっていたようにも見えるが、そうではないようだった。
「何か『魔力』のようなものをこの先から感じるのう」
 縁が感じたのは、汚染とは異なる別の何かの気配だ。
「しかし、開けるには何かが必要なようですね。とはいえ、まともに魔法が使えない今はどうしようもありませんが……」
 偶然差し掛かったとはいえ、この扉が気にならないわけではない。ピッキングを用いて試してみるも、案の定開かない。
「埒が明きませんね。先を急ぎましょう」
 あくまでも遥達の目的は、五機精に会って保護する事だ。超感覚を用いて中の物音や気配を確かめても、特に反応はない。
『生物』はこの中にいない、ということだろう。化身として実体化していない魔道書ならば、あるいは存在するかもしれないが。
 ここが行き止まりで、扉しかないなら別だが、すぐ手前に分岐がある。片方は木に阻まれて通れないが、もう一方を通って奥まで行けそうだった。
 遥達は扉から退き、そちらのルートを取る事にした。
 ここまでで、敵の気配は一切存在しない。
 だが、もしここに魔力のわずかな揺れを感知出来る者がいたら、こに遺跡に迫る何者かの気配に気付く事が出来ただろう。
 扉の中に存在するものは、それに感応する。
 
 そしてまた、扉の鍵を持つ者達も間もなくこの場に現れる事になる。