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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


・ガルーダ 一


 地下三階、ナガン達の一行もこの階に辿り着いていた。
「これまでのパターンだったらそろそろ何か出てくる頃なんだがなぁ」
 前を進むナガンはまだその兆候を察知していない。
 仲間達の方を振り返る。
「何も来ませんねー、歩ちゃん」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が、彼女の前方の歩と戯れていた。
「もう、しょうがないなあ」
 歩の方もまんざらでもない感じで笑顔を見せている。抱きしめたり、リボンを結おうと髪をいじったり日常で見られる仲睦まじい光景だ。
 だがここは未踏の遺跡だ。緊張感があって然るべきなのだが、彼女達はここでもまだマイペースである。
「しかし、先程の場所は気になりますわね。あの一帯では汚染濃度が濃くなっておりましたし」
 エレンがナガンに応える形で口を開いた。
 テクノクラートとしての力を総動員したが、その「扉」を開ける術はなかった。彼女としては中を確かめずにはいられなかったのだが、メンバーの都合もあって無視せざるを得なかったのである。
「……? 今のはなんですの?」
 常にパートナーのプロクルによる感知に気を配っていたために、それに気付いた。
 同階における、魔力の大きな揺れ。
「何者かが魔法を使ったのじゃろう。方角は、今の進行方向とは反対だ」
 地下三階は地下二階のように小部屋があるわけではないが、複雑に入り組んでいた。元々がそのように造られていたのだろうが、そこに浸食という状況が加わる。銃型HCのようなオートマッピング可能なものがなければ方向感覚すら失いかねない。
「戻る必要はないみたいだぜ」
 ナガンが、自らのグールが何者かに遭遇したのを感じ取る。
「しかも、こりゃあ『生きてる』ヤツだ」
 殺気看破に反応したという事は、機甲化兵ではないことを意味する。
「ようやくおでましってわけね」
 メニエスが呟くより早く、パートナーのロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)がその気配のする方へ駆け出していた。
「おいィ、闇雲に突っ込むんじゃねェ!」
 ナガンが追いかける。敵の存在を感知したグールは、その瞬間に葬り去られたようだ。だからこそ、より警戒する必要があった。
 走り、凶刃の鎖の投擲の準備をする。
「――ッ!!」
 正面から、ロザリアスが吹き飛ばされてきた。すかさずナガンはその鎖でロザリアスを巻く。
 地面への激突による衝撃を防ぐためだ。
「あんの、トリやろォォオオ!!」
 彼女はキレていた。
 奇襲を仕掛けようとして失敗してスイッチが入ったのだろう。
 再び突撃しようとするのをナガンが制止しつつ、待ち構える敵の元へと歩を進めた。

 一行が出たのは、複数の通路の分岐点となる空間だった。
 広間と言うべきだろうが、地下一階ほど大規模なものではない。天井が高く、アーチ状になっている。
 その空間の中央に、それはいた。
 鳥。
 確かに、一言で言えばそうかもしれない。しかし、世間一般で言う鳥類でないのは確定的に明らかだ。
 胴体は人間の形状とほとんど同じである。頭部は鷲であり、生えた翼は真っ赤であり、それ以外の全身は黄金色に輝いていた。
 全長は十メートルほどだろうか。それが、宙に浮いて静かにナガン達を見下ろしている。
――ガルーダ
 神話に出てくるイメージそのままの佇まいがそこにある。
「どうにも嫌な感じがするのう……」
 ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)が静かにその姿を見上げた。神話におけるガルーダは竜と敵対関係にあるものだが、言い知れぬ不快感はそこから来るものだろうか。
「あら、楽しめそうな方ですね……踊りましょう?」
 アルコリアが超感覚を発動し、一気に懐に迫る。
「マイロード、援護しますわ」
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が奈落の鉄鎖を発動し、ガルーダを引き摺り下ろそうとする。
(まずは、試してみないと分からないわね)
 メニエスがレイスを召喚し、ガルーダへと向かわせる。それから闇術を発動しようと試みる。
 だが、
「メニエス様!」
 咄嗟にミストラルがメニエスを突き飛ばす。そうでなければ、彼女は自らの魔力で自滅していただろう。
 闇術汚染された魔力と反応を起こし、暴発したのである。
「攻撃魔法は使えないようね」
 作戦変更、奈落の鉄鎖に切り替える。
 次いでナガンが凶刃の鎖をガルーダの胴体に巻きつけ、奈落の鉄鎖で加勢。
「そのまま止まっててくれよ」
 円が二丁拳銃でガルーダの翼を撃ち続ける。
 一方の敵、ガルーダは微動だにしない。まるで彼女達の力を見定めようとしているかのように。
「参りますよ」
 懐に飛び込んだアルコリアが、鞘に納めた花散里を一気に引きぬく。抜刀術――居合斬りだ。
 そのままガルーダの胴体を斬り上げようとする。

