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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

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五機精の目覚め ――翠蒼の双児――

リアクション


第二章


・戦支度


 ヒラニプラ北部。
 こちらはイルミンスール側とは異なり、見落としていても不思議はないだろう。地上部分は壁の一部以外が失われ、地下へ通じる幅の広い階段が残されているくらいだ。その階段ですら、最近までは発見されていなかったのだと言う。
「内部へ入る前に、これをお持ち下さい」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が、調達しておいた教導団製の無線機を数名に配布する。
「おそらく、中に入ったらすぐに戦闘となるでしょう。分断される可能性は高いです」
 既に、彼のパートナーであるリース・バーロット(りーす・ばーろっと)の禁猟区、ディテクトエビルによって内部には自分達に害を及ぼすものがいる事を感知している。
「中に入ったら、私達がバックアップするわ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が、後方支援を申し出る。
 今回の調査には、シャンバラ教導団が協力要請に応じている。彼女達はその一環でPASDの支援を行いに来ているのだ。
 小次郎とローザマリアと二人の契約者の他に、衛生科のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とパートナーのハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が医療班として。
 同じく教導団所属ではあるが、旧調査団、現PASDにおいて医療担当として活動してきた夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)もまた医療班の一員を務める。
 調査チームには相当な実力者もいるが、軍事知識を持つ教導団員の協力は心強い。
 次の問題は、どのようにして内部を進むかだ。機甲化兵がどのような配置にあるかまでは、実際に中へ入ってみないと分からない。
「中の状況も、直接見て知らないとね。美海ねーさま、行くよ」
「わかりましたわ、沙幸さん」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)の二人が無線機とカラースプレーを手に、先行して内部へと入っていく。
「二人だけってわけにもいかないよねぇ。オレ達も行こう」
 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)も光学迷彩を使い、内部へと入っていった。無線機はパートナーのマティエが持つ。
 四人とも、一月の『研究所』の一件から関わり続けている。機甲化兵の特性についても、ある程度は把握していた。
 センサーのようなもので相手を判別しているらしく、その範囲に入らなければ攻撃に移行はしない。データベースにあるのは『研究所』最上層での交戦記録によるものだが、その認識で間違いはないのだろう。
 一ヶ月前の傀儡師との邂逅の際は、相手が機甲化兵を自在に操っていたので参考にはならない。
 だからこそ、その姿や気配を察知されないようにすれば、機甲化兵に気付かれずに内部状況が把握出来るようになると思われた。

            * * *

 沙幸は遺跡の内部を見渡した。
(どっちにしても戦闘は避けられそうにないみたい)
 隠形の術、隠れ身で敵に感知されにくくしているため今は無事だが、それを解いた瞬間に索敵モード状態の機甲化兵に取り囲まれた事だろう。
(何体いるか、この暗さでは把握出来ませんわね)
 斥候、そして敵に気付かれないようにという事もあり、光術を使用せずに中にいる。暗い場所にいるのが苦手な沙幸であるが、ここは堪えるしかない。
 機械の駆動音と思しき音が聞こえてくる。
 それも、一体や二体ではない。
 暗闇の中、なんとか目視出来るだけでも七体はいる。これで地下一階なのだ。深くなるにつれて、さらに数が増えるかもしれない。
(罠はないみたい。あいつらがその代わりなのかも)
 不用意に地下一階まで降りていたら、並みの人間だったら一分も生き延びる事は出来ないだろう。機甲化兵の戦闘力を、沙幸達はまだその身をもって体感したわけではないが、データベースの情報を参照するからに、厄介な相手だと理解してはいる。
(美海ねーさま、上の人達に連絡お願い)
 なるべく機甲化兵に気付かれないように、慎重に無線機を扱う。敵は音で居場所を感知するかもしれないからだ。

(これじゃあ迂闊に攻撃出来ないねぇ)
 沙幸達の後から遺跡内に入った瑠樹達も、状況を把握していた。
 地下一階は大広間のような場所で、その中を何体もの機甲化兵が彷徨っているようである。
 とはいえ、機甲化兵も全部が全部動いているわけではない。広間の外周沿いにいるのが動いているようだった。
(りゅーき、どうします?)
(ここは保管室のようだけど、音立てたら止まってるのも動き出しそうなんだよねぇ。まずは上に連絡してみないと)
 地下一階の様子を無線で連絡する。幸いにも、沙幸達と異なった点に気付いており、本隊突入の手助けになった。
(このフロアをなんとかしないと、先に進むのは難しそうだ)
 瑠樹達は本隊が下りてくるのに合わせて、すぐに轟雷閃が繰り出せるように準備をする。本隊の攻撃に合わせ、内部からも奇襲を図ろうというのである。
 敵の数は多い、ただこちらにもそれに劣らない戦力はあるはずだ。
 無線を通して、合図が送られてくる。
 沙幸達の方もそれに応じる。この時点で、先行する二人は地下二階への入口を見つけていた。一度本隊の様子を確かめるためにも、その陰で待機する。

「行くぞ、マティエ!」

 地下一階に光が閃く。瑠樹、マティエの二人が機甲化兵に向かって轟雷閃を繰り出した。