――この程度か

誰のものとも知れぬ声。
「!?」
 アルコリアの刀が、ガルーダの腕によって掴まれていた。神速の抜刀を、敵は素手で掴み取ったのだ。
 続いて、
「ガァァァアアアアア!!!!」
 雄叫びにも似た、叫びを上げるガルーダ。
 起こるのは風。
 翼による羽ばたきが、周りにいる者達を容赦なく吹き飛ばした。奈落の鉄鎖を三人がかりで行使したにも関わらず、完全に動きを封じる事が出来なかったのだ。
「皆をちゃんと守って見せるんだから!」
 七瀬 巡(ななせ・めぐる)がディフェンスシフトで他の者達を庇う。辛うじて風圧に耐える事が出来た。
「うわー、すっごーい」
 同じように、ディフェンスシフトで辛うじて立ち続けていられたミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が声を漏らす。
「メニエス様、お怪我は?」
「大丈夫よ、ミストラル」
 こちらもミストラルが身を挺してメニエスを守っている。
「様子見をしていたわけですか。魔獣と聞いていたから、もっと凶暴だと思ってましたのに」
 辛うじて受け身を取り、ダメージを最低限に抑えたアルコリア。全員、なんとか痛手を負わずに済んだようである。

「我はずっと考えていた。自らが存在する理由を。なぜ生まれ、なぜここにいるのかを」

「喋った!?」
 目を見開くナガン。当然だ、以前戦った合成魔獣ベヒーモスはただの獰猛な獣だったから。
「長い年月が経った。だが未だに答えは出てこない」
 ガルーダが喋り続ける。
 合成魔獣達はそれぞれ何かに特化していた。「力」と「闇黒」のベヒーモス、「速」と「雷電」のスレイプニル。
 そして、ガルーダは「知」 言葉を持つのがその所以だ。
 特化する属性は――
「炎!?」
 嘴が開かれたと思えば、炎が吐かれた。火炎放射である。炎は室内を取り巻き、退路を塞いだ。
「だから汝らに問う。我の存在証明を」
 再び飛び上がるガルーダ。
「知らないよ、そんなの」
 円が羽ばたこうとする前に、弾丸を放つ。
 しかし、ガルーダの翼は鋼のような強度を誇っているらしく、簡単に動きを抑える事が出来ない。
「せめて魔法が使えたらねぇ……」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が苦言する。魔力汚染の影響で、ヒールやリカバリさえも満足に機能しない。
 せいぜい、アイスプロテクトを指示するくらいだった。
「わずかばかりだが、手伝おう」
 ランゴバルトが毒虫の群れをガルーダへと差し向ける。さらに、ナコトは引き続き奈落の鉄鎖で少しでも動きを鈍らせようとする。
「これが機晶の盾だ……参るっ!」
 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が最前線でメモリープロジェクターを起動する。投影されるのは、この場にいる者達。
 ガルーダから見れば、ただでさえ多い人数がさらに倍化したように映るだろう。
 そこに紛れて、アルコリアが再び接近する。
 羽ばたきによる風と、火炎放射をかわしながら、相手の隙を窺う。
「炎なら、これでどうです?」
 アルティマ・トゥーレ。
 目標は当然、炎を吐く嘴だ。これは、ガルーダの炎を無効化しつつ飛び込むのにも有効だった。
 一閃。
 アルコリアによる斬撃がガルーダの頭部を捉え、バランスを崩した敵は地面へと墜ちていく。しかし、これで終わったわけではなかった。
 ガルーダが光を放つ。
「やばそうだね、今のうちにリロードするよ!」
 頭部への攻撃が入っているため、そこを狙い撃ちすれば倒せるかもしれない。
 円がリロードし、狙いをつけ――
「く……ッ!」
 そこへ光線が飛んできた。
 発光したガルーダの黄金の肉体から放たれたものだ。そしてそれは光ではなく熱であり、ひとたび触れれば対象を焼き尽くす業火と化す。
 その熱線は、不運にも誰かに当たってしまった。
「まどかッ!!」